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29:狐と人魚の口論(2)
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急に祖母を亡くした美緒には、その感情はよくわかった。
祖母が亡くなって、叔母一家が引っ越して来るまでの間、美緒はあの広い家で独りぼっちだったから。
だから、美緒は彼女を歓迎した。
この部屋には既に二人――一人は幽霊だが――の居候がいる。
いまさら一人増えるくらいどうってことはない、我が家だと思っていつでもおいで、と。
そう言うと、彼女は文字通り、水を得た魚のように喜んだ。
そして彼女は今日もこの部屋で暮らしている。
「黄身を割って、醤油と混ぜて食べるのも美味しいよねえ」
と、銀太が兄の肩を持った。
「ほら二対一」
「あっずるい。銀太も票数に入れるわけ? あんたたち兄弟なんだから同じ味で育つに決まってるのに」
姫子は形の良い唇を尖らせ、ツインテールを揺らし、隣に座る美緒を見た。
「でも世間一般の常識として目玉焼きには塩と相場は決まってるはずなのよ。ってわけで美緒、人間代表として意見を聞きたいわ。あんたは塩なの醤油なの?」
(おっと、微笑ましく傍観者に徹していたつもりが、意見を求められたおかげで当事者になってしまいました。しかも人間代表として。これはなんだか責任重大の模様です。よって報告を終わらせていただきます)
亡き祖母たちへの脳内報告を打ち切り、皆を見返す。
姫子も朝陽も美緒と同じ光瑛高校の制服姿だ。
姫子が大胆にスカートの丈を短くし、ツインテールにした髪にリボンを結って校則の許容限界に挑んでいるのとは対照的に、朝陽はきちんとネクタイを締め、ボタンを留めていた。
銀太は朝陽と美緒の間にちょこんと座っている。
人型を取れるほどの霊力はないらしく、再会してから彼はずっと狐のままでいる。
もっとも、特に不都合はない。
可愛い狐と四六時中一緒にいられて美緒は幸せだ。
再会した夜は話が尽きず、朝陽も交えて夜明けまで語り合った。
「えっと、わたしは塩も醤油も好き」
「何よその軟弱な意見は。どっちかに決めなさいよ」
「無理だよそんなの。気分によって変えたりもするし、世の中にはケチャップとかマヨネーズ、ソースをかけたりする人もいるんだよ?」
「えっ」
初耳らしく、二人は驚き顔。
「これじゃなきゃダメっていう決まりはないんだから、好きなように食べればいいんじゃないかな。味を強制されるより、美味しいって思いながら食べるほうが養鶏業者さんも喜ぶと思うよ」
「うん。こだわらなくても、美味しいならなんでもいいと思う」
幼い銀太の言葉が目玉焼き論争を終わらせる決定打になった。
「…………」
二人は顔を見合わせ、以後は黙して箸を進めた。
祖母が亡くなって、叔母一家が引っ越して来るまでの間、美緒はあの広い家で独りぼっちだったから。
だから、美緒は彼女を歓迎した。
この部屋には既に二人――一人は幽霊だが――の居候がいる。
いまさら一人増えるくらいどうってことはない、我が家だと思っていつでもおいで、と。
そう言うと、彼女は文字通り、水を得た魚のように喜んだ。
そして彼女は今日もこの部屋で暮らしている。
「黄身を割って、醤油と混ぜて食べるのも美味しいよねえ」
と、銀太が兄の肩を持った。
「ほら二対一」
「あっずるい。銀太も票数に入れるわけ? あんたたち兄弟なんだから同じ味で育つに決まってるのに」
姫子は形の良い唇を尖らせ、ツインテールを揺らし、隣に座る美緒を見た。
「でも世間一般の常識として目玉焼きには塩と相場は決まってるはずなのよ。ってわけで美緒、人間代表として意見を聞きたいわ。あんたは塩なの醤油なの?」
(おっと、微笑ましく傍観者に徹していたつもりが、意見を求められたおかげで当事者になってしまいました。しかも人間代表として。これはなんだか責任重大の模様です。よって報告を終わらせていただきます)
亡き祖母たちへの脳内報告を打ち切り、皆を見返す。
姫子も朝陽も美緒と同じ光瑛高校の制服姿だ。
姫子が大胆にスカートの丈を短くし、ツインテールにした髪にリボンを結って校則の許容限界に挑んでいるのとは対照的に、朝陽はきちんとネクタイを締め、ボタンを留めていた。
銀太は朝陽と美緒の間にちょこんと座っている。
人型を取れるほどの霊力はないらしく、再会してから彼はずっと狐のままでいる。
もっとも、特に不都合はない。
可愛い狐と四六時中一緒にいられて美緒は幸せだ。
再会した夜は話が尽きず、朝陽も交えて夜明けまで語り合った。
「えっと、わたしは塩も醤油も好き」
「何よその軟弱な意見は。どっちかに決めなさいよ」
「無理だよそんなの。気分によって変えたりもするし、世の中にはケチャップとかマヨネーズ、ソースをかけたりする人もいるんだよ?」
「えっ」
初耳らしく、二人は驚き顔。
「これじゃなきゃダメっていう決まりはないんだから、好きなように食べればいいんじゃないかな。味を強制されるより、美味しいって思いながら食べるほうが養鶏業者さんも喜ぶと思うよ」
「うん。こだわらなくても、美味しいならなんでもいいと思う」
幼い銀太の言葉が目玉焼き論争を終わらせる決定打になった。
「…………」
二人は顔を見合わせ、以後は黙して箸を進めた。
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