虐げられた聖女は精霊王国で溺愛される~追放されたら、剣聖と大魔導師がついてきた~

星名柚花

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29:何も怖くない

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「……いいえ。違いません。救いを求めている相手から逃げるなどありえない。あってはならないことです。そんなことをすれば私は一生、私を許せないでしょう」
 決意を秘めて告げる。

「それでこそリーリエだ」
 フィルディス様は大きな笑みを浮かべて、ご褒美のように私の頭を撫でてくれた。
 その感触がくすぐったくて、私は首を竦めた。

 ――私には家族に頭を撫でられた記憶がない。
 実の母親は政略結婚の果てに生まれた娘に興味や関心を示さなかった。
 物心がつく前から、とうに夫婦仲は冷え切っていた。

 だから、こうしてフィルディス様に頭を撫でられるのは嬉しい。
 優しい手つきが確かな愛情を感じさせてくれる。
 ここに居て良いのだと思えるから。

「だから人前でいちゃつくなって……まあ、安心してよ。もしリーリエが浄化に失敗して罰を受けそうになったら、そのときはまた連れて逃げてあげるからさ」
 やり取りを見ていたエミリオ様は呆れ顔をしつつも、そう言ってくれた。

「今度はどこに行く?」
 エミリオ様に調子を合わせ、フィルディス様は軽口を叩いた。

「そうだなー、エスマリス王国にでも行こうか。かの有名な大瀑布を見てみたい」
「いいな、それ。おれは南の島国クオランに行ってみたい。船に乗ったとき、美しいサンゴ礁が見れると旅の商人が言ってたんだ」
 彼らがそんなことを言っているのは私のためだ。
 浄化に失敗しても大丈夫だと、暗に伝えてくれている。

「……ありがとうございます」
 気遣いが嬉しくて、目頭が熱くなる。
 彼らは会話を止めて微笑んだ。――それだけで十分だった。
 指で目元を拭っていると、周りにいた精霊たちが慌てたように言った。

『大丈夫だって、リーリエならきっと浄化できるよ!』
『あたしたちも手伝うよー?』
『みんなで力を合わせて頑張ろー!!』
『うんうん、頑張る! 頑張るからさ!!』
『泣かないで、ね?』

 ――そう、大丈夫。きっと上手くいく。

 私には精霊たちがいる。フィルディス様やエミリオ様がいる。
 彼らがいるのなら、何も怖くない。
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