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31:あなたと同じ世界を(2)
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「いまはもう慣れました。でも、聖女として覚醒した最初の一週間は、ひっきりなしに囁きかけてくる精霊たちの声でノイローゼになりそうでしたよ」
苦笑する。
慣れるまでのあの日々は、あまり思い出したくない記憶だ。
夢の中でさえ魘された。
「ですよね!? こんな大勢の精霊たちにいっぺんに話しかけられたら誰だって気が狂いますよ! よくぞこれまで正気を保ち、イリスフレーナに来てくださいました!」
ミラさんは再び身を乗り出して私の手を握り、激しく上下に振った。
薄々わかっていたことだけど、ミラさんは随分と感情豊かな女性らしい。
「フィルディス様もエミリオ様もよくこの騒音の中で平然とされておられますね! さすがは大聖女様のお連れ様! なんという鋼の精神なのでしょう! その山の如き不動の落ち着き、見習わせていただきます!」
ミラさんは私から手を離した。
きりっとした表情を作って膝の上で両手を揃え、姿勢を正す。
「いや、誤解しないでくれ。おれたちにはそもそも精霊の声が聞こえてないんだ。姿も見えてない。存在そのものが認識できないんだ」
「イリスフレーナの人たちは生まれつき精霊と共にあることが当たり前らしいけどさ。ルミナスでは違うんだよ。有形精霊と交信できるのは聖女だけ」
フィルディス様たちの言葉を受けて、ミラさんは「ああ!」と声を上げた。
「そうでしたそうでした! イリスフレーナが特別なんでしたね! 忘れてました! では、イリスフレーナに着いたらお二人に『精霊眼』をお渡ししますね!」
「『精霊眼』?」
聞いたことのない単語だ。
エミリオ様もミラさんの隣で不思議そうな顔をしている。
「眼鏡の形をした魔法道具です。『精霊眼』を装着すれば、誰でも精霊を認識できるようになるんですよ。ちなみに開発したのは私の曽祖父です。何を隠そう、その功績によってイルダ家は男爵位を授けられたのです。いまでは子爵になりましたけどね」
ミラさんは腰に片手を当て、得意げに胸を張った。
「そんな便利な魔法道具があるんですか!?」
私が歓喜する一方、エミリオ様は顎に手を当てて呟いた。
「ふうん。ぼくたちにも見えるようになるのか。じゃあ、リーリエが虚空を見つめてブツブツ独り言を言ったり、夜中に一人で笑ってる姿を見て『こわ……』とか思わなくて済むようになるんだね。良かった」
「そんなこと思ってたんですか!?」
地味にショックを受けてしまい、声が裏返った。
「遠慮せずいま何をしているのか聞いてくださればよかったのに……精霊が何を言っているかもちゃんと通訳しましたのに……」
さっきとは違う意味で泣きそうだ。
エミリオ様の目に、ただの不審者として映っていたなんて悲しすぎる。
「気にしなくていいよ。多少本音が混ざってるかもしれないけど、それ以上にエミリオはリーリエをからかって楽しんでるだけだ」
フィルディス様は私の腕を軽く叩いて笑った。
「これで同じ世界を共有できるな。楽しみだ」
「……はい。私もです」
私は気持ちを切り替え、笑い返した。
苦笑する。
慣れるまでのあの日々は、あまり思い出したくない記憶だ。
夢の中でさえ魘された。
「ですよね!? こんな大勢の精霊たちにいっぺんに話しかけられたら誰だって気が狂いますよ! よくぞこれまで正気を保ち、イリスフレーナに来てくださいました!」
ミラさんは再び身を乗り出して私の手を握り、激しく上下に振った。
薄々わかっていたことだけど、ミラさんは随分と感情豊かな女性らしい。
「フィルディス様もエミリオ様もよくこの騒音の中で平然とされておられますね! さすがは大聖女様のお連れ様! なんという鋼の精神なのでしょう! その山の如き不動の落ち着き、見習わせていただきます!」
ミラさんは私から手を離した。
きりっとした表情を作って膝の上で両手を揃え、姿勢を正す。
「いや、誤解しないでくれ。おれたちにはそもそも精霊の声が聞こえてないんだ。姿も見えてない。存在そのものが認識できないんだ」
「イリスフレーナの人たちは生まれつき精霊と共にあることが当たり前らしいけどさ。ルミナスでは違うんだよ。有形精霊と交信できるのは聖女だけ」
フィルディス様たちの言葉を受けて、ミラさんは「ああ!」と声を上げた。
「そうでしたそうでした! イリスフレーナが特別なんでしたね! 忘れてました! では、イリスフレーナに着いたらお二人に『精霊眼』をお渡ししますね!」
「『精霊眼』?」
聞いたことのない単語だ。
エミリオ様もミラさんの隣で不思議そうな顔をしている。
「眼鏡の形をした魔法道具です。『精霊眼』を装着すれば、誰でも精霊を認識できるようになるんですよ。ちなみに開発したのは私の曽祖父です。何を隠そう、その功績によってイルダ家は男爵位を授けられたのです。いまでは子爵になりましたけどね」
ミラさんは腰に片手を当て、得意げに胸を張った。
「そんな便利な魔法道具があるんですか!?」
私が歓喜する一方、エミリオ様は顎に手を当てて呟いた。
「ふうん。ぼくたちにも見えるようになるのか。じゃあ、リーリエが虚空を見つめてブツブツ独り言を言ったり、夜中に一人で笑ってる姿を見て『こわ……』とか思わなくて済むようになるんだね。良かった」
「そんなこと思ってたんですか!?」
地味にショックを受けてしまい、声が裏返った。
「遠慮せずいま何をしているのか聞いてくださればよかったのに……精霊が何を言っているかもちゃんと通訳しましたのに……」
さっきとは違う意味で泣きそうだ。
エミリオ様の目に、ただの不審者として映っていたなんて悲しすぎる。
「気にしなくていいよ。多少本音が混ざってるかもしれないけど、それ以上にエミリオはリーリエをからかって楽しんでるだけだ」
フィルディス様は私の腕を軽く叩いて笑った。
「これで同じ世界を共有できるな。楽しみだ」
「……はい。私もです」
私は気持ちを切り替え、笑い返した。
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