虐げられた聖女は精霊王国で溺愛される~追放されたら、剣聖と大魔導師がついてきた~

星名柚花

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35:たとえこの先何があっても(1)

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 誰かが繰り返し自分を呼んでいる。
 切羽詰まったような、悲痛な声で。

 ――この人にこんな声を出させてはいけない。早く、早く起きなくては。
 気持ちは焦るのに、瞼が鉛のように重い。身体が動かない。

「リーリエ! 頼む、しっかりしてくれ!」
 その声には必死さが滲んでいた。
 頬に触れる温かな手の感触が、疲労困憊した身体を動かす活力をくれた。

「……フィル、ディス、様?」
 か細い声で言うと、息を吞む気配がした。

「そうだ、おれだ。わかるか? 目を開けてくれ」
 切実な呼び掛けに応えるべく、私は目を開けた。
 視界に映し出されたのは、泣き出しそうな顔で私を覗き込むフィルディス様と、彼の周囲にいる精霊たち。
 彼らの背景にあるのはアンネッタ様の部屋だ。

 前後の記憶は曖昧だけど、悪魔を祓ったことだけは覚えている。

 どうやら私はその後、倒れてしまったらしい。
 いまはいつなのか。アンネッタ様はどうなったのか――疑問ばかりが増えていく。

「……アンネッタ様は?」
 とりあえず、一番気になる質問をフィルディス様にぶつけた。

「大丈夫だ。眠っているだけで、呪いは解けたと精霊が保証してくれた」
 フィルディス様は寝台のほうを見た。
 つられて見たけれど、床にいる私の位置からではアンネッタ様の顔がよく見えない。
 立って確認できるほどの体力は残っておらず、私は息を吐いた。

『リーリエ、大丈夫?』
『大丈夫ー?』
 精霊たちが心配そうに問いかけてくる。
 この部屋にいても誰一人狂っていないということは、本当に呪いは解けたらしい。

 念のため、私は意識を集中してみた。
 ……邪気は感じない。この部屋のどこにも。

「……良かった……」
 心の底からほっとした。
 でも、フィルディス様は渋い顔。

「どうされたんですか?」
「呪いが解けたのは良かったが、リーリエは半日以上も部屋にこもってたんだぞ。いまは翌朝の午前九時過ぎだ。さっき鐘が鳴ったからな」
「えっ。そんなに――」
「半日以上もの間、おれがどんな気分でいたかわかるか? 部屋に踏み込んだとき、床に倒れたリーリエを見て、どんな気持ちになったかわかるか?」
 責めるような台詞だが、フィルディス様の声は震えていた。

 きっと、彼は一睡もせずに私が部屋から出てくるのを待ち続けていてくれたのだろう。
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