虐げられた聖女は精霊王国で溺愛される~追放されたら、剣聖と大魔導師がついてきた~

星名柚花

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34:蝕むオルゴール(3)

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 ――さあ、ここからが勝負。

 オルゴールを見据えて深呼吸する。
 両手を組み、神聖力を解き放つ。
 まっすぐに放たれた金色の光はオルゴールにぶつかり、弾けた。

 その瞬間、堪らぬとばかりにオルゴールに憑いていた悪魔が悲鳴を上げた。
 オルゴールから赤黒い靄のようなものが噴き上がり、空中で固まっていく。
 やがて形を成したそれは、ダニと蜘蛛を足して割ったような、不気味な姿をしていた。
 悪魔は全身から邪気をまき散らしている。
 やはりこの悪魔がアンネッタ様を蝕む呪いの根源だ。

 私は続けて神聖力を放ち、悪魔を空中で拘束した。
 対抗するように、悪魔は凶悪な邪気を放った。

「っ……ぐ……!」
 まるで血の気を吸い取られるような――否、魂そのものが削られていくような感覚。
 とても立っていられず、私は絨毯に座り込んで身体を丸めた。
 それでも悪魔の拘束が解けなかったのは、ひとえに気力によるものだ。
 悪魔を野放しにしてしまっては、また悲劇が繰り返されてしまう。

「う、うぅ……」
 見えない大きな手で握り潰されているかのように、胸が苦しい。
 呼吸をしようとしても空気が喉を通らない。
 必死に息を吸おうともがくたび、悪寒が全身を駆け巡った。

 皮膚が――痒い。痛い。爪を立てて掻きむしりたい衝動に駆られる。
 無数の虫が這い回っているかのような不快感に、吐き気がこみ上げてくる。

 冷や汗が噴き出し、全身をべったりと覆っている。
 それなのに、体温は容赦なく上がり続けている気がする。
 焼けるように熱いのに、骨の芯まで凍えるような寒さ――相反する感覚が身体を引き裂いていくようだ。

 悍ましい邪気が私を侵し、五感を奪っていく。
 まるで底なし沼に引きずり込まれていくように、意識が闇の底へと沈み込んでいく。

 霞む視界の中で、アンネッタ様は寝台に横たわったまま動かない。
 私は彼女を助けるためにここに来たのに。
 お任せください、なんて大見得を切っておいて、結局、助けられないのか。

 私では力不足だったのか。
 私もアンネッタ様のようになってしまうのか。
 私は――私は……。

 ――大丈夫。リーリエならできるよ。
 フィルディス様の言葉が蘇り、私はカッと目を開けた。

「……私はっ……負けない……!」
 負けて堪るものか、という強烈な意思が腹の底から湧き上がってくる。

 ラザード様とシルヴィア様は私に礼を尽くし、「どうかアンネッタを頼む」と頭を下げた。

 ラザード様たちだけではない。
 皆が私に期待している。
 私は期待に応えたい。
 そのためには、呑気に倒れてなどいられない……!!

 苦痛にあえぎながらも、私は手をついて上体を起こした。
 そして、震える手をもう一度組み直し、全身全霊で神聖力を放った。
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