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03:国外追放なんて怖くない
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「――国王陛下!!」
氷の礫のような罵詈雑言を吹き飛ばすべく、腹の底から声を出す。
圧倒されように、しん……と、謁見の間が静まり返る。
不愉快そうに眉をひそめたジルベルト様を見上げて、私は胸に手を当てた。
「どうかお聞きください。私があのとき熱を出したのは、連日歩き詰めだったからです。教会が『巡礼の旅』のために用意してくださった馬車は出発早々に壊れ、徒歩を余儀なくされました。教会の関連施設に行っても何故か門前払いされ、馬車を借りることができませんでした」
これは同じ王妃候補として選ばれた四人の聖女のうちの誰かの仕業だろう。
他のライバルを出し抜き、いち早く『巡礼の旅』を終えて聖王宮に戻り、ジルベルト様のご機嫌窺いをしようとした者がいるに違いない。
聖女だって人間だ。
中には他人を平気で踏みつけ、私利私欲のまま道を外れる者もいる。
「倒れた私を介抱してくれる人は誰もいませんでした。護衛騎士としてつけられた屈強な男性二人は、旅に出たその日のうちに体調不良を訴えました。治癒魔法も効果がなかったため、私は二人を宿に残し、一人で旅をするしかなかったのです」
精霊の加護を求める『巡礼の旅』の途中、私は何度も窮地に陥った。
賊に襲われそうになったこともあったし、魔物の群れに囲まれたこともあった。
シャノンや契約精霊たちがいなかったならば、とうに私は土の下だ。
「陛下はそうした私の旅事情をご存じだったのでしょうか?」
「知るか。貴様の事情など興味もない」
ジルベルト様の返答はそっけない。
それでも挫けることなく、私は言葉を続けた。
「不思議ですね。陛下は私の苦難に満ちた旅事情をご存じではない。それなのに、私が亜人に抱き抱えられ、ドナーニの宿で三泊したことだけはご存じです」
私は玉座の斜め下に立っている四人の大聖女たちを見た。
気まずそうに目を逸らす者、強気に睨み返してくる者、無言で顔を伏せる者。
この中の誰かが私を王妃候補から蹴落とすための絵図を描いた。
「一体どなたが陛下に告げ口したのでしょう。遠くから私の動向を逐一監視していた者がいるのでしょうか。私から馬車という足を奪い、護衛という盾を奪い、不名誉極まりない虚偽の事実をでっち上げて汚名を着せる――監視者の雇い主はよほど私を舞台から退場させたかったようですね。私と違って知識も教養もある、上級貴族の美しいご令嬢が、何の後ろ盾もない平民の孤児をどうして恐れたのでしょう」
聖女や精霊たちから視線を転じて、私はジルベルト様に視線を戻した。
「改めてお尋ねいたします、陛下。申し上げた通り、私はあのとき味方が一人もいませんでした。亜人の手を借りなければ死んでいました。それでも亜人に触られたこの身は不浄である、亜人に触れられることを良しとする女など不要、そのまま死んでいれば良かったと思われるのですか?」
祈るような心地で玉座を見上げる。
もしもこれでジルベルト様が考え直し、国外追放という判決を覆してくださるのならば、それで良い。
聖王国の片隅で静かに暮らしていこうと思っていた。
――でも。
「当然だ。蛮族に汚された女など要らぬ。どんな病原菌を移されたか、考えるだけで吐き気がするわ。貴様の顔を見ているだけで不快だ」
ジルベルト様は、まるで汚物でも見るような目で私を見た。
「……わかりました」
私は悲しく笑った。
思いのたけは全てぶつけた。もう何も言うことはない。未練もない。
「それではどうぞ私を国外へ追放してください、国王陛下」
恭しく頭を下げる。これが今生の別れだというのならば、挨拶はきちんとすべきだと思った。
「ふん。衛兵! 罪人アンジェリカ・コートレットを拘束し、エレギアの森に追放せよ!」
ジルベルト様が片手を上げた。
――エレギアの森!
私はその言葉に歓喜した。
ジルベルト様は亜人を野蛮な蛮族だと信じ切っているようだから、嫌がらせのために追放先をエレギアの森にしたのかもしれない。
でも、願ったり叶ったりだ。
たとえどこに追放されようと、私はエレギアの森に向かうつもりでいた。
「はっ!」
ジルベルト様の命に応じ、兵士たちが私を連れて退室する。
エレギアの森に行けば、またシャノンと会えるかもしれない。
そう思うと、国外追放も怖くなかった。
氷の礫のような罵詈雑言を吹き飛ばすべく、腹の底から声を出す。
圧倒されように、しん……と、謁見の間が静まり返る。
不愉快そうに眉をひそめたジルベルト様を見上げて、私は胸に手を当てた。
「どうかお聞きください。私があのとき熱を出したのは、連日歩き詰めだったからです。教会が『巡礼の旅』のために用意してくださった馬車は出発早々に壊れ、徒歩を余儀なくされました。教会の関連施設に行っても何故か門前払いされ、馬車を借りることができませんでした」
これは同じ王妃候補として選ばれた四人の聖女のうちの誰かの仕業だろう。
他のライバルを出し抜き、いち早く『巡礼の旅』を終えて聖王宮に戻り、ジルベルト様のご機嫌窺いをしようとした者がいるに違いない。
聖女だって人間だ。
中には他人を平気で踏みつけ、私利私欲のまま道を外れる者もいる。
「倒れた私を介抱してくれる人は誰もいませんでした。護衛騎士としてつけられた屈強な男性二人は、旅に出たその日のうちに体調不良を訴えました。治癒魔法も効果がなかったため、私は二人を宿に残し、一人で旅をするしかなかったのです」
精霊の加護を求める『巡礼の旅』の途中、私は何度も窮地に陥った。
賊に襲われそうになったこともあったし、魔物の群れに囲まれたこともあった。
シャノンや契約精霊たちがいなかったならば、とうに私は土の下だ。
「陛下はそうした私の旅事情をご存じだったのでしょうか?」
「知るか。貴様の事情など興味もない」
ジルベルト様の返答はそっけない。
それでも挫けることなく、私は言葉を続けた。
「不思議ですね。陛下は私の苦難に満ちた旅事情をご存じではない。それなのに、私が亜人に抱き抱えられ、ドナーニの宿で三泊したことだけはご存じです」
私は玉座の斜め下に立っている四人の大聖女たちを見た。
気まずそうに目を逸らす者、強気に睨み返してくる者、無言で顔を伏せる者。
この中の誰かが私を王妃候補から蹴落とすための絵図を描いた。
「一体どなたが陛下に告げ口したのでしょう。遠くから私の動向を逐一監視していた者がいるのでしょうか。私から馬車という足を奪い、護衛という盾を奪い、不名誉極まりない虚偽の事実をでっち上げて汚名を着せる――監視者の雇い主はよほど私を舞台から退場させたかったようですね。私と違って知識も教養もある、上級貴族の美しいご令嬢が、何の後ろ盾もない平民の孤児をどうして恐れたのでしょう」
聖女や精霊たちから視線を転じて、私はジルベルト様に視線を戻した。
「改めてお尋ねいたします、陛下。申し上げた通り、私はあのとき味方が一人もいませんでした。亜人の手を借りなければ死んでいました。それでも亜人に触られたこの身は不浄である、亜人に触れられることを良しとする女など不要、そのまま死んでいれば良かったと思われるのですか?」
祈るような心地で玉座を見上げる。
もしもこれでジルベルト様が考え直し、国外追放という判決を覆してくださるのならば、それで良い。
聖王国の片隅で静かに暮らしていこうと思っていた。
――でも。
「当然だ。蛮族に汚された女など要らぬ。どんな病原菌を移されたか、考えるだけで吐き気がするわ。貴様の顔を見ているだけで不快だ」
ジルベルト様は、まるで汚物でも見るような目で私を見た。
「……わかりました」
私は悲しく笑った。
思いのたけは全てぶつけた。もう何も言うことはない。未練もない。
「それではどうぞ私を国外へ追放してください、国王陛下」
恭しく頭を下げる。これが今生の別れだというのならば、挨拶はきちんとすべきだと思った。
「ふん。衛兵! 罪人アンジェリカ・コートレットを拘束し、エレギアの森に追放せよ!」
ジルベルト様が片手を上げた。
――エレギアの森!
私はその言葉に歓喜した。
ジルベルト様は亜人を野蛮な蛮族だと信じ切っているようだから、嫌がらせのために追放先をエレギアの森にしたのかもしれない。
でも、願ったり叶ったりだ。
たとえどこに追放されようと、私はエレギアの森に向かうつもりでいた。
「はっ!」
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そう思うと、国外追放も怖くなかった。
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