【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花

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33:夜の花畑であなたと(1)

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 水不足に陥っている全ての街を回り終えたときには、王宮を出発して既に二十日が経っていた。
 単純に水不足を解消するだけならもっと早く終わっただろうけれど、私たちは水不足が解消された後も住民の相談に乗って大小さまざまなトラブルを解決してきた。

 各地で心を込めて尽くしてきたおかげか、私に対する亜人の評価はうなぎ上りだとシャノンが教えてくれた。
 シャノンの言葉が嘘ではない証拠に、私自身、思い当たる節はたくさんある。
 人間に酷い目に遭わされたせいで最初は私を毛嫌いしていた亜人も、根気よく接していくうちに態度を軟化させてくれた。
 別れ際に「また来い」と言われたときは飛び上がりたいくらいに嬉しかった。

 私たちが旅の最後に訪れたのは国の北東部に広がるドワーフ族の街。

 ドワーフ族は身長が一メートル前後の小柄な種族だ。
 その身体はとても頑丈で、夜目が効き、エルフに次いで寿命が長い。
 手先が器用な彼らは他のどの種族よりも高度な鍛冶・工芸技能を持っている。
 あちこちから煙が立ち上り、金属を叩く音がひっきりなしに聞こえる彼らの街で、私は枯れた井戸を蘇らせて拍手喝采を浴びた。

 陽が落ちた夜。
 私たちはドワーフ族の長に案内され、ドワーフ族の街外れを歩いていた。

「わあ……綺麗」
 私は幻想的なまでに美しい花畑の真ん中に立ち、感嘆の声をあげた。
 私の足元で咲き誇っているのは、夏のこの時期、それも満月の夜にしか咲かないという不思議な青い花。
 ネモフィラに似たその花は、花の中心部分が淡く光っている。
 青く光り輝く花が地面を埋め尽くし、いくつもいくつも咲き誇る様は、まさに圧巻だった。
 精霊たちもこの光景には興奮したらしく、イグニスとノームは花畑へ突撃していった。
 ディーネは宙で踊っていた風の精霊たちと一緒に踊り始め、アクアは花の傍でじっとしている。

「××××」
 ここまで私たちを案内してくれたドワーフ族のおじいさんが、口をふごふごさせながら何か言った。
 おじいさんの白い眉は長く伸び、口髭も立派だ。
 口はほとんど髭に呑まれ、隠れてしまっている。

「どうじゃ、綺麗じゃろう。他種族には秘密にすることで代々大切に守ってきた場所じゃ」
 シャノンはドワーフ族の長の言葉を標準語に直すことなく、そっくりそのまま通訳してくれた。

「そんな大切な場所を私に教えてくださって良いのですか?」
「×××」
「うむ。アンジェリカはギドのために泣き、ギドの手を治してくれた。人間を嫌う同胞の理不尽な誹謗中傷にも負けず、誠心誠意ワシらのために尽くしてくれた。もはやドワーフの中でおぬしを嫌う者は一人もおらぬよ。枯れた井戸を復活させ、新しい魔石鉱脈を見つけ出したその功績は誰もが認めるところじゃ。ドワーフ族の長たるワシが立ち入りを許す。また来年も王子と見に来るが良い」

「ありがとうございます」
 深く頭を下げると、ドワーフ族の長は鷹揚に頷いた。

「××××」
「何か困ったことがあれば遠慮なく言うが良い。ワシらドワーフ族はアンジェリカの味方じゃ。いつでも力を貸すぞい。それじゃ、あとは若い二人に任せるとしよう。ごゆっくり――だってさ」
 ドワーフ族の長はお供の二人を連れて去っていった。
 涼やかな夜風が吹く花畑に、シャノンと私だけが残される。
 ……いえ、もちろん近くには精霊たちもいるのだけれど。

「どうしようか。寝転んでみるか? 今夜は月が綺麗だ」
「いえ、ここで寝転んでしまってはせっかくの花が潰れてしまうわ。花畑の中ではなく、傍で寝転ぶことにしましょう」
 私は細い道を慎重に歩き、花を踏んでしまわないように歩いて花畑の外へと出た。
 辺りを見回し、適当な場所で寝転ぶ。
 シャノンは私の隣に寝転んだ。

「……そこだと花畑が見えなくない? シャノンも花畑の横に、こう、私と頭と頭とくっつけるような感じで、前後に寝転べば――」
「いいんだ。綺麗な花畑より、アンジェリカの顔が見たい」
 横向きに横たわったシャノンは甘く微笑み、続きの言葉を封殺した。
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