【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花

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52:夏祭り(2)

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「我が愛しき民たちよ、今年もこの季節がやってきたぞ!
 子どもたちの笑い声、香ばしき焼き串の匂い、賑やかな喧騒、そして夜空に咲く光の花!
 そのすべてが、我が王国に宿る幸せの証よ!
 屋台の主は腕をふるえ!
 踊り子は足を鳴らせ! 
 星も月も、この宴を見に来るぞ!
 さあ、祭りの火を灯せ!
 精霊の祝福と、大地の恵みに感謝を捧げ――
 夏の大祭を、ここに開幕するッ!!」

 エレギアの夏祭りはバロン様の開催宣言により始まった。
 私は王都の広場に設けられた特設ステージを囲む民衆に混ざり、ステージ上の国王一家とメルトリンデに向かって拍手を贈った。

「ただいま」
 しばらくして、無事に開会式を終えたシャノンが私の元にやってきた。

「……お帰りなさい」
「? 何か元気がないな。どうしたんだ? 大丈夫か?」
《大丈夫よ。国王様と巫女様と一緒に壇上に立つシャノンを見て、やっぱり王子様なんだなーって身分の違いを再確認しただけよ。そんなの最初からわかってたことなのにねえ》

「ディ、ディーネ……」
 さらりと言ったディーネにどういう反応をすればいいのかわからず、困惑する。
 そんなこと一言も言ってないのに、何故私の心を見抜けたのだろう。

「なんだ、そんなことか。気にしなくていいって言っただろう」
 シャノンは左手で私の手を握った。
 彼の左手には私とお揃いの純白のリボンが巻かれている。
 壇上ではさすがに外していたけれど、改めて巻き直してくれたようだ。

「行こう」
 当たり前のように、シャノンは私の手を引いて歩き出した。

 手を繋いで歩く私たちを、通行人たちがチラチラ見ている。
 中には「もしかして、あの二人……」と実際に声に出している人もいたけれど、シャノンの態度は堂々としたものだ。

 ――種族や身分の差なんて、気にしなくてもいいのよね。

 誰がどんな目で見ようと、誰に何を言われようと、シャノンは私の手を離さない。
 その事実が私に勇気をくれた。
 胸中の不安と心配が溶けていくのを感じ、気づけば私は笑っていた。
 屋台が並ぶ大通りには色とりどりの布飾りが揺れ、そこかしこで明るい音楽が鳴り響いている。

 見たところ、9割の亜人が身体のどこかにリボンを結んでいた。
『夏祭りは恋人の有無をリボンでアピールする日』――その意識はエレギアの民衆の間に深く浸透しているようだった。

「ねえシャノン、あの行列は何かしら」
 私は前方の行列を指さした。
 大人もちらほら並んでいるけれど、行列を構成する多くは子どもだ。

「ああ。あれはスライムアイスの行列だな。祭りのときしか出店しないから、大人気なんだ」
「スライム……って、まさか、魔物のスライムのことじゃないわよね?」
 つい、アクアを見てしまう。
 アクアは眉をつり上げて飛び跳ねた。
 スライムと一緒にするなと言いたいらしい。

「そのまさかだ。でも、味はあの行列が示す通り、抜群に美味い。ちゃんと毒も抜いてあるから人間が食べても大丈夫だよ。春の祭りで食べたときはディミトリも感激してたし」
「ディミトリさんも食べたのね……」
「ああ。食べてみる勇気はあるか?」
 シャノンは試すような目をして笑った。

「ええ。是非食べてみたいわ」
 私はアクアを撫でながら笑みを返した。
 私が旅の各地で積極的にその土地の様々な風俗や習慣に従い、知らない料理も臆さず食べてきたのをシャノンは知っている。

「さすが。アンジェリカならそう言うと思ったよ」
 上機嫌で言って、シャノンは歩き出した。

「あれっ、王子?」
「王子様だー!」
 シャノンと一緒に行列の最後尾につくと、同じく順番待ちをしていた子どもたちが声をかけてきた。

「シャノンさま、デート中なの?」
 私とシャノンを交互に見て、翼のある小さな女の子が無邪気に言った。
 隣で女の子の母親らしき有翼人の女性が「これっ」と嗜めているけれど、女の子の目から好奇心という名の輝きは消えない。

 にわかに心臓が騒ぎ出す。

 果たして、シャノンはどう答えるのか。
 曖昧に笑って受け流す? デートなんかじゃない、アンジェリカはただの友人だと言う?――それとも?

「そう。デート中だ」
 シャノンは照れもせずに答えた。
 ヒュー、と口笛が上がり、遠慮なく囃し立てられた私は赤面した。
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