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60:悪の商会が潰れたようです
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――大事な話がある。
遠距離通話を可能とする魔導具『通話水晶』を通してモートンさんがそう言ったのは、二十日後のことだった。
シャノンを呼んでほしいと言われた私は、すぐさまシャノンの執務室へ飛んだ。
書類仕事をしていたシャノンは執務を放り出し、私の手を引いて廊下を爆走した。
洗濯籠を抱えた侍女や箒を手にした侍従たちが目を剥いているが、シャノンは全てを無視して『通話水晶』のある部屋に飛び込んだ。
テーブルに置いてある『通話水晶』は、表面に複雑な紋様が刻まれた立方体の箱だ。
受信があれば、光と音と振動でそれを伝える。
再びモートンさんから通話が入ったらしく、『通話水晶』の紋様は光り輝き、身を震わせながら軽快な音楽を奏でていた。
「おれだ! シャノンだ!」
『通話水晶』を奪うように手に取り、シャノンが早口で言った。
『ああ、こんにちは、王子。モートンです。アンジェリカちゃんもそこにいますか?』
聞こえてくる声に合わせて、『通話水晶』の紋様が光っている。
「はいっ……います」
結構な距離を走って来たため、私は呼吸を荒らげながら答えた。
この部屋には椅子も置いてあるけれど、とても座る気になれない。
それより何より『大事な話』とやらが気になり、私はシャノンとほとんどくっつくような形で、『通話水晶』から聞こえるモートンさんの声に耳を傾けた。
『朗報です。王命により、グラフト商会に対し強制執行が行われました』
「……つまり」
シャノンが息を呑んだ。
『はい。事実上、グラフト商会は潰れました』
私とシャノンは無言で顔を見合わせて。
「「やっっ、たあ――――!!!」」
子どものように大はしゃぎしながら抱き合い、快哉を叫んだ。
『いやあ、ここに至るまで本当に大変だったんですよ。改革派貴族たちと密会して、精霊と一緒に裏帳簿や不正取引の証拠を集めたんです。グラフト商会も慎重だから、精霊の力借りても裏帳簿を引っこ抜くのに三日かかりました――』
「ああ、本当に良かった! これで苦しむ亜人も減るわよね!」
喜びに浮かれた私は、モートンさんの声を遠くに聞きながら、シャノンの腕の中で満面の笑みを浮かべた。
「間違いない。グラフト商会はミグロム最大の亜人奴隷売買組織だからな。グラフト商会の背後には、多くの権力者や腐敗した政治家がいる。商会の崩壊は奴らの権力構造を大きく揺るがしたはずだ。うまくいけば内部抗争が始まるかもしれない」
「だとしたら嬉しいわ。この際、みんなまとめて潰れてほしい」
自分でも過激な発言だと理解しているけれど、亜人を人間扱いしない人たちにかける情けなんてない。
『――それから告発文書ね。これもまた厄介で。市民からの自発的な告発って形を整えるのが大変で――』
「ああ、でも、商会の崩壊によって生じた空白を狙って、新たな亜人奴隷売買組織が台頭したりしないかしら」
ハッとして、私は唇に手を当てた。
「それは困るわ。グラフト商会を潰した意味がなくなってしまう」
「そうだな。だが、逆に、グラフト商会の崩壊をきっかけに、権力者が本格的に亜人奴隷解放の法案を通す動きが加速する可能性もある」
「なら、私たちでその流れを作りましょう。亜人が鎖に繋がれる未来なんて見たくないもの」
私たちは真剣に話し合った。
『――で、証拠も告発も揃えて、いざ査察ってなったら、グラフト側も当然抵抗するわけですよ。裏から手を回して役人抱き込もうとしたり、証拠隠滅を図ったり……って、ねえ。オレの話、聞いてます?』
そこでようやく、私の脳細胞にモートンさんの声が届いた。
「ああ、ごめんなさい。モートンさん。頑張ってくれて、本当にありがとうございました」
『うわあ、適当……二十日間に及ぶおじさんと精霊たちの奮闘記、絶対聞いてなかったでしょ』
モートンさんの声には、呆れと疲労が滲んでいる。
「すみません」
私は素直に謝った。
「すまないモートン。おれも全然聞いてなかったが、とにかくありがとう。本当に助かった」
『……王子は素直ですね。まあいいです、浮かれる気持ちもわかりますから。でも、ただ喜んでばかりもいられませんよ。グラフトが潰れたことにより、行き場を失った亜人たちがいるんです。王子は本気で彼らを引き取る気なんですか?』
「ああ。居住区はできた。あとは議会の承認を得るだけ……そこが一番難しいところだが、必ず認めさせてみせる」
この一か月の間に、私たちは精霊や他の亜人たちの協力を得て、犬族と狸族の村の間に新しい居住区を築いていた。
犬族と狸族は、亜人の中でも比較的温厚な種族だ。
国の外部からやってきた者たちとも上手くやっていけるはずだと、私たちは信じている。
「たとえ生まれや育ちが違っても、亜人はおれの同胞だ。全ての亜人を救うのは夢物語だとわかってる。でも……それでも、おれはエレギアに生まれた王子として、出来る限りを救いたい。困ってる亜人を見捨てることなんてできない」
『……王子の覚悟に敬意を表します。それと、もう一つお伝えしたいことがあります。グラフトが潰れたことでルベリオ王子がシャノン王子に強い関心を示されました。お会いしたいと仰っています』
「!!」
私とシャノンは再び顔を見合わせた。
ルベリオ王子――ミグロムの政権中枢に名を連ねる、改革派の中心人物。
彼と直接話ができるなら、情勢は大きく動く。
いや、動かさねばならない。なんとしても!
遠距離通話を可能とする魔導具『通話水晶』を通してモートンさんがそう言ったのは、二十日後のことだった。
シャノンを呼んでほしいと言われた私は、すぐさまシャノンの執務室へ飛んだ。
書類仕事をしていたシャノンは執務を放り出し、私の手を引いて廊下を爆走した。
洗濯籠を抱えた侍女や箒を手にした侍従たちが目を剥いているが、シャノンは全てを無視して『通話水晶』のある部屋に飛び込んだ。
テーブルに置いてある『通話水晶』は、表面に複雑な紋様が刻まれた立方体の箱だ。
受信があれば、光と音と振動でそれを伝える。
再びモートンさんから通話が入ったらしく、『通話水晶』の紋様は光り輝き、身を震わせながら軽快な音楽を奏でていた。
「おれだ! シャノンだ!」
『通話水晶』を奪うように手に取り、シャノンが早口で言った。
『ああ、こんにちは、王子。モートンです。アンジェリカちゃんもそこにいますか?』
聞こえてくる声に合わせて、『通話水晶』の紋様が光っている。
「はいっ……います」
結構な距離を走って来たため、私は呼吸を荒らげながら答えた。
この部屋には椅子も置いてあるけれど、とても座る気になれない。
それより何より『大事な話』とやらが気になり、私はシャノンとほとんどくっつくような形で、『通話水晶』から聞こえるモートンさんの声に耳を傾けた。
『朗報です。王命により、グラフト商会に対し強制執行が行われました』
「……つまり」
シャノンが息を呑んだ。
『はい。事実上、グラフト商会は潰れました』
私とシャノンは無言で顔を見合わせて。
「「やっっ、たあ――――!!!」」
子どものように大はしゃぎしながら抱き合い、快哉を叫んだ。
『いやあ、ここに至るまで本当に大変だったんですよ。改革派貴族たちと密会して、精霊と一緒に裏帳簿や不正取引の証拠を集めたんです。グラフト商会も慎重だから、精霊の力借りても裏帳簿を引っこ抜くのに三日かかりました――』
「ああ、本当に良かった! これで苦しむ亜人も減るわよね!」
喜びに浮かれた私は、モートンさんの声を遠くに聞きながら、シャノンの腕の中で満面の笑みを浮かべた。
「間違いない。グラフト商会はミグロム最大の亜人奴隷売買組織だからな。グラフト商会の背後には、多くの権力者や腐敗した政治家がいる。商会の崩壊は奴らの権力構造を大きく揺るがしたはずだ。うまくいけば内部抗争が始まるかもしれない」
「だとしたら嬉しいわ。この際、みんなまとめて潰れてほしい」
自分でも過激な発言だと理解しているけれど、亜人を人間扱いしない人たちにかける情けなんてない。
『――それから告発文書ね。これもまた厄介で。市民からの自発的な告発って形を整えるのが大変で――』
「ああ、でも、商会の崩壊によって生じた空白を狙って、新たな亜人奴隷売買組織が台頭したりしないかしら」
ハッとして、私は唇に手を当てた。
「それは困るわ。グラフト商会を潰した意味がなくなってしまう」
「そうだな。だが、逆に、グラフト商会の崩壊をきっかけに、権力者が本格的に亜人奴隷解放の法案を通す動きが加速する可能性もある」
「なら、私たちでその流れを作りましょう。亜人が鎖に繋がれる未来なんて見たくないもの」
私たちは真剣に話し合った。
『――で、証拠も告発も揃えて、いざ査察ってなったら、グラフト側も当然抵抗するわけですよ。裏から手を回して役人抱き込もうとしたり、証拠隠滅を図ったり……って、ねえ。オレの話、聞いてます?』
そこでようやく、私の脳細胞にモートンさんの声が届いた。
「ああ、ごめんなさい。モートンさん。頑張ってくれて、本当にありがとうございました」
『うわあ、適当……二十日間に及ぶおじさんと精霊たちの奮闘記、絶対聞いてなかったでしょ』
モートンさんの声には、呆れと疲労が滲んでいる。
「すみません」
私は素直に謝った。
「すまないモートン。おれも全然聞いてなかったが、とにかくありがとう。本当に助かった」
『……王子は素直ですね。まあいいです、浮かれる気持ちもわかりますから。でも、ただ喜んでばかりもいられませんよ。グラフトが潰れたことにより、行き場を失った亜人たちがいるんです。王子は本気で彼らを引き取る気なんですか?』
「ああ。居住区はできた。あとは議会の承認を得るだけ……そこが一番難しいところだが、必ず認めさせてみせる」
この一か月の間に、私たちは精霊や他の亜人たちの協力を得て、犬族と狸族の村の間に新しい居住区を築いていた。
犬族と狸族は、亜人の中でも比較的温厚な種族だ。
国の外部からやってきた者たちとも上手くやっていけるはずだと、私たちは信じている。
「たとえ生まれや育ちが違っても、亜人はおれの同胞だ。全ての亜人を救うのは夢物語だとわかってる。でも……それでも、おれはエレギアに生まれた王子として、出来る限りを救いたい。困ってる亜人を見捨てることなんてできない」
『……王子の覚悟に敬意を表します。それと、もう一つお伝えしたいことがあります。グラフトが潰れたことでルベリオ王子がシャノン王子に強い関心を示されました。お会いしたいと仰っています』
「!!」
私とシャノンは再び顔を見合わせた。
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◇◇◇◇
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※完結まで執筆済み
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