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60:感情が芽吹くとき
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『6月7日(金)
体育祭で拓馬がレモンのハチミツ漬けを食べてくれましたー!
超嬉しい♪ 作って良かった!
実はお弁当も作ってたんだけど、食べてもらえず仕舞いに終わった。
残念。またいつかリベンジしたい。
朝は体育祭なんて、と思ってたけど、今日は素晴らしい日になった!
拓馬が私を一位にしてくれた! 一位だよ快挙だよ信じられない!
もはや人生で最高の日と言っても過言じゃない。
私はきっとこの日を一生忘れない。
拓馬、ありがとう。
前世から好きだったけど、今日もっと好きになりました』
(中略)
『7月3日(水)
期末テスト終了記念ということで、夕食は拓馬の好きなオムライスを作った。
ケチャップでハートを描こうかと思ったけど我慢(笑)
から揚げも大好評だった♪
から揚げって油の処理が面倒だから嫌なんだよね。
でも拓馬が美味しいって笑ってくれるんなら何でも頑張るよ。張り切るよ!
ねえ拓馬、なんで美味しいかわかる?
私の愛がたっぷり入ってるからだよ、なーんて。
いつかこの気持ちに気づいてくれると嬉しいな。
でも私はモブだからな。
ヒロインみたいに可愛くないし、やっぱり無理かな。
大福はいつも意地悪なことを言う。何をしても無駄だって。
でも好きだもん。拓馬のこと、誰よりも好きだよ! 愛してる!』
(中略)
『8月13日(火)
アパートの屋上で天体観測をした。
なんと拓馬から誘われました♪
ラムネで拓馬と乾杯した。びっくりするほど美味しかった。
星を見上げる拓馬の横顔もびっくりするほど綺麗だった。
ドラマでよく見る「星よりも君のほうが綺麗だよ」ってやつ、あれって対象が男性でもありなのよ。勉強になるね!
なんなの拓馬って天然記念物なの? 絶滅危惧種なの? いやこれは違うか。
流れ星が流れてる間に三回も唱えられないって拓馬は文句を言ってたけど、何を願ってたんだろう。気になる。
私の願いはずっと拓馬と一緒にいること。それだけ。
でも拓馬は乃亜のことが好きなのかな。
やっぱり私じゃダメなのかな』
(中略)
『9月10日(火)
拓馬にフラれた。気持ち悪いと言われました。
もう日記を書くのはこれで終わりにする。
さよなら。大好きでした』
9月10日の日記は泣きながら書いていたらしく、文字がところどころ滲んでいた。
どんなにめくっても、それ以降のページは白紙だ。
おれは無言で日記帳を閉じた。
「感想は?」
表情の変化から何かを察したらしく、幸太は不敵に笑った。
「……思い出した」
大福とか、モブとかヒロインとか、ところどころよくわからない単語が出てきたが、そんなの些末事だ。
日記帳から伝わって来たのは、痛いくらいにストレートな、悠理の気持ち。
――ねえ拓馬。好きだよ。
これまで何度も見てきたあいつの笑顔が、鮮やかに脳裏に浮かんだ。
――大好き。愛してるの。
いつだって手の込んだ料理を作り、態度や言動で好意を示してくれた少女が、文章を通して、強く強く、おれの心に訴えかけてきた。
――ずっと傍にいたい。誰よりも、あなたの傍にいたいの。
悠理の真心はおれに流れ込み、呼応するように、おれの真心が――押し潰されていた感情の芽が次々と芽吹いていった。
それらはたちまち花開き、おれの心を埋め尽くして、嘘に塗れた現実を塗り替えていった。
まさに夢から覚めた気分だ。何故こんな夢を見ていたのだろう。
いまならはっきりわかる。断言できる。
「おれが好きなのは悠理だ。乃亜じゃない」
「よっしゃあ!!」
幸太が満面の笑みでガッツポーズを決めた。
「ののっちは視聴覚室だ、行ってこい!!」
幸太に思いっきり背中を押されて、おれは全速力で走り出した。
――あなたのことがずっと好きだった。アパートで初めて出会ったときから、ずっと……ずっと好きでした。
悠理はそう言ってくれたのに、おれは酷い言葉を返した。
呼び捨てにするなと怒り、気持ち悪いと詰って、悠理を泣かせた。
さっきも疑って、冷たくして、また傷つけた。
手を強く握る。爪が皮膚を突き破るほど強く。
何故あんなことを言ってしまったのだろう。自己嫌悪で死にたくなる。
謝れば許してくれるだろうか。
あいつはまだ、おれを待っていてくれるだろうか。
体育祭で拓馬がレモンのハチミツ漬けを食べてくれましたー!
超嬉しい♪ 作って良かった!
実はお弁当も作ってたんだけど、食べてもらえず仕舞いに終わった。
残念。またいつかリベンジしたい。
朝は体育祭なんて、と思ってたけど、今日は素晴らしい日になった!
拓馬が私を一位にしてくれた! 一位だよ快挙だよ信じられない!
もはや人生で最高の日と言っても過言じゃない。
私はきっとこの日を一生忘れない。
拓馬、ありがとう。
前世から好きだったけど、今日もっと好きになりました』
(中略)
『7月3日(水)
期末テスト終了記念ということで、夕食は拓馬の好きなオムライスを作った。
ケチャップでハートを描こうかと思ったけど我慢(笑)
から揚げも大好評だった♪
から揚げって油の処理が面倒だから嫌なんだよね。
でも拓馬が美味しいって笑ってくれるんなら何でも頑張るよ。張り切るよ!
ねえ拓馬、なんで美味しいかわかる?
私の愛がたっぷり入ってるからだよ、なーんて。
いつかこの気持ちに気づいてくれると嬉しいな。
でも私はモブだからな。
ヒロインみたいに可愛くないし、やっぱり無理かな。
大福はいつも意地悪なことを言う。何をしても無駄だって。
でも好きだもん。拓馬のこと、誰よりも好きだよ! 愛してる!』
(中略)
『8月13日(火)
アパートの屋上で天体観測をした。
なんと拓馬から誘われました♪
ラムネで拓馬と乾杯した。びっくりするほど美味しかった。
星を見上げる拓馬の横顔もびっくりするほど綺麗だった。
ドラマでよく見る「星よりも君のほうが綺麗だよ」ってやつ、あれって対象が男性でもありなのよ。勉強になるね!
なんなの拓馬って天然記念物なの? 絶滅危惧種なの? いやこれは違うか。
流れ星が流れてる間に三回も唱えられないって拓馬は文句を言ってたけど、何を願ってたんだろう。気になる。
私の願いはずっと拓馬と一緒にいること。それだけ。
でも拓馬は乃亜のことが好きなのかな。
やっぱり私じゃダメなのかな』
(中略)
『9月10日(火)
拓馬にフラれた。気持ち悪いと言われました。
もう日記を書くのはこれで終わりにする。
さよなら。大好きでした』
9月10日の日記は泣きながら書いていたらしく、文字がところどころ滲んでいた。
どんなにめくっても、それ以降のページは白紙だ。
おれは無言で日記帳を閉じた。
「感想は?」
表情の変化から何かを察したらしく、幸太は不敵に笑った。
「……思い出した」
大福とか、モブとかヒロインとか、ところどころよくわからない単語が出てきたが、そんなの些末事だ。
日記帳から伝わって来たのは、痛いくらいにストレートな、悠理の気持ち。
――ねえ拓馬。好きだよ。
これまで何度も見てきたあいつの笑顔が、鮮やかに脳裏に浮かんだ。
――大好き。愛してるの。
いつだって手の込んだ料理を作り、態度や言動で好意を示してくれた少女が、文章を通して、強く強く、おれの心に訴えかけてきた。
――ずっと傍にいたい。誰よりも、あなたの傍にいたいの。
悠理の真心はおれに流れ込み、呼応するように、おれの真心が――押し潰されていた感情の芽が次々と芽吹いていった。
それらはたちまち花開き、おれの心を埋め尽くして、嘘に塗れた現実を塗り替えていった。
まさに夢から覚めた気分だ。何故こんな夢を見ていたのだろう。
いまならはっきりわかる。断言できる。
「おれが好きなのは悠理だ。乃亜じゃない」
「よっしゃあ!!」
幸太が満面の笑みでガッツポーズを決めた。
「ののっちは視聴覚室だ、行ってこい!!」
幸太に思いっきり背中を押されて、おれは全速力で走り出した。
――あなたのことがずっと好きだった。アパートで初めて出会ったときから、ずっと……ずっと好きでした。
悠理はそう言ってくれたのに、おれは酷い言葉を返した。
呼び捨てにするなと怒り、気持ち悪いと詰って、悠理を泣かせた。
さっきも疑って、冷たくして、また傷つけた。
手を強く握る。爪が皮膚を突き破るほど強く。
何故あんなことを言ってしまったのだろう。自己嫌悪で死にたくなる。
謝れば許してくれるだろうか。
あいつはまだ、おれを待っていてくれるだろうか。
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