それなりに怖い話。

只野誠

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めかくし

めかくし

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 女は夜遅く帰宅途中だ。
 業種自体が人手不足でどこでも忙しく、別の会社に転職したところで、忙しさから解放されるとは女にも思えない。
 ブラックではないものの大変な業種で女は働いていた。

 だから、夜遅くの帰宅も女にとっては慣れたものだった。
 ただ女自身は疲れ切ってはいて、死んだような目で家に向かって歩いてはいるが。

 その日は日が落ちた後でも蒸し暑く、嫌な感じの夜だった。
 湿気が体にまとわりつくような、そんな湿度があった。
 風もなく、湿気がその場にとどまり続けるような。

 女が歩いている道は大通りに面した歩道で、左手には大通り、右手には団地の生垣があるような道だった。
 何の変哲もない普通の道だ。

 ただ、夜遅いこともあり歩行者は女以外には居ない。
 そんな帰り道を女はまとわりつくような湿気の中、とぼとぼと歩いていた。

 長く直線的な道だ。
 特に苦労しない。意識しなくても歩いて行ける。
 歩道も広く、他に人もいない。

 女は疲れたように、半ば寝ているかのように足元だけを見て、呆然と歩いていた。

 だが、急な寒気が女の目を覚まさせる。
 寒気が、冷たい空気が女の背中から感じる。
 それは冷蔵庫の空気にも似たようなものだったが、少し血生臭い。
 女がブルブルと身を震わした瞬間だ。

 誰かいる気配もないのに女の顔のすぐ後から、小さな手が伸びて来てゆっくりと女の目を覆い隠したのだ。

 女はその手を振り払おうとするのだが、どういうわけか振り払えない。
 氷のように冷たいその手は、まるで固定されているかのように女の干渉を一切受け付けないのだ。

 女はパニックになる。
 当たり前だ。
 その手を冷たく感じられはするものの、その手の主は全く感じられず、気配もないのだ。
 ただ目を覆い隠す小さな手だけしか、女は感じられないのだ。

 まるで手しかないような、そんな感覚なのに目を覆う手を振り払えもしない。
 さらに言ってしまうと、手首から先は存在していない。
 女が自分の手を伸ばしても、目を覆う手の主には辿り着かないのだ。

 女はパニックになりながらも、目を覆う手は小さい。
 隙間もあり、それを頼りに何とか助けを求めるように道を進む。
 ただ元々真夜中であり、辺りは元々暗くとても見づらい。

 呼吸を荒くし、足を恐怖でガクガクさせながらも女は何とか道を進む。
 幸いなことに道もまっすぐだ。

 この覆われた手が外されることを信じて、女はゆっくりとではあるが道を進んだ。
 早く家に逃げ込みたい、それだけを願ってだ。

 だが、家に着くこともなく女の目を覆っていた手はスルリと外される。
 女がその場所を確認すると、そこは横断歩道の真ん中だった。
 いつの間にか、こんなにも進んでいた、と、女は思った。

 ただ信号は赤だ。

 そして、女がその事に気づいた瞬間、女はライトに照らされる。
 大きなトラックが女目掛けて走り込んできたのだ。

 トラックは寸前のところで、ブレーキをかけ、横断歩道の手前で止まる。
 そして、トラックから身を乗り出して、トラックの運転手は女に文句を言った。

 女は泣きながら謝り、横断歩道を渡り切る。
 そのとき気づく。
 その横断歩道の信号機の横に、花束が飾られているのを。

 女を目隠ししてきた存在とその花束と、何か関係があるのかわからなかった。
 それから、しばらくの間は駅から家までタクシーで帰り、タクシーを使わなくなった後もあの大通りを通ることを女はやめた。

 ただそれだけの話だ。





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