それなりに怖い話。

只野誠

文字の大きさ
591 / 769
ゆれるひと

ゆれるひと

しおりを挟む
 男が夜道を歩く。
 バイトの帰りで少々遅くなってしまったからだ。
 夜なのに蒸し暑く、風が吹いても涼しさはなく、生暖かい湿気を纏った空気が吹きつけられるだけだ。

 男が借りている部屋は少々郊外にあるアパートの一室だ。
 理由は家賃が安かったからだ。
 出かけるとなると少し不便ではあるが、それ以外は男に不満はない。

 いや、一つだけある。
 アパートの周囲には自然が多く虫が多いのだ。
 今も歩いているのにもかかわらず既に数カ所も蚊に刺されている。

 蚊に刺されたところを男は掻きながら、歩いているとちょっとした藪の前を通る。
 道に沿って三十メートルくらい、森とまではいかない、やはり藪というべきものがフェンスに囲まれて続いている場所がある。
 木々はなくとも背の高い雑草が生えているような場所だ。

 空き地ではなくとある工場の敷地の一部らしいが、男も詳しくは知らない。
 まあ、藪が道に沿って、少し続く道があるのだ。

 その辺りは特に蚊も多い。

 腕を激しく振って蚊に刺されないように歩いていると、藪の中に男の視線が行く。
 なにかが動いていたからだ。
 それは左右に、まるでメトロノームの振り子のように、規則的に左右に動いているものがあったからだ。
 嫌でも視線が行ってしまう。
 ちょうど人と同じくらいの大きさだったというのもある。
 男は驚いて、立ち止まりそれを見てしまう。

 それは全裸の人だった。
 恐らくは男だ。激しく左右に動いていたので、ちゃんと確認出来てはいない。
 それが、まさにメトロノームと同じような速度で左右に揺れているのだ。

 男は、うわっ、とつい声を上げてしまう。
 そうすると、左右に揺れている人物も、通りを歩いている男に気づく。

 動いていて確かではないが、その揺れている人は男に気づいた瞬間、顔をニンマリと笑ったそうだ。

 男は逃げるために駆け出す。
 絡みつくような足を必死に動かし、転がるように走る。

 何度か後ろを振り返るが、揺れる人が通りにまで出て来る様子はなかった。
 藪の道を通りすぎても、男は足を止めず自分の部屋まで駆け込んだ。

 男は息を整えながら、ドアにしっかりと鍵をかけ、部屋の雨戸も閉めようとする。
 その時、アパートの小さな庭先に体を左右に揺らすあの人物が立っていた。

 暗闇の中、白い体が光を反射して目立って見えていた。
 やはり笑みを浮かべているように男には思えた。
 男は急いで雨戸を閉め、部屋の中で朝まで震えた。

 あれは生きた人間だったのか、それともそうじゃないのか。
 その判断も男にはつかなかった。

 それ以来、男は暗闇の中で度々揺れる人を見かけるようになる。
 いつ見ても、その顔はニンマリと笑っているように見えたという話だ。





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。 意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。 隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

きさらぎ駅

水野華奈
ホラー
親友から電話があった。 きさらぎ駅という場所にいるらしい… 日常の中の小さな恐怖が今始まる。 触れてしまったが最後。 二度と戻れない。

【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】 ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。 八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。 === エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中 【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】 【怖さレベル】 ★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度 ★★☆ ふつうに怖い話 ★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話 ※8/2 Kindleにて電子書籍化しました 『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...