それなりに怖い話。

只野誠

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へいのうえのぼうけん

へいのうえのぼうけん

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 今ではない。
 昔の、かなり昔の話だそうだ。

 家と家の間に塀がある。
 ブロック塀の塀がある。

 子供の頃、あなたが男の子なら一度くらいはその上を歩いたことがあるかもしれない。

 これはそんな話だ。

 少年は学校の帰り道、友達と別れた後、少し遠回りして家に帰ることにしている。
 家に帰ると、口うるさい母親がいるからだ。

 その遠回しをした結果、少年は隣町まで来ていた。
 あまり知らない道と街。
 普段見られぬ風景。
 入ったことのない店。

 そのすべてが少年の興味をひいた。

 そして、少年は発見する。
 塀だ。ブロック塀。
 少年の背より少し高い位置のブロック塀。
 隣は公園で網の目の大きなフェンスがあり、それを伝って登ることができる塀だ。

 少年は空を見上げて、まだ明るいのを確認する。
 まだ日も傾いていない。
 もう少し寄り道をして帰れる。

 そう思った少年はすぐにフェンスをよじ登り、塀の上に立つ。
 塀の上を悠々と歩き始める。

 塀の上から見る景色は、普段見ている物とまた違っていて良い物だと、少年は思う。
 塀の上を歩いていると、塀が分岐している。
 公園と家を隔てている塀と家と家の間の塀だ。

 少年は家と家の間の塀に入り込む。
 家と家に囲まれているせいか、日が届かずにその塀の上は少し薄暗い。
 家の庭が見える。
 木が植えられていたり、小さい池があったり、少年が見たことのない風景が広がっている。

 少年はドキドキしながら塀の上を歩く。
 他人の家の庭を覗き見しているという、悪いことをしているような、そんな気持ちもあったのだろう。

 少年はそうやっていくつもの家と家の間を、塀の上を歩き見て回る。
 中には犬を飼っている家もあり吼えられもした。

 いつもとは違う空間。まるで異世界に来たかのような、そんな感覚を少年は感じていた。

 ふと、気が付くともう日が落ちかけている。
 家と家に囲まれて、少年は気づくのが遅れたのだ。
 そろそろ帰らなくては、と少年は塀から降りるために、道路に通じる場所を探そうとする。

 だが、帰り道がわからない。
 何かがおかしい。
 
 いくら行けども行けども道路に面している塀に出ない。
 少年がどれだけ進もうが、家と家の間の塀にしか出ないのだ。
 そんなことあるはずはないのに。

 少年は冷静になって、元来た塀を戻ろうとする。

 だが、それでも、どれだけ記憶通りに塀を戻っても元の場所に出ない。
 行けども行けども、家と家の間の塀にしか出ない。

 最悪、どこかの庭に降りてそこから出てしまおう、と、そう思うのだが、それも何か怖い。
 この塀から降りたら、それこそ一生元の世界に帰れない、そんな気が少年にはしてならなかった。

 少年は泣きながら塀の上を歩く。
 バランスを崩さないように、落ちないようにと。

 ふと、塀の上に動くものを見つける。
 猫だ。黒猫だ。

 その猫は少年を見て、ひと声鳴いた。
 そして、手で少年を招く様な仕草をする。

 少年は藁にも縋る思いで、その黒猫に近寄る。

 少年が近寄ると、猫は塀の上を進みだした。
 少年も猫に続く。

 しばらく歩くと、オレンジ色の世界が広がった。
 そこには道路が広がっていた。

 気づくと黒猫は居なくなっている。

 少年は塀の上から降り、道路に出た。
 夕日が照らす道路に出れたことに少年はホッと胸を撫でおろす。
 そうすると、猫の鳴き声がする。

 少年が上を見上げると、先ほどの黒猫がいる。
 黒猫は少年にむかい、明日にでも何か食い物を持ってこい、と確かに人間の言葉で言った。
 少年は驚きながらも助けてくれたことに感謝し頷く。

 黒猫は、少年が素直にうなずいたので機嫌をよくし、塀の上を人間が歩くのは危険だ、とも言った。

 翌日、少年は給食の残りを持ってこの場所に訪れる。
 その黒猫はもう喋らなかったが、少年は感謝を忘れなかった。



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