それなりに怖い話。

只野誠

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たいふうのばん

たいふうのばん

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 台風が来た。
 物凄く大きい奴だ。
 女は古い家に一人で不安だった。
 結婚したばかりの夫は台風の影響で今日は帰宅することはできないようだ。

 夫の心配はするものの、この家は古く台風には何とも頼りない。
 雨交じりの風が雨戸を叩く音が不気味だし、その雨戸がガタガタと揺れるのも怖くて仕方がない。

 夫が受け継いだ家だが、何とも頼りなく女には感じてしまう。

 女は不安だが今日は電車が止まり夫は家に帰って来れない。
 もちろん夫のことも心配はしているが、今は自分も不安で仕方がない。
 なにせ木造の古い家なのだ。
 強い風が吹くたびにギィギィと嫌な音を立てるのだ。
 昔から住んでいた夫はともかく、女には不安でしょうがない。

 それでも他に行くところもないので、女はその家で独り眠りにつく。
 ベッドに入ると余計、色んな音が聞こえてくる。

 風の音。
 風が雨戸を叩き揺する音。
 雨の音。
 雨が何かを叩くこと。
 家がギィギィと鳴る音。
 ピシピシと小さく鋭くなる家鳴りの音。

 様々な音が女を不安にさせる。
 女はべッドの中で寝返りを繰り返すが、どうにも寝れない。
 帰宅できなかった夫の事、台風の事、家の事、一人でいること、様々な不安が女を眠らせてくれない。
 それでも、ベッドの中で寝る努力をすることしか女にはできない。

 ゴォォォォォォという風の音が聞こえる。

 聞こえるのだが、何か変だ。
 今まではもちろん窓の外から聞こえていたのだが、今はものすごく近くからその音が聞こえる。
 とうとう雨戸でも吹き飛ばされたのかと、女は目を開ける。

 眠れなかったので、すぐ目は開く。
 暗い部屋の中でもすぐに見渡せる。

 いや、見渡せない。
 女はとある一点を見つめて固まる。

 女を、ぼさぼさの髪の男か女かもわからない何者かが覗き込んでいた。
 暗がりなのかどうかわからないが、眼も口もひらかれてはいるのだが真っ暗だ。
 
 ただ、その真っ暗な口から、ゴォォォォォォ、という風の様な音が鳴っていた。

 女が悲鳴を上げるより前に、それは女に向けて話しかけて来た。
 息も絶え絶えになるような、とてもか細い声で、雨宿りさせて、と。

 女は目が点になる。

 どう見ても生きている人間ではない。
 だが、例え幽霊でも確かのこの台風の中、外に放り出すのはかわいそうだと思うし、女にはそんなことも出来やしない。

 女は全く働かない頭で、大人しくしてくれるのなら、とだけ答えた。
 女がそう答えると、そのボザボザ髪の幽霊か何かは、ゆっくりと女を覗き込むのをやめて床の下へと消えていった。
 わざわざ許可ととりにくるとか、律儀な幽霊だ、と考えるが、それで安心して寝れるほど女は豪胆ではない。

 余計寝れなくなり、朝まで電気とテレビをつけて何とか過ごした。
 朝方、夫が帰ってくると女は喜んで出迎える。
 夫は心配で起きていてくれたのかと、大層喜んだが、本当のことは言えなかった。




 
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