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第一部
08:猫又さま、看病する
しおりを挟むミケの健康診断は無事に終わった。急ぎの仕事も終わらせた。あとは納期にまだ余裕がある。久しぶりに昼まで寝て過ごそうと思っていたその日。
「……さんじゅう、くど」
ひえ、と体温計を見て悲鳴が上がった。
前日から身体がだるいなとは思っていた。
薄着のまま、深夜パソコンに向かっていたのがまずかったかな。
既に両親は出勤していて、家にはミケと二人。病院も午前の診察はもう受付終了している。
「うわあ……どうしよ」
久々の高熱。頭がぐらぐらする。真っ直ぐに立てなくて壁に手をついた。
「桜ちゃん、調子悪いにゃ?」
ミケが足もとにすり寄ってくる。二本のしっぽが不安そうに揺れた。
「うん、ちょっとね。薬飲めば下がるから大丈夫」
「にゃあ……」
「多分ゼリーもあるし、解熱剤もあったはず」
とはいえ、冷蔵庫も薬も一階。無事に降りられるかな。
「桜ちゃん!」
ぽふんっと白い煙が散った。目の前には小さな女の子。ミケの人の姿だ。
ああ、こっちもやっぱり可愛いなあ。
「わたしが持ってくるにゃ! 桜ちゃんは寝てればいいにゃ!」
「え、でも……」
「大丈夫にゃ! わたしに任せるにゃ!!」
「場所わかる?」
「お母さんが風邪ひいた時のことちゃんと覚えてるにゃ!」
「うん……じゃあお願い」
不安だけど、正直助かる。
素直に甘えてベッドに戻ろう。水だけは開けてないペットボトルが枕元にあるし。
「……ふう」
さむいな。ミケがいたらあったかいんだけど。でも今はわたしのために頑張ってくれてる。
あの時の話を思い出す。ミケは昔も女の子のために走った。
トトト、軽い足音がする。
「桜ちゃん! これにゃ! これがあったら元気になるにゃあ!」
「わあ。ありがとう、ミケ」
「ゼリーと解熱剤。あってる。すごいよミケ!」
「ふふん! わたしはすごいにゃ!」
「すごいすごい! ありがとう、ミケ!」
パウチのゼリーと解熱剤の箱。見慣れたそれらがとても輝いて見えた。
「本当にありがとう、ミケ。ミケがいてくれてよかった」
薬を飲んで、ミケと布団にもぐった。あったかい。人の姿でもミケはあったかいんだな。ミケの手を握って、わたしの意識は深く沈んだ。
――
窓の外の黒いシルエットが『にゃあ』と鳴いた気がした。
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