私のお猫さま 25歳を迎えて猫又さまになりました

月見こだま

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第一部

09:猫又さまと九尾の黒猫

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 桜の腕のなかでまどろんでいたミケの身体がふわりと浮かんだ。

「んみゃ……?」

 浮遊感に目をあけると、そこは一面真っ暗で何もない空間。
 近くにいたはずの桜もいない。

「桜ちゃん、……桜ちゃん、どこにゃ」

 ふにゃあ、ふにゃあ、と呼んでもいつものように来てくれない。
 次第に声はか細くなり震えが大きくなる。

「……桜ちゃあん……お母さん……お父さん…………どこにゃ」

 いつも一緒に寝てくれる桜。抱きしめてくれるお母さん。たくさんのおもちゃで遊んでくれるお父さん。みんな、ミケの大切な人。
 だけど、真っ暗なこの世界に誰もいない。


「三毛」


 呼ぶ声。『ミケ』と呼んだ。でもその声はミケが望むどの声でもなかった。
 その声は一度だけ聞いたことがある。

「――――黒いの」

 闇の中で濡羽色が揺れた。
 あの時の黒猫。しっぽが一本しかない、猫又。

――『にゃあ』と鳴いた。
 ぐにゃりと空間が歪む。深海の青の瞳が浮かび、徐々に人に姿を変える。


 肩までの髪が闇に揺れる。瞳の色もそのままに、白い人間の肌。ゆったりとした着流しから伸びる長い一本のしっぽがミケの額に触れる。
 ミケは思わず金色の瞳を大きく見開いた。

「お前がみんなをどこかに隠したにゃ!?」

 牙をむき出しにして唸りながら叫ぶ。それを見下ろしたままクロはゆっくりと首を傾げる。

「いいや。『ここ』は、――お前から、お前の家族を守るための空間だ」

「にゃ!?」

「お前はそういう『化け物』になったのだと自覚する必要がある」

「にゃにを!? しっぽが一本のなり損ないの格下が生意気にゃ!! わたしは桜ちゃんを、大切な人を守るために猫又になったにゃ!」

「猫又は災いなのだ。特にお前のようになりたての赤子はやっかいだ。守るのではない。我々にとって人間は餌にすぎぬ」

「にゃ!? わたしは違うにゃ!! 桜ちゃんも、みんなも大好きにゃ!! お前みたいなやつといっしょにするにゃ!! 無礼千万にゃ!!」

 ミケは額のしっぽを掴む。こいつの言ってることは全部でたらめだ! ミケの二本のしっぽと比べて貧相な一本のしっぽ。
 憤慨するミケを見てクロは深々とため息をついた。

「わしが格下に見えるか。無礼な新入りが」

 それは憐れみを含んだ声音。
 ざわりと掴んだしっぽが膨らんでいく。

「んにゃ!?」

「控えろ」

 クロのしっぽが青白く光り、扇のように広がる。
 熱を帯びたそれにミケが思わず手を放す。


 光の扇はクロの後ろで本来の姿を現す。

 一本、二本と――自由を喜ぶように踊るそれは。

「きゅうほん」

 ミケの喉がひきつった。
 九本の尾。神格化した猫又の象徴。
 本能的に感じる圧倒的な格差。

「さて、三毛よ」

 クロの深い青の瞳が細められる。




「三百年を超え神格となったわしがお前を教育してやろう」

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