12 / 58
第一部
10:猫又さまの宿命
しおりを挟む「ううん……ミケ、」
わたしはゆっくり目を開いた。薬が効いたみたいで、身体は楽になった。とはいえ、汗が気持ち悪い。
一緒に寝てたミケもベタベタになってるかも。
腕の中にいたミケを確認しようとした。
――のだけど、
「ミケ……?」
一緒にいたはずのミケがいない。
ミケはわたしが寝ている時にはほとんど動かずにいるのに。
「ミケ!?」
さぁっと血の気が引いた。呼んでも返事がない。
「ミケ!!」
慌ててベッドを降りる。髪はざんばらだし顔も洗ってない。汗にまみれてひどい状態なのはわかってる。でも構っていられない。もしかしたら人の姿のまま外にでた? SNSに写真も載せてしまったし、浚われてしまった!? 最悪の想像をして涙が溢れる。せっかく猫又になったミケとずっと一緒に生きていけると思ったのに!
「ミケ……!!」
探さないと!! スマホと財布だけ持って、着の身着のまま外に飛び出そうとした時。
――――ぴんぽ――ん。
インターフォンが鳴った。
「は、……ッ」
息が詰まった。緊張していた心臓に冷水がかかったかのように。
ドアノブを掴みかけていたけど、ゆっくりと手を下す。
ぴんぽ――ん。
再び、音が鳴る。
(なに、だれ)
人に構っている場合じゃないのに。でも、もしかしたら近所の人が脱走したミケを連れてきてくれた?
淡い期待が胸に滲む。
わたしは画面を確認した。ノイズ混じりで映りはよくないけど、誰が来たかぐらいはわかる。
「え?」
そこに居たのは、健康診断で黒猫を連れていた老紳士。――それと、もう一人。
わたしは空気を飲み込んでゆっくりとドアを開けた。
「――神崎先生……?」
老紳士と共に居たのは、ミケの担当医である神崎先生だった。
――――
闇に、濡羽色が揺れる。クロはミケの口元へ尾を伸ばした。
ぽたぽたと汗の滴る音が響く。
「もう喋る元気もないか」
クロの九尾がその小さな身体を持ち上げて目線を合わせた。
ミケの耳はぺたんと折りたたまれ、しっぽは巻いている。もう人間の姿も保てていない。
「ではまず我ら猫又の存在を正しく理解することから教えよう」
クロの声が静かに語る。耳を伏せてるミケの脳内に直接語り掛けるようにその言葉が滲んでいく。
「猫又は長寿の猫が妖怪となったということは知っているな。当然すべての猫がなるわけではない。長寿であり、飼主から並々ならぬ愛情を受け、そして猫自身が死にたくないと強く願った者がなるのだ。だが、我らは共に生きたいと願った人間の、その愛情と命を餌に妖怪化する。――つまり」
――――
「神崎先生、どういうことですか」
唇が震える。喉が渇いてかすれたような声しか出なかった。
この人は何を言っているのだろう。本当にミケの健康診断でやわらかな笑顔を見せていた人と同じ人なんだろうか。
「花屋敷さん。このままミケちゃんといれば、あなたは死んでしまいます。私たちはあなたの判断を仰ぎにきました」
神崎先生の隣で、空のキャリーを持った老紳士がゆっくりと目を伏せた。
20
あなたにおすすめの小説
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
他国ならうまくいったかもしれない話
章槻雅希
ファンタジー
入り婿が爵位を継いで、第二夫人を迎えて後継者作り。
他国であれば、それが許される国もありましょうが、我が国では法律違反ですわよ。
そう、カヌーン魔導王国には王国特殊法がございますから。
『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?
行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。
貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。
元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。
これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。
※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑)
※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。
※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる