13 / 62
第一部
11:猫又さまと桜
しおりを挟む玄関先で立ち話というわけにもいかない内容だと、働かない頭でも理解できた。
二人をリビングに通して、対面に座る。
「あの、ちゃんと説明してほしいです」
ペットボトルのお茶をそのままお出しするなんて普段じゃ考えられない。でもお茶を淹れる時間すら惜しい。さっきの話をきちんと聞かなければ。
「はい。まずはご挨拶させてください。突然押しかけてしまい申し訳ありません。覚えておられないかもしれませんが、私は黒猫の飼主の神谷と申します。先日はクロが失礼いたしました」
「――はい、覚えています。あの、クロちゃんも、その……猫又なんですよね?」
「ええ。三百歳は超えていると言っていましたが、正確な年齢はわかりません」
「三百!?」
「妖怪ですから」
ふふ、と神谷さんが笑った。当たり前のように受け入れているのはわたしと同じ。
だけど、だからこそさっきの話が食い違う気がする。
「先生、わたしがミケといると死んでしまうっていうのはどうしてですか?」
ピンと背筋を伸ばして椅子に座る神崎先生の表情は険しい。
「ミケちゃんは猫又になって日が浅いですよね」
「――先生。ミケが猫又だって気付いてて、この前診察したんですね」
「はい。二か月前の診察時に兆候も出ていましたから。二十五歳前の老猫の血液検査に異常が出ないこと自体が異常なんです」
神崎先生の話し方は診察の時のように砕けていない。あれは動物を怖がらせないように、あえてしているのだと知った。
あの時、神崎先生は血液検査を強く勧めなかった。二か月前にしたからといって深く考えなかったが、言われてみればその通りだった。
ミケは超長寿と言われる年齢になっていた。いくら長生きしても、腎臓や甲状腺に異常が出るはず。それは知識としてわたしも知っていたけど、ミケが健康ならそれでいいと深く考えなかった。
「ですから、猫又になるのも近いだろうと思い、花屋敷さんが予約された日時に神谷に来てもらって改めて確認してもらいました」
そこで、もう一つの疑問。
「……神崎先生と神谷さんはお知り合いだったんですね」
「はい。幼馴染です。だから、クロが猫又であることも、猫又がどういう存在であるかも知っています。私が獣医を目指したきっかけでもありますね」
「クロは幼い私たちの遊び相手をしてくれてたんですよ。――その時はまだ、クロは野良でしたけど」
「懐かしいな……。ああ、話を戻しましょう。猫又に関しての知識もクロから教えられました。猫又となる猫は長く生き、飼い主から並々ならぬ愛情を注がれることによって生まれます。つまり、猫又の世界においてミケちゃんは生まれたての赤ちゃんです。飼主は親としてこまめに栄養を与えてあげなければならない――と表現すれば伝わりますか?」
「はい。でも、ごはんも普段通りですよ?」
「そうですよね。ですが、身体の栄養とは別に、妖怪化した魂を維持するためには別の栄養が必要となるのです。それがなくなれば、猫又はただの老いた猫に戻り死に至ります」
その言葉に、喉が鳴る。空気を飲み込んだだけなのにごろりと重くて苦い塊のように思えた。
神崎先生が重い。けれど、聞きたくない言葉は更に続いた。
「その栄養というのが、愛情を注いでくれる人の命です。彼ら猫又は愛する人の命を食らい続けた末に神格化する存在です」
25
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。
四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」
突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる