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第二部
02:猫又さま、命を食べる
しおりを挟むわたしはルナちゃんとミケを見比べた。
ミケはにぼしを手にただ首を傾げる。
「まず、ご理解いただきたいのは、これはあくまで訓練の基礎です。ミケさまの膨大なお力を抑えるためには一度『巡り』を作ることが大切ですので」
「ミケの霊力――っていうか妖力? ってそんなに強いの?」
ルナちゃんの言葉に引っかかって、つい口を挟んでしまった。
「はい。潜在的にはクロさまに匹敵するくらいかと思います」
うそでしょ!? 神格化した九尾の猫又レベルの潜在能力がミケにあるってこと!?
クロ、ちゃん――を実際見ていないお母さんはピンと来ていないけれど、わたしは唇が引きつった。霊感がなくてもあの威圧感は異質だった。
ミケはというと、
「訓練したら黒いのに勝てるようになるにゃ!?」
……違うことに食いついてしまった。やる気が出たのはいいのかもしれないけど。
「いずれは並び立つお方と思います」
「やったにゃ! 桜ちゃん! 訓練がんばるにゃ!!」
「頑張ってねミケ」
わたしたちの会話をルナちゃんは微笑ましそうに見て、『ではご説明しますね』と言った。
「ミケさまが今お持ちになっている部分が魚の尾になります。ミケさまの立派な二本のしっぽにあたります」
ミケはその言葉にご機嫌にしっぽを振る。
「そして、上を向いているところが頭です。ミケさまのその可愛らしいお顔にあたります」
(ルナちゃんすっごく丁寧に教えてくれてる……!!)
「こんなに小さくて変なかたちなのにわたしと同じにゃ」
「はい、その通りです」
「……こいつも生きてたにゃ……」
「そうです。ミケさまの小さな手におさまるほどの大きさですが、同じ『命』なのです」
わたしとお母さんはルナちゃんの邪魔にならないように、口を挟まずただ見守る。
『いただきます』と『ごちそうさま』は毎食ごと口にするけど、ただの言葉にしかなってなかった。
食事は命をいただくもの。そんな当たり前のことを改めて教えられる。
「つまり、生きていた命を大切に食べるということを心がけてください」
「どうしたらいいにゃ」
「お口に運んでください。そして、ゆっくりと噛んでください」
ミケは大きく口を開けて、にぼしを舌に乗せた。
そして、ゆっくりと咀嚼する。味は特に嫌いではなかったみたい。
「一度噛むごとに、命は溶けていきます」
「んむ、」
「飲み込んでください」
「みゃ」
ごくんと大きな音が聞こえた。しっかり咀嚼して飲み込んだのがわかる。
「ミケさまのお口に入り、噛むことで命が溶け、喉を通り、お腹に入ります」
目を閉じて想像してください、とルナちゃんが続ける。
「お腹に入ることで、ミケさまを健康に保つ栄養になります」
ルナちゃんが綺麗な青い瞳をゆっくりと伏せ、開く。
「常に想像しながらお食事することを心がけてください。意図的に行うことで、徐々に無意識を防げるようになります」
「よくわかんないにゃ」
「最初はそんなものですよ。要するに無意識の食事を防ぎましょうということです」
「にゃあ……?」
「しばらくはクロさまの妖力もありますので、無意識の食事はほぼ心配ありません。少しずつで構いませんから、意図的な食事を心がけましょうね」
「よくわかんにゃいけど、わかったにゃ」
(うん、確かにちょっと難しいかも。……でも)
あの小さなにぼしは、わたしの……わたしたち家族の命の代わりになるんだ。
何度も突き付けられる命の危機。ミケが大好きなわたしたちを殺してしまうかもしれない恐怖。改めて冬に冷水をかぶったような悪寒が走った。
ふと、ルナちゃんの視線を感じた。
小さな頭をめいっぱい起こしてわたしとお母さんを見ている。
「お次はご家族さまにもしていただきたいことがあります」
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