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第二部
01:猫又さま、新たな食事
しおりを挟むドサッ袋の大きさのわりに重い音。
お母さんの手から滑り落ちた買い物袋がフローリングに落ちた。
「あら! まあ、まあ、まああああ!! 可愛らしい!!」
「恐縮です、お母さま」
「まああああ!! 妖精ってこの世にいるのね!?」
気付けばもうお母さんの仕事が終わる時間だった。わたしが身支度するよりも早いと思って、お使いをお願いした。
――のだけど。
「お母さんも浮気ものにゃあ!!」
「あら、ミケったらヤキモチ!? かわいい!!」
えーっと、再放送かな? さすが親子。わたしと反応がそっくり。
ルナちゃんを目にしたお母さんはもう語尾にハートが付きまくってる。当然、ミケは拗ねるけど、そんなミケも可愛いとずっとデレデレしてる。
「ルナちゃんが妖精ならミケは天使よ!!」
「ふにゃあ~!!」
買い物袋を放り投げたまま、ミケを抱き上げて頬ずりしてる。
そんなことしてる場合じゃないんだけど。
「ねえ、お母さん。わたしが送ったメッセージちゃんと読んだ?」
「もちろん! 頼まれてたものも買ってきたわよ!」
ミケを抱えたまま、袋は拾わない。わかってた。
わたしは袋を拾って、中身を取り出す。
「ルナちゃん、これで大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ」
ルナちゃんに頼まれていたものを確認してもらう。
正しく伝わっていたようで、一安心した。
――とはいえ。
「にぼし、食べるかなあ……」
「にゃあ?」
お母さんに甘やかされて喉をゴロゴロ言わせていたミケが顔を上げた。
確かに、猫=にぼしのイメージはあるけど。
人間用ではないから塩分の心配はないだろうけど、ミケは子猫の時から決まったものしか食べない。たまに茹でたササミをあげるぐらい。
「好みもあると思いますので、量の調整はしましょう。基本的なお食事は今まで通りで構いませんよ」
「ごはんにゃ?」
「まだ早いからちょっと待ってね」
「にゃう」
「今までお魚あげたことなかったもんね。フードもチキン味だし」
お母さんが満足したのか、そう言ってミケを下す。わたしの元に寄ってきて、見慣れない袋に鼻を寄せた。
「美味しそうなにおいにゃ」
ミケはそう言ってペロンと袋をなめる。
「あ、コラ。まだだって」
「いえ。こちらは今食べて頂きましょう。ミケさま、人の姿になっていただけますか?」
ルナちゃんの言葉に、わたしとお母さんは首を傾げた。どうやらただのおやつではないらしい。
「にゃう!」
ぽふんと軽い音と共に、ミケは人間の姿になった。こちらも相変わらず可愛い。
「どうにゃ!!」
ふふん! とふんぞり返るミケに、ルナちゃんは首を縦に振る。
「はい、お上手です」
「もっと褒めるにゃ!!」
「ミケさまは素晴らしい猫又さまです」
「ふふん!」
わたしとお母さんはそのやり取りでもう尊死しそうだった。ふたりとも大声を出さないように口を塞いで震えているのだから、本当に親子だ。
てのひらサイズのルナちゃんが健康的な成猫サイズのミケをよしよししてる。
「さて、では桜さま」
「ふ、ふぁい!?」
「そちらの袋から、ひとつミケさまにお渡しいただけますか?」
「は、はい!!」
わたしは震えたままの手でにぼしの袋を破る。ちょっと失敗したかも。
ひとつ取り出して、ミケの手に渡した。
「ありがとうございます。あ、ミケさま! まだお口に入れないでくださいね」
「にゃ?」
渡した瞬間、口に入れようとしたミケをルナちゃんが止める。
ミケは首を傾げたが、仮にも『先生』となるルナちゃんの言うことをちゃんと聞いている。
(はああああ、ミケ賢い、可愛い……って、そうじゃなくて)
「これからどうするの?」
「はい。まず、座っていただきます。今日は初日ですのでどんな座り方でも構いませんよ」
「じゃあ、わたしの膝でもいい?」
「はい、構いません」
わたしはミケを抱き上げて椅子に座る。その膝にミケを乗せた。
「それで?」
「はい。まずは、そのにぼしをひとつの『命』と認識していただきます」
「いのち……?」
「今のミケさまは無意識に他者の命を奪ってしまう体質です。なので、まずはその無意識を改善していただくのです」
ルナちゃんの言っていることがよくわからない。ミケもわたしと同じように首を傾げているし、隣に座ったお母さんも頬に手を添えて首を傾げている。
「頭から尾まで。その小さな『命』を意識的に栄養として取り入れられるよう頑張りましょう」
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