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第二部
03:猫又さまの家族
しおりを挟む「わたしたちはお塩使うんだよね?」
ルナちゃんに頼まれたお買い物は三つ。にぼしと、普段食用に使っているものと違う銘柄のお塩一キロ、そして二リットルのピッチャー。
ミケが食事なら、わたしたちは塩だろうと思った。
(塩って魔除けのイメージもあるし)
安直だろうけど、多分間違ってない。
「正確には、桜さまたちのためのものではありません。――申し訳ありません。ミケさまには少々眠っていていただきます」
「にゃう」
「ミケ!?」
ルナちゃんがしっぽを振った瞬間、ミケの頭がガクンと落ちた。一瞬で穏やかな寝息を立てている。
「ミケには教えられないってこと?」
「その通りです。ミケさまはご自身の訓練に集中すべき時。余計な不安は集中力を削ぎますので」
ミケは常にわたしと一緒にいる。だからこそ、ミケに伏せたい話はこうするしかなかったのだと言う。
ルナちゃんは続ける。
「大変申し上げにくいのですが、ミケさまは『ご馳走なのです』」
「ごちそう……?」
「はい。猫又となる猫は年々増えておりますが、多くはすぐに食べられてしまうのです。ミケさまは大変運がよかった」
「食べられる!?」
「どうして?」
わたしとお母さんの言葉が重なる。
「猫又でありながら、猫又を食することを好むものがいます。化け犬を従え、クロさまも応戦しましたが退けるのが精いっぱいでした」
「でも、九尾の神格化した猫又の方が強いんじゃ……」
「残念ながら。クロさまは穏やかに過ごすことを望まれ、相手は好んで妖力を奪い己の力としています。つまり、『食事』をするごとに強くなるということです」
わたしとお母さんの喉が鳴った。クロちゃんのお守りだけでは安心できない本当の理由。
「だったら、お塩は」
「はい。ご家族さまを守るための『結界』にします」
ルナちゃんはそう言って、新品の塩の近くへ。
「これよりルナがお塩に『霊力』を込めます。食事には使わないようにご注意ください」
ルナちゃんは小さな前足を塩の袋に乗せた。
「え、え、!?」
「光ってる……!!」
ルナちゃんの毛がぶわっと盛り上がり、真っ白な全身が目を開けていられないほどに強く光る。
雪原に太陽光が反射しているとか、そんなものではない。
神々しいという言葉がよく似合う。ルナちゃんは『霊力』と言った。もしかすると、クロちゃんはミケとは本質が違うのかもしれない。
(お、おわった……?)
どれぐらい経ったかわからないけど、ゆっくりと光が落ち着いていく。
ルナちゃんを見ると、元の雪玉サイズだった。
「こちらのお塩を水に溶かしてご使用いただきます。二リットルのピッチャーに一袋です」
「一袋!?」
「ルナの霊力を込めていますので、粒が残ることはありません。水道水で大丈夫ですよ」
「あ、はい」
わたしはミケを抱えていて動けないので、お母さんが動いた。
「先にお塩入れて、がいいのよね」
「いいえ、お水を入れてからでお願いします」
「それだと溢れちゃわない?」
「大丈夫です。このお塩はもうただのお塩ではありません」
「そう……?」
お母さんはピッチャ―を一度スポンジで洗い、綺麗に拭いた。そこになみなみと水道水を入れ、塩の封を切った。
「――本当に大丈夫?」
お母さんはもう一度確認した。
「大丈夫です」
「じゃあ……」
ルナちゃんが頷いたのを確認して、お母さんはゆっくりと塩を入れた。
「わ」
「すごい!!」
お塩が水に沈んでいく瞬間、白や黄色、オレンジ、青、赤――とにかく、色々な光がはじけていく。
水が渦を巻いてとぷんと遊ぶ。
湖に虹が落ちて泡になっているみたいだ。
「――きれい」
「ふふ」
わたしが呟くと、ルナちゃんが嬉しそうに笑った。
最後の塩が虹の泡に消え、金色を残し徐々にただの水に戻った。
「こちらが、一日の必要量です。玄関や窓際など、侵入口となりそうなところに撒いてください」
「侵入口――」
「はい。奴らは匂いを辿り、侵入します。化け犬程度でしたらこの結界水で退けることは可能かと。万が一のために、コップ一杯程度は寝室に置いてください」
真っ暗な窓から侵入してくる化け犬。想像してしまって腕をさすった。
「また、お出かけする際には霧吹きなどで全身に振りかけてください。ミケさまの匂いの追跡を防げます。効果は八時間程度なので、霧吹きは持って出かけてください」
「効果が切れたら、すぐに見つかってしまうの?」
「可能性はあります。情報によると、この近辺に化け犬が来ていますので」
「情報?」
「追跡に特化したクロさまの眷属からの情報です」
ルナちゃんの言葉に、わたしとお母さんは息を呑んだ。この平穏な日常のすぐそばに、ミケを狙う化け物がいる。
青ざめたお母さんが慌ててピッチャーを手に取った、その時。
ガチャンッ
玄関の鍵が開く音がした。 わたしとお母さんの肩が跳ねる。テーブルの上で、ルナちゃんが警戒姿勢をとった。
(誰!?)
足音が近づき、リビングのドアがゆっくりと開く。
「姉さん、母さんもいる?」
「――若葉!?」
そこに立っていたのは、数ヶ月ぶりに見る弟の姿だった。若葉は、わたしの腕の中のミケと、ピッチャーを持ったまま固まるお母さん、そしてテーブルの上のルナちゃんを順番に見て目を見開くと。
深いため息をついた。
「……姉さん。その光ってる猫、どこで拾ってきたの」
若葉の視線は、ルナちゃんに向けられていた。
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