22 / 58
第二部
04:猫又さまと若葉
しおりを挟む
若葉はルナちゃんを『光ってる猫』と言った。
さっき起きたことを見ていないのに。
(あれ? でもそういえば)
若葉は小さい頃から不思議なことをよく言っていたような気もする。
不意にその時のことが蘇ってきそうだったが、記憶を遮るように若葉は続ける。
「猫又じゃないけど、ただの猫でもないよね」
「え」
若葉ははっきりと『猫又』と口にした。ルナちゃんは『猫又ではない』と。
「で、ミケは猫又になったってわけ……」
そして、わたしの腕の中のミケを見た上で、『猫又』と断定する。
お母さんも驚いて目を真ん丸にしていた。
「まって、若葉。理解が追いつかないんだけど!」
わたしよりも状況把握が早い。早すぎる。この数カ月、会ってもいないのに。
特にルナちゃんのことに関しては。
ルナちゃんも、一瞬面喰ったかのように沈黙したけど。
「――若葉さま、でしたね」
ルナちゃんが、若葉の言葉を肯定するように続ける。
「いい『目』をお持ちですね。それに、薄膜程度とはいえ金色のオーラの方は久方ぶりに見ました」
オーラ……? 金色? 若葉が!?
さっきまでの事でも混乱していたのに。今日はもうこれ以上何かが起こるのは勘弁してほしいぐらい。
「喋れるんだ。ていうことは拾われたってわけでもなさそう」
「自己紹介が遅れ、申し訳ありません。ルナと申します。ミケさまの教育係を務めさせていただくことになりました。どうぞお見知りおきくださいませ」
「ふうん。しっかりしてるし、変なものじゃなさそうで安心した」
何がなんだか。わたしとお母さんは二人の会話を見守るしかない。
「うちの近くでも一匹、光ってる猫見たけど。それは?」
「おそらくルイかと。ルナと同じく、あるお方の眷属です」
「――眷属ね。そっちも後で詳しく教えて。最近変なのがうろついてて、まりなの調子も悪かったから気になってたけど、こっちの問題じゃなかったんなら安心した」
ふと、若葉の口から出た名前。それにはさすがに反応する。
まりなちゃんは、若葉の結婚相手。妊娠中のはずだ。
若葉は結婚を機に家を出て、職場近くに引っ越した。だからこそ、会う機会も減っていた。
「まりなちゃん体調悪いの?」
「今朝、出血が酷くてさ。病院に連れて行ったんだけど、切迫流産しかけてたから、緊急入院した。このまま安定するまで入院するって。その報告もしたかったから今日寄ったんだけど」
「まりなちゃん、やっとつわり落ち着いたって言ってたばかりなのに……」
お母さんも心配そうにしている。まりなちゃんはつわりがひどくて、体重も増えなかった。それがやっと安定したと聞いて安心していたけど。
「やっと食べれるようになって、俺も安心してたんだけどね……。それで、まりなのつわりがひどくなったぐらいから、前ほどじゃないけど見えるようになってきてさ」
「そういえば」
そうだ。若葉は、不思議なものが『見えて』いた。いつからか、それもなくなったって言っていた。
――多分、あれは若葉が五歳ぐらいの時。
わたしは可愛い犬がいる! と喜んで近寄ろうとしたけど。若葉に止められたんだ。
「小さい頃に見た『犬っぽい』のと、まりなを連れて行く時に目が合った」
――『犬っぽい』が、化け犬と繋がる。
「もしかしたら、若葉さまの金色に惹かれたのかもしれませんね。ですが、今の彼らの目的はこちらですので――まりなさまに害が及ぶことはないと思います」
「っお母さん、とにかく、それ玄関に撒いてきてもらっていい……?」
そこで、先ほどからピッチャーを持ったままだったお母さんに、声をかける。
「あ、うん」
お母さんは慌てて外に出た。既に17時半。夏の遠い空と比べると、随分重くなったはずだ。
わたしの位置からは見えないけど、玄関から入って来た冷たい風が頬を撫でた気がした。
若葉は深くため息をつき、ぶれることない言葉で続けた。
「なんか色々あるみたいだな。お父さんが帰ったら詳しく話聞かせて」
さっき起きたことを見ていないのに。
(あれ? でもそういえば)
若葉は小さい頃から不思議なことをよく言っていたような気もする。
不意にその時のことが蘇ってきそうだったが、記憶を遮るように若葉は続ける。
「猫又じゃないけど、ただの猫でもないよね」
「え」
若葉ははっきりと『猫又』と口にした。ルナちゃんは『猫又ではない』と。
「で、ミケは猫又になったってわけ……」
そして、わたしの腕の中のミケを見た上で、『猫又』と断定する。
お母さんも驚いて目を真ん丸にしていた。
「まって、若葉。理解が追いつかないんだけど!」
わたしよりも状況把握が早い。早すぎる。この数カ月、会ってもいないのに。
特にルナちゃんのことに関しては。
ルナちゃんも、一瞬面喰ったかのように沈黙したけど。
「――若葉さま、でしたね」
ルナちゃんが、若葉の言葉を肯定するように続ける。
「いい『目』をお持ちですね。それに、薄膜程度とはいえ金色のオーラの方は久方ぶりに見ました」
オーラ……? 金色? 若葉が!?
さっきまでの事でも混乱していたのに。今日はもうこれ以上何かが起こるのは勘弁してほしいぐらい。
「喋れるんだ。ていうことは拾われたってわけでもなさそう」
「自己紹介が遅れ、申し訳ありません。ルナと申します。ミケさまの教育係を務めさせていただくことになりました。どうぞお見知りおきくださいませ」
「ふうん。しっかりしてるし、変なものじゃなさそうで安心した」
何がなんだか。わたしとお母さんは二人の会話を見守るしかない。
「うちの近くでも一匹、光ってる猫見たけど。それは?」
「おそらくルイかと。ルナと同じく、あるお方の眷属です」
「――眷属ね。そっちも後で詳しく教えて。最近変なのがうろついてて、まりなの調子も悪かったから気になってたけど、こっちの問題じゃなかったんなら安心した」
ふと、若葉の口から出た名前。それにはさすがに反応する。
まりなちゃんは、若葉の結婚相手。妊娠中のはずだ。
若葉は結婚を機に家を出て、職場近くに引っ越した。だからこそ、会う機会も減っていた。
「まりなちゃん体調悪いの?」
「今朝、出血が酷くてさ。病院に連れて行ったんだけど、切迫流産しかけてたから、緊急入院した。このまま安定するまで入院するって。その報告もしたかったから今日寄ったんだけど」
「まりなちゃん、やっとつわり落ち着いたって言ってたばかりなのに……」
お母さんも心配そうにしている。まりなちゃんはつわりがひどくて、体重も増えなかった。それがやっと安定したと聞いて安心していたけど。
「やっと食べれるようになって、俺も安心してたんだけどね……。それで、まりなのつわりがひどくなったぐらいから、前ほどじゃないけど見えるようになってきてさ」
「そういえば」
そうだ。若葉は、不思議なものが『見えて』いた。いつからか、それもなくなったって言っていた。
――多分、あれは若葉が五歳ぐらいの時。
わたしは可愛い犬がいる! と喜んで近寄ろうとしたけど。若葉に止められたんだ。
「小さい頃に見た『犬っぽい』のと、まりなを連れて行く時に目が合った」
――『犬っぽい』が、化け犬と繋がる。
「もしかしたら、若葉さまの金色に惹かれたのかもしれませんね。ですが、今の彼らの目的はこちらですので――まりなさまに害が及ぶことはないと思います」
「っお母さん、とにかく、それ玄関に撒いてきてもらっていい……?」
そこで、先ほどからピッチャーを持ったままだったお母さんに、声をかける。
「あ、うん」
お母さんは慌てて外に出た。既に17時半。夏の遠い空と比べると、随分重くなったはずだ。
わたしの位置からは見えないけど、玄関から入って来た冷たい風が頬を撫でた気がした。
若葉は深くため息をつき、ぶれることない言葉で続けた。
「なんか色々あるみたいだな。お父さんが帰ったら詳しく話聞かせて」
15
あなたにおすすめの小説
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
他国ならうまくいったかもしれない話
章槻雅希
ファンタジー
入り婿が爵位を継いで、第二夫人を迎えて後継者作り。
他国であれば、それが許される国もありましょうが、我が国では法律違反ですわよ。
そう、カヌーン魔導王国には王国特殊法がございますから。
『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?
行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。
貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。
元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。
これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。
※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑)
※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。
※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる