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第二部
05:猫又さまと花屋敷家
しおりを挟むお父さんが帰って来たのは十九時過ぎ。いつもよりは残業が少なかったって喜んで帰って来たけど。
「あれ、若葉」
若葉に気付いて目を丸くした。
「おかえり、父さん。久しぶり」
「今日はひとりか」
「うん。まりなは入院が決まって。その件もあって寄ったんだけど」
お父さんは若葉の言葉に何があったのかは察して、詳しくは聞かなかった。
ただ、視線を落とす。
「……そうか。もし必要なものがあれば遠慮せず言いなさい」
「ありがとう。頼ること増えるかも」
若葉は素直に甘えて、『でも』と続けた。
「こっちも大変そうだけど」
若葉はそう言って、リビングのソファを指さした。正確には、寝息をたてているミケの頭の近くに寄り添っているルナちゃんを。
「子猫? 拾ったのか。随分小さいけど……」
まっとうな反応だった。先入観がなければ、ルナちゃんは乳離れ出来たのかわからないぐらいに小さな猫。
ここからちゃんと育つのか、を真っ先に心配している顔だった。
「お父さん、この子はルナちゃんっていうんだけど」
「もう名前付けたのか。可愛いなあ。ミケがお姉ちゃんになるんだな」
(うーん、聞いてるようで聞いてない)
でも、お父さんにはルナちゃんが光って見えてない。若葉の反応が特殊だったのだ。
ルナちゃんはそれを確認して、頭をあげた。
「お父さま、お帰りなさいませ。ルナと申します」
「え!? しゃべ……!?」
「ミケさまと違い、猫又ではありませんが、こうしてお話することができます」
「ええ!?」
結構緊迫している状況なんだけど、お父さんはその辺をまだ知らない。
わたしやお母さんが説明しても、多分こんな反応したはず。
それならルナちゃんに任せた方がいい。
「驚愕させてしまい申し訳ありません。しかしながら、悠長にしている時間がないと判断しました。まずは皆さまといっしょにルナのお話を聞いていただけませんか」
「え、あ、はい!?」
「では、現状を説明させていただきたいと思います。お父さまもよろしければお席に」
お父さんはそう言われて、作業着のまま椅子に座った。いつもは着替えるんだけど、多分それどころじゃないんだと思う。
こうして。わたしの隣に若葉、若葉の前にお父さん、お父さんの隣にお母さん。若葉がこの家で過ごしていた席順でルナちゃんを待つ。
確認したルナちゃんは身軽にテーブルの上に乗り、全員の顔を見渡して、これまでのことを話し始めた。
そうして、ルナちゃんは今までの話をわかりやすくまとめた。
ルナちゃんの言葉が終わるまで、誰も口を挟まなかった。
お父さんも、若葉も。考え込むように、顎に手を当てている。今日一日で起きたことが、あまりに目まぐるしい。
そして、ルナちゃんは神妙に続ける。
「――今はまだ『猫又食い』で済んでおります」
その、『今はまだ』に空気が冷えた。
「ですが、やつは元々『人』を糧にしておりました。クロさま、あるいはミケさまが犠牲になってしまうと取り返しのつかないことになります」
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