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メイドの謝罪
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レイモンドの不可解さに困惑していたシンシアだったが、コンコンと控えめなノックの音で我に返った。
扉の前の護衛がノックを許している時点で不審者の可能性はほぼない。
「どなたかしら」
「クレアでございます。我が主の無礼についての謝罪とご説明に参りました」
「まあ!クレアよく来てくれました。さあ入ってきてちょうだい!」
クレアは先ほどレイモンドの部屋にシンシアを案内した年配のメイドである。
かつてはメイド長を務めたこともある実力者なのだが、彼女の立場はかなり特殊と言えるだろう。
本来なら娘や息子に立場を譲り引退して隠居していたはずなのだが、その手腕と忠誠心の高さから現ヴィオーラ侯爵(レイモンドの父)により使用人たちの指導者として5年前に公爵家から侯爵家にやってきた。
シンシアにとっては3人目の祖母のような存在で大変慕っている人物である。
「シンシア様先ほどはレイモンド様が無礼な真似を…本当に申し訳ありません」
「(わたくし個人としてはクレアに頭を下げてほしくはないけれど…ヴィオーラの者としてはことを大きくするべきではない…)」
「ヴィオーラ侯爵家の謝罪として受け取りますわ」
「寛大なお心に感謝いたします」
本来貴族間でのトラブルにおいてメイドの謝罪で済むことなどはない。
もし「勘違いしないでほしいが、僕は君を愛するつもりはない!」などという言葉をレンシア・サンフラワー伯爵令嬢に告げていればとんでもない事態になっていた。
が、今回は身内間のクローズドなトラブルであることとクレア自身がヴィオーラ家内でも高い信頼を持っていることから特例でクレアの謝罪をシンシアが受け取るだけでことが済んでいる。
要はクレアが当主の代わりとして謝罪したという形で今回のことは穏便に済ませたことにするのだ。
とはいっても、ここまで簡単に済ませられたのはシンシアとクレアの個人間の信頼が厚いからというのもあり先代の時であればこうはいかない。
そういった意味ではレイモンドは非常に運が良かったと言えるだろう。
「…クレアももうわかっているだろうけど、レイモンドは失格ね」
「ええ、もちろんでしょうとも。レイモンド様がまさかあんな愚かな真似をするだなんて…」
クレアの目頭にうっすらと涙が見える。彼女にとってもレイモンドの今回の行動は青天の霹靂であったのだ。
信頼する3人目の祖母を悲しませたレイモンドにうっすらと殺意を抱きつつ、シンシアは公爵としてクレアに問う。
「今回の件は余りにも愚かすぎて、裏に何かあるような気がするの…だからクレア、あなたが知っていることを教えなさい」
シンシアの言葉にクレアの表情が引き締まる。
これはシンシア・ヴィオーラ公爵としてメイド・クレアに対して命じているのだ。
「あくまで私個人の視点による話であることを念頭に置いてお聞きください」
そういってクレアが語ったのは、なんとも頭が痛くなるような噂であった。
扉の前の護衛がノックを許している時点で不審者の可能性はほぼない。
「どなたかしら」
「クレアでございます。我が主の無礼についての謝罪とご説明に参りました」
「まあ!クレアよく来てくれました。さあ入ってきてちょうだい!」
クレアは先ほどレイモンドの部屋にシンシアを案内した年配のメイドである。
かつてはメイド長を務めたこともある実力者なのだが、彼女の立場はかなり特殊と言えるだろう。
本来なら娘や息子に立場を譲り引退して隠居していたはずなのだが、その手腕と忠誠心の高さから現ヴィオーラ侯爵(レイモンドの父)により使用人たちの指導者として5年前に公爵家から侯爵家にやってきた。
シンシアにとっては3人目の祖母のような存在で大変慕っている人物である。
「シンシア様先ほどはレイモンド様が無礼な真似を…本当に申し訳ありません」
「(わたくし個人としてはクレアに頭を下げてほしくはないけれど…ヴィオーラの者としてはことを大きくするべきではない…)」
「ヴィオーラ侯爵家の謝罪として受け取りますわ」
「寛大なお心に感謝いたします」
本来貴族間でのトラブルにおいてメイドの謝罪で済むことなどはない。
もし「勘違いしないでほしいが、僕は君を愛するつもりはない!」などという言葉をレンシア・サンフラワー伯爵令嬢に告げていればとんでもない事態になっていた。
が、今回は身内間のクローズドなトラブルであることとクレア自身がヴィオーラ家内でも高い信頼を持っていることから特例でクレアの謝罪をシンシアが受け取るだけでことが済んでいる。
要はクレアが当主の代わりとして謝罪したという形で今回のことは穏便に済ませたことにするのだ。
とはいっても、ここまで簡単に済ませられたのはシンシアとクレアの個人間の信頼が厚いからというのもあり先代の時であればこうはいかない。
そういった意味ではレイモンドは非常に運が良かったと言えるだろう。
「…クレアももうわかっているだろうけど、レイモンドは失格ね」
「ええ、もちろんでしょうとも。レイモンド様がまさかあんな愚かな真似をするだなんて…」
クレアの目頭にうっすらと涙が見える。彼女にとってもレイモンドの今回の行動は青天の霹靂であったのだ。
信頼する3人目の祖母を悲しませたレイモンドにうっすらと殺意を抱きつつ、シンシアは公爵としてクレアに問う。
「今回の件は余りにも愚かすぎて、裏に何かあるような気がするの…だからクレア、あなたが知っていることを教えなさい」
シンシアの言葉にクレアの表情が引き締まる。
これはシンシア・ヴィオーラ公爵としてメイド・クレアに対して命じているのだ。
「あくまで私個人の視点による話であることを念頭に置いてお聞きください」
そういってクレアが語ったのは、なんとも頭が痛くなるような噂であった。
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