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1章
サイクロプス
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「ひぃ……助けて、助けてぇ……ぐぁ!?」
ホワル洞窟最深部にソシアとジョージの二人を追いかけて潜っていた男子生徒は、その途中でいかにも狂暴そうな魔物と出くわし一目散に逃げだしていたのだ。
しかしそこまでの道中をほぼ全力で走っていた彼はここまでの疲労からか逃げる途中で転んでしまった。
「い、嫌だぁ……化け物が来る、早く、早く逃げないと……」
「グルロロロォ!!」
「ひぃいい!!来たぁ……」
「君!!早くこっちに隠れて!!」
「っ!?」
魔物と出くわした地点から少し戻り、少し開けた空間で転んでしまった彼。
魔物の叫び声が聞こえてきてもうすぐ見つかってしまいそうになったその時、そんな彼を助ける存在が現れたのだ。
「あ、あなたたちは……」
「しっ!見つかっちゃうから静かにして」
「さっきの叫び声、やはり危険な魔物が現れたんですか?」
彼を助けたのは彼が追っていたはずのソシアとジョージの二人。
彼が魔物に見つかる寸前でソシアが彼を間一髪で岩陰に引き込んだのだ。
その直後にソシアたちがいる少し開けた空間に姿を現す魔物。
その姿をみたジョージの表情が絶望に染まったのだ。
「あ、あれはサイクロプス!?なんでこんなところに!?」
「サイクロプス?」
やってきた魔物は少量の光苔に照らされその姿を明らかにした。
人型で5メートル以上はありそうなその肉体はゴツゴツとした岩肌のように筋肉が隆起しており、ソシアたちが洞窟に入って初めに出会ったゴブリンたちとは一線を画す戦闘力だと一目で確認できた。
そしてなんといっても特徴的なのはギラリと光るその単眼であり、サイクロプスはその瞳で殺戮の対象をギョロギョロと探していた。
「僕たちでどうにかなる相手じゃありません。早く、外に出て王国軍に通報しなきゃ……」
「でも、今出て行ったら見つかっちまうよ。というかここに隠れてても見つかるのは時間の問題だし」
「……、私に任せて!」
少し開けているといってもこの空間は狭く、サイクロプスが適当に探し回るだけでもソシアたちが見つかってしまうのは明らかだった。
サイクロプスは消えた獲物がこの辺りに隠れたと当たりを付けたようで周囲の岩陰を確認している。
このまま隠れていたらすぐに見つかってしまうと察したソシアはウエストポーチの中を漁り、手作り感あふれる手のひらサイズの球を取り出したのだ。
「ソシアさん、それは?」
「説明は後!私がこれで隙を作るから、あいつが怯んでる間に逃げよう!」
「……、わかりました!」
ソシアはその球を握ると同じくウエストポーチから取り出した手鏡でサイクロプスの様子を探り始めた。
そしてサイクロプスがソシアたちの隠れている岩から目を逸らしたのとほぼ同時、ソシアは岩陰から飛び出して持っていた球をサイクロプスの真上の天井に投げつけた。
「今っ!!」
「グルロ……グォロロ!!??」
ソシアが投げた球が天井にぶつかるや否や、その球は激しい光を放ちサイクロプスの視界を奪うことに成功したのだ。
眩い光に怯み目を両手で押さえ苦しむサイクロプス。
その隙にソシアたちは岩陰から出ると急いで地上に戻る道へ走り始めた。
「ソシアさん、今のは!?」
「お父さんとお母さんが教えてくれた閃光弾!私がいた森ではいろんな材料を込めた球を投げて戦闘に使っていたの!」
「と、とにかく今の内に逃げろぉ!!」
「グルル……グロロォ!!」
「もう視界が戻って……速く走って!!」
しかし閃光弾で視界を奪えたのはほんのわずかな時間だった。
すぐに視界を取り戻したサイクロプスは通路の奥に消える寸前のソシアたちの姿を捉えて怒りのままに猛進し始めたのだった。
「ハァ……ハァ……貴様なんかに、貴様なんかにこの俺様が負けるはずが無いんだぁああ!!」
「ちょっと待てバンド!さっきからなんか魔物の叫び声みたいなのが聞こえてこないか?」
ソシアたちがサイクロプスから必死で逃げていたその一方、アレスはしつこく粘るバンドとマリーシャの二人を相手に戦闘を続けていた。
「黙れ!!適当なこと言って逃げようとするな!」
「いやもう力の差ははっきりしてるだろ。もう変な意地を張るな」
「うるさいわね!アンタは、アタシに葬られる運命なのよ!」
(できればあまり傷つけずにこの場を収めたかったがまさかバンド様がここまで根性あるなんてな。しかし流石にソシアたちが心配になってきたから多少深手を負わせても下に向かったほうがいいかもな……)
「アレス君!!大丈夫!?」
「っ!ソシア!?」
アレスがこの長い戦闘にけりを付けて下へ向かおうと考えたまさにその瞬間、最深部に続く道からソシアの声が聞こえてきたのだった。
しかしアレスがソシアの声を聞いて安心したのもつかの間、何かから逃げるような三人の姿にアレスの表情から笑みが消えたのだ。
「どうしたソシア、ジョージ!なんでそいつも一緒に?」
「アレスさん!早く逃げてください!もうすぐあいつがここに……」
「あいつ?あいつって一体誰なんだよ!」
「グルロロロォオオオ!!!」
「っ!?」
「なんだぁ!?」
「ちょっとなにあれ!?」
そしてソシアたちがアレスたちのいる空間に姿を現してほんの数秒後、少し狭くなった洞窟の通路を破壊してサイクロプスがアレスたちの前に姿を現したのだった。
開けた空間に出たサイクロプスは標的をソシアたちから一番近くにいたバンドへと変更する。
そしてはち切れんばかりに右腕の筋肉を隆起させ、力任せにマリーシャが張っていた魔防壁を破壊したのだった。
「なっ!?アタシの魔防壁が一撃でっ……」
「はんっ!五級ダンジョンに生息する下等モンスターごときが、俺様を狙おうなんざ100年早いんだよ!」
「よせバンド!!」
「真っ二つにしてやるよぉ!!」
勢いよく襲い掛かってくるサイクロプスを前にバンドはひるむことなく黄金に輝く剣をサイクロプスの脇腹めがけて振るったのだ。
パワーはサイクロプスが優れるのは明らかだが、スピードはバンドが大きく上回る。
サイクロプスが大きく振り上げた右腕をふるう前にバンドはサイクロプスの左脇腹から胴体を真っ二つにしようとした。
しかし……
「なっ!剣を振り抜けない……」
「グルロロォ!!」
「し、しまっ……ゴハァ!?」
「バンドぉ!!」
バンドが振るった剣は確かにサイクロプスの左脇腹を捉えたのだが、その刃は胴体を切断することはなくサイクロプスの筋肉に数センチめり込んだ所で止まってしまったのだ。
そして動きが止まったところをサイクロプスが見逃すはずもなく、バンドはサイクロプスの拳を食らってしまい10メートルほど吹き飛ばされてしまった。
「ぐぎゃぁ!!」
「くっ!化け物が……食らいなさい!!」
それを見たマリーシャは冷汗を流しながら巨大な火球をサイクロプスに浴びせかけた。
マリーシャが放った魔法は見事サイクロプスの顔面に直撃。
「ふ、ふふふ……図体だけでのろまな魔物が。アタシの魔法で丸焼きに……」
「グゥ……」
「うそ、今のを食らって無傷……?」
「グルラララ!!」
「まずい、防御魔法を……あぅ!?」
魔法が命中したことで一瞬警戒を緩めたマリーシャだったが、サイクロプスは倒れるどころか軽く皮膚の表面が焦げる程度でほとんど効いていなかったのだ。
そのことに驚き動きが止まってしまったマリーシャにサイクロプスの拳が迫る。
マリーシャはとっさに防御魔法を展開するも、サイクロプスのパワーは凄まじく一瞬も持ちこたえることが出来ずに殴り飛ばされてしまった。
「ふっ!あぶねえ、大丈夫かマリーシャ?」
サイクロプスに吹き飛ばされて壁に激突しそうになるマリーシャ。
しかしそれをすんでの所でアレスが受け止めたのだった。
「……、よし。気絶してるが何とか無事みたいだな。油断したのは問題だがあの一瞬でよく防御魔法を使ったな。バンド様は無事か?」
「ゴハッ……ハァ……ハァ……無事に、見えるか?」
「その様子なら大丈夫そうだ。さっきまでのタフさなら死なねえと思ってたよ」
「はは……だが今のを生き残ったくらいでなんだ。もう、逃げる力も残されてねえ。みんなここであいつに殺されるんだ」
「グルロロロォ!!」
バンドに続きマリーシャも殴り飛ばし、さらに凶暴性を剥き出しにするサイクロプス。
そんなサイクロプスの様子にバンドはすでに生きて地上を出ることを完全に諦めているようだったが、アレスは受け止めたマリーシャを丁寧に地面に寝かせると剣を抜きサイクロプスの前にゆっくりと歩き出したのだ。
「何を、する気だ……俺たちを囮にすればお前だけでも逃げられるのかもしれないんだぞ」
「俺を逃がしてくれるのか、優しいなバンド様は。だけど俺があいつを倒せばすべて解決するんだからそんな必要はないぜ」
「グルル……」
「無理に決まってる!さっき俺様ですら歯が立たなかったの見てなかったのか!?俺様に勝てないお前が挑んでも死ぬだけだ!」
「グルロロロォオオオ!!!」
無防備に間合いを詰めるアレスにサイクロプスは雄叫びを上げながら猛然と突進していった。
腕を大きく振り上げアレスをぺちゃんこに潰すつもりらしい。
「こいつの方が楽でいいや、だって……」
「グオオオ!!」
「殺さないように手加減する必要がないんだからな」
「グォ!?」
サイクロプスの両腕がアレスを挟むように迫るその時、アレスは目にもとまらぬ速さで剣を振りサイクロプスの両腕を綺麗に切り落としてしまったのだ。
「グォオオオオオオ!!!」
「なっ、奴の体をいともたやすく切断するなんて……」
「お前に恨みはないが、人を襲うなら容赦はしない」
「グォオ!?」
「金剛一閃斬!!」
腕を切り落とされ叫び声をあげるサイクロプスにアレスは間を置かず追撃を加える。
左足を大きく前に踏み出し、右後方に剣を置き力を溜める。
そして爆発的な勢いでサイクロプス顔面目掛け飛び上がると、アレスは右から左へ刃を走らせサイクロプスの首を切断したのだ。
大きな音を立てて地面に崩れるサイクロプスを見つめたままバンドは驚きのあまりに固まってしまっていた。
アレスは剣を素早く振るい付着した血を落としながら、そんなバンドの元に近寄っていった。
「終わりましたよ、バンド様」
「……くっ」
「流石にこんなことになっては決闘は中止したほうがよさそうですね。早く地上に戻りましょう。立てないなら手を貸しますが……」
「必要ない。ごほっ……自分で歩ける」
よろよろと立ち上がり自分の足で地上へ向かうバンドの背中を見送ると、アレスはいまだに気絶しているマリーシャを背負ってバンドの後に続いて地上へと向かったのだった。
ホワル洞窟最深部にソシアとジョージの二人を追いかけて潜っていた男子生徒は、その途中でいかにも狂暴そうな魔物と出くわし一目散に逃げだしていたのだ。
しかしそこまでの道中をほぼ全力で走っていた彼はここまでの疲労からか逃げる途中で転んでしまった。
「い、嫌だぁ……化け物が来る、早く、早く逃げないと……」
「グルロロロォ!!」
「ひぃいい!!来たぁ……」
「君!!早くこっちに隠れて!!」
「っ!?」
魔物と出くわした地点から少し戻り、少し開けた空間で転んでしまった彼。
魔物の叫び声が聞こえてきてもうすぐ見つかってしまいそうになったその時、そんな彼を助ける存在が現れたのだ。
「あ、あなたたちは……」
「しっ!見つかっちゃうから静かにして」
「さっきの叫び声、やはり危険な魔物が現れたんですか?」
彼を助けたのは彼が追っていたはずのソシアとジョージの二人。
彼が魔物に見つかる寸前でソシアが彼を間一髪で岩陰に引き込んだのだ。
その直後にソシアたちがいる少し開けた空間に姿を現す魔物。
その姿をみたジョージの表情が絶望に染まったのだ。
「あ、あれはサイクロプス!?なんでこんなところに!?」
「サイクロプス?」
やってきた魔物は少量の光苔に照らされその姿を明らかにした。
人型で5メートル以上はありそうなその肉体はゴツゴツとした岩肌のように筋肉が隆起しており、ソシアたちが洞窟に入って初めに出会ったゴブリンたちとは一線を画す戦闘力だと一目で確認できた。
そしてなんといっても特徴的なのはギラリと光るその単眼であり、サイクロプスはその瞳で殺戮の対象をギョロギョロと探していた。
「僕たちでどうにかなる相手じゃありません。早く、外に出て王国軍に通報しなきゃ……」
「でも、今出て行ったら見つかっちまうよ。というかここに隠れてても見つかるのは時間の問題だし」
「……、私に任せて!」
少し開けているといってもこの空間は狭く、サイクロプスが適当に探し回るだけでもソシアたちが見つかってしまうのは明らかだった。
サイクロプスは消えた獲物がこの辺りに隠れたと当たりを付けたようで周囲の岩陰を確認している。
このまま隠れていたらすぐに見つかってしまうと察したソシアはウエストポーチの中を漁り、手作り感あふれる手のひらサイズの球を取り出したのだ。
「ソシアさん、それは?」
「説明は後!私がこれで隙を作るから、あいつが怯んでる間に逃げよう!」
「……、わかりました!」
ソシアはその球を握ると同じくウエストポーチから取り出した手鏡でサイクロプスの様子を探り始めた。
そしてサイクロプスがソシアたちの隠れている岩から目を逸らしたのとほぼ同時、ソシアは岩陰から飛び出して持っていた球をサイクロプスの真上の天井に投げつけた。
「今っ!!」
「グルロ……グォロロ!!??」
ソシアが投げた球が天井にぶつかるや否や、その球は激しい光を放ちサイクロプスの視界を奪うことに成功したのだ。
眩い光に怯み目を両手で押さえ苦しむサイクロプス。
その隙にソシアたちは岩陰から出ると急いで地上に戻る道へ走り始めた。
「ソシアさん、今のは!?」
「お父さんとお母さんが教えてくれた閃光弾!私がいた森ではいろんな材料を込めた球を投げて戦闘に使っていたの!」
「と、とにかく今の内に逃げろぉ!!」
「グルル……グロロォ!!」
「もう視界が戻って……速く走って!!」
しかし閃光弾で視界を奪えたのはほんのわずかな時間だった。
すぐに視界を取り戻したサイクロプスは通路の奥に消える寸前のソシアたちの姿を捉えて怒りのままに猛進し始めたのだった。
「ハァ……ハァ……貴様なんかに、貴様なんかにこの俺様が負けるはずが無いんだぁああ!!」
「ちょっと待てバンド!さっきからなんか魔物の叫び声みたいなのが聞こえてこないか?」
ソシアたちがサイクロプスから必死で逃げていたその一方、アレスはしつこく粘るバンドとマリーシャの二人を相手に戦闘を続けていた。
「黙れ!!適当なこと言って逃げようとするな!」
「いやもう力の差ははっきりしてるだろ。もう変な意地を張るな」
「うるさいわね!アンタは、アタシに葬られる運命なのよ!」
(できればあまり傷つけずにこの場を収めたかったがまさかバンド様がここまで根性あるなんてな。しかし流石にソシアたちが心配になってきたから多少深手を負わせても下に向かったほうがいいかもな……)
「アレス君!!大丈夫!?」
「っ!ソシア!?」
アレスがこの長い戦闘にけりを付けて下へ向かおうと考えたまさにその瞬間、最深部に続く道からソシアの声が聞こえてきたのだった。
しかしアレスがソシアの声を聞いて安心したのもつかの間、何かから逃げるような三人の姿にアレスの表情から笑みが消えたのだ。
「どうしたソシア、ジョージ!なんでそいつも一緒に?」
「アレスさん!早く逃げてください!もうすぐあいつがここに……」
「あいつ?あいつって一体誰なんだよ!」
「グルロロロォオオオ!!!」
「っ!?」
「なんだぁ!?」
「ちょっとなにあれ!?」
そしてソシアたちがアレスたちのいる空間に姿を現してほんの数秒後、少し狭くなった洞窟の通路を破壊してサイクロプスがアレスたちの前に姿を現したのだった。
開けた空間に出たサイクロプスは標的をソシアたちから一番近くにいたバンドへと変更する。
そしてはち切れんばかりに右腕の筋肉を隆起させ、力任せにマリーシャが張っていた魔防壁を破壊したのだった。
「なっ!?アタシの魔防壁が一撃でっ……」
「はんっ!五級ダンジョンに生息する下等モンスターごときが、俺様を狙おうなんざ100年早いんだよ!」
「よせバンド!!」
「真っ二つにしてやるよぉ!!」
勢いよく襲い掛かってくるサイクロプスを前にバンドはひるむことなく黄金に輝く剣をサイクロプスの脇腹めがけて振るったのだ。
パワーはサイクロプスが優れるのは明らかだが、スピードはバンドが大きく上回る。
サイクロプスが大きく振り上げた右腕をふるう前にバンドはサイクロプスの左脇腹から胴体を真っ二つにしようとした。
しかし……
「なっ!剣を振り抜けない……」
「グルロロォ!!」
「し、しまっ……ゴハァ!?」
「バンドぉ!!」
バンドが振るった剣は確かにサイクロプスの左脇腹を捉えたのだが、その刃は胴体を切断することはなくサイクロプスの筋肉に数センチめり込んだ所で止まってしまったのだ。
そして動きが止まったところをサイクロプスが見逃すはずもなく、バンドはサイクロプスの拳を食らってしまい10メートルほど吹き飛ばされてしまった。
「ぐぎゃぁ!!」
「くっ!化け物が……食らいなさい!!」
それを見たマリーシャは冷汗を流しながら巨大な火球をサイクロプスに浴びせかけた。
マリーシャが放った魔法は見事サイクロプスの顔面に直撃。
「ふ、ふふふ……図体だけでのろまな魔物が。アタシの魔法で丸焼きに……」
「グゥ……」
「うそ、今のを食らって無傷……?」
「グルラララ!!」
「まずい、防御魔法を……あぅ!?」
魔法が命中したことで一瞬警戒を緩めたマリーシャだったが、サイクロプスは倒れるどころか軽く皮膚の表面が焦げる程度でほとんど効いていなかったのだ。
そのことに驚き動きが止まってしまったマリーシャにサイクロプスの拳が迫る。
マリーシャはとっさに防御魔法を展開するも、サイクロプスのパワーは凄まじく一瞬も持ちこたえることが出来ずに殴り飛ばされてしまった。
「ふっ!あぶねえ、大丈夫かマリーシャ?」
サイクロプスに吹き飛ばされて壁に激突しそうになるマリーシャ。
しかしそれをすんでの所でアレスが受け止めたのだった。
「……、よし。気絶してるが何とか無事みたいだな。油断したのは問題だがあの一瞬でよく防御魔法を使ったな。バンド様は無事か?」
「ゴハッ……ハァ……ハァ……無事に、見えるか?」
「その様子なら大丈夫そうだ。さっきまでのタフさなら死なねえと思ってたよ」
「はは……だが今のを生き残ったくらいでなんだ。もう、逃げる力も残されてねえ。みんなここであいつに殺されるんだ」
「グルロロロォ!!」
バンドに続きマリーシャも殴り飛ばし、さらに凶暴性を剥き出しにするサイクロプス。
そんなサイクロプスの様子にバンドはすでに生きて地上を出ることを完全に諦めているようだったが、アレスは受け止めたマリーシャを丁寧に地面に寝かせると剣を抜きサイクロプスの前にゆっくりと歩き出したのだ。
「何を、する気だ……俺たちを囮にすればお前だけでも逃げられるのかもしれないんだぞ」
「俺を逃がしてくれるのか、優しいなバンド様は。だけど俺があいつを倒せばすべて解決するんだからそんな必要はないぜ」
「グルル……」
「無理に決まってる!さっき俺様ですら歯が立たなかったの見てなかったのか!?俺様に勝てないお前が挑んでも死ぬだけだ!」
「グルロロロォオオオ!!!」
無防備に間合いを詰めるアレスにサイクロプスは雄叫びを上げながら猛然と突進していった。
腕を大きく振り上げアレスをぺちゃんこに潰すつもりらしい。
「こいつの方が楽でいいや、だって……」
「グオオオ!!」
「殺さないように手加減する必要がないんだからな」
「グォ!?」
サイクロプスの両腕がアレスを挟むように迫るその時、アレスは目にもとまらぬ速さで剣を振りサイクロプスの両腕を綺麗に切り落としてしまったのだ。
「グォオオオオオオ!!!」
「なっ、奴の体をいともたやすく切断するなんて……」
「お前に恨みはないが、人を襲うなら容赦はしない」
「グォオ!?」
「金剛一閃斬!!」
腕を切り落とされ叫び声をあげるサイクロプスにアレスは間を置かず追撃を加える。
左足を大きく前に踏み出し、右後方に剣を置き力を溜める。
そして爆発的な勢いでサイクロプス顔面目掛け飛び上がると、アレスは右から左へ刃を走らせサイクロプスの首を切断したのだ。
大きな音を立てて地面に崩れるサイクロプスを見つめたままバンドは驚きのあまりに固まってしまっていた。
アレスは剣を素早く振るい付着した血を落としながら、そんなバンドの元に近寄っていった。
「終わりましたよ、バンド様」
「……くっ」
「流石にこんなことになっては決闘は中止したほうがよさそうですね。早く地上に戻りましょう。立てないなら手を貸しますが……」
「必要ない。ごほっ……自分で歩ける」
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