S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず

文字の大きさ
16 / 132
1章

何でもするって言ったよね

しおりを挟む
「おはようジョージ君!昨日はあの後大丈夫だった?」

白銀妖狐暴走事件があった日の翌日。
後方支援だったために白銀妖狐の攻撃を免れて無事だったソシアは教室にやってきたジョージに調子を尋ねたのだった。

「おはようございますソシアさん。僕は比較的軽症で済んだので日が暮れる前に治療を終えて寮に戻れましたよ。ソシアさんの防御魔法のおかげです」
「そんなことないよ。私がもっと凄ければちゃんとジョージ君を守ってあげられたはずなのに……」
「それを言うなら盾役なのに自力じゃ大した攻撃も防げない僕の方が問題がありますよ。彼が防御を必要とするってことは、それだけ強大な攻撃が来るってことですから僕なんかじゃ力不足です」
「お互いまだまだだね。ところで、アレス君とティナ様はどうなったのか知ってる?」
「えっと、ティナ様は気を失ってるだけで命に別状はないと聞きましたよ。アレス君はかなり重症でしたから、僕は先に寮に帰ってしまってあの後どうなったのかよく分かっていなくて……」
「あっ!いたいた!!ソシア、ジョージ!おはよう!」

2人がまだ教室にやって来ていないアレスの心配をしていたその時、教室の前の扉が勢いよく開きティナが元気よく2人の元にやってきたのだ。
御三家の人間であるティナがこんな落ちこぼれクラスにやってきたことに他のクラスメイトは大いに驚き、当然ソシアとジョージもその目的が自分たちであったことに驚愕していた。

「てぃ、ティナ様!?どうしてこんなところに!?」
「え、えっと。昨日はその、大丈夫だったんですか?」
「ええ、おかげさまで。昨日アレスから私を助けるのに2人が協力してくれたことを聞かされてお礼を言わなきゃいけないって思ってきたの」
「わざわざそんな!」
「そうですよ。僕たちはほとんど何もしていませんし、ティナ様を助けられたのは全部アレスさんのおかげなんです!」
「そんなこと言わないで!今の私があるのは2人が協力してくれたおかげなんだから!本当にありがとう!」

困惑する2人にティナはお礼を言いながら笑顔で握手をした。
身分が違いすぎるティナのあまりの距離の詰め方に2人の冷汗は止まらないが、なおもティナは距離を詰めて来る。

「実はね。昨晩アレスから2人のことをいろいろ聞いてぜひとも2人ともお友達になりたいと思ったの」
「と、友達!?そんな、ティナ様とお友達だなんて畏れ多くて……」
「様付けは禁止!友達になったんだから対等な関係じゃなきゃ」
「もう友達にされてしまった!?」
「2人はアレスとも仲がいいんでしょ?だったら仲間外れなんて嫌だもん。ね?ね!?」
「ひぃ~……」
「う~す。皆おはよ~……って、おろ?」
「あ、アレスさん!助けてください!」

昨晩アレスが戸惑ったのと同様に、2人もティナから突然友達になろうと言われてしまいもう平静を保つことが出来なかった。
アレスに比べてまだ2人はティナとほとんど話したこともないのだ。
アレス以上に彼女の提案をすんなり受け入れることが出来ない。
しかし2人がティナのあまりの押しの強さに困り果てていると、そこにアレスがやってきたのだ。

「助けてだなんて人聞きが悪いわね」
「なんだよティナ。お前がどうしてここにいるんだ?」
「アレス君!!??」
「ティナ様に向かってなんて失礼すぎますよ!!??」
「アレスと私はもう友達になったって言ったでしょ?」
「諦めろ2人とも。こいつの押しの強さは異次元だ。大人しく友達になっておかないと何をされるか分からないぞ」

全てを諦めた表情のアレスに笑顔で話しかけるティナを見て、ようやく2人も彼女の性格を理解したようだった。

「わかりましたよ。でも僕は誰にでもこの話し方なので許してくださいね」
「わ、私も……ティナさん、でいいですか?」
「私だけ仲間外れじゃなきゃそれでいいわよ。これからよろしく、ソシアジョージ」
(ティナが今まであきらめずに頑張ってこられたのって、母親の言葉のおかげはもちろんだけどこの性格なのも理由の1つなんだろうな……)
「そうだ!今日はこれだけのために来たんじゃなかったんだ。3人とも、私と一緒にダンジョンへ素材回収に行かないか?」
「素材回収って……薬草か?」
「あー……そういうば昨日は薬草集めにヘーベ森林に行ったんだったな。もちろん君たちも……それに関しては本当にすまないと思ってるよ」
「そんなつもりで言ったんじゃないよ。薬草なんていつでもすぐにとり行けるし」
「その反応だと、素材回収というのは1年前期の課題のためのものですか?」
「そう!その通りよ!」

薬草集めかと返したアレスに想定外の答えが返ってきたという反応をしたティナを見て、ジョージはティナの目的を言い当てたのだった。
ハズヴァルド学園では1年が前期と後期に分けられており、それぞれ期間内に課せられた条件をクリアしなければ留年、もしくは退学となってしまう。
その条件というのは日々の授業を受け単位をしっかりと貰うことに加え、指定された素材を学園に提出するというものがあった。

「1年の前期の始めの頃は皆実力をつけるために素材回収の課題は後回しにするでしょ?でもはっきり言って私とアレスなら今すぐにダンジョンに潜っても平気だと思うのよね」
「まあ。期間は十分に長いから急いでなかったけ集めようと思えば簡単だわな」
「ね?ダンジョンに行ったほうが実践訓練になるし、どうかな?」

ティナのその言葉を聞いてアレスはソシアとジョージに視線を向ける。
自分はそれで一切問題はないが、2人が嫌なら急ぐわけにはいかないと考えたのだ。
だがソシアとジョージはすでに入学早々アレスと3人でホワル大洞窟に潜っている。
ハズヴァルド学園の指導の特徴の1つと言えば実際に学生がダンジョンに潜ってお目当ての素材を回収してくるものであると考えていた2人はむしろティナの提案に乗り気だった。

「僕はそれでも大丈夫です。むしろこの4人で行くなら僕のやることがなさそうで心配なくらいです」
「私も。やっぱり学園の中で学ぶばっかりじゃなくてダンジョンに潜っていきたいし」
「ありがとう!1年のうちは1人でダンジョンに潜れないからどうしようってずっと考えてたのよね。3人とも都合がよければ今日なんてどうかしら?せっかくだしあえて難しいダンジョンに行っちゃいましょ♪」
(な、なんか……)
(ティナさんってもっとクールで知的な女性って印象がありましたけど……)
(かわいいな、こいつ)

まるでピクニックに行く予定を立てるかのようにウキウキしながらダンジョンに潜る計画を立てるティナに、3人は出会った頃に抱いた彼女へのイメージとのギャップに内心驚いていた。

そんなティナの期待は裏切れないと、3人は早速今日の午後に素材回収のためのダンジョン攻略を実施することにしたのだった……が。

「月影流秘伝、叢雲・一閃!!」
「氷華、霊雪斬!!」
「ぴぎゃあああ!!」
「簡単すぎんぞおら!!」

ティナの提案で赴いた四級ダンジョンをアレスとティナはいとも簡単に攻略してしまっただけでなく、その後1週間で4つの四級ダンジョンに潜りそのいずれも何の手ごたえもなく素材回収の目的を果たしてしまったのだった。

「うーん、今日は近場で一番危険な四級ダンジョンを選んだはずだが」
「アレスさんとティナさんが強すぎて僕たち何もしてない……」
「なんなら途中から2人の圧で魔物も全然近寄ってこなくなっちゃったもんね」

三級ダンジョンは王国軍、騎士団、冒険者ギルドのいずれかに所属していないと入れないためアレスたちが攻略できるのは四級ダンジョンまで。
しかしそれは普通の学生でも攻略できると判断された基準であり、このメンバーでは何の手ごたえも感じられなかったのだ。

(まあそうだよな。俺の剣聖はSランクスキルだし、白銀妖狐を使役するティナの精霊使いはAランクスキルでも上位に位置する強さのはず。四級ダンジョン程度じゃ暇つぶしにしかならないよな)
「すまんなソシア、ジョージ。俺たちのせいでついてくるだけになっちゃってるよな」
「いいよ!回復役が仕事しないのはむしろいいことだと思うし」
「僕も安全にダンジョン内を散策できるので満足してます」
「ティナも悪かったな。想像してたダンジョン攻略じゃないだろ?」
「ううん、私は幸せだよ!」
「幸せって、大げさだな」
「こうして頼もしい仲間が傍に居て、信頼できる相手に背中を任せられるんだから。本当に私は幸せだ」
「ティナ……」
「……」
「……」

今までの孤独な人生を振り返り信頼できる仲間が出来た幸せを噛みしめるティナに、ティナの過去を聞かされていたアレスは彼女の想いを察し言葉を詰まらせる。
そんな2人の様子にティナの詳しい過去を知らないソシアとジョージも物悲しい気分となってしまったのだ。

「……すまない。少ししんみりさせてしまったな。でも、辛い過去があったからこそ私は皆と友達になれて嬉しく想っているんだ」
「ああ。安心しろ。俺たちがもうお前を1人にはしねえ」
「はい。何かあったら遠慮なく僕たちに相談してください」
「私も。できることは少ないかもだけど、ティナさんのためなら何でもしますよ!」
「ありがとう皆。ん、何でも?……そうだ!それならちょうど皆にお願いしたいことがあるんだ!」
「……なんか嫌な予感がするんだが」
「実は来週晩餐会に招待されてしまっているんだが、そこに3人も一緒に来て欲しいんだ!」
「「「晩餐会!?」」」

3人の優しさに触れ笑顔を取り戻したティナ。
すると彼女は突然自身が抱えていたある悩みを思い出し、さっそくアレスたちに助けを求めたのだ。
その予想外過ぎる内容に、アレスたちは揃って驚きの声をあげたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。 死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった! 呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。 「もう手遅れだ」 これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

処理中です...