S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず

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1章

私をティナと呼ばねば君を師匠と崇めるぞ

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ヘーベ森林での白銀妖狐暴走事件があった日の晩。
白銀妖狐を倒した後すぐに気を失ってしまったティナと、ジョージとアレスはハズヴァルド学園の医務室に運ばれていた。
ジョージは比較的軽症で日が暮れる前に寮に戻ったのだが、左腕と両脚が完全凍結してしまったアレスは重症として夜まで治療を受けていた。

「まったく。凍結なんて厄介な負傷して。一歩間違えば手足を切り落とす羽目になっていたんだぞ?」
「本当に申し訳ありませんでした」
「私の回復魔法に感謝するんだな」

ハズヴァルド学園の優秀な回復術師の処置でアレスは凍り付いた手足を何とか無事に治してもらっていた。
アレスの治療を終えた医務室の担当教員はすっかり日も暮れてしまっていたためにアレスの診断を終わらせると帰る支度を始めたのだ。

「君はもう大丈夫だし、彼女も気を失っているだけだから私はもう帰らせてもらうよ。治療で体力を使っただろうから少し休んだら君も寮に帰りなさい。鍵はそこの壁に掛けてあるから明日の朝返しに来るように」
「はい、本当にありがとうございました」

こうして医務室にはアレスといまだ意識が戻らないティナだけが残される形となったのだった。
医務室の教員がアレスに施したのは基本的な回復魔法。
基本的な回復魔法は術者の魔力と対象者の体力を消費して怪我を治すものであり、重症だったアレスはまだ万全の状態には戻っていなかったのだ。

「ん、うん……ここは?」
「ん、ティナさん?気が付きましたか?」
「アレス君……私は……」

そしてアレスがしばらく医務室のベッドの上で体力回復に努めていると、それまで意識が戻らなかったティナがようやく目を覚ましたのだった。

「よかったティナさん。白銀妖狐をティナさんが倒した後、すぐに気を失って倒れちゃったんですよ」
「私が、白銀妖狐を?……うぅ。頭がぼーっとしてあまりよく思い出せない……」

ティナはスキルが暴走していた反動か、今日起きた出来事をすぐには思い出すことができなかった。
アレスはそんなティナに自分が知る限りの情報を告げる。
するとティナは完全ではないものの自身に何が起きたのか、白銀妖狐を撃破した時のことを思い出し始めたのだ。

「ありがとう。だんだんと思い出して来たよ。そうか、そうか……私はようやく白銀妖狐を従えることが出来たんだ。アレス君……本当に、本当にありがとう」
「いえいえ、俺はそんな大したことはしてませんよ」
「手足が凍り付き命の危険が迫るまで戦ってくれたんだろう?大したことない訳がないだろう。君は……どうして私のためにそんなに体を張ってくれたんだ?」
「……まあ、そうですね。この前ティナさんが昔の話をしてくれた時に。俺の過去を重ねちゃったからですかね」
「アレス君の?」

アレスはベッドの上で上体を起こし軽く天井を見上げるような体勢で自身の過去をティナに明かした。
スキルのせいで周りに大きく振り回され、とてもつらい経験をした。

「だから俺と似たような境遇のティナさんの話を聞いて、ティナさんのことを絶対に助けたいなって思ったんです。あとはまあ俺を拾ってくれたシスターがとっても優しい人だったんで、シスターと同じように俺も困っている人を助けられるような人間になりたいなって思ってたのもありますかね」
「そうか……アレス君。本当にありがとう。君があの時諦めずに手を差し伸べてくれなかったら私は王国軍の誰かに殺されていただろう。しかも軍や民間人に多くの犠牲者を出しながら。本当に、そんなことにならなくてよかった……」
「はい。ティナさんが無事で安心してます」
「君は、ずっと1人だった私に優しく寄り添ってくれた2人目の恩人だ。母上と、君の言葉。同じように私の胸に響き勇気をくれた」

ティナはそう言うとまだ重そうな体に鞭を打ちベッドの上で上体を起こした。
そしてアレスの方を向いてこんなことを言ったのだ。

「ねえアレス君。もし君がよければ、私と友達になってくれないか?」
「と、友達ですか?」
「ああ。私は今までの人生の中で友達と呼べるような存在を持っていなかったからうまく言葉にできないが……君には私の初めての友達になってもらいたいと思ったんだ。君と一緒に、君と笑って過ごせたら。それはきっと素敵なことだろうって」
「なんだか少し恥ずかしいですね。でも、もちろんいいですよ。ティナさんと友達になれるなんて俺にとっても嬉しいことです」
「そうか!それじゃあ……っと!」
「ティナさん!?急に立ち上がっちゃ……」
「それならこれからは、私のことをティナと呼んでくれないか!?」
「え!?」

ベッドから急に立ち上がったティナは危うく転びそうになってしまったのだが、すぐに体勢を立て直し隣のベッドにいたアレスに迫りそう頼んだ。
友達になるというのはアレスも望むところだったのだが、身分の違う彼女から呼び捨てにして欲しいとお願いされたことは流石に驚かずにはいられなかった。

「私たちは友達同士で、しかも同い年なんだろう?じゃあ敬称なんて必要ない。私も君のことはアレスって呼ぶから!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよティナさん……」
「君はさっき私を助けてくれた時にティナと力強く呼んでくれただろう?」
「ああ!ごめんなさい!それは状況が状況だったから思わず呼び捨てにしちゃって……」
「いいや、あれが私には嬉しかったんだ。だからお願いだ」
「でも……」
「君もなかなか強情だな。よし。それなら君が私のことをティナって呼んでくれなければ私は君のことをアレス師匠と呼ぶぞ」
「なっ!?師匠なんてやめてくださいよ!」
「だってそうだろう?実力は君の方が上だし、君は私に諦めない心の強さを教えてくれた。それはもう立派な師匠だ」
「ほんっっっとにやめてください!」
「人前だろうと関係ない。私は君のことをアレス師匠と呼んで崇めてやる!」
「分かりました!分かりましたから!それだけはやめてくださいよ!」

笑顔で迫るティナのあまりの押しの強さにとうとうアレスは根負けし、その要求を受け入れることにしたのだ。

「あー、それじゃあ……これからもよろしくな、ティナ」
「ああ。こちらこそよろしくだ、アレス」

少し照れ臭そうにするアレスに対し、ティナは今までにしたことがないような満面の笑みでアレスと握手を交わしたのだった。
そうして2人は問題なく歩けるほど体力が回復するのを待つ間、2人以外誰もいない医務室で身分の隔たりを超えて楽しく会話をした。
疎まれるでもなく、媚びられるでもなく。
初めて何の気兼ねもなく友人と呼べる人物と会話が出来たのは、ティナにとってこれが初めての経験だったのだ。
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