S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず

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1章

強さとは己を信じる心なり

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レベッカの両親から事情を聞いたアレスは、盗賊たちに荒らされてしまったドーレ村の光景を見て拳を強く握りしめた。

(くそ、俺が村に残っていればこんなことに……いや、今そんなことを考えても意味はない)
「すみません。盗賊がどこに行ったか分かりませんか」
「奴らは、レベッカたちを連れて村の西へ向かっていきました」
「本当は今すぐにでも娘たちを助けに行きたいですが……今の私が行っても殺されるだけだと思います。本当に……本当に心苦しいですが、アレスさん。どうか娘を……レベッカたちを助けてください」
「わかりました。必ずレベッカさんたちは助けますので、お二人は村人の保護をお願いします!」
「なっ、何て足の速さだ……」

アレスは2人からレベッカたちを助けて欲しいと頼みを聞くと、全身に満ち溢れた怒りをバネにものすごい勢いで盗賊が逃げたという村の西側へと走っていったのだ。

(まだそう遠くへは行っていないと願いたい。詳しい場所は分からんが、とにかく全力で森の中を探して……)
「っ!?今の音は!?」

アレスが当てもなく森の中を走っていると、突如遠くの方から戦闘の気配がするのを感じ取ったのだ。
アレスはすぐにその音が聞こえた方向に向かって走り出す。
その音が盗賊たちのものという確証はなかったが、アレスが向かうその先には確かに盗賊と連れ去られたレベッカたちが居たのだった。

「ぐぁ!!」
「おいこら!しっかり捕まえとけって言っただろ」
「すいやせん。あいつ急に暴れて縄を抜けやがったんです」
「んー!!んんー!!」
「んんー!!」
「はぁ……はぁ……安心して、2人とも。私が、必ず助けるから」

村に盗賊が襲撃に来てすぐ、レベッカたちは村人を逃がすために30人近くいた盗賊に3人で立ち向かっていたのだ。
必死に戦ったレベッカたちは村人が逃げる時間稼ぎには成功した。
しかし抵抗虚しく彼女たちは盗賊たちに敗北し連れ去られてしまっていたのだ。
人攫いが目的の盗賊たちに拘束され馬車に乗せられていた彼女たちだったが、レベッカは見張りの一瞬の隙を付いて拘束を解き再び抵抗を開始していたのだ。

「まったく、手間かけさせんじゃねえよ。貴様らのせいで女子供を大量に攫う計画が台無しだぜ」
「黙れ!私の大切な村を襲いやがって……お前らは絶対に許さない!!」
(違う!!戦っちゃダメレベッカ!!)
(私たちのことはいいから、あなただけでも逃げて!!)
「バカな女だ。さっき俺にボコボコにされたの覚えてないのか?」

全身を鎧で固めた大柄な盗賊のボスは、捕まっている2人を助けようとしたレベッカを殴り飛ばしヘラヘラと笑った。

「俺たちゃ泣く子も黙る盗賊団『ブラックスコーピオン』だぜ!?懸賞金1000万Gの俺たちが、最近ダブルスターの称号をとったばかりの小娘たちに負けるわきゃねえだろ!」
「ぐっ!!」
「それなのに!!さっきはよくも!!俺たちの仕事の邪魔をしてくれたなぁ!!」
「がっ!?ぐっ……ああ!!」
「ぎゃっはっは。情けねえぜ!」
「ほらどうした!?もっと頑張って仲間を助けてみろよ!」
(レベッカお願いだ……逃げてくれ……)
(こんなの……見てられないよ)
「そのくらいにしといたほうがいいですよボス。一応そいつも大事な商品なんですから」
「おっといけねえ。忘れてた。3人だけってのは物足りねえが、星の舞って言えば最近注目の美女パーティーだってもてはやされてたからな。3人セットならそこそこの値段で売れるだろうよ」
「あ……お、お願い、します……」
「あ?」
「私は、どうなっても構わないから……あの2人だけは、助けてください……」

すでに抵抗する力も残されていなかったレベッカは、一縷の望みにかけてダイヤとヌーレイの2人だけは助けてもらえないかと盗賊のボスに土下座をして懇願したのだった。
しかしそんな願いが聞き入れられるわけがない。
周囲に居た盗賊団のメンバーたちはレベッカの必死の願いを笑い飛ばしたのだ。

「ギャハハ!!コイツ本物のバカだぜ!!」
「誰がそんなお願いを聞くと思ってんだ!もうお前らは売られる運命なんだよ!」
「そういうこった。もう逃げられても面倒なんでな、こいつでおねんねしててもらうぜ!」
「「んんー!!!」」

レベッカの願いを踏みにじり、もう逃げだしたりしないように盗賊団のボスはレベッカを強く殴りつけようと拳を振り上げた。
ボロボロだったレベッカはもう立ち上がる力さえ残されていない。
地面に座ったまま、迫りくる拳から目を逸らすことしかできなかった。

ガキィィイイン!!
「なに!?」

しかし盗賊団のボスの拳がレベッカに直撃する寸前で、間に割り込んできたアレスがその拳を刀で受け止めたのだった。

「すみませんレベッカさん、遅くなりました」
「あ、アレス君……」
「なんだてめえは!?男に用はねえんだよ!!邪魔するなら容赦なくぐしゃぐしゃに……うっ!?」
「許さんぞ、貴様ら」

盗賊団のボスは突然現れたアレスに殺意を剥き出しにする。
だがアレスは溜め込んでいた怒りを目いっぱい爆発させ、鋭い眼光で盗賊団のボスを睨みつけたのだ。

(な、何だこのガキ!?ふ、震えが止まらねえ……)
「あの村を破壊しただけでなく、村を守ろうとした彼女たちに暴力をふるいやがって。絶対に……絶対に許さん!!」
「ふ、ふざけるなぁ!!この俺様がこんなガキに怯えてるだと!?そんなこと……そんなこと……」
「おい、あいつやべえよ!」
「ああ、さっさとおさらばさせてもらおうぜ」
「誰も逃がすわけないだろクソ野郎ども!!!」
「ぐあぁああああ!」
「「「ギャアアアアア!?」」」

周囲の盗賊団のメンバーが逃げ出しそうな雰囲気を察知したアレスは剣を右手、鞘を左手に持ち盗賊団の全員を一瞬で制圧していったのだ。
切り刻まれる武器に砕かれる鎧。
盗賊団の悲鳴があたりにこだましたと思うや否や、すぐに全員の意識を奪い辺りは静寂に包まれたのだった。

「ふぅ。絶対に許さんがな、流石に殺しちゃいねえ。正当な法の裁きを受け入れるんだな」

現場はまさに死屍累々と言った様子だったが、鞘による打撃を織り交ぜたアレスは盗賊団を誰も死なせずに制圧していたのだ。
さらに盗賊団の連中を切り刻む合間に縛られていたダイヤとヌーレイの縄を綺麗に切断していたのだ。

(……しかしまだまだだな。もっと効率よく全員を制圧できたはず。やっぱり俺なんて……)
「アレス君~!!助けてくれてありがど~!!」
「ああ、本当に……もうダメかと思った……ありがとう」
「アレス君!!本当に……君にはなんてお礼を言っていいのかすらも分からない。本当に、本当にありがとう!君は本当に凄いな」
「いや、俺の方こそすみません。俺が村から抜け出してなければこんなことにはならなかったんですから。それに俺なんて全然すごくないですよ。あの人に比べたら俺なんて……」
「そんなことはないよアレス君!」
「えっ?」

先程の盗賊団を制圧した一連の動き。
アレスは自信の未熟さを痛感し浮かない表情をしていたのだが、それを見たレベッカは力を振り絞って立ち上がるとアレスの手を強く握ったのだ。

「確かに君のその考えは間違っていないんだろう。君には君の目標があって、現状に満足できず自分の力を認められないのかもしれない。でも、私たちにとって君は紛れもなくすごい存在なんだ」
「……!」
「そうだよ!もっと自信をもってアレス君!」
「ああ。天狗にならない君のその心はとても素晴らしいものだと思う。それでも自分を過小評価するのは違うぞ。もっと胸を張ってもいいんだ。だって私たちは3度も君に救われているんだ。そんな君がすごくない訳ないだろう?」
「皆さん……」

彼女たちの言葉はずっと悩んでいたアレスの心に強く響いたのだった。
確かにアレスが目指している領域は今よりも果てしなく高いところにあるのかもしれない。
それでも自分の力を信じ、自分に自信を持つことは必要なことなのだ。
自分の強さを信じられないものが、実力以上の力を引き出すことなどできやしない。
自分を尊敬したり凄いと言ってくれる人の言葉を正面から受け止めることも、とても重要なことなのだ。

(そうか、俺は……ラーミア様という果てしなく遠い目標を目指すあまり、自分の強さを信じられなくなっていたのか……)

そんな大切なことに気が付いたアレスはふっと肩にのしかかっていた重たいものを下ろすことが出来たような気がしたのだった。
そして今度は素直に感謝する3人の言葉を受け入れることが出来たのだ。


「本当にいいのか!?アレス君!!」

そして翌日。
アレスは昨晩捕らえた盗賊団のメンバーを全員縛り上げ、レベッカたちに差し出していたのだ。
この盗賊団にはエメルキア王国から1000万Gの懸賞金がかけられている。
そんな盗賊団を捕まえた手柄を彼女たちに譲ることに決めたのだ。

「はい。やっぱり俺が残っておれば村を破壊されずに済んだってどうしても考えちゃうんです。だからこいつらの懸賞金はこの村を復興するための足しにしてください」
「本当に君は素晴らしいな……この恩返しは一生をかけて行わないといけないな」
「まあ!レベッカったら大胆ね~?」
「えっ?」
「私の一生分の恩、どうかあなたの傍で返させてください~、ということか?」
「なっ///!?そういうつもりで言った訳じゃ……」
「はっはっはっ!確かに彼なら安心してレベッカを任せられるな」
「お父様まで!!」
「ふふっ、レベッカさんは俺にはもったいないですよ」
「ごめんなアレス君。変な気を使わせてしまって……」
「いえ、皆さん明るくて安心しました。これならきっとこの村は大丈夫でしょう」
「ああ。時間はかかるかもしれないが、必ずこの村を元の姿に戻して見せるよ」
「私たちも手伝うよ~!」
「そうしたらまたこの村に遊びに来ておくれ」
「はい。楽しみにしています。それでは皆さん、お世話になりました」

レベッカたちと別れの挨拶を済ませたアレスはドーレ村を後にして学園へと戻ることにした。

「ん?この気配は……」
「ブォオオオ!!」
「おっと、パープルホーンの群れか?」

そしてその道中、アレスは自身に突進してくるパープルホーンの群れを発見したのだが……

「はっ!!」
「ブォオオオ!?」
「うん、良い調子だ」

アレスはそれを鮮やかな剣技で一掃した。
迷いを断ち切ったアレスのその技は、今までよりもより磨きのかかったもののようにアレスは感じられたのだった。
こうして自信を取り戻したアレスは晴れやかな気持ちでハズヴァルド学園へと帰還したのだった。
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