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1章
特別なスキル
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一刀両断したジャイアントパープルホーンの骸の上で刃こぼれしていないか確認するアレス。
この状況に一切心を乱していないアレスに対し、ジャイアントパープルホーンを見上げるレベッカたちは驚きを隠すことが出来なかった。
「まずいことなんかじゃないが、とんでもないことだぞ!」
「強いのは分かっていたが、ここまでとは……」
「アレス君、凄すぎるよ!」
「俺なんてまだまだです。そんなことよりも、こいつってパープルホーンとは別物なんですか?角を持ち帰って課題をクリアしたいんですが」
「いや、ジャイアントパープルホーンはパープルホーンの突然変異ということだから角は同じものだ。だから持ち帰っても大丈夫だと思う」
「やった!明日探そうと思ってたのにもうパープルホーンの角をゲット出来ちゃったぜ!」
まだ冷静さを取り戻せない3人に対し、ジャイアントパープルホーンのことを知らないアレスは素材回収が出来ることに喜んでいた。
ジャイアントパープルホーンの角を斬り落とし、カバンに詰めて大満足といった様子だ。
「よしよし。これでOKだ」
「あー……良かったなアレス君。それで、これからどうするつもりなんだ?」
「そうですね。素材は手に入ったし帰ろうかなとも思ったんですけど、今から帰ると途中で寄るになっちゃいますね」
「ねえ、もし大丈夫ならこの先のドーレ村に泊まっていきなよ!」
「そうだな。もうむらはすぐそこだし、夜に移動するのは流石に危険だろう」
「いえ、大丈夫です。ちょっと俺お金なくて、もともと野宿をする予定だったんで」
「それなら、もしよければ私の家に泊まっていかないか?」
「え?レベッカさんの家に?」
「いいわね!実はドーレ村はレベッカの故郷でね。私たちも今日はレベッカの家に泊めてもらうつもりだったんだ」
「そんな、悪いですよ!」
「遠慮する必要はないさ。君には2度も命を助けてもらったんだ。むしろご飯くらい食べて行ってくれないか?」
「……、そうですか。それなら、お言葉に甘えさせてください」
パープルホーンの角をゲットしたアレスだったがもうすぐ夜になってしまうということで、このまま村まで同行しレベッカの家に泊めてもらうこととなったのだ。
ドーレ村には移動を再開してからすぐに到着し、レベッカたちは星の舞として受けていた村人たちの護衛任務を完了することが出来たのだった。
魔物から2度も守ってくれたアレスに馬車の中に居た村人たちはお礼を言いアレスたちと別れる。
「本当にありがとうアレス君。君がいなければ私たちだけで彼らを守り切ることは出来なかった」
「いいえ。俺も無事にあの人たちを送り届けられてよかったですよ」
「君は本当に素晴らしいな。もっと誇ってもいいだろうに」
「そんな、俺なんて本当にまだまだですよ」
「ねえレベッカ~。私もうお腹すいちゃった」
「まったく、ヌーレイは相変わらずだな」
「だがそうだな、君もお腹が空いてきたころだろう?私の家はこっちだ、ついてきてくれ」
アレスはレベッカに案内されドーレ村の中を歩いてゆく。
王都から離れたこの村は小さいながらも村人たちは活気にあふれておりアレスはとても居心地がいい村だと感じた。
「着いたぞ。ここが私の家だ」
「あら、おかえりレベッカ!ヌーレイちゃんとダイヤちゃんもお久しぶりね」
「母さん!ただいま」
「お久しぶりです」
「どうもです~」
「あら?そちらの学生さんは?」
「あ、どうもはじめまして。アレスと申します」
「実はここに来る途中に私たちは彼に命を助けられて。野宿をするつもりだといったので今日はこの家に泊まっていってもらおうと思って」
「命を?レベッカ、大丈夫だったのかい?」
「ああ。ジェネラルオークとジャイアントパープルホーンに襲われてね。彼がいなければ私たちは3人とも死んでいた」
「そんな……アレスさん。娘たちを助けてくださり本当にありがとうございました!」
「それで母さん。彼にお礼としてご飯も食べて行ってもらおうと思うんだが、いいかな?」
「そんなの当たり前よ!娘たちの命の恩人なんですから。じゃあ今日はご馳走にしなければね」
「あまり気にしなくてもいいですよ。泊めてもらうだけでもありがたいですので」
「ささ、あがってくださいな。大したお家じゃないですけどくつろいでってくださいね」
「はい。お邪魔します」
村の中でも目立っていた少し大きな家に辿り着いたアレスは、レベッカの母親から感謝をされ家の中へ入っていった。
その家は小さな村にしては立派で快適な空間が広がっていた。
「レベッカさんのお家ってとても立派ですね」
「でしょ?レベッカのお父さんは昔王国軍でね。ちょっとお金持ちなんだ」
「レベッカ、私も夕飯の支度を手伝わせてくれないか?」
「え?いいわよダイヤ。あなたもお客さんなんだからゆっくりくつろいで」
「そうもいかないさ。私も彼に命を助けられた身だ。せめて夕飯の手伝いくらいさせてくれ」
「なるほど。それもそうね。それじゃあダイヤとヌーレイにも手伝ってもらおうかしら」
「えー!私もー?」
「当たり前でしょ。アレス君はゆっくりしていってね」
「あ、すみません。そうさせてもらいます」
こうしてレベッカたちはキッチンへと向かい夕飯の支度を始めたのだった。
アレスはなかなかの長距離移動だったこともありレベッカの言葉に素直に甘え休ませてもらうことにした。
キッチンから聞こえてくる賑やかな声を聞きながらゆったりとした時間を過ごしているうちに、豪華な夕食の準備が完了したのだった。
「お待たせアレス君。遠慮なく食べて行ってね」
「うわ!凄いですね。これ全部手作りですか!?」
「ええ、もちろんよ。私たちは冒険者だから外でいろいろご飯を作ることも多いからね」
「ただいま。ってあれ、知らない男の子がいるな」
「父さん!彼はアレス君。ここに来るときにみんな彼に命を救われて、今日は泊っていってもらおうと思ってるの」
「い、命を!?レベッカ、一体何があったんだ!?」
「ジェネラルオークとジャイアントパープルホーン以下略です」
「ジェネラルオークとジャイアントパープルホーンに襲われたのか!?それは本当に、なんとお礼を言っていいのやら」
「俺が倒した魔物ってそんなヤバいやつなんですか?」
「そうだとも!!君が規格外すぎるだけかもしれないが、普通なら王国軍でも手を焼くほどだぞ!」
「なるほど……」
「あら、お父さんも帰って来てたのね。それじゃあ冷めないうちに、食べましょうか」
レベッカの父親も帰宅してきて、賑やかな夕食がスタートしたのだった。
レベッカたちが作った料理はハズヴァルド学園の食事とはまた違った味わいの一品ばかり。
アレスはそんな食事をありがたく頂きながらレベッカたちと話をしたのだった。
「しかしすごいなぁ。まさかあのジェネラルオークとジャイアントパープルホーンを倒してしまうなんて。しかも今年学園に入学したばかりの1年生か?」
「私たちでは本当にどうしようもなかった相手だ。改めて本当にありがとう」
「もういいですって。こんなに美味しいご飯を頂いたんですから」
「そうだアレス君!ずっと気になってたんだけど、アレス君はとっても強かったけど、一体どんなスキルを持ってるの?」
「ああ、それは私も気になるな。もしよければ教えてくれないか」
「うーん……」
自分たちでも叶わない魔物を倒したとなれば、彼女たちがアレスのスキルについて興味を持つのはごく自然なことだった。
皆がどんなスキルを持っているのか注目する中、アレスは頭の中で思考を巡らせる。
(困ったな。この人たちは悪い人じゃないんだが、お父さんが元王国軍の人となるとあまり剣聖のスキルのことは話したくないな。疑う訳じゃないが、大勢に話せば話すほど他者に俺のスキルのことが伝わる可能性は高くなるし)
「ああ……えっとですね。ないんですよね」
「え?ない、とは?」
「だから、スキルが。昔スキルを盗られちゃって」
「「「「ええええ!!??」」」」
(ですよねー。流石に不自然か)
「嘘だろう!?スキルもないのにあの強さか!?」
「驚きだ。こんなことがあり得るんだな」
「すごーいアレス君!君天才だね」
「いやぁ、それほどでも」
(やばい。流石に心が痛い……って、あれ。俺、何か忘れてるような……)
「しかしアレス君、スキルを奪われたってまさか……」
「父さん、やっぱりそうだよね?」
「え、何かあったんですか?」
「スキルを奪われたってのは、もしかして君……スキルハンターに奪われたかい?」
「っ!!」
あまり深く考えずに自分がスキルを奪われたと明かしたアレスだったのだが、それを聞いたレベッカの父親が例のスキルハンターという名前を出したのだ。
これにはアレスも驚きを隠せない。
「ど、どうしてその名を!?」
「実は、私の祖父もそのスキルハンターにスキルを奪われてしまったんだ」
「ああ。親父は【空中歩行】のスキルで王国軍でも結構注目されてたらしいんだが……珍しいスキルを奪うというスキルハンターにそのスキルを奪われちまったんだ」
「それ以来祖父は酷く落ち込んでしまって王国軍もやめてしまったそうなんだ。今もたまに空中歩行のスキルをもう一度使いたいと夢でうなされているそうだ」
「っ!?ま、待ってください!今でも夢でうなされるって、奪われたスキルは戻ってないんですか!?」
「え?ああ、そうだが。君もそうなんだろう?」
「え……それはそうですが」
(スキルが戻ってない?一体どういうことだ?)
アレスはその話を聞き一つの疑問を抱えたのだった。
自分もスキルハンターにスキルを奪われていたが、奪われたスキルは何かのタイミングで戻ってくるものだと思っていた。
現に自分の剣聖のスキルは戻ってきている。
時間が経って戻るならアレスより昔にスキルを奪われたレベッカの祖父はとっくにスキルが戻ってるはずだし、奪える個数に限度があるなら剣聖のスキルを手放して空中歩行のスキルを残しておくとは考えられなかったのだ。
(俺はてっきりあの老人が死んだとかで奪ったスキルが全部戻ったのだと思ってたが……違うのか?)
「もう!お父さんもレベッカも、そんな顔して。手が止まってるわよ」
「うみゃい~。やっぱレベッカのお母さんの作る肉じゃがは最高だね~」
「もう、ヌーレイったら。でもそうね。早くご飯を食べちゃいましょう」
話すことに夢中になっていたアレスたちだったが、レベッカの母親の言葉で再び食事に戻ったのだった。
それからはスキルの話ではなくいろいろな話で盛り上がったのだが、それでもアレスはスキルハンターの件が気になってどこか上の空といった様子だった。
「それじゃあアレスさん。今日はこの部屋を用意しましたので、ゆっくり休んで行ってくださいね」
「はい。本当にありがとうございます」
食事が終わり、一番風呂を頂いたアレスはレベッカの母親から2階の1室で眠るように案内されていた。
急ごしらえにしては眠り心地のよさそうなベッドで、アレスはお言葉に甘えて遠慮なくそこで休ませてもらうことにした。
(……うーん、だめだ。ちょっと寝れねえや)
しかしいろいろと考え事をしてしまっていたアレスは横になってもなかなか寝付くことが出来ず、気を紛らわそうとこっそり家を抜け出して夜の森に散歩に出かけたのだった。
「ははっ。夜の森は魔物の気配がしておっかないねぇ」
アレスはいろいろと考え事をしていた。
スキルハンターの件もそうだが、昼間に魔物を倒しレベッカたちから賞賛されたことについてもアレスなりに色々と考えていたのだ。
(レベッカさんたちは俺のことをすごいって言ってくれたけど、こんなんじゃダメなんだ。剣聖のスキルを持っている以上、こんなもので満足なんてしてられない)
「キシャアア!!」
「ふっ!」
「ギギギ!!」
「……今のも、ラーミア様ならきっともっと上手に……」
アレスにとってラーミアという存在が大きすぎるのが問題なのだろうか。
文献などもほとんど残っていない大昔の人物だからこそ、アレスの中でラーミアという存在が無限に大きくなり続け自分のことが信じられなくなってゆく。
「……ちょっと出歩きすぎたかな。そろそろ戻るか」
自分の弱さに悩みながら、アレスはずいぶんと長いこと森の中をさまよい続けてしまった。
時々飛び出してくる小型の魔物を斬り落とすのにも飽きてきたころ、アレスは森を一周して村に戻ろうとしたのだが……
「これは!?何かが燃える臭い!?」
その時アレスは村の方向から何かが焼ける臭いを感じ取り急いで走り出したのだった。
村に近づくにつれてその匂いは強くなり、そして村人たちの騒ぎ声が聞こえてくる。
「くっ!!これは……一体何が起きたんだ!?」
アレスが村に戻ると、なんとそこには家屋が倒壊し至る所から火の手が上がる地獄のような光景が広がっていたのだ。
「何が……一体なんでこんなことに!!レベッカさん!!ダイヤさん!!ヌーレイさーーん!!」
「アレス君!!無事だったのか!!」
「っ!?レベッカさんのお父さん!」
「よかったわ!アレスさんの姿がなかったから心配したんですよ!」
「レベッカさんのお母さん。一体何があったんですか!?」
「盗賊が、盗賊が襲ってきたんです!それでレベッカたちが時間を稼いでいるあいだに私たちが村の人たちの避難誘導をしていたんだが……」
「その間にレベッカたちが連れ去られてしまったんです!!」
「なんだと!?」
村に戻ったアレスは皆が無事か心配になり大きな声で呼びかけたのだが、そこで姿を現したレベッカの両親からとんでもない話を聞かされたのだ。
村を破壊し、村人を守ろうとしたレベッカたちが連れ去られてしまったという事実。
アレスはその話を聞き激しく怒りの感情を燃え上がらせていったのだ。
この状況に一切心を乱していないアレスに対し、ジャイアントパープルホーンを見上げるレベッカたちは驚きを隠すことが出来なかった。
「まずいことなんかじゃないが、とんでもないことだぞ!」
「強いのは分かっていたが、ここまでとは……」
「アレス君、凄すぎるよ!」
「俺なんてまだまだです。そんなことよりも、こいつってパープルホーンとは別物なんですか?角を持ち帰って課題をクリアしたいんですが」
「いや、ジャイアントパープルホーンはパープルホーンの突然変異ということだから角は同じものだ。だから持ち帰っても大丈夫だと思う」
「やった!明日探そうと思ってたのにもうパープルホーンの角をゲット出来ちゃったぜ!」
まだ冷静さを取り戻せない3人に対し、ジャイアントパープルホーンのことを知らないアレスは素材回収が出来ることに喜んでいた。
ジャイアントパープルホーンの角を斬り落とし、カバンに詰めて大満足といった様子だ。
「よしよし。これでOKだ」
「あー……良かったなアレス君。それで、これからどうするつもりなんだ?」
「そうですね。素材は手に入ったし帰ろうかなとも思ったんですけど、今から帰ると途中で寄るになっちゃいますね」
「ねえ、もし大丈夫ならこの先のドーレ村に泊まっていきなよ!」
「そうだな。もうむらはすぐそこだし、夜に移動するのは流石に危険だろう」
「いえ、大丈夫です。ちょっと俺お金なくて、もともと野宿をする予定だったんで」
「それなら、もしよければ私の家に泊まっていかないか?」
「え?レベッカさんの家に?」
「いいわね!実はドーレ村はレベッカの故郷でね。私たちも今日はレベッカの家に泊めてもらうつもりだったんだ」
「そんな、悪いですよ!」
「遠慮する必要はないさ。君には2度も命を助けてもらったんだ。むしろご飯くらい食べて行ってくれないか?」
「……、そうですか。それなら、お言葉に甘えさせてください」
パープルホーンの角をゲットしたアレスだったがもうすぐ夜になってしまうということで、このまま村まで同行しレベッカの家に泊めてもらうこととなったのだ。
ドーレ村には移動を再開してからすぐに到着し、レベッカたちは星の舞として受けていた村人たちの護衛任務を完了することが出来たのだった。
魔物から2度も守ってくれたアレスに馬車の中に居た村人たちはお礼を言いアレスたちと別れる。
「本当にありがとうアレス君。君がいなければ私たちだけで彼らを守り切ることは出来なかった」
「いいえ。俺も無事にあの人たちを送り届けられてよかったですよ」
「君は本当に素晴らしいな。もっと誇ってもいいだろうに」
「そんな、俺なんて本当にまだまだですよ」
「ねえレベッカ~。私もうお腹すいちゃった」
「まったく、ヌーレイは相変わらずだな」
「だがそうだな、君もお腹が空いてきたころだろう?私の家はこっちだ、ついてきてくれ」
アレスはレベッカに案内されドーレ村の中を歩いてゆく。
王都から離れたこの村は小さいながらも村人たちは活気にあふれておりアレスはとても居心地がいい村だと感じた。
「着いたぞ。ここが私の家だ」
「あら、おかえりレベッカ!ヌーレイちゃんとダイヤちゃんもお久しぶりね」
「母さん!ただいま」
「お久しぶりです」
「どうもです~」
「あら?そちらの学生さんは?」
「あ、どうもはじめまして。アレスと申します」
「実はここに来る途中に私たちは彼に命を助けられて。野宿をするつもりだといったので今日はこの家に泊まっていってもらおうと思って」
「命を?レベッカ、大丈夫だったのかい?」
「ああ。ジェネラルオークとジャイアントパープルホーンに襲われてね。彼がいなければ私たちは3人とも死んでいた」
「そんな……アレスさん。娘たちを助けてくださり本当にありがとうございました!」
「それで母さん。彼にお礼としてご飯も食べて行ってもらおうと思うんだが、いいかな?」
「そんなの当たり前よ!娘たちの命の恩人なんですから。じゃあ今日はご馳走にしなければね」
「あまり気にしなくてもいいですよ。泊めてもらうだけでもありがたいですので」
「ささ、あがってくださいな。大したお家じゃないですけどくつろいでってくださいね」
「はい。お邪魔します」
村の中でも目立っていた少し大きな家に辿り着いたアレスは、レベッカの母親から感謝をされ家の中へ入っていった。
その家は小さな村にしては立派で快適な空間が広がっていた。
「レベッカさんのお家ってとても立派ですね」
「でしょ?レベッカのお父さんは昔王国軍でね。ちょっとお金持ちなんだ」
「レベッカ、私も夕飯の支度を手伝わせてくれないか?」
「え?いいわよダイヤ。あなたもお客さんなんだからゆっくりくつろいで」
「そうもいかないさ。私も彼に命を助けられた身だ。せめて夕飯の手伝いくらいさせてくれ」
「なるほど。それもそうね。それじゃあダイヤとヌーレイにも手伝ってもらおうかしら」
「えー!私もー?」
「当たり前でしょ。アレス君はゆっくりしていってね」
「あ、すみません。そうさせてもらいます」
こうしてレベッカたちはキッチンへと向かい夕飯の支度を始めたのだった。
アレスはなかなかの長距離移動だったこともありレベッカの言葉に素直に甘え休ませてもらうことにした。
キッチンから聞こえてくる賑やかな声を聞きながらゆったりとした時間を過ごしているうちに、豪華な夕食の準備が完了したのだった。
「お待たせアレス君。遠慮なく食べて行ってね」
「うわ!凄いですね。これ全部手作りですか!?」
「ええ、もちろんよ。私たちは冒険者だから外でいろいろご飯を作ることも多いからね」
「ただいま。ってあれ、知らない男の子がいるな」
「父さん!彼はアレス君。ここに来るときにみんな彼に命を救われて、今日は泊っていってもらおうと思ってるの」
「い、命を!?レベッカ、一体何があったんだ!?」
「ジェネラルオークとジャイアントパープルホーン以下略です」
「ジェネラルオークとジャイアントパープルホーンに襲われたのか!?それは本当に、なんとお礼を言っていいのやら」
「俺が倒した魔物ってそんなヤバいやつなんですか?」
「そうだとも!!君が規格外すぎるだけかもしれないが、普通なら王国軍でも手を焼くほどだぞ!」
「なるほど……」
「あら、お父さんも帰って来てたのね。それじゃあ冷めないうちに、食べましょうか」
レベッカの父親も帰宅してきて、賑やかな夕食がスタートしたのだった。
レベッカたちが作った料理はハズヴァルド学園の食事とはまた違った味わいの一品ばかり。
アレスはそんな食事をありがたく頂きながらレベッカたちと話をしたのだった。
「しかしすごいなぁ。まさかあのジェネラルオークとジャイアントパープルホーンを倒してしまうなんて。しかも今年学園に入学したばかりの1年生か?」
「私たちでは本当にどうしようもなかった相手だ。改めて本当にありがとう」
「もういいですって。こんなに美味しいご飯を頂いたんですから」
「そうだアレス君!ずっと気になってたんだけど、アレス君はとっても強かったけど、一体どんなスキルを持ってるの?」
「ああ、それは私も気になるな。もしよければ教えてくれないか」
「うーん……」
自分たちでも叶わない魔物を倒したとなれば、彼女たちがアレスのスキルについて興味を持つのはごく自然なことだった。
皆がどんなスキルを持っているのか注目する中、アレスは頭の中で思考を巡らせる。
(困ったな。この人たちは悪い人じゃないんだが、お父さんが元王国軍の人となるとあまり剣聖のスキルのことは話したくないな。疑う訳じゃないが、大勢に話せば話すほど他者に俺のスキルのことが伝わる可能性は高くなるし)
「ああ……えっとですね。ないんですよね」
「え?ない、とは?」
「だから、スキルが。昔スキルを盗られちゃって」
「「「「ええええ!!??」」」」
(ですよねー。流石に不自然か)
「嘘だろう!?スキルもないのにあの強さか!?」
「驚きだ。こんなことがあり得るんだな」
「すごーいアレス君!君天才だね」
「いやぁ、それほどでも」
(やばい。流石に心が痛い……って、あれ。俺、何か忘れてるような……)
「しかしアレス君、スキルを奪われたってまさか……」
「父さん、やっぱりそうだよね?」
「え、何かあったんですか?」
「スキルを奪われたってのは、もしかして君……スキルハンターに奪われたかい?」
「っ!!」
あまり深く考えずに自分がスキルを奪われたと明かしたアレスだったのだが、それを聞いたレベッカの父親が例のスキルハンターという名前を出したのだ。
これにはアレスも驚きを隠せない。
「ど、どうしてその名を!?」
「実は、私の祖父もそのスキルハンターにスキルを奪われてしまったんだ」
「ああ。親父は【空中歩行】のスキルで王国軍でも結構注目されてたらしいんだが……珍しいスキルを奪うというスキルハンターにそのスキルを奪われちまったんだ」
「それ以来祖父は酷く落ち込んでしまって王国軍もやめてしまったそうなんだ。今もたまに空中歩行のスキルをもう一度使いたいと夢でうなされているそうだ」
「っ!?ま、待ってください!今でも夢でうなされるって、奪われたスキルは戻ってないんですか!?」
「え?ああ、そうだが。君もそうなんだろう?」
「え……それはそうですが」
(スキルが戻ってない?一体どういうことだ?)
アレスはその話を聞き一つの疑問を抱えたのだった。
自分もスキルハンターにスキルを奪われていたが、奪われたスキルは何かのタイミングで戻ってくるものだと思っていた。
現に自分の剣聖のスキルは戻ってきている。
時間が経って戻るならアレスより昔にスキルを奪われたレベッカの祖父はとっくにスキルが戻ってるはずだし、奪える個数に限度があるなら剣聖のスキルを手放して空中歩行のスキルを残しておくとは考えられなかったのだ。
(俺はてっきりあの老人が死んだとかで奪ったスキルが全部戻ったのだと思ってたが……違うのか?)
「もう!お父さんもレベッカも、そんな顔して。手が止まってるわよ」
「うみゃい~。やっぱレベッカのお母さんの作る肉じゃがは最高だね~」
「もう、ヌーレイったら。でもそうね。早くご飯を食べちゃいましょう」
話すことに夢中になっていたアレスたちだったが、レベッカの母親の言葉で再び食事に戻ったのだった。
それからはスキルの話ではなくいろいろな話で盛り上がったのだが、それでもアレスはスキルハンターの件が気になってどこか上の空といった様子だった。
「それじゃあアレスさん。今日はこの部屋を用意しましたので、ゆっくり休んで行ってくださいね」
「はい。本当にありがとうございます」
食事が終わり、一番風呂を頂いたアレスはレベッカの母親から2階の1室で眠るように案内されていた。
急ごしらえにしては眠り心地のよさそうなベッドで、アレスはお言葉に甘えて遠慮なくそこで休ませてもらうことにした。
(……うーん、だめだ。ちょっと寝れねえや)
しかしいろいろと考え事をしてしまっていたアレスは横になってもなかなか寝付くことが出来ず、気を紛らわそうとこっそり家を抜け出して夜の森に散歩に出かけたのだった。
「ははっ。夜の森は魔物の気配がしておっかないねぇ」
アレスはいろいろと考え事をしていた。
スキルハンターの件もそうだが、昼間に魔物を倒しレベッカたちから賞賛されたことについてもアレスなりに色々と考えていたのだ。
(レベッカさんたちは俺のことをすごいって言ってくれたけど、こんなんじゃダメなんだ。剣聖のスキルを持っている以上、こんなもので満足なんてしてられない)
「キシャアア!!」
「ふっ!」
「ギギギ!!」
「……今のも、ラーミア様ならきっともっと上手に……」
アレスにとってラーミアという存在が大きすぎるのが問題なのだろうか。
文献などもほとんど残っていない大昔の人物だからこそ、アレスの中でラーミアという存在が無限に大きくなり続け自分のことが信じられなくなってゆく。
「……ちょっと出歩きすぎたかな。そろそろ戻るか」
自分の弱さに悩みながら、アレスはずいぶんと長いこと森の中をさまよい続けてしまった。
時々飛び出してくる小型の魔物を斬り落とすのにも飽きてきたころ、アレスは森を一周して村に戻ろうとしたのだが……
「これは!?何かが燃える臭い!?」
その時アレスは村の方向から何かが焼ける臭いを感じ取り急いで走り出したのだった。
村に近づくにつれてその匂いは強くなり、そして村人たちの騒ぎ声が聞こえてくる。
「くっ!!これは……一体何が起きたんだ!?」
アレスが村に戻ると、なんとそこには家屋が倒壊し至る所から火の手が上がる地獄のような光景が広がっていたのだ。
「何が……一体なんでこんなことに!!レベッカさん!!ダイヤさん!!ヌーレイさーーん!!」
「アレス君!!無事だったのか!!」
「っ!?レベッカさんのお父さん!」
「よかったわ!アレスさんの姿がなかったから心配したんですよ!」
「レベッカさんのお母さん。一体何があったんですか!?」
「盗賊が、盗賊が襲ってきたんです!それでレベッカたちが時間を稼いでいるあいだに私たちが村の人たちの避難誘導をしていたんだが……」
「その間にレベッカたちが連れ去られてしまったんです!!」
「なんだと!?」
村に戻ったアレスは皆が無事か心配になり大きな声で呼びかけたのだが、そこで姿を現したレベッカの両親からとんでもない話を聞かされたのだ。
村を破壊し、村人を守ろうとしたレベッカたちが連れ去られてしまったという事実。
アレスはその話を聞き激しく怒りの感情を燃え上がらせていったのだ。
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しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
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最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
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※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
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元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
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