S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず

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1章

氷上に降り立つ

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「えっ……エリギュラさん?なにを……」

アレスに追い詰められたエリギュラが城を海に沈めることでアレスに勝利を収めたその後。
城を再び海上へ浮上させて作業をしていたエリギュラのもとに、先程の騒ぎでエリギュラを探していたディーネがやってきたのだ。

「アレスさん!?なんで……どうしてアレスさんが!?」

この部屋の扉はアレスによって切り刻まれており、ディーネはすぐにその部屋の中の様子を窺うことが出来たのだ。
そこには先ほどの浸水で成す術もなくエリギュラに捕えられてしまったアレスが他の学園の生徒たちと同様に水の塊の中に浮かべられていたのだ。

「さっきのお城が急に海に沈んだこともそうですし、なんでアレスさんを捕まえてるんですか!?」
「あれは……少々城の制御を誤ってしまってのう。アレス殿はそれで溺れてしまった故ここで治療を……」
「じゃあこのバラバラになった扉は何なんですか!?ここに居る人たちも本当は治療じゃないんですよね!?あなたはアレスさんに何をしたんですか!?」
「すべて……お主のために決まっておろう」

一緒に居た時間は短いながらも、ディーネはアレスに好意を寄せ始めていたのだ。
そんなアレスを捕らえていたエリギュラに彼女は険しい表情で詰め寄る。
しかしそれを聞いたエリギュラは無表情を貫いたままディーネにそう言ったのだ。

「私の……なんでアレスさんを捕まえることが私のために?」
「お主は忘れておるが……これは全てお主が望んだことじゃ。こやつはお主の命を脅かす敵じゃ」
「そんな!アレスさんはそんなこと……」
「ならば思い出すがいい」
「っ!?」

冷静さを貫いていたエリギュラだったが、引き下がろうとしないディーネをみて声を荒らげたのだ。
エリギュラはディーネの頭に手を置くとディーネが忘れていたという情報を流し込む。

「えっ……あ、ああ……そうだ……私、私は……」
「わかったか?奴が真相に辿り着いてしまった以上野放しにはできんかったのじゃ。すべてはお前のため……すべてはお前の罪なのじゃ」
「……」
「分かったなら変な気は起こさぬようにな」

すべてを伝え終えたエリギュラはディーネを残して部屋を去ってゆく。
残されたディーネは全てを思い出し絶望に打ちひしがれたようにその場に立ち尽くしていたのだった。



「……と、いうことさ。僕が知っている情報はすべて話した。それを踏まえて絵の中に行くかどうかは君たち次第だ」

エリギュラに捉えられてしまったアレスを助けるべく、エミルダからすべての話を聞き終えたティナたちは改めて例の絵が描かれた本に向き直っていた。

「……私は、行きますよ。友人と被害者でしかない憐れな人魚を天秤にかけることも厭わない」
「私も……この手を汚す覚悟は……できています」
「ぼ、僕もです」

エミルダから伝えられた真実。
それはまだ学生でしかない彼女たちにとってはあまりにも重すぎる内容だった。
しかしそれでも3人の決心は揺るぐことはなかった。

「君たちの覚悟は伝わったよ。ただこの絵の中に入るにはその強すぎる信念はむしろ足かせにしかならないはずだ」
「どういうことですか?」
「言っただろう?この絵の中に入るにはその絵に深い感動を覚えなければいけないんだ。使命感に満ち溢れた状態じゃ絵に感心する心は持てないだろう?」
「確かにそうですね……」
「僕は本物の海を見たことがあるし、そもそも感情の起伏に乏しい人間だ。君たちの助けにはなれそうにない」
「それで言うと僕も正直不安です……海に関する本はたくさん読んだことあるので今から見る絵に感動できるかどうか……」
「それでも気合いで感動するしかないわよ。さあ、2人とも。本を開けるわよ」
「ジョージ君!気負うと逆にうまくいかないよ!」
「は、はい……」

アレスを必ず助けようと意気込む3人。
だがその力みにより絵の中に入れなくては本末転倒だとエミルダは張り切る3人を諫めようとする。

「さあ、3人とも。今は全てを忘れリラックスだ。休日にふらっと美術館にでも立ち寄った情景を思い浮かべるんだ。そこで君たちはとある絵画の前で足を止めた。それはこの国にはない鮮やかな青が美しい海の絵で……」

エミルダはそう言って3人に本の最後に描かれた絵を開いて見せた。
それは故郷の海を想って人魚が描いた美しい海の絵……

「さてと……また2人きりになれて嬉しいよ」

そして次の瞬間、その場に残ったのはエミルダと彼が持つ本だけとなったのだ。



「っ!?ここは……きゃぁああああ!!」

ついに満を持してアレスたちを救出するために絵の中へと入り込んだソシアたち。
しかし3人は無事に絵の中へ入ることできたのだが、アレスと同様に空中に出てしまいそのまま海へと真っ逆さまに落下してしまったのだ。

「なんで空に出ちゃったの!?ど、どうしよう!?」
「ティナさん!下の海を凍らせられますか!?」
「それは出来るけどそうすると氷に激突してしまうぞ?」
「僕に任せてください!」
「わかった。フリージング・ブレス!」

同じ場所に出現した3人は揃って海へと落下していく。
成す術もなく海へ落ちるしかないかと思われたが、海へと落ちる前にジョージはティナに海を凍らせるようお願いしたのだ。
無論ただ海を凍らせただけでは氷に激突するだけで何の問題も解決しない。
だが考えがありそうなジョージの表情を見たティナは言われたとおりに海を凍らせるべく強烈な冷気を放ったのだ。
ティナにより海面の一部が完全に凍り付き、それを確認したジョージは装備していた盾を下に構える。

「2人とも僕に掴まってください!」
「うん!」
「ああ!」
「ソフトシールド!!」

ジョージがそう唱えると、彼の盾が柔軟性に富んだ魔力の防壁を纏い落下の衝撃を見事吸収してみせたのだ。

「凄いよジョージ君!ありがとう!」
「はぁ……はぁ……何とかうまくいってよかったです」
「少しヒヤリとしたが無事に絵の中の世界に来れたわけだな。しかしこれが……」

なんとか無事に着地することができた3人は安堵の表情を浮かべると、すぐに自身らの周囲を囲む青い海へと視線を移したのだった。
速くアレスたちを助けたいと焦るような気持ちでいた3人だが、この世界の雰囲気は平和そのもの。
温かな日差しと心地よい波の音に3人は思わずその光景に見入ってしまったのだ。

「すごい……これが本物の海。いえ、厳密に言えば本物ではないんでしょうが」
「でも、本当に凄い。湖なんかとは比べ物にならないくらい広い」
「ああ。本当に綺麗だ。だがあまり感傷に浸っている場合でもないだろう。早くアレスたちを探さなければ」
「そうだったね!えっとそれじゃあ、まずは陸地を目指そっか?」
「そうですね。ティナさん、申し訳ないですが向こうの陸地まで氷で道を作って……」
「いや、待ってくれ。向こうに何かあるぞ?」
「え?本当ですね。遠くて何か分かりませんが建物のような……」
「お城だよ!海の上にうっすらとだけどお城が見える!」
「この距離からよく見えるなソシア。よし、まずは陸地にあがってその城の近くを……っ!?何かくる!!」
「え?」
「グァアアアア!!」

気を取り直してゆく不明となったアレスたちを探すべく目的地を定めようとする3人。
子供の頃から森で狩人として育てられてきたソシアの視力により遠くにエリギュラの居城を確認する。
だが近くの陸地に氷の足場を繋げようとしたその時、突如海面から巨大な水柱が上がったのだ。
海中から姿を現したのはアレスを襲ったものと同じ巨大な蛇のような魔物。

「グァアアア!!」
「氷華・霊雪斬!!」
「グギィ!?」
「これは……見たことがない魔物ですね」
「景色は最高だが海にはこんな危険な魔物が潜んでいるんだな。いつまでもここにとどまるのは危ない、早く陸地を目指そう」

ティナの剣撃により魔物の脅威から逃れた3人だが、美しい海の怖い一面を垣間見て早めの陸地への移動を決めたのだ。
陸地まで泳いで渡ることなどできないため、移動はもちろんティナが凍らせた海の上を歩いて渡ることとなる。

「陸地が見えて来たわね。2人とも大丈夫?少し寒そうに見えるけど」
「ティナさんに頑張ってもらってるだけなのに文句なんて言えませんよ」
「それにティナさんの方が心配です。さっきからずっと能力を使いっぱなしですけど平気なんですか?」
「ふふっ、確かにあの時は不甲斐ない姿を見せてしまったからな。だがあれからずいぶん鍛えたからこの程度は平気よ」
「ん?陸地の奥から誰か近寄って来てませんか?」
「本当だ。あの子学園の行方不明者かな?」
「2人とも、油断しないように。私たちはまだこの世界に対して圧倒的に無知すぎるからな」

ティナは手のひらを上方に向けた左手を顔の傍に近づけ、そこに息を吹きかけるようにして海面を凍り憑かせていく。
以前地獄穴の中で雲形の魔物に襲われた時は能力の使い過ぎで意識を失ってしまったティナだったが、あの頃から成長を見せこれしきの能力の行使では余裕の表情を保っていた。
こうして順調に陸地へと近づいていった3人。
だがその時3人は目前に迫った砂浜に誰かが走って近づいてきていたことに気が付いたのだ。
この世界にやってきたばかりの3人はあの少女が敵か味方かの判別などできるはずが無い。
ティナの後ろに控えるソシアとジョージの杖と盾を握る手にも自然と力が籠る。

「はぁ……はぁ……その服!!やっぱりあなたたちはアレスさんのお知り合いですね!?」
「なにっ!?あなた、アレスのことを知っているのか!?」
「はい。アレスさんはあなた方と同じように3日前に空から降って来て、つい数時間前まで私と一緒に居ました」
「3日前?どういうことです?アレスさんが居なくなったのは昨日のはずでは!?」
「絵の中の世界は現実の世界と時間の流れ方が違うんだ。恐らくアリアが絵の中に入ってからはもっと時間が経ってしまっているんだろう」
「アレス君と少し前まで一緒に居たんですか!?それじゃあアレス君は今どこにいるんです!?」

しかし陸地へとたどり着いた3人は、その少女の口からアレスの名が出たことで一気に警戒を緩めることとなったのだ。
それ以前に目の前の少女からは敵意はもちろん戦闘能力があるようにも見受けられない。
ティナたちは彼女からアレスについての情報を聞き出そうとする。

「アレスさんは今、あのお城に囚われています」
「やはりそうですか。それなら早くあそこへ行きアレスを助けよう!」
「教えてくれてありがとうございました。それでは僕たちは急いでいるのでこれで失礼しますね!」
「……あの!アレスさんのところに……私に案内させてください!」
「アレスの居場所を教えてくれるのはありがたいが、大丈夫か?あまり顔色が優れないようだし震えてるみたいだぞ?」
「……大丈夫、じゃないかもしれないですけど。私はこれからどうしたらいいか、自分1人じゃ決められそうにないからもう一度アレスさんと話をしたくて」
「わかった。案内してくれるなら感謝する。私はティナで、こっちがソシアとジョージだ」
「私はディーネです。それでは私の後に付いてきてください」
「ディーネ!?」
「嘘!?」
「その名前って……」
「み、皆さん。私のことご存じなんですか……?」

アレスが遠くに見える城に居ることを話したディーネは、3人を城に案内すると申し出たのだ。
この世界のことを何も知らない3人にとっては願ってもない話。
しかし直後に彼女の名前を聞かされた3人は驚きを隠すことが出来なかったのだ。
3人はディーネという名をほんの少し前に聞いたばかりだった。

『あと最後に、その人物が誰なのかを教えなければならないね』

それは3人がこの絵界に入る直前、エミルダから伝えられていた話。

『その絵を描いた人物とは、二度と帰れない故郷の海を強く愛する人魚さ』
『人魚!?』
『そう。その絵を描いたのは人魚。そしてその名は……』

「ディーネ……」

そこで3人は夢創の筆を使ってこの世界を描き出した人魚の名前がディーネであるということを聞かされていたのだ。
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