S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず

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2章

水神VS剣神

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国境を超えるべくエメルキア王国南東地域にあるヤマーテ村付近に辿り着いたアレスたちの前に立ちふさがったのは冒険者ギルドの最高ランク、フルスターの称号を持つ冒険者シャロエッテ・ゼルナ。
彼女の攻撃を数度見たアレスがそのスキルの正体を見抜き、それに対しシャロエッテは答え合わせと言わんばかりに自身が使役する【青藍妖虎】を堂々と顕現させた。

「水と同性質の体を持つ青藍妖虎……それを使役する人間は自分を水に変化させられるんだな」
「ええ、その通りよ。虎の威を借るとはまさにこのことだけど、私の恐ろしさを少しは分かってくれたかしら?」
「そうですね……謝罪させてもらいますよ。あなたを簡単に突破できると侮ったことを」
「あなたの攻撃は私に通用しない。攻撃力も範囲もさっき見せた通り……今降参すれば私に刃を向けたことは許してあげるけど、どうするかしら?」
「はっ……冗談じゃねえ」
「っ!」

自身のスキルを明かすことでアレスに降伏を促したシャロエッテ。
だがそれを聞いたアレスは武器を収めるどころか闘志を燃やし不敵な笑みを浮かべたのだ。

「全部見たうえで負ける気がしねえよ。あんたが水神なら俺は剣神だ」
「剣神、ね……ふふ。冗談に聞こえないから恐ろしい」
「こっからは俺も本気だ……」
(っ!刀と鞘の二刀流……?)

闘志を煮えたぎらせるアレスは右手に剣を持つと、左手で鞘を逆さに持ちシャロエッテに見せつける様に両腕を軽く広げた構えを取った。

「ふっ!!」
(速い!!けど直線的、それに……)
「それはさっき見たわよ!!」

直後、アレスはシャロエッテに向けて再び神速の踏み込みを見せる。
だがそれは直線的なうえに先程1度見せた動き。
シャロエッテは動体視力ギリギリで捉えたアレスの動きに合わせ高速の水滴を飛ばして迎え撃つ。

スッ……ドドォオオオン!!!
「きゃああ!」
「あんな水滴1粒がなんて威力!?」
「……ッ」

瞬きする間に眼前に迫った水滴をアレスは右手で握った剣を縦に振るい両断した。
正確無比に両断された水滴は2つに分裂しアレスの後方に着弾する。
ゆび先程の大きさしかない水の塊であったが、それらはすさまじい音共に地面を大きく抉った。

(青藍妖虎と言えば私の白銀妖狐と同格の精霊、のはずだが……威力が桁違いだ)

そんなシャロエッテの攻撃を見たティナは自身との力量差に言葉を失う。
使役する精霊の格は同じなはず。
しかしティナは精霊使いとしての実力でシャロエッテに大きく劣っていることを痛感させられる。

(表情一つ変えずに私の攻撃をいなすなんて。でも、貴方じゃ私にダメージを与えることは……)
「俺の攻撃は効かないって高をくくってるんでしょう?」
「ッ!?」
バシャァアアアン!!

最短距離でシャロエッテに迫ったアレス。
再びアレスの間合いに入るも剣では自分に傷を負わせられないと考えていたシャロエッテだったのだが、アレスはそれを指摘すると左手に持っていた鞘の側面で思い切りシャロエッテの顔面を振り抜いたのだ。
無論そんな攻撃ではシャロエッテに決定打を与えることはできない。
アレスの一撃は液体化したシャロエッテの頭部を派手にぶちまけるだけにとどまった。

「ふ、ふふ。何かと思えば。あんなこと言うものだから何か小細工をしてくるかと……」
「おらぁ!!」
バシャァアアアン!!
「ッ!……だから、いくら物理攻撃をしても私には……」
「まだまだぁ!!」
バシャァアアアン!!

先程の一撃も一見何の意味もなかったかのように思えたのだが、アレスはそんなことお構いなしにシャロエッテの頭部に向けフルスイングを繰り返した。

「しつこいわね!!そんなこといくら繰り返しても無駄だって……」
バシャァアアアン!!
「ッ!!いい加減、離れなさいよ!!」
ドドドドォオオオン!!
「アレス君!!」

シャロエッテに張り付き無意味な攻撃を繰り返すアレス。
そんなアレスに苛立ちを隠し切れなくなったシャロエッテは無数の水滴を頭上にばら撒き、アレスに向けて高速で落下させる。
地面に打ち付けられた水滴は轟音と共にもの凄い土煙を巻き上げた。

(まあアレで終わるとは思ってないわ。一度距離を取って仕切り直し……)
「どこ見てんだ?」
「なッ!?」
バシャァアアアン!!

だがアレスはそんな攻撃をリスクが大きいシャロエッテの間近でいなしてみせると、もう何度目かのフルスイングを繰り出したのだ。
それは巻き上がった土煙を一振りですべて振り払ってしまうほどの豪快な振り抜き。

(こいつ……まさかッ!)
「そろそろ気が付きましたか?俺の体力が尽きるのが先か、あなたの魔力が尽きるのが先か勝負しましょうや」
「この……離れなさい!!」
ドドドォオオオン!!
「アレス君……なんでさっきから意味のない攻撃を繰り返してるの?」
「いえ、恐らくアレスさんは……シャロエッテ様に再生を強要させ魔力切れを狙っているのかと」
「再生を……強要?」

一瞬たりともシャロエッテから離れず水を吹き飛ばし続けるアレスに、ついにアレスの狙いに気が付いたシャロエッテはその表情に焦りの色を浮かべた。

「シャロエッテ様のような自身の体を別の物質に変化させられるスキルは基本的に”体積は変化させられない”んです
「体積を変化させられない?……待ってジョージ君!シャロエッテ様は明らかに人間の体よりも大きな水を出してるよ!?」
「それは通常の魔法と同様に魔力によって水を生成しているだけ。あの大量の水の中で”シャロエッテ様が変化した水”は一定の量しか存在していないはずです」
「そうだったのか。だがそれが今のアレスの戦い方と何か関係があるのか?」
「大ありです。確かに水に変化したシャロエッテ様にはいかなる物理攻撃も効かないでしょう。ですが核……と言っても実態が存在している訳ではないですが。その魔核から分離し距離が離れすぎた水はシャロエッテ様の肉体に戻る機能を失うんです」

体を水に変化させられるシャロエッテだが、その時変化した水は後から魔力で生み出した水とは大きな違いがあったのだ。
それは同じ水の性質を持ちつつも、元の体に戻ることができるか否かという重要なもの。
魔力の格となる部分が残っていればそれを消滅させられたとしても再生成することは可能ではあるが、純粋に魔力で水を生み出すよりもはるかに大量に魔力を消費してしまう。
それすなわち、単純に同質量の水を生成させるよりも圧倒的に多くの魔力が必要ということである。

(俺なら実体のない魔核を捉えることは可能だろうが、それはシャロエッテ様を殺すことになるからな。かなりしんどいがこれしか方法はねえ)
「粘着する男は嫌われるわよ!!離れなさいよ!!」
「ふッ!!でりゃぁ!!からの……だるま落としじゃぁ!!」
「ッ!!」

アレスの狙いに気が付いたシャロエッテはなんとしてでもアレスを引きはがそうと攻撃を苛烈なものにする。
だがアレスはそれを命からがら回避するとシャロエッテの体を削るべく剣を振り続けた。
そしてついに攻撃の隙間を縫いアレスのフルスイングがシャロエッテの腹部を捉える。
なんとかその一撃を液体化により回避するも、アレスの一振りはシャロエッテのローブを引きちぎりだるま落としのように腹部の水を吹き飛ばす。

「はぁ……はぁ……」
(まずい……こんなペースで再生させられることなんてなかったから魔力操作が……)
「ッ!?液体化が……」
「おらぁああ!!」
(あっ……躱せない。死ん……)

徐々に追いつめられるシャロエッテにアレスはさらに攻撃を加速させ腕や脚の水を削り取る。
ほとんど休む間もなく再生を繰り返した上に、アレスを引き剝がそうと激しい攻撃を繰り出していたシャロエッテ。
そうして魔力を短時間で激しく消耗しすぎたシャロエッテは液体化を維持することが出来なくなり、アレスが繰り出した顔面へのフルスイングを躱すことが出来なかった。

「なんてな」
「ぐぁああああ!!」

命を刈り取るフルスイングに死を覚悟したシャロエッテであったが、鞘が鼻先に触れる寸前、なんとアレスはギリギリでその攻撃を止めたのだった。
死のイメージが明確に頭を過り思考が停止してしまったシャロエッテに、アレスは鞘を手放すと肉体に戻っていたシャロエッテの腹部に空気を軽く握るようにして作った握りこぶしを添える。
そして次の瞬間、爆弾が爆ぜたような強烈なアレスの寸勁が完璧にシャロエッテを打ち貫いたのだ。

「ごはッ!!」
「うし。かなり良い調子だな」

アレスの寸勁を喰らいくの字に折れ曲がったシャロエッテは後方に吹き飛び勢いよく木に叩きつけられる。
そうして木の幹にもたれかかり項垂れたシャロエッテは立ち上がることが出来なかった。

「ごほっ……」
「さてと。シャロエッテ様、意識はありますよね?」
「わか、ってるわ……殺されても文句はないわ。一思いにやってちょうだい……」
「なんであなたを殺す必要があるんですか?」
「……?だって私を生かしておけば、あなたたちが竜人族の子供を庇っていることが王国軍に伝わるのよ?殺すしかないでしょ……」
「嫌ですよ。人助けをしようとしてるのになんでそのために誰かを殺さないといけないんですか。俺はちゃんと手加減できたか確かめるために声をかけただけですよ」
「……ッ!」
「ああ、でもステラちゃんを連れているのは俺だけってことにしてくれませんか?あいつらは無関係ってことで」
「……。そう……そうなのね。うふふふ……」

戦闘継続不可能となったシャロエッテは抵抗できないことを覚り止めを刺されることを受け入れる。
だがアレスはシャロエッテにとどめを刺すどころか彼女の無事を心配したのだった。

「どうしました?もしかして頭をぶつけて……」
「頭をぶっておかしくなったわけじゃないわ。ただ、ずっと感じていた疑問が解消されてとんだ無駄骨を折っちゃったなって思って」
「どういうことです?」
「竜人族の子供を連れ回してる人がいるって聞いた時はとんでもない無知な人か竜人族を利用してこの国を滅ぼそうとしてる危ない人かと思ったのだけど、貴方からはそんな雰囲気はちっとも感じられなかったから。負けてから言うのは違うと思うけど、貴方たちのこと見逃してあげてもいいわよ。もちろん王国軍にも冒険者ギルドにも言わない」
「っ!いいんですか!?」
「ええ。命を助けられた代わりとかじゃなくて、貴方の人柄が貴方の発言を信じる根拠に値するって思えたから」
「ありがとうございますシャロエッテ様!」
「いいから早く行きなさい。これだけ派手に暴れれば人が集まってきてもおかしくないわよ」
「おっとそうだった!それじゃあ失礼します。お前ら!早くここから移動するぞ!」

アレスとの戦闘を経て、アレスが竜人族の少女を連れている理由が無知さや邪悪さから来るものでないと理解したシャロエッテはアレスたちがステラを連れてシャムザロールへ行くことを黙認することにしたのだった。
そんなシャロエッテにアレスは深々と頭を下げ、ここに人が集まってこないうちに移動しようとソシアたちの元に駆け寄る。

「ふっ。それにしても、ちゃんと手加減できてるか、か……やっぱあの子ただ者じゃないわ」

そんなアレスの後ろ姿を眺めながら、シャロエッテは自身との力量差を考え思わず笑わずにはいられなかった。
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