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2章
水神・シャロエッテ
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竜人族の少女、ステラを安全な場所に逃がすために隣国シャムザロールを目指すアレスたち。
しかしシャムザロールとの国境に近い村に立ち寄ったそこで、ステラを捕らえるべく動いていた冒険者ギルドのシャロエッテに見つかってしまったのだ。
「一応確認しておくけれど、竜人族を発見した場合は速やかに王国軍に連絡しその後の対応は全て任せる……そう親や教師から習ってないのかしら?」
シャロエッテは冒険者ギルドの中でも最高ランクのパーティーのリーダーを務める人物。
穏やかな口調でそう訊ねながらも警戒を一切怠らないシャロエッテの立ち姿にアレスは静かに警戒を強める。
「それは知っています。竜人族が危険な種族だと言い伝えられていることも」
「ならなぜその子を連れているのか……」
「でも違うんです!」
「……違う?」
「竜人族は人間族に危害を加えるような存在じゃないんです!この国に彼女の居場所はない。だから人間の手が及ばないところに彼女を逃がしたいと考えているだけなんです!」
アレスはシャロエッテを刺激しないよう敵意がないことを態度で示しながらティナたちの前に立つ。
その行動の意図はシャロエッテと戦闘することになった際に皆を守れるように。
だが冒険者ギルドとの衝突はアレスの本意ではないため、まずは会話により見逃してもらえないかと試みた。
「見たところその子はまだ幼いわよね?竜人族の子供が人間の子供と内面は変わらなくても、大人になれば国1つを亡ぼすほどの危険な存在になるのよ」
「そうじゃないんです!そもそも竜人族が狂暴な種族であるという言い伝えが間違っている……いや、間違った情報を国が広めているんです!」
「……貴方、勘違いしてるみたいだけど。貴方達にその少女の引き渡しを拒否する権利はないのよ」
シャロエッテがそう言った瞬間、彼女が放つ空気が一変した。
彼女の放つ強力な魔力にアレスたちに緊張が走る。
「待ってください!王国軍にこの子を引き渡せば間違いなく殺されてしまう!」
「何を根拠にそう言ってるの?貴方の発言を信じるに値する証拠は?」
「証拠は……ない。でも竜人族の子供の角が不老不死の薬の材料になると言われていて、その薬を作るために国王が……」
「だから、証拠がないと言っているでしょう」
アレスは必死に説得を試みようとするのだが、シャロエッテは聞く耳を持とうとしない。
アレスを強く睨みつけたシャロエッテは懐に手を入れると通信用魔石を取り出す。
「大人しく私に従ってくれるなら竜人族の子供を庇おうとした件については便宜を図ってあげてもいいわ。とにかく私と一緒に来て貰……」
「はぁ……もう、仕方ないな」
「ッ!!??」
パリィイイン!!!
シャロエッテは竜人族の子供を発見したことについて王国軍か冒険者ギルドに連絡を入れようとする。
だがそれを見たアレスはこれ以上に交渉は無意味だと、素早く剣に手を伸ばすと居合によりシャロエッテの持っていた通信用魔石を両断してしまったのだ。
シャロエッテはとっさに反応するも、アレスが飛ばした斬撃により砕けた通信用魔石は地面に零れ落ちる。
「貴方……自分が何をしたか分かっているの?」
「シャロエッテさん……あなたに手を出したのはあくまで俺だ。こいつらは関係ない……」
「アレス君!」
「指名手配されようが何だろうが、俺はあんたを黙らせて彼女をこの国から逃がすことにしたよ」
「そう……残念ね」
アレスは左手に剣を持ち替えると、冷たい視線をシャロエッテに向けながら歩きだした。
そんなアレスを見たシャロエッテも戦闘が避けられないことを覚り真剣な眼差しをアレスに返す。
「殺しはしないが少しの間眠っていてもらいます……よっ!!」
(ッ!!速い!!)
直後、アレスは予備動作もなく飛び出すと、空間を切り取ったかのようにシャロエッテとの距離を潰す。
想像以上の速度に反応が遅れたシャロエッテの側面につけると、アレスは右手で鞘を掴むと思い切りシャロエッテの首めがけて鞘を振るったのだ。
しかし……
バシャァアアアン!!
「なにッ!?」
アレスが振るった鞘の軌道はシャロエッテの意識を刈り取るべく正確な軌道で彼女の首に命中した。
しかし鞘が当たったその瞬間、なんとシャロエッテの体が水に変化し鞘での一撃が通り抜けてしまったのだ。
「そういうタイプかよ!?おおっと!!」
「殺しはしないだなんて。あんなの当たったら十分死ねそうだけどね」
全身が水に変化したことでアレスの攻撃はシャロエッテを通り抜けた。
その直後液体となったシャロエッテの体から水の棘が無数に伸びアレスの体を貫かんとする。
敵の体が液体となる異常事態に虚を突かれつつもアレスは後方へ飛びその攻撃をかろうじて回避した。
「あっぶねぇ!俺じゃなかったら今ので死んでるぞ!」
「まあ、貴方なら多分躱すだろうと思ったから。それにあなたは手加減してどうにかなる相手じゃないでしょう?」
「液体化!?アレス!君じゃ相性が悪い!私が奴と……」
「引っ込んでろティナ。お前その傷浅くないだろ」
「そうね、ティナ様。できればそうやって大人しくしていてもらえると助かるわ」
「っ?」
「え、ティナさんあの人と知り合いなの?」
「いや、直接会ったことはないはずだが……」
「ティナさんは……有名人なのでシャロエッテさんが知っていても不思議じゃないでしょう」
「確かにそこの坊やの言う通り。この国でティナ様を知らない貴族の方が少ないと思うけれど……私は少し事情が違うのよ。ティナ様と戦いたくない理由もね」
一度シャロエッテと距離を取ったアレスにティナはアレスとシャロエッテとの相性を考え自分が戦うとアレスに提案する。
だがアレスはティナの傷を理由にそれを却下したのだ。
そしてティナが戦いの場にでることにシャロエッテ本人もなにやら都合が悪いような発言をしてみせる。
「お喋りはそろそろいいか?俺は早くおまえを倒してシャムザロールに行きたいんだ」
(この人から感じる気配……なんだか妙な感じがする……)
「そう焦らなくてもいいわ。戦いはちゃんと続いてるもの」
バゴオオオン!!
「よっと!」
「!?」
ティナたちと戦いを中断して会話に集中していたと思われたシャロエッテは、なんと自身の足の裏から水を地中に潜らせて、アレスの足元から棘の攻撃を仕掛けてきたのだ。
しかしアレスはそれを予見していたかのように回避し再びシャロエッテとの距離を詰める。
「相手が液体化のスキルってわかればどんな攻撃をしてくるのか大体想像できる」
「想像できても、対応できなければ意味がないでしょう!?」
「それはもう見てる」
「っ!!」
シャロエッテは突進してくるアレスに向かい、無数の水滴を飛ばす。
その水滴は一瞬で加速し弾丸の雨のようになってアレスに襲い掛かった。
だがアレスは過去にカブラバとの戦いで血の弾丸を飛ばす攻撃を見ている。
眉一つ動かさずにシャロエッテの攻撃を防ぎきると、今度は左手で握った剣で強烈な袈裟斬りを落としたのだ。
「くッ!」
「液体化も厄介だが反応もいいな」
アレスの神速の袈裟斬りに、シャロエッテは後方へ下がりながら液体化で回避した。
本来ならシャロエッテの胸を深く抉るはずだったその一撃も、彼女が液体化したことにより服を軽く引き裂くことしかできない。
シャロエッテは液体化のまま数歩ほど後退しアレスから距離を取る。
その胸元は先程のアレスの一撃により大胆にはだけ谷間が露出していた。
「わぁーー!!ジョージ君みちゃだめぇ!!」
「そ、ソシアさん!?そこどいてくださいよ!」
「ダメに決まってるでしょ!?アレス君も!なんでそんなにじっと見てるの!?」
「見るに決まってるだろ。一瞬でも敵から目を離せばその隙に何を飛ばされるか分かんねえんだからよ」
「っ!」
「それにこれも大事な情報だ。服が切れるってことは自分の体以外は液体化できない……つまり武器や地面を水に変えられる危険性は低いってことだ」
「正解よ。でも少しくらい顔を逸らしてくれてもいいんじゃない?」
捲れかけた布を抑えながら余裕のない笑みを浮かべるシャロエッテにアレスは視線を晒さず次の攻撃の体勢を整える。
(自分以外を液体化にできないならそんなに脅威はねえ……と言いたいところだけど、まだあの人から感じる妙な気配の正体がつかめてないんだよな。厄介なことになる前に速攻で決着をつけるか)
「あら?次はこっちが攻撃する番かしら?」
「いいや、時間がないんでもう終わりにさせてもらいますよ。俺たちは先を急いでいるんで」
「ふっ、ふふ……あらあらまあまあ。私、ずいぶん舐められちゃってるわね」
「ッ!?」
早くも勝ちを確信しシャロエッテを殺さず倒す方法を考えていたアレスだったのだが、そんなアレスの態度にシャロエッテは不気味に笑いながら猛烈な殺意を漏らしたのだ。
それはシャロエッテに負けるなどと微塵も考えていなかったアレスの表情に焦りの表情を取り戻させるほどの圧力。
「これでも私、冒険者ギルドの最高ランクの冒険者なのよ?ここはひとつ、大人の本気ってやつを見せてあげないといけないわね」
(なんだこの感じ……明らかにまずい!)
「伏せろぉお!!」
「首切り」
ザンッ!!
「きゃああ!!」
「くッ!?」
シャロエッテが右手の手刀を水平に構えたその時、アレスは背後でこの戦いを見ていたティナたちに伏せるよう叫ぶ。
その直後、シャロエッテが右腕を水平に走らせると同時に放たれた水の刃がアレスの背後にあった木を根こそぎ切り落としてしまったのだ。
「……ッ!」
直前で伏せたことでその攻撃を回避したアレスだったが、頭上すれすれを通過した水の刃の勢いにその表情が青白く変わる。
「っ!そうだわ。この近くには村があったわよね。通りがかった人が巻き込まれてないと良いのだけど」
「うそ……森の木が全部切り倒されて……」
「なんて威力と範囲だ」
「……ようやくわかりましたよ。あなたから感じてた妙な気配の正体」
「妙な気配?」
「アレス君、それは一体どういう……」
「ふふっ、うふふふふ!やっぱり貴方、ただ者じゃないわね」
ガォォオオオン……
「ッ!?」
周囲の木をなぎ倒し平然としていたシャロエッテに、アレスは今の一撃で彼女から感じていた妙な気配の答えを得る。
それはかつてスキルを暴走させて強大な力を振り撒いていたとある人物から感じたものと近しい気配……
「あなたのスキルは魔法系のものでも液体化系でもねぇ……精霊使いだ」
「あれはっ……」
アレスの反応を見たシャロエッテは、種明かしと言わんばかりに自身がその身に宿していた精霊を顕現させる。
それは膨大な魔力を帯びた水で全身を形成された虎の精霊。
ティナが使役する上位精霊【白銀妖狐】と同列に語られる”3大妖魔”の1体、水を司る【青藍妖虎】であった。
しかしシャムザロールとの国境に近い村に立ち寄ったそこで、ステラを捕らえるべく動いていた冒険者ギルドのシャロエッテに見つかってしまったのだ。
「一応確認しておくけれど、竜人族を発見した場合は速やかに王国軍に連絡しその後の対応は全て任せる……そう親や教師から習ってないのかしら?」
シャロエッテは冒険者ギルドの中でも最高ランクのパーティーのリーダーを務める人物。
穏やかな口調でそう訊ねながらも警戒を一切怠らないシャロエッテの立ち姿にアレスは静かに警戒を強める。
「それは知っています。竜人族が危険な種族だと言い伝えられていることも」
「ならなぜその子を連れているのか……」
「でも違うんです!」
「……違う?」
「竜人族は人間族に危害を加えるような存在じゃないんです!この国に彼女の居場所はない。だから人間の手が及ばないところに彼女を逃がしたいと考えているだけなんです!」
アレスはシャロエッテを刺激しないよう敵意がないことを態度で示しながらティナたちの前に立つ。
その行動の意図はシャロエッテと戦闘することになった際に皆を守れるように。
だが冒険者ギルドとの衝突はアレスの本意ではないため、まずは会話により見逃してもらえないかと試みた。
「見たところその子はまだ幼いわよね?竜人族の子供が人間の子供と内面は変わらなくても、大人になれば国1つを亡ぼすほどの危険な存在になるのよ」
「そうじゃないんです!そもそも竜人族が狂暴な種族であるという言い伝えが間違っている……いや、間違った情報を国が広めているんです!」
「……貴方、勘違いしてるみたいだけど。貴方達にその少女の引き渡しを拒否する権利はないのよ」
シャロエッテがそう言った瞬間、彼女が放つ空気が一変した。
彼女の放つ強力な魔力にアレスたちに緊張が走る。
「待ってください!王国軍にこの子を引き渡せば間違いなく殺されてしまう!」
「何を根拠にそう言ってるの?貴方の発言を信じるに値する証拠は?」
「証拠は……ない。でも竜人族の子供の角が不老不死の薬の材料になると言われていて、その薬を作るために国王が……」
「だから、証拠がないと言っているでしょう」
アレスは必死に説得を試みようとするのだが、シャロエッテは聞く耳を持とうとしない。
アレスを強く睨みつけたシャロエッテは懐に手を入れると通信用魔石を取り出す。
「大人しく私に従ってくれるなら竜人族の子供を庇おうとした件については便宜を図ってあげてもいいわ。とにかく私と一緒に来て貰……」
「はぁ……もう、仕方ないな」
「ッ!!??」
パリィイイン!!!
シャロエッテは竜人族の子供を発見したことについて王国軍か冒険者ギルドに連絡を入れようとする。
だがそれを見たアレスはこれ以上に交渉は無意味だと、素早く剣に手を伸ばすと居合によりシャロエッテの持っていた通信用魔石を両断してしまったのだ。
シャロエッテはとっさに反応するも、アレスが飛ばした斬撃により砕けた通信用魔石は地面に零れ落ちる。
「貴方……自分が何をしたか分かっているの?」
「シャロエッテさん……あなたに手を出したのはあくまで俺だ。こいつらは関係ない……」
「アレス君!」
「指名手配されようが何だろうが、俺はあんたを黙らせて彼女をこの国から逃がすことにしたよ」
「そう……残念ね」
アレスは左手に剣を持ち替えると、冷たい視線をシャロエッテに向けながら歩きだした。
そんなアレスを見たシャロエッテも戦闘が避けられないことを覚り真剣な眼差しをアレスに返す。
「殺しはしないが少しの間眠っていてもらいます……よっ!!」
(ッ!!速い!!)
直後、アレスは予備動作もなく飛び出すと、空間を切り取ったかのようにシャロエッテとの距離を潰す。
想像以上の速度に反応が遅れたシャロエッテの側面につけると、アレスは右手で鞘を掴むと思い切りシャロエッテの首めがけて鞘を振るったのだ。
しかし……
バシャァアアアン!!
「なにッ!?」
アレスが振るった鞘の軌道はシャロエッテの意識を刈り取るべく正確な軌道で彼女の首に命中した。
しかし鞘が当たったその瞬間、なんとシャロエッテの体が水に変化し鞘での一撃が通り抜けてしまったのだ。
「そういうタイプかよ!?おおっと!!」
「殺しはしないだなんて。あんなの当たったら十分死ねそうだけどね」
全身が水に変化したことでアレスの攻撃はシャロエッテを通り抜けた。
その直後液体となったシャロエッテの体から水の棘が無数に伸びアレスの体を貫かんとする。
敵の体が液体となる異常事態に虚を突かれつつもアレスは後方へ飛びその攻撃をかろうじて回避した。
「あっぶねぇ!俺じゃなかったら今ので死んでるぞ!」
「まあ、貴方なら多分躱すだろうと思ったから。それにあなたは手加減してどうにかなる相手じゃないでしょう?」
「液体化!?アレス!君じゃ相性が悪い!私が奴と……」
「引っ込んでろティナ。お前その傷浅くないだろ」
「そうね、ティナ様。できればそうやって大人しくしていてもらえると助かるわ」
「っ?」
「え、ティナさんあの人と知り合いなの?」
「いや、直接会ったことはないはずだが……」
「ティナさんは……有名人なのでシャロエッテさんが知っていても不思議じゃないでしょう」
「確かにそこの坊やの言う通り。この国でティナ様を知らない貴族の方が少ないと思うけれど……私は少し事情が違うのよ。ティナ様と戦いたくない理由もね」
一度シャロエッテと距離を取ったアレスにティナはアレスとシャロエッテとの相性を考え自分が戦うとアレスに提案する。
だがアレスはティナの傷を理由にそれを却下したのだ。
そしてティナが戦いの場にでることにシャロエッテ本人もなにやら都合が悪いような発言をしてみせる。
「お喋りはそろそろいいか?俺は早くおまえを倒してシャムザロールに行きたいんだ」
(この人から感じる気配……なんだか妙な感じがする……)
「そう焦らなくてもいいわ。戦いはちゃんと続いてるもの」
バゴオオオン!!
「よっと!」
「!?」
ティナたちと戦いを中断して会話に集中していたと思われたシャロエッテは、なんと自身の足の裏から水を地中に潜らせて、アレスの足元から棘の攻撃を仕掛けてきたのだ。
しかしアレスはそれを予見していたかのように回避し再びシャロエッテとの距離を詰める。
「相手が液体化のスキルってわかればどんな攻撃をしてくるのか大体想像できる」
「想像できても、対応できなければ意味がないでしょう!?」
「それはもう見てる」
「っ!!」
シャロエッテは突進してくるアレスに向かい、無数の水滴を飛ばす。
その水滴は一瞬で加速し弾丸の雨のようになってアレスに襲い掛かった。
だがアレスは過去にカブラバとの戦いで血の弾丸を飛ばす攻撃を見ている。
眉一つ動かさずにシャロエッテの攻撃を防ぎきると、今度は左手で握った剣で強烈な袈裟斬りを落としたのだ。
「くッ!」
「液体化も厄介だが反応もいいな」
アレスの神速の袈裟斬りに、シャロエッテは後方へ下がりながら液体化で回避した。
本来ならシャロエッテの胸を深く抉るはずだったその一撃も、彼女が液体化したことにより服を軽く引き裂くことしかできない。
シャロエッテは液体化のまま数歩ほど後退しアレスから距離を取る。
その胸元は先程のアレスの一撃により大胆にはだけ谷間が露出していた。
「わぁーー!!ジョージ君みちゃだめぇ!!」
「そ、ソシアさん!?そこどいてくださいよ!」
「ダメに決まってるでしょ!?アレス君も!なんでそんなにじっと見てるの!?」
「見るに決まってるだろ。一瞬でも敵から目を離せばその隙に何を飛ばされるか分かんねえんだからよ」
「っ!」
「それにこれも大事な情報だ。服が切れるってことは自分の体以外は液体化できない……つまり武器や地面を水に変えられる危険性は低いってことだ」
「正解よ。でも少しくらい顔を逸らしてくれてもいいんじゃない?」
捲れかけた布を抑えながら余裕のない笑みを浮かべるシャロエッテにアレスは視線を晒さず次の攻撃の体勢を整える。
(自分以外を液体化にできないならそんなに脅威はねえ……と言いたいところだけど、まだあの人から感じる妙な気配の正体がつかめてないんだよな。厄介なことになる前に速攻で決着をつけるか)
「あら?次はこっちが攻撃する番かしら?」
「いいや、時間がないんでもう終わりにさせてもらいますよ。俺たちは先を急いでいるんで」
「ふっ、ふふ……あらあらまあまあ。私、ずいぶん舐められちゃってるわね」
「ッ!?」
早くも勝ちを確信しシャロエッテを殺さず倒す方法を考えていたアレスだったのだが、そんなアレスの態度にシャロエッテは不気味に笑いながら猛烈な殺意を漏らしたのだ。
それはシャロエッテに負けるなどと微塵も考えていなかったアレスの表情に焦りの表情を取り戻させるほどの圧力。
「これでも私、冒険者ギルドの最高ランクの冒険者なのよ?ここはひとつ、大人の本気ってやつを見せてあげないといけないわね」
(なんだこの感じ……明らかにまずい!)
「伏せろぉお!!」
「首切り」
ザンッ!!
「きゃああ!!」
「くッ!?」
シャロエッテが右手の手刀を水平に構えたその時、アレスは背後でこの戦いを見ていたティナたちに伏せるよう叫ぶ。
その直後、シャロエッテが右腕を水平に走らせると同時に放たれた水の刃がアレスの背後にあった木を根こそぎ切り落としてしまったのだ。
「……ッ!」
直前で伏せたことでその攻撃を回避したアレスだったが、頭上すれすれを通過した水の刃の勢いにその表情が青白く変わる。
「っ!そうだわ。この近くには村があったわよね。通りがかった人が巻き込まれてないと良いのだけど」
「うそ……森の木が全部切り倒されて……」
「なんて威力と範囲だ」
「……ようやくわかりましたよ。あなたから感じてた妙な気配の正体」
「妙な気配?」
「アレス君、それは一体どういう……」
「ふふっ、うふふふふ!やっぱり貴方、ただ者じゃないわね」
ガォォオオオン……
「ッ!?」
周囲の木をなぎ倒し平然としていたシャロエッテに、アレスは今の一撃で彼女から感じていた妙な気配の答えを得る。
それはかつてスキルを暴走させて強大な力を振り撒いていたとある人物から感じたものと近しい気配……
「あなたのスキルは魔法系のものでも液体化系でもねぇ……精霊使いだ」
「あれはっ……」
アレスの反応を見たシャロエッテは、種明かしと言わんばかりに自身がその身に宿していた精霊を顕現させる。
それは膨大な魔力を帯びた水で全身を形成された虎の精霊。
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