106 / 132
2章
水神VS剣神
しおりを挟む
国境を超えるべくエメルキア王国南東地域にあるヤマーテ村付近に辿り着いたアレスたちの前に立ちふさがったのは冒険者ギルドの最高ランク、フルスターの称号を持つ冒険者シャロエッテ・ゼルナ。
彼女の攻撃を数度見たアレスがそのスキルの正体を見抜き、それに対しシャロエッテは答え合わせと言わんばかりに自身が使役する【青藍妖虎】を堂々と顕現させた。
「水と同性質の体を持つ青藍妖虎……それを使役する人間は自分を水に変化させられるんだな」
「ええ、その通りよ。虎の威を借るとはまさにこのことだけど、私の恐ろしさを少しは分かってくれたかしら?」
「そうですね……謝罪させてもらいますよ。あなたを簡単に突破できると侮ったことを」
「あなたの攻撃は私に通用しない。攻撃力も範囲もさっき見せた通り……今降参すれば私に刃を向けたことは許してあげるけど、どうするかしら?」
「はっ……冗談じゃねえ」
「っ!」
自身のスキルを明かすことでアレスに降伏を促したシャロエッテ。
だがそれを聞いたアレスは武器を収めるどころか闘志を燃やし不敵な笑みを浮かべたのだ。
「全部見たうえで負ける気がしねえよ。あんたが水神なら俺は剣神だ」
「剣神、ね……ふふ。冗談に聞こえないから恐ろしい」
「こっからは俺も本気だ……」
(っ!刀と鞘の二刀流……?)
闘志を煮えたぎらせるアレスは右手に剣を持つと、左手で鞘を逆さに持ちシャロエッテに見せつける様に両腕を軽く広げた構えを取った。
「ふっ!!」
(速い!!けど直線的、それに……)
「それはさっき見たわよ!!」
直後、アレスはシャロエッテに向けて再び神速の踏み込みを見せる。
だがそれは直線的なうえに先程1度見せた動き。
シャロエッテは動体視力ギリギリで捉えたアレスの動きに合わせ高速の水滴を飛ばして迎え撃つ。
スッ……ドドォオオオン!!!
「きゃああ!」
「あんな水滴1粒がなんて威力!?」
「……ッ」
瞬きする間に眼前に迫った水滴をアレスは右手で握った剣を縦に振るい両断した。
正確無比に両断された水滴は2つに分裂しアレスの後方に着弾する。
ゆび先程の大きさしかない水の塊であったが、それらはすさまじい音共に地面を大きく抉った。
(青藍妖虎と言えば私の白銀妖狐と同格の精霊、のはずだが……威力が桁違いだ)
そんなシャロエッテの攻撃を見たティナは自身との力量差に言葉を失う。
使役する精霊の格は同じなはず。
しかしティナは精霊使いとしての実力でシャロエッテに大きく劣っていることを痛感させられる。
(表情一つ変えずに私の攻撃をいなすなんて。でも、貴方じゃ私にダメージを与えることは……)
「俺の攻撃は効かないって高をくくってるんでしょう?」
「ッ!?」
バシャァアアアン!!
最短距離でシャロエッテに迫ったアレス。
再びアレスの間合いに入るも剣では自分に傷を負わせられないと考えていたシャロエッテだったのだが、アレスはそれを指摘すると左手に持っていた鞘の側面で思い切りシャロエッテの顔面を振り抜いたのだ。
無論そんな攻撃ではシャロエッテに決定打を与えることはできない。
アレスの一撃は液体化したシャロエッテの頭部を派手にぶちまけるだけにとどまった。
「ふ、ふふ。何かと思えば。あんなこと言うものだから何か小細工をしてくるかと……」
「おらぁ!!」
バシャァアアアン!!
「ッ!……だから、いくら物理攻撃をしても私には……」
「まだまだぁ!!」
バシャァアアアン!!
先程の一撃も一見何の意味もなかったかのように思えたのだが、アレスはそんなことお構いなしにシャロエッテの頭部に向けフルスイングを繰り返した。
「しつこいわね!!そんなこといくら繰り返しても無駄だって……」
バシャァアアアン!!
「ッ!!いい加減、離れなさいよ!!」
ドドドドォオオオン!!
「アレス君!!」
シャロエッテに張り付き無意味な攻撃を繰り返すアレス。
そんなアレスに苛立ちを隠し切れなくなったシャロエッテは無数の水滴を頭上にばら撒き、アレスに向けて高速で落下させる。
地面に打ち付けられた水滴は轟音と共にもの凄い土煙を巻き上げた。
(まあアレで終わるとは思ってないわ。一度距離を取って仕切り直し……)
「どこ見てんだ?」
「なッ!?」
バシャァアアアン!!
だがアレスはそんな攻撃をリスクが大きいシャロエッテの間近でいなしてみせると、もう何度目かのフルスイングを繰り出したのだ。
それは巻き上がった土煙を一振りですべて振り払ってしまうほどの豪快な振り抜き。
(こいつ……まさかッ!)
「そろそろ気が付きましたか?俺の体力が尽きるのが先か、あなたの魔力が尽きるのが先か勝負しましょうや」
「この……離れなさい!!」
ドドドォオオオン!!
「アレス君……なんでさっきから意味のない攻撃を繰り返してるの?」
「いえ、恐らくアレスさんは……シャロエッテ様に再生を強要させ魔力切れを狙っているのかと」
「再生を……強要?」
一瞬たりともシャロエッテから離れず水を吹き飛ばし続けるアレスに、ついにアレスの狙いに気が付いたシャロエッテはその表情に焦りの色を浮かべた。
「シャロエッテ様のような自身の体を別の物質に変化させられるスキルは基本的に”体積は変化させられない”んです
「体積を変化させられない?……待ってジョージ君!シャロエッテ様は明らかに人間の体よりも大きな水を出してるよ!?」
「それは通常の魔法と同様に魔力によって水を生成しているだけ。あの大量の水の中で”シャロエッテ様が変化した水”は一定の量しか存在していないはずです」
「そうだったのか。だがそれが今のアレスの戦い方と何か関係があるのか?」
「大ありです。確かに水に変化したシャロエッテ様にはいかなる物理攻撃も効かないでしょう。ですが核……と言っても実態が存在している訳ではないですが。その魔核から分離し距離が離れすぎた水はシャロエッテ様の肉体に戻る機能を失うんです」
体を水に変化させられるシャロエッテだが、その時変化した水は後から魔力で生み出した水とは大きな違いがあったのだ。
それは同じ水の性質を持ちつつも、元の体に戻ることができるか否かという重要なもの。
魔力の格となる部分が残っていればそれを消滅させられたとしても再生成することは可能ではあるが、純粋に魔力で水を生み出すよりもはるかに大量に魔力を消費してしまう。
それすなわち、単純に同質量の水を生成させるよりも圧倒的に多くの魔力が必要ということである。
(俺なら実体のない魔核を捉えることは可能だろうが、それはシャロエッテ様を殺すことになるからな。かなりしんどいがこれしか方法はねえ)
「粘着する男は嫌われるわよ!!離れなさいよ!!」
「ふッ!!でりゃぁ!!からの……だるま落としじゃぁ!!」
「ッ!!」
アレスの狙いに気が付いたシャロエッテはなんとしてでもアレスを引きはがそうと攻撃を苛烈なものにする。
だがアレスはそれを命からがら回避するとシャロエッテの体を削るべく剣を振り続けた。
そしてついに攻撃の隙間を縫いアレスのフルスイングがシャロエッテの腹部を捉える。
なんとかその一撃を液体化により回避するも、アレスの一振りはシャロエッテのローブを引きちぎりだるま落としのように腹部の水を吹き飛ばす。
「はぁ……はぁ……」
(まずい……こんなペースで再生させられることなんてなかったから魔力操作が……)
「ッ!?液体化が……」
「おらぁああ!!」
(あっ……躱せない。死ん……)
徐々に追いつめられるシャロエッテにアレスはさらに攻撃を加速させ腕や脚の水を削り取る。
ほとんど休む間もなく再生を繰り返した上に、アレスを引き剝がそうと激しい攻撃を繰り出していたシャロエッテ。
そうして魔力を短時間で激しく消耗しすぎたシャロエッテは液体化を維持することが出来なくなり、アレスが繰り出した顔面へのフルスイングを躱すことが出来なかった。
「なんてな」
「ぐぁああああ!!」
命を刈り取るフルスイングに死を覚悟したシャロエッテであったが、鞘が鼻先に触れる寸前、なんとアレスはギリギリでその攻撃を止めたのだった。
死のイメージが明確に頭を過り思考が停止してしまったシャロエッテに、アレスは鞘を手放すと肉体に戻っていたシャロエッテの腹部に空気を軽く握るようにして作った握りこぶしを添える。
そして次の瞬間、爆弾が爆ぜたような強烈なアレスの寸勁が完璧にシャロエッテを打ち貫いたのだ。
「ごはッ!!」
「うし。かなり良い調子だな」
アレスの寸勁を喰らいくの字に折れ曲がったシャロエッテは後方に吹き飛び勢いよく木に叩きつけられる。
そうして木の幹にもたれかかり項垂れたシャロエッテは立ち上がることが出来なかった。
「ごほっ……」
「さてと。シャロエッテ様、意識はありますよね?」
「わか、ってるわ……殺されても文句はないわ。一思いにやってちょうだい……」
「なんであなたを殺す必要があるんですか?」
「……?だって私を生かしておけば、あなたたちが竜人族の子供を庇っていることが王国軍に伝わるのよ?殺すしかないでしょ……」
「嫌ですよ。人助けをしようとしてるのになんでそのために誰かを殺さないといけないんですか。俺はちゃんと手加減できたか確かめるために声をかけただけですよ」
「……ッ!」
「ああ、でもステラちゃんを連れているのは俺だけってことにしてくれませんか?あいつらは無関係ってことで」
「……。そう……そうなのね。うふふふ……」
戦闘継続不可能となったシャロエッテは抵抗できないことを覚り止めを刺されることを受け入れる。
だがアレスはシャロエッテにとどめを刺すどころか彼女の無事を心配したのだった。
「どうしました?もしかして頭をぶつけて……」
「頭をぶっておかしくなったわけじゃないわ。ただ、ずっと感じていた疑問が解消されてとんだ無駄骨を折っちゃったなって思って」
「どういうことです?」
「竜人族の子供を連れ回してる人がいるって聞いた時はとんでもない無知な人か竜人族を利用してこの国を滅ぼそうとしてる危ない人かと思ったのだけど、貴方からはそんな雰囲気はちっとも感じられなかったから。負けてから言うのは違うと思うけど、貴方たちのこと見逃してあげてもいいわよ。もちろん王国軍にも冒険者ギルドにも言わない」
「っ!いいんですか!?」
「ええ。命を助けられた代わりとかじゃなくて、貴方の人柄が貴方の発言を信じる根拠に値するって思えたから」
「ありがとうございますシャロエッテ様!」
「いいから早く行きなさい。これだけ派手に暴れれば人が集まってきてもおかしくないわよ」
「おっとそうだった!それじゃあ失礼します。お前ら!早くここから移動するぞ!」
アレスとの戦闘を経て、アレスが竜人族の少女を連れている理由が無知さや邪悪さから来るものでないと理解したシャロエッテはアレスたちがステラを連れてシャムザロールへ行くことを黙認することにしたのだった。
そんなシャロエッテにアレスは深々と頭を下げ、ここに人が集まってこないうちに移動しようとソシアたちの元に駆け寄る。
「ふっ。それにしても、ちゃんと手加減できてるか、か……やっぱあの子ただ者じゃないわ」
そんなアレスの後ろ姿を眺めながら、シャロエッテは自身との力量差を考え思わず笑わずにはいられなかった。
彼女の攻撃を数度見たアレスがそのスキルの正体を見抜き、それに対しシャロエッテは答え合わせと言わんばかりに自身が使役する【青藍妖虎】を堂々と顕現させた。
「水と同性質の体を持つ青藍妖虎……それを使役する人間は自分を水に変化させられるんだな」
「ええ、その通りよ。虎の威を借るとはまさにこのことだけど、私の恐ろしさを少しは分かってくれたかしら?」
「そうですね……謝罪させてもらいますよ。あなたを簡単に突破できると侮ったことを」
「あなたの攻撃は私に通用しない。攻撃力も範囲もさっき見せた通り……今降参すれば私に刃を向けたことは許してあげるけど、どうするかしら?」
「はっ……冗談じゃねえ」
「っ!」
自身のスキルを明かすことでアレスに降伏を促したシャロエッテ。
だがそれを聞いたアレスは武器を収めるどころか闘志を燃やし不敵な笑みを浮かべたのだ。
「全部見たうえで負ける気がしねえよ。あんたが水神なら俺は剣神だ」
「剣神、ね……ふふ。冗談に聞こえないから恐ろしい」
「こっからは俺も本気だ……」
(っ!刀と鞘の二刀流……?)
闘志を煮えたぎらせるアレスは右手に剣を持つと、左手で鞘を逆さに持ちシャロエッテに見せつける様に両腕を軽く広げた構えを取った。
「ふっ!!」
(速い!!けど直線的、それに……)
「それはさっき見たわよ!!」
直後、アレスはシャロエッテに向けて再び神速の踏み込みを見せる。
だがそれは直線的なうえに先程1度見せた動き。
シャロエッテは動体視力ギリギリで捉えたアレスの動きに合わせ高速の水滴を飛ばして迎え撃つ。
スッ……ドドォオオオン!!!
「きゃああ!」
「あんな水滴1粒がなんて威力!?」
「……ッ」
瞬きする間に眼前に迫った水滴をアレスは右手で握った剣を縦に振るい両断した。
正確無比に両断された水滴は2つに分裂しアレスの後方に着弾する。
ゆび先程の大きさしかない水の塊であったが、それらはすさまじい音共に地面を大きく抉った。
(青藍妖虎と言えば私の白銀妖狐と同格の精霊、のはずだが……威力が桁違いだ)
そんなシャロエッテの攻撃を見たティナは自身との力量差に言葉を失う。
使役する精霊の格は同じなはず。
しかしティナは精霊使いとしての実力でシャロエッテに大きく劣っていることを痛感させられる。
(表情一つ変えずに私の攻撃をいなすなんて。でも、貴方じゃ私にダメージを与えることは……)
「俺の攻撃は効かないって高をくくってるんでしょう?」
「ッ!?」
バシャァアアアン!!
最短距離でシャロエッテに迫ったアレス。
再びアレスの間合いに入るも剣では自分に傷を負わせられないと考えていたシャロエッテだったのだが、アレスはそれを指摘すると左手に持っていた鞘の側面で思い切りシャロエッテの顔面を振り抜いたのだ。
無論そんな攻撃ではシャロエッテに決定打を与えることはできない。
アレスの一撃は液体化したシャロエッテの頭部を派手にぶちまけるだけにとどまった。
「ふ、ふふ。何かと思えば。あんなこと言うものだから何か小細工をしてくるかと……」
「おらぁ!!」
バシャァアアアン!!
「ッ!……だから、いくら物理攻撃をしても私には……」
「まだまだぁ!!」
バシャァアアアン!!
先程の一撃も一見何の意味もなかったかのように思えたのだが、アレスはそんなことお構いなしにシャロエッテの頭部に向けフルスイングを繰り返した。
「しつこいわね!!そんなこといくら繰り返しても無駄だって……」
バシャァアアアン!!
「ッ!!いい加減、離れなさいよ!!」
ドドドドォオオオン!!
「アレス君!!」
シャロエッテに張り付き無意味な攻撃を繰り返すアレス。
そんなアレスに苛立ちを隠し切れなくなったシャロエッテは無数の水滴を頭上にばら撒き、アレスに向けて高速で落下させる。
地面に打ち付けられた水滴は轟音と共にもの凄い土煙を巻き上げた。
(まあアレで終わるとは思ってないわ。一度距離を取って仕切り直し……)
「どこ見てんだ?」
「なッ!?」
バシャァアアアン!!
だがアレスはそんな攻撃をリスクが大きいシャロエッテの間近でいなしてみせると、もう何度目かのフルスイングを繰り出したのだ。
それは巻き上がった土煙を一振りですべて振り払ってしまうほどの豪快な振り抜き。
(こいつ……まさかッ!)
「そろそろ気が付きましたか?俺の体力が尽きるのが先か、あなたの魔力が尽きるのが先か勝負しましょうや」
「この……離れなさい!!」
ドドドォオオオン!!
「アレス君……なんでさっきから意味のない攻撃を繰り返してるの?」
「いえ、恐らくアレスさんは……シャロエッテ様に再生を強要させ魔力切れを狙っているのかと」
「再生を……強要?」
一瞬たりともシャロエッテから離れず水を吹き飛ばし続けるアレスに、ついにアレスの狙いに気が付いたシャロエッテはその表情に焦りの色を浮かべた。
「シャロエッテ様のような自身の体を別の物質に変化させられるスキルは基本的に”体積は変化させられない”んです
「体積を変化させられない?……待ってジョージ君!シャロエッテ様は明らかに人間の体よりも大きな水を出してるよ!?」
「それは通常の魔法と同様に魔力によって水を生成しているだけ。あの大量の水の中で”シャロエッテ様が変化した水”は一定の量しか存在していないはずです」
「そうだったのか。だがそれが今のアレスの戦い方と何か関係があるのか?」
「大ありです。確かに水に変化したシャロエッテ様にはいかなる物理攻撃も効かないでしょう。ですが核……と言っても実態が存在している訳ではないですが。その魔核から分離し距離が離れすぎた水はシャロエッテ様の肉体に戻る機能を失うんです」
体を水に変化させられるシャロエッテだが、その時変化した水は後から魔力で生み出した水とは大きな違いがあったのだ。
それは同じ水の性質を持ちつつも、元の体に戻ることができるか否かという重要なもの。
魔力の格となる部分が残っていればそれを消滅させられたとしても再生成することは可能ではあるが、純粋に魔力で水を生み出すよりもはるかに大量に魔力を消費してしまう。
それすなわち、単純に同質量の水を生成させるよりも圧倒的に多くの魔力が必要ということである。
(俺なら実体のない魔核を捉えることは可能だろうが、それはシャロエッテ様を殺すことになるからな。かなりしんどいがこれしか方法はねえ)
「粘着する男は嫌われるわよ!!離れなさいよ!!」
「ふッ!!でりゃぁ!!からの……だるま落としじゃぁ!!」
「ッ!!」
アレスの狙いに気が付いたシャロエッテはなんとしてでもアレスを引きはがそうと攻撃を苛烈なものにする。
だがアレスはそれを命からがら回避するとシャロエッテの体を削るべく剣を振り続けた。
そしてついに攻撃の隙間を縫いアレスのフルスイングがシャロエッテの腹部を捉える。
なんとかその一撃を液体化により回避するも、アレスの一振りはシャロエッテのローブを引きちぎりだるま落としのように腹部の水を吹き飛ばす。
「はぁ……はぁ……」
(まずい……こんなペースで再生させられることなんてなかったから魔力操作が……)
「ッ!?液体化が……」
「おらぁああ!!」
(あっ……躱せない。死ん……)
徐々に追いつめられるシャロエッテにアレスはさらに攻撃を加速させ腕や脚の水を削り取る。
ほとんど休む間もなく再生を繰り返した上に、アレスを引き剝がそうと激しい攻撃を繰り出していたシャロエッテ。
そうして魔力を短時間で激しく消耗しすぎたシャロエッテは液体化を維持することが出来なくなり、アレスが繰り出した顔面へのフルスイングを躱すことが出来なかった。
「なんてな」
「ぐぁああああ!!」
命を刈り取るフルスイングに死を覚悟したシャロエッテであったが、鞘が鼻先に触れる寸前、なんとアレスはギリギリでその攻撃を止めたのだった。
死のイメージが明確に頭を過り思考が停止してしまったシャロエッテに、アレスは鞘を手放すと肉体に戻っていたシャロエッテの腹部に空気を軽く握るようにして作った握りこぶしを添える。
そして次の瞬間、爆弾が爆ぜたような強烈なアレスの寸勁が完璧にシャロエッテを打ち貫いたのだ。
「ごはッ!!」
「うし。かなり良い調子だな」
アレスの寸勁を喰らいくの字に折れ曲がったシャロエッテは後方に吹き飛び勢いよく木に叩きつけられる。
そうして木の幹にもたれかかり項垂れたシャロエッテは立ち上がることが出来なかった。
「ごほっ……」
「さてと。シャロエッテ様、意識はありますよね?」
「わか、ってるわ……殺されても文句はないわ。一思いにやってちょうだい……」
「なんであなたを殺す必要があるんですか?」
「……?だって私を生かしておけば、あなたたちが竜人族の子供を庇っていることが王国軍に伝わるのよ?殺すしかないでしょ……」
「嫌ですよ。人助けをしようとしてるのになんでそのために誰かを殺さないといけないんですか。俺はちゃんと手加減できたか確かめるために声をかけただけですよ」
「……ッ!」
「ああ、でもステラちゃんを連れているのは俺だけってことにしてくれませんか?あいつらは無関係ってことで」
「……。そう……そうなのね。うふふふ……」
戦闘継続不可能となったシャロエッテは抵抗できないことを覚り止めを刺されることを受け入れる。
だがアレスはシャロエッテにとどめを刺すどころか彼女の無事を心配したのだった。
「どうしました?もしかして頭をぶつけて……」
「頭をぶっておかしくなったわけじゃないわ。ただ、ずっと感じていた疑問が解消されてとんだ無駄骨を折っちゃったなって思って」
「どういうことです?」
「竜人族の子供を連れ回してる人がいるって聞いた時はとんでもない無知な人か竜人族を利用してこの国を滅ぼそうとしてる危ない人かと思ったのだけど、貴方からはそんな雰囲気はちっとも感じられなかったから。負けてから言うのは違うと思うけど、貴方たちのこと見逃してあげてもいいわよ。もちろん王国軍にも冒険者ギルドにも言わない」
「っ!いいんですか!?」
「ええ。命を助けられた代わりとかじゃなくて、貴方の人柄が貴方の発言を信じる根拠に値するって思えたから」
「ありがとうございますシャロエッテ様!」
「いいから早く行きなさい。これだけ派手に暴れれば人が集まってきてもおかしくないわよ」
「おっとそうだった!それじゃあ失礼します。お前ら!早くここから移動するぞ!」
アレスとの戦闘を経て、アレスが竜人族の少女を連れている理由が無知さや邪悪さから来るものでないと理解したシャロエッテはアレスたちがステラを連れてシャムザロールへ行くことを黙認することにしたのだった。
そんなシャロエッテにアレスは深々と頭を下げ、ここに人が集まってこないうちに移動しようとソシアたちの元に駆け寄る。
「ふっ。それにしても、ちゃんと手加減できてるか、か……やっぱあの子ただ者じゃないわ」
そんなアレスの後ろ姿を眺めながら、シャロエッテは自身との力量差を考え思わず笑わずにはいられなかった。
0
あなたにおすすめの小説
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる