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2章
国境越え
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「シャロエッテ様ぁ!!」
アレスがシャロエッテとの戦闘を終えたほんの20分後。
まだアレスとの戦闘のダメージが抜けきっておらず木にもたれかかっていたシャロエッテのもとに、彼女がリーダーを務める冒険者パーティー”三つ葉の女神”のメンバーが駆けつけて来た。
「ん……ああ。皆、遅かったわね」
「遅かったじゃないですよ!何かあったら連絡をするって言ってたじゃないですか!」
「仕方がないじゃない。通信用魔石が壊されちゃったんだもん」
「……まさかシャロエッテ様。誰かに負けたんじゃ……」
「オルノ!!馬鹿なこと言うんじゃないわよ!シャロエッテ様がそう簡単に負けるわけないでしょ!」
「そうよ!シャロエッテ様が負けるなんて、それこそ総軍団長様クラスの人が相手じゃないと……」
「ふふっ。確かに彼ならあのお方にも匹敵するでしょうね。いや、もしかしたら……」
「っ!そんな……いったい誰が……」
「それにシャロエッテ様は無事でした。敵はあなたになぜとどめを刺さなかったので?」
「……」
「シャロエッテ様?」
「探せ!この辺りに居るはずなんだろう!?」
「な、なんだここ!?木がめっちゃ切り倒されてんぞ!?」
三つ葉の女神のメンバーはシャロエッテの敗北に動揺を隠せない様子であった。
絶対的な信頼のある自分たちのリーダーを負かした相手が誰か問いかける彼女たちに、シャロエッテはアレスたちの存在をどう隠そうかとしばしの間黙り込む。
だがその時竜人族の子供を狙う人攫いの集団がシャロエッテたちの前に姿を現したのだ。
「ふふ、ちょうどいいわ」
「シャロエッテ様!?動けないんじゃなかったんですか!?」
「まあ、万全じゃないけどあんな奴らに負けるほどボロボロでもないわ」
「なんだあいつら。おい女!命が惜しかったら俺たちの質問に答えてもらおうか」
「明らかに堅気じゃありませんね。我々も奴らを制圧……」
「大丈夫。私に任せて」
「え?ですが……」
「お願い。殺してもいい相手なら私も本当に全力が出せるから」
「っ!!」
竜人族の子供を探そうとシャロエッテたちから情報を引き出そうとする男たち。
だがそんな男たちの前に出たシャロエッテは手負いとは思えないほどの強烈な殺気を放ったのだ。
「な、なんだこの女……」
「お、おい!俺こいつ知ってるぞ!こいつまさか……」
「カッコ悪いけれど、あなた達には私のストレス解消に付き合ってもらうから。死んでも恨まないでね?」
シャロエッテがアレスに負けた腹いせに男たちに八つ当たりをしたその約1時間後。
ヤマーテ村から東に5kmほど離れた国境付近では、普段よりも厳重な警備でシャムザロールへ向かう人間を取り締まっていた。
「おい、交代の時間だぞ」
「ん?ふあ~、もうそんな時間か」
「ったく。気が緩み過ぎだぞお前たち。上官に知られればただじゃすまないぞ?」
「わかってるよ。でもあまりに平和過ぎて退屈なんだ。ほんとに警備を強化する必要があるのかね?」
「俺たちはそんなこと気にする必要はないんだ。命令通りシャムザロールへ向かう人間がいないか見張るだけだ」
「相変わらず真面目だねぇ……じゃあ、俺たちはそろそろ失礼させてもら……」
「ぐわぁ!!!」
「っ!?」
「な、なんだ!?」
国境の警備が強化されたのは昨日のこと。
丸1日以上トラブルも発生していなかったということで一部の王国軍の兵士たちの気が緩み始めてきた夕暮れ前の時間のことであった。
「誰だ貴様!!止まれぇ!!」
王国軍の兵士たちの前に謎の黒衣の男が現れたのだ。
その男は右手に太い棍棒を携え、左手でその棍棒で仕留めた兵士を引きずっていた。
「敵襲……敵しゅ……がぁ!?」
「なッ!?速……ごほッ!!」
突然の敵襲に兵士の1人がその事実を周囲に知らせるため声をあげようとしたのだが、彼が叫ぶより早く黒衣の男が間合いを詰めその棍棒で兵士を殴り飛ばしたのだ。
「こいつただ者じゃ……ぐはッ!!」
「なんなんだ……なんなんだよお前は!」
「俺は……ゲビア。盗賊団ゲビアの大幹部」
「なッ!?盗賊団ゲビアって言えばあの……ごはっ!!」
男と兵士たちの力量差は明白であった。
盗賊団ゲビアの大幹部を名乗った男は兵士たちに非常事態を報告させる間もなく20名ほどいた兵士たちを一瞬で全滅させてしまったのだ。
「ふぅ……よし、もういいぞお前ら」
「仕方ないとはいえ……よく躊躇なく王国軍の兵士を殴れるな君」
だが王国軍の兵士を全滅させた男は、一息つくと付近の茂みに向かって声をかけた。
その声を聞いて茂みから出てきたのはティナたち4人。
そう、なんと国境警備を行っていた王国軍の兵士を襲った黒衣の男の正体はアレスであったのだ。
「思ったよりも検問が厳しそうだったからな。もう全員で不法入国したほうが速いと思ってな」
「アレス君……この人たちは?」
「大丈夫だよ。全員気絶してるだけだ。たぶん……うん、きっと」
「なんでそんなに自信ないんですか?」
「仕方ないだろ。流石に棍棒なんて使ったの初めてなんだからよ」
検問の警備が厳しくなっていると予想したアレスは、当初自身とステラの2人だけでシャムザロールに不法入国する予定だったところを全員で行くことにしていたのだ。
その際テスクトーラで光芒神聖教会本部に侵入するときに来た黒の衣装を使用して正体を隠しつつ、武器も先程ベンサムの部下が持っていた棍棒を拝借しその罪を盗賊団ゲビアに擦り付ける算段であった。
「さあ、さっさと行くぞ。シャムザロールに入れば少なくとも王国軍からの追跡はなくなるだろうしな」
こうしてアレスたちは何とか無事に国境を突破しシャムザロールへ入ることが出来たのだ。
シャムザロールに入ればエメルキア王国の王国軍は途端に活動がしにくくなる。
冒険者ギルドであればシャムザロール内でも活動は可能だがエメルキア王国内程多くの人材をすぐに派遣できるわけではない。
(いいぞ……あの時能面を追い払ってから奴の気配を感じない。このまま国境付近から離れればまともな休息が取れそうだ……)
ここまでずっとアレスたちを尾行していた能面も深手を与えて撃退したことで、アレスは能面の気配を一切感じなくなっていた。
見かけ以上にシャロエッテとの戦闘で体力を消耗していたアレスは速やかに国境付近から離れて休息をとりたいと考えていた。
しかしこれまでの騒動のおかげでアレスは一度感じた空からの小さな違和感のことをすっかり忘れてしまっていたのであった。
アレスがシャロエッテとの戦闘を終えたほんの20分後。
まだアレスとの戦闘のダメージが抜けきっておらず木にもたれかかっていたシャロエッテのもとに、彼女がリーダーを務める冒険者パーティー”三つ葉の女神”のメンバーが駆けつけて来た。
「ん……ああ。皆、遅かったわね」
「遅かったじゃないですよ!何かあったら連絡をするって言ってたじゃないですか!」
「仕方がないじゃない。通信用魔石が壊されちゃったんだもん」
「……まさかシャロエッテ様。誰かに負けたんじゃ……」
「オルノ!!馬鹿なこと言うんじゃないわよ!シャロエッテ様がそう簡単に負けるわけないでしょ!」
「そうよ!シャロエッテ様が負けるなんて、それこそ総軍団長様クラスの人が相手じゃないと……」
「ふふっ。確かに彼ならあのお方にも匹敵するでしょうね。いや、もしかしたら……」
「っ!そんな……いったい誰が……」
「それにシャロエッテ様は無事でした。敵はあなたになぜとどめを刺さなかったので?」
「……」
「シャロエッテ様?」
「探せ!この辺りに居るはずなんだろう!?」
「な、なんだここ!?木がめっちゃ切り倒されてんぞ!?」
三つ葉の女神のメンバーはシャロエッテの敗北に動揺を隠せない様子であった。
絶対的な信頼のある自分たちのリーダーを負かした相手が誰か問いかける彼女たちに、シャロエッテはアレスたちの存在をどう隠そうかとしばしの間黙り込む。
だがその時竜人族の子供を狙う人攫いの集団がシャロエッテたちの前に姿を現したのだ。
「ふふ、ちょうどいいわ」
「シャロエッテ様!?動けないんじゃなかったんですか!?」
「まあ、万全じゃないけどあんな奴らに負けるほどボロボロでもないわ」
「なんだあいつら。おい女!命が惜しかったら俺たちの質問に答えてもらおうか」
「明らかに堅気じゃありませんね。我々も奴らを制圧……」
「大丈夫。私に任せて」
「え?ですが……」
「お願い。殺してもいい相手なら私も本当に全力が出せるから」
「っ!!」
竜人族の子供を探そうとシャロエッテたちから情報を引き出そうとする男たち。
だがそんな男たちの前に出たシャロエッテは手負いとは思えないほどの強烈な殺気を放ったのだ。
「な、なんだこの女……」
「お、おい!俺こいつ知ってるぞ!こいつまさか……」
「カッコ悪いけれど、あなた達には私のストレス解消に付き合ってもらうから。死んでも恨まないでね?」
シャロエッテがアレスに負けた腹いせに男たちに八つ当たりをしたその約1時間後。
ヤマーテ村から東に5kmほど離れた国境付近では、普段よりも厳重な警備でシャムザロールへ向かう人間を取り締まっていた。
「おい、交代の時間だぞ」
「ん?ふあ~、もうそんな時間か」
「ったく。気が緩み過ぎだぞお前たち。上官に知られればただじゃすまないぞ?」
「わかってるよ。でもあまりに平和過ぎて退屈なんだ。ほんとに警備を強化する必要があるのかね?」
「俺たちはそんなこと気にする必要はないんだ。命令通りシャムザロールへ向かう人間がいないか見張るだけだ」
「相変わらず真面目だねぇ……じゃあ、俺たちはそろそろ失礼させてもら……」
「ぐわぁ!!!」
「っ!?」
「な、なんだ!?」
国境の警備が強化されたのは昨日のこと。
丸1日以上トラブルも発生していなかったということで一部の王国軍の兵士たちの気が緩み始めてきた夕暮れ前の時間のことであった。
「誰だ貴様!!止まれぇ!!」
王国軍の兵士たちの前に謎の黒衣の男が現れたのだ。
その男は右手に太い棍棒を携え、左手でその棍棒で仕留めた兵士を引きずっていた。
「敵襲……敵しゅ……がぁ!?」
「なッ!?速……ごほッ!!」
突然の敵襲に兵士の1人がその事実を周囲に知らせるため声をあげようとしたのだが、彼が叫ぶより早く黒衣の男が間合いを詰めその棍棒で兵士を殴り飛ばしたのだ。
「こいつただ者じゃ……ぐはッ!!」
「なんなんだ……なんなんだよお前は!」
「俺は……ゲビア。盗賊団ゲビアの大幹部」
「なッ!?盗賊団ゲビアって言えばあの……ごはっ!!」
男と兵士たちの力量差は明白であった。
盗賊団ゲビアの大幹部を名乗った男は兵士たちに非常事態を報告させる間もなく20名ほどいた兵士たちを一瞬で全滅させてしまったのだ。
「ふぅ……よし、もういいぞお前ら」
「仕方ないとはいえ……よく躊躇なく王国軍の兵士を殴れるな君」
だが王国軍の兵士を全滅させた男は、一息つくと付近の茂みに向かって声をかけた。
その声を聞いて茂みから出てきたのはティナたち4人。
そう、なんと国境警備を行っていた王国軍の兵士を襲った黒衣の男の正体はアレスであったのだ。
「思ったよりも検問が厳しそうだったからな。もう全員で不法入国したほうが速いと思ってな」
「アレス君……この人たちは?」
「大丈夫だよ。全員気絶してるだけだ。たぶん……うん、きっと」
「なんでそんなに自信ないんですか?」
「仕方ないだろ。流石に棍棒なんて使ったの初めてなんだからよ」
検問の警備が厳しくなっていると予想したアレスは、当初自身とステラの2人だけでシャムザロールに不法入国する予定だったところを全員で行くことにしていたのだ。
その際テスクトーラで光芒神聖教会本部に侵入するときに来た黒の衣装を使用して正体を隠しつつ、武器も先程ベンサムの部下が持っていた棍棒を拝借しその罪を盗賊団ゲビアに擦り付ける算段であった。
「さあ、さっさと行くぞ。シャムザロールに入れば少なくとも王国軍からの追跡はなくなるだろうしな」
こうしてアレスたちは何とか無事に国境を突破しシャムザロールへ入ることが出来たのだ。
シャムザロールに入ればエメルキア王国の王国軍は途端に活動がしにくくなる。
冒険者ギルドであればシャムザロール内でも活動は可能だがエメルキア王国内程多くの人材をすぐに派遣できるわけではない。
(いいぞ……あの時能面を追い払ってから奴の気配を感じない。このまま国境付近から離れればまともな休息が取れそうだ……)
ここまでずっとアレスたちを尾行していた能面も深手を与えて撃退したことで、アレスは能面の気配を一切感じなくなっていた。
見かけ以上にシャロエッテとの戦闘で体力を消耗していたアレスは速やかに国境付近から離れて休息をとりたいと考えていた。
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