チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru

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堅物令息はデートに誘う

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「ホェェ~よく寝たぁ」

翌朝目覚めたローゼは何故かシーツをスリスリしています。
そしてベッドをギュッギュと押していますね。

「このベッド。柔らかいんだけど沈み込まない程よい固さなんだよねぇ。気持ちいい~」

時計をちらりとみると、2回転程ゴロゴロ。反対側にゴロゴロ。
どうやら宿屋のベッドを堪能しているようです。

「おっといけない。朝食は7時からって書いてあったわ。王都名物あるかなぁ~」

ワンピースに着替えるとパジャマをグイグイリュックにねじ込みます。
しかし途中で何かに気が付いたようです。

「いけない!日焼け止めと歯ブラシが奥にあるんだった!」

ねじ込んだパジャマを出してお目当てのものと取り出すと今度はパジャマをたたんでクルクル。
コンパクトにまとめてリュックの底に入れていきます。
最初からそうしようよ・・・。

顔を洗うために洗面室に行くと、ピキーンと固まります。

「こっこれは!!!!」

洗面台のわきにある籐籠を見て固まっています。

「歯ブラシ…うわっ固形石鹸じゃないの!フォォォォ~!ジャンプ―とトリートメント!!
持ってきたトラベルセットの意味が!王都って色々凄いわ…」

田舎では固形石鹸など使っていると言っただけで注目の的です。
紙に包まれた小さな1、2回分の石鹸をじぃぃぃ~っと見ていますが思わず歓声をあげます。

「えぇぇぇっ!お持ち帰りしていいの?すごぉぉい!!」

籐籠に貼り付けられた小さなメッセージカード。

【ご自由にお使いください。使い切れなかった分はお持ち帰り可能です。大容量タイプはインフォメーション横カウンターにて販売中】

おぉ、悶えておりますね。ブレませんよローゼ。流石です。
洗面室のたった5分で10話くらいの更新を作者にさせる気のようですがそうは問屋が卸しません。
はい、次行きますよローゼ!!

朝食もローゼを満足させるものばかり。

「くぅ~この真っ黒いヌードル。朝から濃いわぁ~♡流石王都!!」

全部を食べきろうと思ったビュッフェタイプの朝食ですが6割を制覇したところでお腹はパンパン。
あまり食べすぎると何かの衝撃で飛び出しそうです。

「ここまでね…ぬぅ!残念だけど…お持ち帰りは出来そうにないし見るだけで残りは勘弁してやるわ!」

食堂で見るだけ食事を十分に堪能して部屋に戻りガイドブックを開きます。
帰りの馬車の出立時間が16:05分ですのでそれまで行けそうなところに行く気ですね。

「えっとここは徒歩で30分かぁ‥‥こっちは15分だけど。道が複雑ねぇ…」

ガイドブックのマップには乗合馬車と徒歩の時間が書かれていますがローゼは母の言葉を思い出します。

【いいこと?王都は乗合馬車の時間は絶対なのです。遅れたら乗せてはもらえませんよ】

田舎では結構ルーズ。誰それが来るはずだと乗客が言えば30分程度なら待ってくれますし、走り出しても【おーい!待ってくれ!】と叫べば止まってくれます。
だけど馬車停での様子を到着時に見た限り、定刻になるとさっさと発車してしまってました。

【出発時刻の10分前にはお集まりください】

と幾つも看板があった事を忘れていません。

「と、なると‥‥15時30分には戻ってなきゃいけないわねぇ」

うーんっと考える事10分ほど。【よし。決めた】っと声をあげるとリュックを背負いインフォメーションに向かい会計を済ませると宿屋の玄関を出ます。

片手にガイドブック。右見て左見てガイドブック見て右見て…。
真っすぐ歩き出そうとすると声をかけられました。

「昨日のお嬢さん。いえ。ローゼ嬢。おはようございます」

名前を呼ばれたローゼはビックリしてキョロキョロとします。
そこには、満面の笑みをたたえた昨夜ぶりのレイ君が昨日とは違ったカジュアルな服装で手を振っています。
ペコリと頭を下げるとローゼはレイ君に走り寄ります。

「危ないですよ。大丈夫ですか」
「大丈夫ですわ。どうされましたの?こんな朝早くに」
「いえ、もし王都を観光されるのならご案内しようと思いまして」
「本当?…っとありがたいのですけど時間がありますの。ごめんなさい」
「時間?どなたかと待ち合わせですか」
「いいえ。このガイドブックのここと、ここと、ここと…ここ。あと時間が余ればここも行くんです」

その説明に思わずレイ君は冷や汗が流れます。
それもそのはず、皆様の世界でいうならば、新宿あたりからまず成田山に行ってその足で八景島で景色を見た後、東照宮に行って、スカイツリーでお買い物、最期に軽井沢でソフトクリームを食べた後、上野でパンダを見てからという軍隊でも1日じゃ絶対に無理という鬼の行軍工程です。

「あのローゼ嬢」
「なんですの?」
「はっきりと言いますが無理ですよ」
「えっ?」
「その工程ですと少なくとも移動時間も含めて4日は必要だと思います」
「そうなの‥‥」

肩を落としてシュンとするローゼを見てレイ君はまた胸がキュインとします。

「わたくしの別荘がありますから宿泊すればよいですよ」
「あ~それは無理ですわ」
「そ、そうですね。知り合ったばかりですし怖いですよね。失礼しました」
「ううん。そうじゃなくて16時05分発の馬車で帰るから無理なの」

ローゼはそう言ってまたガイドブックに目を落とします。
ブツブツと言いながらここならいけるかなぁと思案をしているようです。

「では馬車に間に合うような場所をご案内いたしますよ」
「いいの?でも‥‥大丈夫ですわ。レイ君の時間をとるわけにはいかないですもの」
「フフっ…とても美味しくて王都でしか食べられないスイーツもありますよ」
「本当?あ~どうしよう…」
「さぁ、行きましょう。迷った時は先ず行動です」
「そうなの?」
「えぇ」
「あの・・・今更なんだけど…レイ君は変な人じゃないですわよね?」
「ふふっ本当に…貴女と言う人は。教えてあげましょう。変な人は必ずこう返事をします」

「違いますよ‥‥ってね」

ふぇっ?っとしか声の出ないローゼ。

(どうしよう。って事はレイ君は変な人なんだわ…)

ローゼ。今更です。
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