チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru

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鳥籠から逃げた鳥

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ここは‥‥すんごく静かな部屋ですね。

男性が3名おりますが誰も言葉を発しません。
1人はドアの近くに立っています。
1人は執務机の椅子に腰かけています。
最後の人は座っている男性に向かい合うように立っています。

ジジジっとランプが音を立てていますがあまりに静かすぎて大きく聞こえるほどです。
突然その静寂を打ち消すように椅子に座った男性が机の引き出しを開け、書類を取り出しました。

ここはマーベル侯爵家。侯爵の執務室。ライドの父の執務室です。

「2か月前、王太子殿下の側近として国内領地の視察団として参加をしたな」
「はい」

「側近として正式に任命された事、そして3名の側近のうちお前を同行者として王太子殿下は指名をしてくれた。その意味は分かるか」
「はい、殿下が即位をされた際、最も殿下をお支えする第一人者としての布石とするためです」

「そうだ。側近は3名いる。それぞれの役割はあるが即位をされた後、何かがあった時、国王の代理を務めるという最も臣下として名誉のある立場となるという事だ」
「‥‥‥‥」

「お前が視察団として出発して、やっとソレミーロ侯爵から婚約了承の返事が来た」
「それは‥‥」

「だが、3日前、婚約はなかったことにと正式に断りの書状が届いた。何故だかわかるか」
「は、はい」

「そこまで興味も関心もなかったか‥‥9年と言う月日は長い。産まれたての子でも剣をふるえる年になる。その年月‥‥私は非常に残念でならない」

バサっと立っているライドに書類を突き付ける侯爵。

「謝罪をする相手を間違うとは…。一目でわかる状況だったそうだな。謝罪した夫人は髪を結っていたと聞いたが」
「それは!‥‥それは‥‥失念をしておりまして…その…」

「言い訳にもならん。この事は王妃様、王太后様の耳にも入ってしまった。しかしチョイス伯爵家は非公式の場だったと侯爵家をまたもや庇った。以前の事はなかったとしても侯爵家は伯爵家に借りを作ってしまった」

「父上…私は」
「側近を降りるか?」
「はい、そのように考えています」
「辞めてどうする」
「辺境を守る兵団に入ろうかと」
「つくづく…お前は自分に甘いな。殿下は側近から外さないと仰った」
「殿下が?何故です。私は殿下の顔に泥を塗ったも同じです。おそばにいるわけには…」
「何かお考えがあるのだろう。とにかく殿下が視察から戻るまでは謹慎だ。その間にきっちりと座学を学べ。二度とこのようなことがないように」
「わかりました」

☆~☆~☆~☆

宿泊先となった屋敷で昼食後の休憩をする王太子御一行。
窓の外では庭師が庭木を剪定しております

視察団には急遽、ギルが呼ばれております。
ライドと入れ替わりになったギルはライドの失敗に首を傾げます。
ギルも学園を卒業してからではありますが、何故チョイス伯爵家に謝罪をしたのかを知っています。

「殿下、非公式とはいえ少々ライドに甘いのではありませんか」
「そうだね。甘いかもしれない」
「ライドは学園時代にも失敗をしているのですよ」
「そうだね。しかもその失敗の上塗りが今回だ」
「判っていて何故です」

王太子殿下は宿泊先の屋敷の窓から外を眺めます。
庭木に巣を作った親鳥は雨の中ヒナに餌を運んできます。

「ギル、鳥籠に入れた鳥を空に放つとどうなると思う」
「えっ?」

突然話題を変えた殿下にギルは違和感を感じますが・・・

「手負いでない限りは‥‥諦めるしかないかと」
「それもあるよね。では手負いではないが飛び方を知らなかったら」
「はぁ…」
「飛べぬうちは籠に戻すのも容易い…だが飛び方を知ればどうなる」
「それは…もう捕まえられないかと」
「ライドはね、捨てたのさ。見栄えが悪いと…ね」
「まぁ、孵化したばかりでは親鳥と異なる鳥も多いですから」

「だが、大きくなればこうなると美しい鳥を見せられるとどう思うだろう。そしてその鳥が手を伸ばせば届く位置にいるとすれば」
「捕まえようと思うでしょうね」
「そうだね。欲深いからね」


短い沈黙の後、ギルには届かないような小さい声で呟きます。

「逃げた小鳥は美しくなって惜しいと思っても、もう捕まえられないと教えてあげないとね」

フフっと小さく王太子殿下は笑いました。
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