この度、変態騎士の妻になりました

cyaru

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突然の求婚

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目の前に現れた真っ黒で大きな馬。スタートゲートの中に入れるのかしらと思いつつ、枠番を確認したくなったのは跨っている男性の帽子の色が「こんな色あったかしら?」と思ったからでは御座いません。

もしかするとこのベンチ、予約済みだったのかしらと立ち上がりましたが、馬が邪魔です。
キャバクラのお姉さんたちのように頭頂部盛り盛り仕上げにはしておりませんが馬の腹の下をくぐるのは勇気が必要でございます。

どうしたものかと一旦ベンチに腰を掛けると、何やら激しい息遣いが聞こえます。

「ハァハァハァ…いけるか…俺…イケるのか…」

何処かでどなたかがこんな公園でエッチィ妄想でもされておられるのかしら?と先日兄の見ていた「濡れてるね。イケる奥さん」というタイトルのエッチ教本を思い出してしまいます。

兄も思春期を通りこしてもう数年。そんなものに興味を示すから婚約者が出来ないのですと叱ったのですが、興味を示さなくても婚約が結婚直前の目前で木っ端みじんとなったわたくしにはもう兄を叱る事は出来ません。

はぁと溜息を吐いて、顔をあげると目の前に男性が跪いてこちらを見ております。
大変に美麗な方では御座いますが、どうされたのでしょうか。
まさか!わたくしの真後ろで先程の激しい息遣いをされておられる方がいて、その方を凝視?
馬は行為を隠すための衝立になっているのでしょうか。
ならばこんな場所は早くに移動しなくてはわたくしまで変態の仲間入りです。

「エっ、エっ、エッ‥‥」

えっ?この方は何?兄のエッチィのは「アッアッ」だったと思いますがこの方はまさかの【え行】?
殿方が好むものはよく判りません。このままでは【う行】や【お行】の方が来られたら大変!
あ、でも【ぶ行】というものがあれば【奉行】だから助けて頂ける?
いえいえ、そんな都合よく片方の肩だけに桜吹雪のある殿方など現れません。
なにより【ぶ】は行ではなく【段】です。と言う事は存在しないもの。故に助けは来ないという事でしょう。

「エトランゼ‥‥」

えっ?誰?こんな極限に置かれた場でわたくしの名前を呼ぶ声が聞こえますが誰?
キョロキョロとしてみますが左右にはおられません。後ろは怖くて振り向けません。
こんな事ならこのベンチで一休みなどするのではなかった!

「あの…エトランゼ嬢」
「えっ?」

どうやら声の主は目の前の美麗な御仁のようです。
しかし、こんな美丈夫な方は一度見れば忘れないと思うのですがどなたでしょう?

「エッ…エトランゼ嬢…嫁になれ!」

えっ?「鳥になれ」とか「お前は木だろう」とかお芝居のお稽古では言うようですが「嫁」とはこれ如何に。
確かに女性ですから、「嫁」にはなれると思うのですがわたくしは何かのおけいこ中?

「これを‥‥受け取ってくれ!」

グイっと差し出されたのは何と見事な平城京ではありません。大きな宝石のついた指輪です。
新手のデート商法でしょうか…いえ、それは古いですわ。
まさか!オレオレ詐欺ではなくヨメヨメ詐欺?

「あの…どなたかとお間違いでは?」

恐る恐るではございますが話しかけてみました。隙あらば逃げませんといけませんし、目の前には馬、背後は交尾中とあれば巻き込まれ事故のようなもの。ですが世間は冷たいのです。
えぇ。婚約者に逃げられた令嬢の行く末など哀れなもの。これ以上落ちたくは御座いません。
破棄された上に馬と公然わいせつ現行犯の間に挟まれた女なんて醜聞以上の醜聞です。
そう思っていると突然手を握られます。

「俺と結婚してくれ。頼む。この通りだ!」

なんと!目の前で馬の腹の下に土下座をされてしまいました。
馬の腹で隠れて見えませんが、向こうにいる方は足が止まっているのは見えますので注目をされています。

「お願いだ!俺と!俺と結婚して俺の妻になってくれ!」
「あの‥‥それはいったい…どのような意図なのでしょう」
「糸も意図もない。ただっ!ただエトランゼ嬢!好きなんだ!結婚してくれ」

えーっと‥‥どうしたらいいんでしょう。
名前は確かにわたくしなのですが、目の前の方を存じ上げないのです。
ですが手を握って放してくれませんし、話もよく判りません。

「あのですね‥‥いきなり結婚とか妻とか言われましても…」
「わかった!なら付き合おう。俺と付き合ってくれ」

え?押し相撲をすればいいんですの?小さな円の中から出たら負けっていう?
いえ、あれは突き相撲?押し相撲?どっちでしたかしら。

「いえ、あの…突然にそう言われましても…」
「わかった!もうセフレでいい!頼む!俺の体を試してくれ!」

いえいえ、お待ちになって!
ますますギャラリーが集まっている中でそんな事を言われるとわたくしの次のお相手が本当に高齢の方とか変な趣味のある方とかに限定されてしまいます!

「わ、判りました。ですが…この場を…ンギャッ!!」
「嬉しいッ!念願叶った!この日の為に生きてきた!」

それは、ようございましたが‥‥とてつもなく苦しいです。
この方、かなり筋肉があるようで腕力が強ぅ御座います…死にそう…

酸欠になる寸前で離しては頂けましたが、わたくし肋骨折れてるのではないかしら。
いえ、肺の空気が全部抜かれただけかしら…くらくらします。

「気分が悪いようだね。送っていこう」

誰のせいだと思っているのかしら‥‥

「す、少し休めば…大丈夫ですので」
「なら、そこで休憩をしていこう」

指をさしておられますが、馬の腹でその先が見えません。
知らない人には付いていってはいけないのです。

「いえ、結構です…一人で帰れますので…」
「何を言ってるんだ。君を一人になど出来るものか!」

嬉しい言葉ではありますが、注目をされ過ぎているこの事態をなんと思われているのでしょう。
世間では公開処刑というのではないでしょうか。

ようよう立ち上がったわたくしは重い袋を抱えて歩こうとしましたが、袋を持ってくださるようです。罪滅ぼしというカテゴリーでしょうか。

馬の手綱を引かれて、何故かこの方わたくしの屋敷を知っておられるようです。
複雑で覚えにくい道順を間違われずに進んでおりますし、ぴったりと屋敷の前でついたと仰います。
そして屋敷の前まで来て、肝心な事に気が付きました。

「あの…お名前をお聞きしても?」
「な、名前‥‥俺の名は…俺の…名を知らない?えっ?いやまさか…」

こちらがまさかでございます。どちら様も何様も知りませんよ?

「俺の名を本当に知らない?俺の名を言ってみて!」

「えーっと‥‥ジャギ?」

白目になられたので違うようです。どういたしましょう…。
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