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妻の涙と夫の屍
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季節は11月。
庭のモミジも銀杏も色づいて、時折風に吹かれてハラハラと落ちております。
寒い日も多くなりましたが、今日は小春日和。
「アル様。お天気もいいですし今日は温かい日になりそうです。ご実家に参りましょう」
「嫌だ」
「何故で御座います?」
「もうすぐ休暇が明ける。無駄な時間を過ごしたくない」
困った方で御座います。直ぐに駄々を捏ね始めるのです。
結婚式も終わりもう3週間。本当ならば双方の実家と縁を取り持ってくださった王太子殿下、お時間があれば国王陛下や騎士団長様のところにもご挨拶に行かねばならぬというのに。
そんな中、通いの家令さんがお手紙が届いたと持ってきてくださいました。
畏れ多くも国王陛下と王太子殿下、それにアルベルト様の御親戚様からです。
結婚式に参列くださっておりましたので、引き出物はお持ち帰り頂きましたがそれとは別にお礼の品とお礼状を送りましたのでそのお返事のようです。
お礼状なのでお返事は望んでいなかったのですが、手紙が来ると嬉しくなるものです。
ですが、どのお手紙もわたくしに感謝をする内容ばかりです。
何故でしょう。王太子殿下とシャロン様に至っては積年の重荷から解放されたとの事。
やはり国を背負う方は違います。わたくしたちの結婚と同時に何か悩みが解消されたようでなによりです。
とにかくアルベルト様が休暇の間に双方の実家には出向かねばなりません。
なのでわたくしは今日こそはとお誘いをしているのです。
「アル様。公爵家に行った帰りに流行のカフェに行きたいのです」
「カフェ?何かあるのか?」
「とても可愛いケーキがあるそうなんです。店内限定のようなのでご一緒にと思いまして。婚約中もデートは出来ませんでしたでしょう?ですから行きたいなと思いまして」
「えっ…もう一度言ってくれないか」
「ですからカフェに一緒に行きたいなと思いまして」
「その前だ」
「公爵家の帰りに寄れたらなと…」
「それは巻き戻し過ぎだ」
「えっと…あ、ケーキは店内限定なのです」
「まだ巻き戻し過ぎだ」
――わたくしにチャプター機能は付いておりません!――
「もういいです。一人で行って参ります」
「それは無理だ」
いえ、それなりにお1人様は慣れておりますし、馬車は御者さんが動かしてくれます。
小さな子ではないのですよ?
「大丈夫です。公爵家とついでに実家の伯爵家に寄って参ります」
「ダメだ。どうしてもというのなら僕の屍を超えていけ」
――えっ?このお屋敷にプレイステーションはなかったと思いますが?――
しばしの沈黙が流れます。アルベルト様のお考えは読めませんが、わたくしは脳内で荷物の中にプレステがあったかを捜索し、もしやPSP版の俺の屍を超えていけ2かも知れないと考えたのです。
ですが、思考の方向性が違っていたようです。
そうですアルベルト様は【僕】。ゲームは【俺】一人称が異なります。
わたくしの早とちりでございました。
「一人で出かけて何かあったらどうするんだ?」
「大丈夫ですよ。馬車で行きますし」
「何っ?エトランゼは馬車が良かったのか?」
――距離がありますし、普通は馬車を使うでしょう?――
「えぇ。馬車なら安全に行きやすいですし…」
「わかった。妻の頼みなら全力で応えるのが夫の務めだ」
「では、ご一緒に」
「あぁ、いつも僕の方が先にイってしまうからな」
ちょっと発音が違う部分があったような気がしたのは【虫の知らせ】だったのでしょう。
馬車に乗るとアルベルト様はいつもは向かいにお座りになりますのに隣に座られます。
そして、馬車が動きだすとドレスの中に手を入れてくるではありませんか!
「なっ、何をなさるのです?!」
「どうして下着をつけているのだ」
いえ、お聞きしたいです。お出かけをするのにノーパンで出かける方がどうかしています。
それではただの痴女ではございませんか。
「ア、アル様‥‥お待ちくださいませ」
「大丈夫だ。直ぐに解してやる」
「いえ、そうではなくですね。どうして馬車の中で閨事を始めるのです?」
「誘ってくれるとは思わなかった。そんなに馬車でイキたいとは…夫の欲望を良く判っててくれて頭も下半身も昇天する寸前だ」
どうやらわたくしが言葉選びを間違えてしまったようです。
あぁ、発音が違う時点で気が付くべきでした。馬車の中で…馬車の中で…。
誰にもこんな事を言えません。惨めになって涙が出てしまいます。
「ヌワァッ!どうして泣いている?」
「だって!アル様が馬車の中で破廉恥な事をなさるから!」
手は止めてくださいましたが、じぃぃっとわたくしを見ておられます。
髪を撫でてくださいますが、視点は動いておりません。
「エトランゼ‥‥」
「何でございます?」
「涙を舐めさせてくれ…それで許してくれないか」
――涙って舐める物なの?やはり飾りじゃなかったのね!――
下着を下ろされるよりは舐められたほうがまだマシで御座います。
「わ、判りました…でも…」
「大丈夫だ。涙点から全部吸い取ってやる。そうすれば涙は出なくなるし僕は潤う」
――潤うほど吸い取られるの?!と言うか目を舐めるって事?――
「お、お待ちくださいませ。吸い取るのは嫌です」
「どうして?」
――どうして?何故そこで疑問形に?――
異様、いえ、不要な作麼生・説破をしていると公爵家に到着を致しました。
ご挨拶とお礼のつもりだったのですが、わたくしは公爵家の中でもアルベルト様以外は扉すら開けられないという【宝物殿】を目の当たりにするのでした。
庭のモミジも銀杏も色づいて、時折風に吹かれてハラハラと落ちております。
寒い日も多くなりましたが、今日は小春日和。
「アル様。お天気もいいですし今日は温かい日になりそうです。ご実家に参りましょう」
「嫌だ」
「何故で御座います?」
「もうすぐ休暇が明ける。無駄な時間を過ごしたくない」
困った方で御座います。直ぐに駄々を捏ね始めるのです。
結婚式も終わりもう3週間。本当ならば双方の実家と縁を取り持ってくださった王太子殿下、お時間があれば国王陛下や騎士団長様のところにもご挨拶に行かねばならぬというのに。
そんな中、通いの家令さんがお手紙が届いたと持ってきてくださいました。
畏れ多くも国王陛下と王太子殿下、それにアルベルト様の御親戚様からです。
結婚式に参列くださっておりましたので、引き出物はお持ち帰り頂きましたがそれとは別にお礼の品とお礼状を送りましたのでそのお返事のようです。
お礼状なのでお返事は望んでいなかったのですが、手紙が来ると嬉しくなるものです。
ですが、どのお手紙もわたくしに感謝をする内容ばかりです。
何故でしょう。王太子殿下とシャロン様に至っては積年の重荷から解放されたとの事。
やはり国を背負う方は違います。わたくしたちの結婚と同時に何か悩みが解消されたようでなによりです。
とにかくアルベルト様が休暇の間に双方の実家には出向かねばなりません。
なのでわたくしは今日こそはとお誘いをしているのです。
「アル様。公爵家に行った帰りに流行のカフェに行きたいのです」
「カフェ?何かあるのか?」
「とても可愛いケーキがあるそうなんです。店内限定のようなのでご一緒にと思いまして。婚約中もデートは出来ませんでしたでしょう?ですから行きたいなと思いまして」
「えっ…もう一度言ってくれないか」
「ですからカフェに一緒に行きたいなと思いまして」
「その前だ」
「公爵家の帰りに寄れたらなと…」
「それは巻き戻し過ぎだ」
「えっと…あ、ケーキは店内限定なのです」
「まだ巻き戻し過ぎだ」
――わたくしにチャプター機能は付いておりません!――
「もういいです。一人で行って参ります」
「それは無理だ」
いえ、それなりにお1人様は慣れておりますし、馬車は御者さんが動かしてくれます。
小さな子ではないのですよ?
「大丈夫です。公爵家とついでに実家の伯爵家に寄って参ります」
「ダメだ。どうしてもというのなら僕の屍を超えていけ」
――えっ?このお屋敷にプレイステーションはなかったと思いますが?――
しばしの沈黙が流れます。アルベルト様のお考えは読めませんが、わたくしは脳内で荷物の中にプレステがあったかを捜索し、もしやPSP版の俺の屍を超えていけ2かも知れないと考えたのです。
ですが、思考の方向性が違っていたようです。
そうですアルベルト様は【僕】。ゲームは【俺】一人称が異なります。
わたくしの早とちりでございました。
「一人で出かけて何かあったらどうするんだ?」
「大丈夫ですよ。馬車で行きますし」
「何っ?エトランゼは馬車が良かったのか?」
――距離がありますし、普通は馬車を使うでしょう?――
「えぇ。馬車なら安全に行きやすいですし…」
「わかった。妻の頼みなら全力で応えるのが夫の務めだ」
「では、ご一緒に」
「あぁ、いつも僕の方が先にイってしまうからな」
ちょっと発音が違う部分があったような気がしたのは【虫の知らせ】だったのでしょう。
馬車に乗るとアルベルト様はいつもは向かいにお座りになりますのに隣に座られます。
そして、馬車が動きだすとドレスの中に手を入れてくるではありませんか!
「なっ、何をなさるのです?!」
「どうして下着をつけているのだ」
いえ、お聞きしたいです。お出かけをするのにノーパンで出かける方がどうかしています。
それではただの痴女ではございませんか。
「ア、アル様‥‥お待ちくださいませ」
「大丈夫だ。直ぐに解してやる」
「いえ、そうではなくですね。どうして馬車の中で閨事を始めるのです?」
「誘ってくれるとは思わなかった。そんなに馬車でイキたいとは…夫の欲望を良く判っててくれて頭も下半身も昇天する寸前だ」
どうやらわたくしが言葉選びを間違えてしまったようです。
あぁ、発音が違う時点で気が付くべきでした。馬車の中で…馬車の中で…。
誰にもこんな事を言えません。惨めになって涙が出てしまいます。
「ヌワァッ!どうして泣いている?」
「だって!アル様が馬車の中で破廉恥な事をなさるから!」
手は止めてくださいましたが、じぃぃっとわたくしを見ておられます。
髪を撫でてくださいますが、視点は動いておりません。
「エトランゼ‥‥」
「何でございます?」
「涙を舐めさせてくれ…それで許してくれないか」
――涙って舐める物なの?やはり飾りじゃなかったのね!――
下着を下ろされるよりは舐められたほうがまだマシで御座います。
「わ、判りました…でも…」
「大丈夫だ。涙点から全部吸い取ってやる。そうすれば涙は出なくなるし僕は潤う」
――潤うほど吸い取られるの?!と言うか目を舐めるって事?――
「お、お待ちくださいませ。吸い取るのは嫌です」
「どうして?」
――どうして?何故そこで疑問形に?――
異様、いえ、不要な作麼生・説破をしていると公爵家に到着を致しました。
ご挨拶とお礼のつもりだったのですが、わたくしは公爵家の中でもアルベルト様以外は扉すら開けられないという【宝物殿】を目の当たりにするのでした。
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