20 / 33
第三章
鈍感
しおりを挟む*****
「真山さん、おはようございます」
「秋野さん! おはよう! 体調大丈夫だった?」
「はい、おかげさまですっかりよくなりました。先日はご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
「ううん、いいのいいの。秋野さんいっつも真面目だし仕事たくさん振っちゃってたから、きっと疲れちゃったんだろうねって皆心配してたくらいだよ。元気になって良かった」
「ありがとうございます」
月曜日、出勤して真山さんにお礼を告げた後、浅井さんの元へ行く。
「浅井さん」
「秋野さん、おはよう」
「おはようございます。あの、金曜日は大変ご迷惑をおかけしました。本当に助かりました。送っていただいただけじゃなくて飲み物とかプリンまで。ありがとうございました」
「全然、気にしないでいいよ。むしろ勝手にドアノブにかけてってごめんね。迷惑じゃなかった?」
「いえ、ありがたかったです。これ、お礼です」
「お礼? そんなの気にしなくていいのに」
浅井さんにお返しを渡すと、困ったような顔をしながらも
「ありがとう」
と受け取ってくれた。
日向に
"看病してくれてありがとう。無事に出勤できました"
とメッセージを送り、最近ゲットしたうさぎのスタンプも送ると、私も仕事を始める。
月曜日は発注や納品が多いためどうしても業務が多く忙しい。
日向にもお礼しないとなあ……。
そう思いつつも、時間がもったいなくてパソコンに集中した。
真山さんにはランチ代を私が払うことでお礼とさせてもらうことにした。
「そういうの別に気にしなくていいのに」
「だめです。こういうのはしっかりしておかないと。それに、部長から聞きました。真山さんが私の残した仕事全部捌いてくれたって」
「あぁ、あんなのいいのよ。困った時はお互い様でしょう?」
「ありがとうございます」
真山さんと一緒にパスタを食べていると、
「で? 例の彼とはあれからどんな感じなの?」
ニヤニヤした視線が正面から飛んでくる。
「いやぁ、それが……まだ返事はできてないんですけど……」
「けど?」
「風邪引いたって連絡したら来てくれて、金曜日から夜通し看病してくれたんです……」
「何それ!? めちゃくちゃ愛されてんじゃん!」
大興奮の真山さんが、根掘り葉掘り聞いてくる。
私も覚えている限りのことを話すと、
「それで付き合ってないとかなんなの? 生殺し状態じゃない! 早く返事しなさいよ」
とごもっともなことを言われる。
途中で日向からメッセージが来て、仕事終わりに電話することになってそれも真山さんにイジられた。
次はいつ会えるかな。そう思いながら会社に戻りマグカップを手に給湯室に向かうと、ばったり浅井さんと鉢合わせた。
「あれ、秋野さんもコーヒー?」
「はい」
「じゃあついでに淹れるよ、待ってて」
「すみません、ありがとうございます」
マグカップを渡すと、淹れたてのおいしそうなコーヒーが注がれた。
「この間の幼馴染って、男の人だったんだね」
「あぁ、はい。兄の親友なんです」
「そうなんだ。彼とは付き合ってるの?」
「え? あ……いや、付き合ってはいない……です」
結局まだ返事もできてないし。
早く会って言いたいのに。
そう思って首を横に振ると、浅井さんが私に向き直る。
「ふーん……じゃあ、まだ俺にも付け入る隙はあるよね? 秋野さんのこと口説いてもいい?」
「……え?」
「俺、結構前から秋野さんのこと、いいなって思ってたんだよね」
驚きすぎて、渡されたマグカップを落としそうになった。
浅井さんが、私のことを?
何かの間違いじゃなくて?
「え……えっと、え?」
「ははっ、動揺しすぎでしょ」
「だって、浅井さんが私のこと……え?」
「俺、どうでもいい子をわざわざ家まで送ったりしないよ」
「……」
「風邪引いてるからって、営業終わりに飲み物買って家まで届けるとか、普段なら絶対しない」
「それって……」
浅井さんは私の耳元に顔を近づける。
「今までもそれなりにアピールしてきたつもりなんだけどなあ……。秋野さん、鈍感すぎない? さすがに鈍すぎてイライラしてきたんだけど」
そして、私が硬直しているのをいいことに頬に手を添えた。
「秋野さんが今フリーなら、俺も頑張るから。だから、ちゃんと意識してよ」
「ちょ、浅井さん? やめてください……」
「いいじゃん。フリーなら口説いたって問題ないでしょ?」
「そういう問題じゃなくて……」
なんで、どうして。嫌だよ。
逃げたいのに。逃げなきゃいけないのに。絶対嫌なのに。
「浅井さん、待って、やめてくださいっ……」
「黙って」
ゆっくりと、確実に顔が近づいてきて。
日向……!
せめてもの抵抗で、目をぎゅっと瞑って手を浅井さんの顔の前に出した時。
「……さすがにその反応は傷付くなあ」
「……え……?」
困ったような言葉と共に手を取られたかと思うと、頬にひんやりとした柔らかい感触。
「……秋野さん、困らせてごめんね。でも、冗談とかじゃないから。少しは考えてくれると嬉しいよ」
ヒラヒラと手を振りながら去っていく浅井さん。
思わず頬を手で押さえて、立ちすくむ。
「なに……今、何が起こったの……?」
しばらく、そこから動くことができなかった。
25
あなたにおすすめの小説
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~
有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。
ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。
そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。
彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。
「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―
七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。
彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』
実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。
ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。
口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。
「また来る」
そう言い残して去った彼。
しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。
「俺専属の嬢になって欲しい」
ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。
突然の取引提案に戸惑う優美。
しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。
恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。
立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる