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3 リデル
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結局、父にはクラークと別れたことは話せなかった。
領地で謹慎処分となったジェレマイアの帰還を聞いて、そんなものは飛んでいってしまった。
そんなもの扱いしてしまった元恋人には申し訳ないけれど、もう関係ない相手だ。
だって、クラークが言ったのだ。
「お前が悪いんだよ、思ってたのと違うんだからな」
クラークからお前なんて言われたのは初めてだった。
知り合ってからずっと、名前や君と呼び掛けられていたのに、お前なんて偉そうに言われた。
クラークにとって、別れる女はどう扱ったっていいんだ。
そんな風にリデルは解釈した。
◇◇◇
それは昨日、クラークと最後に会った日。
お迎え無しで、カフェで待ち合わせしたクラークの隣には、リデルも仲が良かった先輩のシーナ・ワトリーが座っていた。
今日は会う前から別れ話になるかも、とは覚悟していた。
クラークが他の女性と会ってるみたい、と友人のエラ・ケールから聞かされたからだ。
別れ話がややこしい展開になるのを、彼は恐れているのだろうか。
シーナ先輩を同席させたくらいに。
何故なら、彼女はふたり共通の先輩だったから。
「別れたくない」とごねるリデルの説得要員として、同席をお願いしたのだろうか。
それでも、この場に無関係な人を呼ぶのは違う気がして。
しばらく動かなかったリデルの頭の中で、ゆっくりとパズルのピースが収まった。
あぁ、もしかしたら……このひとが……
わたしはもしかしたら、恋人と信頼していた先輩を。
ふたり同時に失ってしまうのね……
その後は、リデルが危惧していた通りの展開になった。
クラークはリデルと別れて、これからはシーナ先輩と結婚を前提に付き合う、と言った。
「わたしと先輩は……いつから被っていたの?」
クラークの文句のような言い分を、一方的に聞かされたリデルがようやく口にした言葉に、クラークが口元を歪ませた。
「言いたいことは、先ずそれか」
「……」
「お前は本当に、可愛げがない。
だから、俺は嫌になったんだ」
浮気をしていたくせに、一言も謝罪しないクラークが原因はリデルにあると言いたげなので、先輩の顔を見た。
この時点まで、彼女はずっと黙ったままだったが、リデルと視線を絡ませるとにっこり笑った。
それは、自分を慕っていた後輩から恋人を奪った女が浮かべる微笑みではない。
「リデル、間違えないでね、わたしが先なのよ」
「それ、どういう事ですか?」
「あなたよりずっと前からクラークと付き合っていたの。
で、わたしが先に卒業して、働きだしたら余裕もなくなって、ちょっと離れてたら、リデルと付き合っているみたいだって聞いて」
知らなかった。
リデルとクラークとシーナは、学園で同じクラブに所属していた。
1年先輩のシーナが在学中に、クラークと付き合っていたなんて。
「クラークは淋しかったのね、つい手近に居たあなたに手を出しただけ。
わたしも仕事が落ち着いてきてたし、会えばね、やっぱり戻るでしょう?」
「会えば、って。
どちらから会いたい、って?」
「えーっ、それ重要?
どっちだったかなぁ」
「……君だよ、シーナ」
そう言いながら隣に座るシーナの顔を覗き込むクラークの口調と声は甘く聞こえ。
そんなあからさまな態度を見せつける元恋人を、リデルは冷めた目で見ていた。
そうか、わたしは『お前』。
よりを戻した先輩は『君』。
なんて、わかりやすい男だろう。
このまま黙って別れを受け入れて、去るのもよかった。
だけど、可愛げがないと言われたのだ。
シーナの前で、ぶっちゃけても良いだろう。
「わたしがあんたの思っていたのと違う、と言うのはあれの事でしょう。
わたしがまだまだと、受け入れなかったから」
『お前』と言われたお返しに、初めて『あんた』と言ってやったら、案の定クラークは睨んできた。
「何度も君が欲しい、欲しいとお願いされるから、断るのが大変だった。
先輩とのお付き合いでは、それが当たり前だったんでしょうけど、盛りがついた動物みたい、って思ってた。
そう言うわけで、手近に居たから、と簡単に手なんか出させませんでしたけど?」
「お、お前!」
3人が向かい合っているのは、領都で人気のカフェだ。
流行りが好きなクラークは、別れ話をするのも、そんな店を選んだ。
若い女性客が多く寛いでいるこの場で、目立つ容姿をしたクラークが大声を出したので。
それでなくても、男ひとりで女ふたりと同席しているのは、修羅場になりそうな場面でもあったのに。
感情に任せて怒鳴ったクラークと、簡単にと言われて羞恥に赤く染まったシーナ。
平民であろうと、結婚前に純潔を守るのは当然とされている。
そして立ち上がったリデルは、周囲から注目されていた。
「お似合いね、あんた達」
注文したお茶には手をつけていない。
その代金をテーブルの上に置く。
「わたしをお前と呼んでいいのは、父だけなの。
クラーク、あんたもわたしが思っていたのと違う。
それはお互い様だから、元々縁が無かった、と恨みっこ無しにしましょう」
それだけ言って、リデルは店を出た。
領地で謹慎処分となったジェレマイアの帰還を聞いて、そんなものは飛んでいってしまった。
そんなもの扱いしてしまった元恋人には申し訳ないけれど、もう関係ない相手だ。
だって、クラークが言ったのだ。
「お前が悪いんだよ、思ってたのと違うんだからな」
クラークからお前なんて言われたのは初めてだった。
知り合ってからずっと、名前や君と呼び掛けられていたのに、お前なんて偉そうに言われた。
クラークにとって、別れる女はどう扱ったっていいんだ。
そんな風にリデルは解釈した。
◇◇◇
それは昨日、クラークと最後に会った日。
お迎え無しで、カフェで待ち合わせしたクラークの隣には、リデルも仲が良かった先輩のシーナ・ワトリーが座っていた。
今日は会う前から別れ話になるかも、とは覚悟していた。
クラークが他の女性と会ってるみたい、と友人のエラ・ケールから聞かされたからだ。
別れ話がややこしい展開になるのを、彼は恐れているのだろうか。
シーナ先輩を同席させたくらいに。
何故なら、彼女はふたり共通の先輩だったから。
「別れたくない」とごねるリデルの説得要員として、同席をお願いしたのだろうか。
それでも、この場に無関係な人を呼ぶのは違う気がして。
しばらく動かなかったリデルの頭の中で、ゆっくりとパズルのピースが収まった。
あぁ、もしかしたら……このひとが……
わたしはもしかしたら、恋人と信頼していた先輩を。
ふたり同時に失ってしまうのね……
その後は、リデルが危惧していた通りの展開になった。
クラークはリデルと別れて、これからはシーナ先輩と結婚を前提に付き合う、と言った。
「わたしと先輩は……いつから被っていたの?」
クラークの文句のような言い分を、一方的に聞かされたリデルがようやく口にした言葉に、クラークが口元を歪ませた。
「言いたいことは、先ずそれか」
「……」
「お前は本当に、可愛げがない。
だから、俺は嫌になったんだ」
浮気をしていたくせに、一言も謝罪しないクラークが原因はリデルにあると言いたげなので、先輩の顔を見た。
この時点まで、彼女はずっと黙ったままだったが、リデルと視線を絡ませるとにっこり笑った。
それは、自分を慕っていた後輩から恋人を奪った女が浮かべる微笑みではない。
「リデル、間違えないでね、わたしが先なのよ」
「それ、どういう事ですか?」
「あなたよりずっと前からクラークと付き合っていたの。
で、わたしが先に卒業して、働きだしたら余裕もなくなって、ちょっと離れてたら、リデルと付き合っているみたいだって聞いて」
知らなかった。
リデルとクラークとシーナは、学園で同じクラブに所属していた。
1年先輩のシーナが在学中に、クラークと付き合っていたなんて。
「クラークは淋しかったのね、つい手近に居たあなたに手を出しただけ。
わたしも仕事が落ち着いてきてたし、会えばね、やっぱり戻るでしょう?」
「会えば、って。
どちらから会いたい、って?」
「えーっ、それ重要?
どっちだったかなぁ」
「……君だよ、シーナ」
そう言いながら隣に座るシーナの顔を覗き込むクラークの口調と声は甘く聞こえ。
そんなあからさまな態度を見せつける元恋人を、リデルは冷めた目で見ていた。
そうか、わたしは『お前』。
よりを戻した先輩は『君』。
なんて、わかりやすい男だろう。
このまま黙って別れを受け入れて、去るのもよかった。
だけど、可愛げがないと言われたのだ。
シーナの前で、ぶっちゃけても良いだろう。
「わたしがあんたの思っていたのと違う、と言うのはあれの事でしょう。
わたしがまだまだと、受け入れなかったから」
『お前』と言われたお返しに、初めて『あんた』と言ってやったら、案の定クラークは睨んできた。
「何度も君が欲しい、欲しいとお願いされるから、断るのが大変だった。
先輩とのお付き合いでは、それが当たり前だったんでしょうけど、盛りがついた動物みたい、って思ってた。
そう言うわけで、手近に居たから、と簡単に手なんか出させませんでしたけど?」
「お、お前!」
3人が向かい合っているのは、領都で人気のカフェだ。
流行りが好きなクラークは、別れ話をするのも、そんな店を選んだ。
若い女性客が多く寛いでいるこの場で、目立つ容姿をしたクラークが大声を出したので。
それでなくても、男ひとりで女ふたりと同席しているのは、修羅場になりそうな場面でもあったのに。
感情に任せて怒鳴ったクラークと、簡単にと言われて羞恥に赤く染まったシーナ。
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そして立ち上がったリデルは、周囲から注目されていた。
「お似合いね、あんた達」
注文したお茶には手をつけていない。
その代金をテーブルの上に置く。
「わたしをお前と呼んでいいのは、父だけなの。
クラーク、あんたもわたしが思っていたのと違う。
それはお互い様だから、元々縁が無かった、と恨みっこ無しにしましょう」
それだけ言って、リデルは店を出た。
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