【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi

文字の大きさ
2 / 48

2 デイヴ

しおりを挟む
 若様がお戻りになる。


 その知らせを教えてくれたのは、看護士のエラ・ケールだった。


 デイヴ・カーターはイングラム私設騎士団医療部の治療士、エラは看護士なので、年齢は離れているが同僚として、以前からお互いの持つ秘匿を要する以外の情報等を雑談することが多かった。

 それ故、エラは教えてくれたのだ。
 彼女の情報源は、本邸のメイドだと思われた。



 王都で醜聞にまみれ、次期領主の資格を失ったとされる若様……否、ご長男のジェレマイア様の部屋が本邸2階のご領主様の部屋から遠く離れた客室に代わる、という話も付け足して教えられた。


 それに加えて、エラは更に声を潜めた。


「明日の夜中に入られる、そうですよ」

「……日中ではなく、夜中に?」

「そんなに皆の目が気になるのでしょうか。
 若様だってお若いんですから、つい他の女性にフラフラすることもあると思うんですよね。
 隣領との婚約が破棄されたから、って……
 後継から外す程の事なんでしょうか……」

「……お決めになられたのは、ご領主様だ」


 エラは、若い男が婚約者以外の女に浮気をしても仕方がない、と思っているのか。
 彼女と同年代の娘リデルもそうなのだろうか、とデイヴはぼんやりと考えた。



 エラ、知っているか。
 浮気心を持つ男に年齢は関係ない。

 愛する女性を裏切って1度浮気をした男は、これからも機会があれば繰り返す事が多いんだ、と言いたいが、今話題にされているのは、元後継者のジェレマイアだ。
 この場でエラに言うことではない。



「若様が次期ご領主様じゃないなら、次は誰になるんですかね?」


 その問いに、デイヴは言葉にして答えることなく、掌をエラに向けて「これ以上、この話はするな」と制した。


 イングラム伯爵の正妻から生まれた嫡子はジェレマイアだけで、愛人とその娘は別邸に居るが、庶子は爵位を継げない。
 つまり血縁のある家からの養子を迎えて継がせるのだろうが、それこそここで話す内容ではない。
 


 デイヴの無言の動作に、エラもこの件に関しては話すことを止めたようだった。
 エラはリデルの友人で、デイヴの同僚でもある。
 噂話はよく聞かせてくれるが、それは情報に疎いデイヴを気遣ってだろう。
 エラ本人はそれ程、噂に夢中になるタイプではないのだ。




 それにしても、とデイヴはジェレマイアについて思うところもある。


 王子殿下と共に女生徒に誘惑された?


 お目通りをした事もない第2王子がどのような人物なのか、デイヴには知るよしもないが、ジェレマイアの事なら知っている。

 いや、わかっている。
 だから今回の醜聞には、納得出来ていない。


 幼い頃から貴族学院入学前の12歳まで、ジェレマイアを見てきた。
 騎士団医療部の治療士デイヴはイングラム本邸で毎日勤務しているが、怪我人や病人が出ない限り駆り出されることはなく、その勤務時間の大方は待機状態であった。

 それ故5歳を過ぎてから騎士団の基礎訓練に混ざるようになり、毎日小さな身体に小さな傷を負うようになったジェレマイアの治療に当たる事が増え、自然と若様との交流が始まって、その為人も知るようになった。

 つまり、婚約者が出来、思春期を迎え、王都邸で生活するようになったジェレマイアとは、彼が帰省する夏と年越しの年に2回顔を合わせるだけとなってしまったが、その時に交わした言葉や様子からは、簡単に誘惑されて乗ってしまうような徴候は見られなかった。

 何より、噂によると。
 その女生徒にはジェレマイアと第2王子以外にも相手が居て、学院の高位貴族令息達の何人かで共有していた、という。


 そんな馬鹿な話があるか、と思う。


 婚約者以外に心を奪われたのが、ただひとりの相愛の女性だったなら、渋々受け入れられた話だが。


 何人もの男と、身持ちの悪い1人の女を共有?
 有り得ない。
 どうしてそんな話になる?


 
 デイヴは、他に話題を変えたエラに適当に相槌を打ちながら、思う。


 もし、ジェレミー様に婚約していたカートライト伯爵令嬢以外の『ただひとり』が居るのなら。
 
 それは、娘のリデル以外に有り得ないだろうに、と。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】一途すぎる公爵様は眠り姫を溺愛している

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
リュシエンヌ・ソワイエは16歳の子爵令嬢。皆が憧れるマルセル・クレイン伯爵令息に婚約を申し込まれたばかりで幸せいっぱいだ。 しかしある日を境にリュシエンヌは眠りから覚めなくなった。本人は自覚が無いまま12年の月日が過ぎ、目覚めた時には父母は亡くなり兄は結婚して子供がおり、さらにマルセルはリュシエンヌの親友アラベルと結婚していた。 突然のことに狼狽えるリュシエンヌ。しかも兄嫁はリュシエンヌを厄介者扱いしていて実家にはいられそうもない。 そんな彼女に手を差し伸べたのは、若きヴォルテーヌ公爵レオンだった……。 『残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました』『結婚前日に友人と入れ替わってしまった……!』に出てくる魔法大臣ゼインシリーズです。 表紙は「簡単表紙メーカー2」で作成しました。

白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。 だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。 異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。 失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。 けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。 愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。 他サイト様でも公開しております。 イラスト  灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】見えてますよ!

ユユ
恋愛
“何故” 私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。 美少女でもなければ醜くもなく。 優秀でもなければ出来損ないでもなく。 高貴でも無ければ下位貴族でもない。 富豪でなければ貧乏でもない。 中の中。 自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。 唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。 そしてあの言葉が聞こえてくる。 見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。 私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。 ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。 ★注意★ ・閑話にはR18要素を含みます。  読まなくても大丈夫です。 ・作り話です。 ・合わない方はご退出願います。 ・完結しています。

処理中です...