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5 ジェレマイア
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今の俺の状態は周囲から見れば、凋落と呼ばれるものなのかもしれない、と彼は思った。
しかし、彼本人はそう思っていなかった。
反対に、良い方向に舵を切れた、と思っているくらいだ。
決して、ヤラカシてしまった事を後悔していない。
彼……ジェレマイア・コート・イングラム。
考えに考えた末の選択が、自分が人々から軽蔑され、嗤われ、貶められ、哀れられている現状を招いているのだが。
ジェレマイアは、ミネルヴァに誘惑されて全てを失った事を、後悔していない。
◇◇◇
貴族学院高等部の最終学年が始まった。
後は適当に定期試験を受け、教師の指導通りに行動し、何も問題を起こさずに来年6月頭の卒業を迎えれば、この国の貴族の資格を手に出来る。
そのはずだった。
去年からその風はあちらこちらで吹いていたようだが、とうとう春先からジェレマイアの身近な所で、小さな竜巻が発生するようになった。
元平民の男爵令嬢ミネルヴァ・ロバーツ。
恵まれた環境で美しく整えられた女生徒達の中でも、ひと際目を引くその美貌。
陽光を受けてキラキラと光る金髪と。
それ以上に輝く淡いブルーの瞳。
彼女の瞳はいつも何かを探しているようで、意味ありげで落ち着きが無かったが、それが魅力なんだとばかりに
「貴族令嬢らしからぬ危うさに目が離せなくなる」と愛おしそうに話していたのは、第2王子の取り巻きの中で1番最初に彼女に堕ちた侯爵家の次男だったか。
ミネルヴァから目が離せない、と珍しく熱く語った武骨で無口な彼は。
婿入りするはずだった辺境伯家に婚約を破棄されてから目が覚めて、自ら勘当を願い出て平民となり、退学して他国へ渡った。
その次は、誰だった?
そうだ、筆頭公爵家の跡取りで、テリオス殿下の従兄弟。
そいつは国王陛下の甥という身分をひけらかす、実に鼻持ちならない野郎で、常々「下位貴族の娘なんて、簡単過ぎる馬鹿ばかり」と下劣な本性をさらけ出してほざいていたのに。
男爵家のミネルヴァの手の内で滑稽なくらいコロコロと転がされていた。
その結果、公爵家の後継者の地位は弟のものになったが、それでも
「これでうるさく言われることは無くなって、ミネルヴァを娶れる!」と叫んだと聞いたが、うるさく言われることは無くなったと同時に、ミネルヴァからの愛情も無くなって。
父親から縁切りはされなかったが、今では誰にも相手にされずに卒業を待つだけの姿を晒している。
そんな惨めな従兄弟の姿を、第2王子テリオスが嘲笑う。
彼は温厚な王子の仮面を被った腹黒だ。
「あぁー、ムカつくあの馬鹿が居なくなって、少しは風通しが良くなったな?」
人には言えない闇を抱えた王子様は、何故だかジェレマイアを同類だと見破って、他に誰も居なければ、本音を口にする。
が、それも本音のようにこちらに思わせたいだけで、彼の誠がそうなのかはジェレマイアにもわからない。
「クソ真面目なケインは哀れだったが、ゴードンを堕としてくれたのは、あれは使える女だな」
哀れなケインは婚約破棄された侯爵家の次男、ゴードンは『ムカつくあの馬鹿』と言われた公爵家の従兄弟の名前だ。
あれと言うのは、ミネルヴァ・ロバーツの事だろう。
ケインの家は中立派だが、ゴードンの筆頭公爵家は第1王子に近い家門だ。
同い年だったから、ゴードンはテリオスと行動を共にしていたが、時々彼に対して見下す様な物言いをしていた。
それをテリオスは聞き流していたので、ゴードンはますます不遜になっていったが、テリオスは敢えてそれを狙っているようにジェレマイアには見えていた。
もしかしてミネルヴァは、公爵家の醜聞を狙った第2王子支持派閥が用意したハニートラップ要員なのだろうか。
そうでもなければ、学院のトップ階級の貴族子息を2人も堕落させ、今も男子生徒を周囲に侍らして学院内の風紀を乱す男爵令嬢ふぜいが、退学処分になっていないのは説明がつかない。
まぁ、ややこしくも華麗なる王族達の争いには、たかが地方伯爵家の俺は関係無いから、勝手にやってろ、とそれ以上は想像することも止めたジェレマイアに、テリオスは見慣れた柔和な作り笑いを見せた。
「なぁ、マイア。
あれの次の狙いは俺だと皆は期待しているだろうが、お前も1枚噛まないか?」
「……内容によっては、検討させていただきますが」
皆の前では私と言うテリオスは、ジェレマイアの前では俺と言う。
相手によって装う親密さを変える彼がまるで透明な鎧をまとっているようで、ジェレマイアはテリオスには心を許せない。
「検討ねぇ……お前には前々から冷めたところがあるとは分かっていたけれど、夏休み明けに戻ってきてからは、ほとんど投げやりになっているだろ。
イングラムで何かあったのか?」
「……」
リデルの事を、テリオスにも誰にも話した事はない。
ましてや今回の帰省で聞かされた、彼女と親しくしている男の話など、未だにジェレマイアの中では処理出来ていないのに、物のついでのように聞かれても……
なのに、こちらを見透かすようなことを言って揺さぶりをかけて、白々しく相談をするかのように見せかけて。
己の計画にジェレマイアを引き込む事を、テリオスは決めている。
だが例え命じられても、自分ひとりが負ける手札を引かされるのは業腹なジェレマイアは、「内容によっては」と答えたが、よくよく考えてから返事をする事にした。
そして勿論テリオスからの領地で何かあったのか、の問いに答える気は、さらさら無い。
しかし、彼本人はそう思っていなかった。
反対に、良い方向に舵を切れた、と思っているくらいだ。
決して、ヤラカシてしまった事を後悔していない。
彼……ジェレマイア・コート・イングラム。
考えに考えた末の選択が、自分が人々から軽蔑され、嗤われ、貶められ、哀れられている現状を招いているのだが。
ジェレマイアは、ミネルヴァに誘惑されて全てを失った事を、後悔していない。
◇◇◇
貴族学院高等部の最終学年が始まった。
後は適当に定期試験を受け、教師の指導通りに行動し、何も問題を起こさずに来年6月頭の卒業を迎えれば、この国の貴族の資格を手に出来る。
そのはずだった。
去年からその風はあちらこちらで吹いていたようだが、とうとう春先からジェレマイアの身近な所で、小さな竜巻が発生するようになった。
元平民の男爵令嬢ミネルヴァ・ロバーツ。
恵まれた環境で美しく整えられた女生徒達の中でも、ひと際目を引くその美貌。
陽光を受けてキラキラと光る金髪と。
それ以上に輝く淡いブルーの瞳。
彼女の瞳はいつも何かを探しているようで、意味ありげで落ち着きが無かったが、それが魅力なんだとばかりに
「貴族令嬢らしからぬ危うさに目が離せなくなる」と愛おしそうに話していたのは、第2王子の取り巻きの中で1番最初に彼女に堕ちた侯爵家の次男だったか。
ミネルヴァから目が離せない、と珍しく熱く語った武骨で無口な彼は。
婿入りするはずだった辺境伯家に婚約を破棄されてから目が覚めて、自ら勘当を願い出て平民となり、退学して他国へ渡った。
その次は、誰だった?
そうだ、筆頭公爵家の跡取りで、テリオス殿下の従兄弟。
そいつは国王陛下の甥という身分をひけらかす、実に鼻持ちならない野郎で、常々「下位貴族の娘なんて、簡単過ぎる馬鹿ばかり」と下劣な本性をさらけ出してほざいていたのに。
男爵家のミネルヴァの手の内で滑稽なくらいコロコロと転がされていた。
その結果、公爵家の後継者の地位は弟のものになったが、それでも
「これでうるさく言われることは無くなって、ミネルヴァを娶れる!」と叫んだと聞いたが、うるさく言われることは無くなったと同時に、ミネルヴァからの愛情も無くなって。
父親から縁切りはされなかったが、今では誰にも相手にされずに卒業を待つだけの姿を晒している。
そんな惨めな従兄弟の姿を、第2王子テリオスが嘲笑う。
彼は温厚な王子の仮面を被った腹黒だ。
「あぁー、ムカつくあの馬鹿が居なくなって、少しは風通しが良くなったな?」
人には言えない闇を抱えた王子様は、何故だかジェレマイアを同類だと見破って、他に誰も居なければ、本音を口にする。
が、それも本音のようにこちらに思わせたいだけで、彼の誠がそうなのかはジェレマイアにもわからない。
「クソ真面目なケインは哀れだったが、ゴードンを堕としてくれたのは、あれは使える女だな」
哀れなケインは婚約破棄された侯爵家の次男、ゴードンは『ムカつくあの馬鹿』と言われた公爵家の従兄弟の名前だ。
あれと言うのは、ミネルヴァ・ロバーツの事だろう。
ケインの家は中立派だが、ゴードンの筆頭公爵家は第1王子に近い家門だ。
同い年だったから、ゴードンはテリオスと行動を共にしていたが、時々彼に対して見下す様な物言いをしていた。
それをテリオスは聞き流していたので、ゴードンはますます不遜になっていったが、テリオスは敢えてそれを狙っているようにジェレマイアには見えていた。
もしかしてミネルヴァは、公爵家の醜聞を狙った第2王子支持派閥が用意したハニートラップ要員なのだろうか。
そうでもなければ、学院のトップ階級の貴族子息を2人も堕落させ、今も男子生徒を周囲に侍らして学院内の風紀を乱す男爵令嬢ふぜいが、退学処分になっていないのは説明がつかない。
まぁ、ややこしくも華麗なる王族達の争いには、たかが地方伯爵家の俺は関係無いから、勝手にやってろ、とそれ以上は想像することも止めたジェレマイアに、テリオスは見慣れた柔和な作り笑いを見せた。
「なぁ、マイア。
あれの次の狙いは俺だと皆は期待しているだろうが、お前も1枚噛まないか?」
「……内容によっては、検討させていただきますが」
皆の前では私と言うテリオスは、ジェレマイアの前では俺と言う。
相手によって装う親密さを変える彼がまるで透明な鎧をまとっているようで、ジェレマイアはテリオスには心を許せない。
「検討ねぇ……お前には前々から冷めたところがあるとは分かっていたけれど、夏休み明けに戻ってきてからは、ほとんど投げやりになっているだろ。
イングラムで何かあったのか?」
「……」
リデルの事を、テリオスにも誰にも話した事はない。
ましてや今回の帰省で聞かされた、彼女と親しくしている男の話など、未だにジェレマイアの中では処理出来ていないのに、物のついでのように聞かれても……
なのに、こちらを見透かすようなことを言って揺さぶりをかけて、白々しく相談をするかのように見せかけて。
己の計画にジェレマイアを引き込む事を、テリオスは決めている。
だが例え命じられても、自分ひとりが負ける手札を引かされるのは業腹なジェレマイアは、「内容によっては」と答えたが、よくよく考えてから返事をする事にした。
そして勿論テリオスからの領地で何かあったのか、の問いに答える気は、さらさら無い。
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