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27 ジェレマイア
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まさか今日、リデルがここまで来てくれるとは思わなかった。
ただ、彼女の姿を見ることだけで満足だった。
馭者として、普通にリデルを家まで送る。
彼女を迎え入れたデイヴに、肩を抱かれて家に入る彼女を見届けたら、それで気付かれることなく……と。
ただそれだけでも、満足だったのに。
◇◇◇
約束した時間になっても出てこないリデルが心配になって、ケールを迎えに行かせた。
招待客ではないが、新郎新婦の同級生であるケールなら最悪、会場まで顔出ししても、不審者扱いはされないだろうから。
ケールも遅刻など絶対にしない彼女が先に来ていない事が不安だったようで、ホールに向かって駆け出した。
ふたりを待っている間、ここに居るしかない自分が歯痒くて、苛々した。
今の自分の状況や領内での評判など予想して、覚悟して、テリオスと事を起こしたはずが。
いざリデルの身に何かあっても、先ずはその報告を受けてからしか動けない自分。
直接は何も出来ない自分、それが歯痒かった。
それから暫くして、ケールがリデルを伴ってホールから出て来たので、詰めていた息を吐き。
ふたりが笑顔であることに安心して。
一層深くフードを被り直して、馬車に乗り込むリデルに手を差し出した。
彼女は無言のジェレマイアに手を預けて、軽く頭を下げ
「お待たせしました。ありがとうございます」と労ってくれたが、彼に気付かず。
それにホッとしたようで……残念な気持ちになったのは確かで。
後はケールを降ろしたら、リデルを送って、そのまま帰る。
それで完了だったのに、扉を閉める前にケールがクラーク・ライナーの名前を出して罵っているのが聞こえ、あの男がリデルに許しがたい真似をしたのが分かり。
身体は馬車を御しながらも、頭の中ではライナーに対しての怒りが治まらない。
一昨年の夏、帰省中にリデルに近付く男の存在を知って、リーブスに調べさせた。
「父親は何度も旦那様に面談の申請を出しています。
その度に却下をされても諦めないのは、新興のライナー商会は本邸の御用達の看板で、箔が欲しいのでしょう。
息子の方は、特に可もなく不可もなく、と言ったところでしょうか。
女性との関係は、まぁそれなりに」
まぁそれなりに、って何だ、はっきり言え、とリーブスに詰め寄れば。
「あくまで私的見解を申し上げますと、私の身内には薦めたくはありません」と慇懃に言う。
あまり良くない女と交際していた過去があるらしい。
ライナーの父親は、ご領主様には簡単には会えないから、医療部のデイヴに目を付けたか。
息子がリデルにちょっかいを掛けているのは、父親の差し金なんだろうか。
それとも、そんな大人の事情には関係なく、それなりな奴がリデルに対して時間を掛けているのは、真剣だからか。
ジェレマイアはクラーク・ライナーを様子見する、と決めた。
来年、俺が卒業して戻ってきた時、もしリデルとこいつの仲が進んでいて。
もし彼女が幸せそうなら諦めて、黙ってイングラムから立ち去ろうと思っていた。
立場を笠に横車を押して、リデルを泣かせてまで。
好きだと気持ちを押し付ける、そんな自分にはなりたくない。
しかし、戻ってきた彼を待っていたのは、クラークの浮気でリデルが別れた、と言う話だった。
ジェレマイアは歓喜した。
この件が落ち着くまでは、誰にも本当の事は言えない、言わないと決めていた。
身持ちの悪い、ただ美しいだけの男爵令嬢に堕ちた愚か者。
何人もの男と、1人の女を共有し、挙げ句に婚約破棄を人前で叫び。
その結果、家門の恥とされて、後継者から外された男。
人の命が掛かってる。
テリオスは毒まで盛られた。
彼が落ち着くまでは、このままでいく。
厳しくも優しい祖父のようなリーブスにも。
守るために動いてくれた父のようなデイヴにも。
こうなった事情を聞かれたが、何も言えなかった。
出来たら、リデルにも何も話さずにいようと思っていたけれど、それで気持ちを伝えても、信じて貰える訳がない。
何も言えないけど、信じて欲しいなんて、それは俺の勝手な言い分でしかない。
それに気が付いて。
ジェレマイアは、次にリデルに会えたら、俺の話を聞いて欲しいと頼もうと思っていた。
だが、彼がそれを頼む前に、リデルが言ってくれた。
会いたかった。
貴方と話がしたい。
何処でも付いていく、と。
◇◇◇
貴方の話を聞きたいと言ってくれたリデルを、ジェレマイアが連れてきたのは、いつもおしゃべりをしたベンチの前を通り過ぎた先にある温室だった。
まだ他の人間には聞かせられない話なので、邸内ではなく温室を選んだが、失敗だったかもしれない。
「外よりはましかな、と思ったんだけど、寒くない?」
「大丈夫、これがあるから」
ジェレマイアが贈ったコートの衿には狐の毛皮が付いている。
これがあるからと言いながら、彼女がコートの両衿を合わせ、毛皮を両頬に当てている幼い仕草がとても愛しくて、ジェレマイアは、じっと見つめてしまう。
自覚は無かったが、前回往診に来てくれたリデルを、
「気持ち悪いくらいに見つめ続けていた」とリーブスに注意をされた。
仕方ないだろう、と言い返したかった。
ずっと避けられ続けていて、ようやく会えたリデルから目を離したくないのは、仕方ない。
が、時間が無いのは確かで、早速話を聞いて貰うことにした。
帰宅が遅いリデルを待っているデイヴの事も気掛かりで、リデルが叱られないよう、早く帰さなくては、と思うと。
何から話せばいいのか、迷い。
ジェレマイアは温室の奥に設えられた、ガーデンチェアにリデルを座らせた。
そして、用意されている膝掛けを丁寧に広げて膝に掛け、彼女の前に跪き、手を差し出した。
次にリデルとふたりきりで会えるのは、いつになるか分からない。
1番に伝えたい大切な話から始めると決めた。
「リィの手はかつて俺が苦しんでいた時、救いを与えてくれた。
この手に触れられると、痛みも苦しみも、消えた。
ずっとリィが傍に居てくれるなら、俺はどんな苦労も厭わないし、全力で君を幸せにする努力を続ける。
返事は俺の話を聞いてからで構わないから、先に言わせて欲しい。
……リデル・カーター、私と結婚してください」
ただ、彼女の姿を見ることだけで満足だった。
馭者として、普通にリデルを家まで送る。
彼女を迎え入れたデイヴに、肩を抱かれて家に入る彼女を見届けたら、それで気付かれることなく……と。
ただそれだけでも、満足だったのに。
◇◇◇
約束した時間になっても出てこないリデルが心配になって、ケールを迎えに行かせた。
招待客ではないが、新郎新婦の同級生であるケールなら最悪、会場まで顔出ししても、不審者扱いはされないだろうから。
ケールも遅刻など絶対にしない彼女が先に来ていない事が不安だったようで、ホールに向かって駆け出した。
ふたりを待っている間、ここに居るしかない自分が歯痒くて、苛々した。
今の自分の状況や領内での評判など予想して、覚悟して、テリオスと事を起こしたはずが。
いざリデルの身に何かあっても、先ずはその報告を受けてからしか動けない自分。
直接は何も出来ない自分、それが歯痒かった。
それから暫くして、ケールがリデルを伴ってホールから出て来たので、詰めていた息を吐き。
ふたりが笑顔であることに安心して。
一層深くフードを被り直して、馬車に乗り込むリデルに手を差し出した。
彼女は無言のジェレマイアに手を預けて、軽く頭を下げ
「お待たせしました。ありがとうございます」と労ってくれたが、彼に気付かず。
それにホッとしたようで……残念な気持ちになったのは確かで。
後はケールを降ろしたら、リデルを送って、そのまま帰る。
それで完了だったのに、扉を閉める前にケールがクラーク・ライナーの名前を出して罵っているのが聞こえ、あの男がリデルに許しがたい真似をしたのが分かり。
身体は馬車を御しながらも、頭の中ではライナーに対しての怒りが治まらない。
一昨年の夏、帰省中にリデルに近付く男の存在を知って、リーブスに調べさせた。
「父親は何度も旦那様に面談の申請を出しています。
その度に却下をされても諦めないのは、新興のライナー商会は本邸の御用達の看板で、箔が欲しいのでしょう。
息子の方は、特に可もなく不可もなく、と言ったところでしょうか。
女性との関係は、まぁそれなりに」
まぁそれなりに、って何だ、はっきり言え、とリーブスに詰め寄れば。
「あくまで私的見解を申し上げますと、私の身内には薦めたくはありません」と慇懃に言う。
あまり良くない女と交際していた過去があるらしい。
ライナーの父親は、ご領主様には簡単には会えないから、医療部のデイヴに目を付けたか。
息子がリデルにちょっかいを掛けているのは、父親の差し金なんだろうか。
それとも、そんな大人の事情には関係なく、それなりな奴がリデルに対して時間を掛けているのは、真剣だからか。
ジェレマイアはクラーク・ライナーを様子見する、と決めた。
来年、俺が卒業して戻ってきた時、もしリデルとこいつの仲が進んでいて。
もし彼女が幸せそうなら諦めて、黙ってイングラムから立ち去ろうと思っていた。
立場を笠に横車を押して、リデルを泣かせてまで。
好きだと気持ちを押し付ける、そんな自分にはなりたくない。
しかし、戻ってきた彼を待っていたのは、クラークの浮気でリデルが別れた、と言う話だった。
ジェレマイアは歓喜した。
この件が落ち着くまでは、誰にも本当の事は言えない、言わないと決めていた。
身持ちの悪い、ただ美しいだけの男爵令嬢に堕ちた愚か者。
何人もの男と、1人の女を共有し、挙げ句に婚約破棄を人前で叫び。
その結果、家門の恥とされて、後継者から外された男。
人の命が掛かってる。
テリオスは毒まで盛られた。
彼が落ち着くまでは、このままでいく。
厳しくも優しい祖父のようなリーブスにも。
守るために動いてくれた父のようなデイヴにも。
こうなった事情を聞かれたが、何も言えなかった。
出来たら、リデルにも何も話さずにいようと思っていたけれど、それで気持ちを伝えても、信じて貰える訳がない。
何も言えないけど、信じて欲しいなんて、それは俺の勝手な言い分でしかない。
それに気が付いて。
ジェレマイアは、次にリデルに会えたら、俺の話を聞いて欲しいと頼もうと思っていた。
だが、彼がそれを頼む前に、リデルが言ってくれた。
会いたかった。
貴方と話がしたい。
何処でも付いていく、と。
◇◇◇
貴方の話を聞きたいと言ってくれたリデルを、ジェレマイアが連れてきたのは、いつもおしゃべりをしたベンチの前を通り過ぎた先にある温室だった。
まだ他の人間には聞かせられない話なので、邸内ではなく温室を選んだが、失敗だったかもしれない。
「外よりはましかな、と思ったんだけど、寒くない?」
「大丈夫、これがあるから」
ジェレマイアが贈ったコートの衿には狐の毛皮が付いている。
これがあるからと言いながら、彼女がコートの両衿を合わせ、毛皮を両頬に当てている幼い仕草がとても愛しくて、ジェレマイアは、じっと見つめてしまう。
自覚は無かったが、前回往診に来てくれたリデルを、
「気持ち悪いくらいに見つめ続けていた」とリーブスに注意をされた。
仕方ないだろう、と言い返したかった。
ずっと避けられ続けていて、ようやく会えたリデルから目を離したくないのは、仕方ない。
が、時間が無いのは確かで、早速話を聞いて貰うことにした。
帰宅が遅いリデルを待っているデイヴの事も気掛かりで、リデルが叱られないよう、早く帰さなくては、と思うと。
何から話せばいいのか、迷い。
ジェレマイアは温室の奥に設えられた、ガーデンチェアにリデルを座らせた。
そして、用意されている膝掛けを丁寧に広げて膝に掛け、彼女の前に跪き、手を差し出した。
次にリデルとふたりきりで会えるのは、いつになるか分からない。
1番に伝えたい大切な話から始めると決めた。
「リィの手はかつて俺が苦しんでいた時、救いを与えてくれた。
この手に触れられると、痛みも苦しみも、消えた。
ずっとリィが傍に居てくれるなら、俺はどんな苦労も厭わないし、全力で君を幸せにする努力を続ける。
返事は俺の話を聞いてからで構わないから、先に言わせて欲しい。
……リデル・カーター、私と結婚してください」
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