【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi

文字の大きさ
27 / 48

27 ジェレマイア

しおりを挟む
 まさか今日、リデルがここまで来てくれるとは思わなかった。
 ただ、彼女の姿を見ることだけで満足だった。

 馭者として、普通にリデルを家まで送る。
 彼女を迎え入れたデイヴに、肩を抱かれて家に入る彼女を見届けたら、それで気付かれることなく……と。
 ただそれだけでも、満足だったのに。 



  ◇◇◇
 


 約束した時間になっても出てこないリデルが心配になって、ケールを迎えに行かせた。
 招待客ではないが、新郎新婦の同級生であるケールなら最悪、会場まで顔出ししても、不審者扱いはされないだろうから。
 ケールも遅刻など絶対にしない彼女が先に来ていない事が不安だったようで、ホールに向かって駆け出した。


 ふたりを待っている間、ここに居るしかない自分が歯痒くて、苛々した。
 今の自分の状況や領内での評判など予想して、覚悟して、テリオスと事を起こしたはずが。
 
 いざリデルの身に何かあっても、先ずはその報告を受けてからしか動けない自分。
 直接は何も出来ない自分、それが歯痒かった。


 それから暫くして、ケールがリデルを伴ってホールから出て来たので、詰めていた息を吐き。
 ふたりが笑顔であることに安心して。
 一層深くフードを被り直して、馬車に乗り込むリデルに手を差し出した。

 彼女は無言のジェレマイアに手を預けて、軽く頭を下げ
「お待たせしました。ありがとうございます」と労ってくれたが、彼に気付かず。
 それにホッとしたようで……残念な気持ちになったのは確かで。


 後はケールを降ろしたら、リデルを送って、そのまま帰る。
 それで完了だったのに、扉を閉める前にケールがクラーク・ライナーの名前を出して罵っているのが聞こえ、あの男がリデルに許しがたい真似をしたのが分かり。
 身体は馬車を御しながらも、頭の中ではライナーに対しての怒りが治まらない。
 
 

 一昨年の夏、帰省中にリデルに近付く男の存在を知って、リーブスに調べさせた。


「父親は何度も旦那様に面談の申請を出しています。
 その度に却下をされても諦めないのは、新興のライナー商会は本邸の御用達の看板で、箔が欲しいのでしょう。
 息子の方は、特に可もなく不可もなく、と言ったところでしょうか。
 女性との関係は、まぁそれなりに」


 まぁそれなりに、って何だ、はっきり言え、とリーブスに詰め寄れば。
「あくまで私的見解を申し上げますと、私の身内には薦めたくはありません」と慇懃に言う。
 あまり良くない女と交際していた過去があるらしい。


 ライナーの父親は、ご領主様には簡単には会えないから、医療部のデイヴに目を付けたか。
 息子がリデルにちょっかいを掛けているのは、父親の差し金なんだろうか。
 それとも、そんな大人の事情には関係なく、それなりな奴がリデルに対して時間を掛けているのは、真剣だからか。


 ジェレマイアはクラーク・ライナーを様子見する、と決めた。 
 来年、俺が卒業して戻ってきた時、もしリデルとこいつの仲が進んでいて。
 もし彼女が幸せそうなら諦めて、黙ってイングラムから立ち去ろうと思っていた。


 立場を笠に横車を押して、リデルを泣かせてまで。
 好きだと気持ちを押し付ける、そんな自分にはなりたくない。
 しかし、戻ってきた彼を待っていたのは、クラークの浮気でリデルが別れた、と言う話だった。
 ジェレマイアは歓喜した。

 
 この件が落ち着くまでは、誰にも本当の事は言えない、言わないと決めていた。
 身持ちの悪い、ただ美しいだけの男爵令嬢に堕ちた愚か者。
 何人もの男と、1人の女を共有し、挙げ句に婚約破棄を人前で叫び。
 その結果、家門の恥とされて、後継者から外された男。



 人の命が掛かってる。
 テリオスは毒まで盛られた。
 彼が落ち着くまでは、このままでいく。

 厳しくも優しい祖父のようなリーブスにも。
 守るために動いてくれた父のようなデイヴにも。
 こうなった事情を聞かれたが、何も言えなかった。

 出来たら、リデルにも何も話さずにいようと思っていたけれど、それで気持ちを伝えても、信じて貰える訳がない。
 何も言えないけど、信じて欲しいなんて、それは俺の勝手な言い分でしかない。
 
 
 それに気が付いて。
 ジェレマイアは、次にリデルに会えたら、俺の話を聞いて欲しいと頼もうと思っていた。


 だが、彼がそれを頼む前に、リデルが言ってくれた。
 
 会いたかった。
 貴方と話がしたい。
 何処でも付いていく、と。



   ◇◇◇



 貴方の話を聞きたいと言ってくれたリデルを、ジェレマイアが連れてきたのは、いつもおしゃべりをしたベンチの前を通り過ぎた先にある温室だった。 

 まだ他の人間には聞かせられない話なので、邸内ではなく温室を選んだが、失敗だったかもしれない。


「外よりはましかな、と思ったんだけど、寒くない?」 

「大丈夫、これがあるから」 

 ジェレマイアが贈ったコートの衿には狐の毛皮が付いている。
 これがあるからと言いながら、彼女がコートの両衿を合わせ、毛皮を両頬に当てている幼い仕草がとても愛しくて、ジェレマイアは、じっと見つめてしまう。
 
 自覚は無かったが、前回往診に来てくれたリデルを、
「気持ち悪いくらいに見つめ続けていた」とリーブスに注意をされた。
 仕方ないだろう、と言い返したかった。
 ずっと避けられ続けていて、ようやく会えたリデルから目を離したくないのは、仕方ない。
 
 

 が、時間が無いのは確かで、早速話を聞いて貰うことにした。
 帰宅が遅いリデルを待っているデイヴの事も気掛かりで、リデルが叱られないよう、早く帰さなくては、と思うと。
 何から話せばいいのか、迷い。

 
 ジェレマイアは温室の奥に設えられた、ガーデンチェアにリデルを座らせた。
 そして、用意されている膝掛けを丁寧に広げて膝に掛け、彼女の前に跪き、手を差し出した。
 


 次にリデルとふたりきりで会えるのは、いつになるか分からない。
 1番に伝えたい大切な話から始めると決めた。


「リィの手はかつて俺が苦しんでいた時、救いを与えてくれた。
 この手に触れられると、痛みも苦しみも、消えた。
 ずっとリィが傍に居てくれるなら、俺はどんな苦労も厭わないし、全力で君を幸せにする努力を続ける。
 返事は俺の話を聞いてからで構わないから、先に言わせて欲しい。
 ……リデル・カーター、私と結婚してください」


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】一途すぎる公爵様は眠り姫を溺愛している

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
リュシエンヌ・ソワイエは16歳の子爵令嬢。皆が憧れるマルセル・クレイン伯爵令息に婚約を申し込まれたばかりで幸せいっぱいだ。 しかしある日を境にリュシエンヌは眠りから覚めなくなった。本人は自覚が無いまま12年の月日が過ぎ、目覚めた時には父母は亡くなり兄は結婚して子供がおり、さらにマルセルはリュシエンヌの親友アラベルと結婚していた。 突然のことに狼狽えるリュシエンヌ。しかも兄嫁はリュシエンヌを厄介者扱いしていて実家にはいられそうもない。 そんな彼女に手を差し伸べたのは、若きヴォルテーヌ公爵レオンだった……。 『残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました』『結婚前日に友人と入れ替わってしまった……!』に出てくる魔法大臣ゼインシリーズです。 表紙は「簡単表紙メーカー2」で作成しました。

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。 だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。 異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。 失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。 けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。 愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。 他サイト様でも公開しております。 イラスト  灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

処理中です...