【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi

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28 ジェレマイア

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 ジェレマイアがリデルを失ってから時々見るようになった夢は、始まりは毎回違うが、終わりの場面はいつも同じだ。

 目覚めてから思い返しても、夢だからそこまでの流れはあやふやなのに、終わりだけは、いつもはっきりしている。
 きっと終わりだけが、彼の中では重要だからだろう。


 視点は自分で。
 場所は王都邸の玄関ホールへ降りる大階段。
 その上に自分は立っている。 
 隣には女の姿がある。
 当時のジェレマイアと女の身長差は、そこまで無かったはずなのに、自分の目線はもっと低い位置から隣を見上げている。


 女がドレスの裾を引っ掛けて、階段を踏み外してよろめく。
 放って置けば良いのに、手を伸ばして。
 助けようとしたのか。
 だが、今よりずっと小さな手は拒絶され。
 女が持つ扇にはね除けられ、行き場を失う。

 女は落ちなかった。
 たたらを踏んでよろめいただけなのに、助けようとした事が却って屈辱に感じたのか。


 息子にだけ聞こえる声で、忌々しげに言う。


「わたくしに触れることは許しません。
 下等な血に触られたくないの」

 己をどれ程上等だと思っているのか、この女はいつも人を、上等と下等に分ける。


 声自体は小さいが、故意にこちらを傷つけようとした言葉を投げつけられて、そこで。

 視点が切り替わり。
 うちひしがれた幼い自分を、高みから眺めて。
 そこで夢は終わる。 
   


 ジェレマイアは知っている。

 あんな夢を定期的に見るのは、神が忘れるな、と教えてくれているからだ。

 ジェレマイアの神は、全ての人を許せ、とは言わない。
 全ての人に救いの手を差しのべろ、と言わない。

 
 今度こそ、ちゃんと母親を助けてやれ、と繰り返し夢を見せるのではなく。
 今度こそ、手を伸ばしたりせず、落ちていく母親を嗤ってやれ、と定期的に夢を見せるのだ。



  ◇◇◇



「私と結婚してください」

 ジェレマイアからのプロポーズに、リデルは何も返さず、ただ彼の顔を見つめている。

 リデルの見せる戸惑いがジェレマイアにも通じたのだろう。
 また間違えて暴走してしまったみたいだ、と気付いて。
 いきなり求婚されても、彼女を驚かすだけだと思い直して、彼は立ち上がり。
 リデルの隣に腰を下ろして、また彼女の手を取ったが、それを避けられなかったので、嫌がられてはいないと安堵した。
 


「リィも聞いているだろう、俺が男爵令嬢を云々、というのを。
 あれは同様に、その女に誘惑されたことになっているテリオス王子殿下と俺が計画した芝居なんだ」

「……誘惑されたことになってる、芝居?」

「殿下は対立する第1王子の派閥から命を狙われていて、馬鹿な王子を演じて王位継承権を失えば、と考えた。
 その狙い通り彼は継承権の返上、王都追放から今はシェイマスの聖教会預りの身の上になっている。
 そして、俺もイングラムの後継者から外れるために、その計画に乗った」

「殿下がそう考えたのは、理解出来るの。
 でも、貴方が外れたいのはどうして?」


 リデルは王家の派閥争いやテリオスの思惑よりも、ジェレマイア本人が今の状況を望んでいた事を、尋ねてきた。
 それはまるで、自分が彼女にとっては最優先に知りたい事なんだ、と教えてくれているようで。
 こんな時でも、ジェレマイアの自分勝手な心が弾む。


「俺は、本当は正妻が生んだ嫡子じゃない。
 本来は、爵位を継いではいけない男なんだ」




 コート伯爵家が、そうではない人間を、嫡子として届け出て、それを次期当主に決めた。
 それは嫡子以外を認めないと定めた祖国を欺く大罪。
 聞いているリデルの顔色も変わる。


「驚いただろう?
 もっと驚くのは、それを考えたのが、母親だとされる伯爵夫人で。
 後押ししたのが、賢主様と呼ばれた先代、俺の祖父。
 父親はそのまま当代のご領主様だが、本当の母親は先代が孕み腹として用意した名前も知らない女だ」  

「……」


「女は夫人と同じ金髪碧眼で、父親は髪も瞳も薄いブラウン。
 生まれた俺は奇跡的に、祖父と同じコートの銀髪碧眼だったから、祖父は狂喜乱舞したらしい。
 コート家の色を受け継がなかった父親は、そんな祖父と俺に挟まれて劣等感を拗らせて。
 俺の顔なんて見たくないんだろう、愛人と娘を作って、今も別邸に逃げてる」

「でも、でも……ジェレミーには何の咎も無いのに?
 それに、貴方の容姿はご領主様によく似ているのに?」

「……色なんて、ただそれだけでしかないのに、それに拘る人間は居るんだよ。
 祖父譲りの色と父と同じ顔。
 それだけで、俺の出生の事情を知っている誰もが口をつぐんだ」

「……医療部の父さんも、それを知ってて?」


 リデルの父デイヴは、本邸医療部の治療士だ。
 この秘密に関わっていると考えるのは、自然な事だ。
 ジェレマイアは、こうして彼女から聞かれなくても、そこははっきり伝えなくてはいけないと思っていた。


「デイヴは俺が生まれてから雇用されているから、関わっていない」

「良かった……いえ、ごめんなさい。
 大事な話の途中なのに、自分の事ばかり」


 デイヴの隠蔽関与を確認したことを申し訳なく思うリデルだが、ジェレマイアはそれに却って安心する。
 彼女は自分に申し訳ないと謝ってくれるが、それは反対に言えば。
 話を聞いて疑問や心配があっても、こちらを気遣って尋ねなければ、彼女はひとりでそれを抱えて悩み、苦しむようになるだろう。
 
 それだけはして欲しくない。
 リデルはジェレマイアの話を聞きたい、と言ってくれた。
 そして、自分の気持ちも隠さずに話してくれる。


 これからは、自分の事なら、どんな事でも話そうと決めた。
 それを知っても、きっとリデルは俺の手を握ってくれる。 


「デイヴは、俺を伯爵夫人の虐待から救ってくれた。
 あの女は下等な俺には直接触れたくないから、家庭教師を使って、鞭で打たせてた。
 いつも俺が痛がると、リィがそこに手を当ててくれていた。
 何度でも言う。
 この手が、俺を助けてくれていたんだ」

 
 
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