【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi

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30 デイヴ

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 幼い頃のリデルは、手の掛かる子だった。

 夜中に熱を出す事が多いので、直ぐに気付けるように。
 デイヴは、何度もリデルの寝室を覗いては、眠る娘の額に手を当てていた。

 彼は治療士だったから、病気から来る発熱なら対処出来るのだが、リデルのそれは彼の専門外だ。
 それで、何度も夜中に外れに住む老婆の家まで荷馬車を走らせて、リデルを診て貰っていた。


 真夜中であろうと、明け方であろうと。
「待っていたよ」と老婆はリデルを抱いて駆け込んで来るデイヴを、迎え入れた。
 まるで、予めこの時間に、デイヴが助けを求めてやって来るのを知っているかのように。


 リデルを治せるのは、領内では当時その老婆しか居なくて、謂わば命綱だ。
 年齢は分からなかったが、見るからに老齢の彼女はいつ亡くなってしまうか、先が不安で。


 他領在住の治療士仲間に、老婆のような存在が居るのか、問い合わせをしていたが、返事は芳しく無かった。
 また、たまに姿を見せる手伝いの女が弟子ではないかと思い、本人に尋ねてみたりしたが、彼女はただの使用人でしか無かった。


 リデルの症状にはお手上げでも、普通の病気だとデイヴなら、何とか出来る。

 娘のためにも、老婆には長生きをして貰いたいデイヴは、毎回老婆の家から帰る際には、体調を尋ねたり。
 ごくたまに、休日にリデル無しで、お土産を片手に老婆の家を訪れてみたりした。

 そんな時にも、老婆は約束もないデイヴを、待っていたかのように迎え入れた。



「あんた、1度は元気な娘の顔を見せておくれな」

「そうだな、今度な」

 そんな会話を幾度かしたが、デイヴも老婆も、そんな日が来ないことは分かっている上での会話だ。
 デイヴは、意識のあるリデルに老婆の事を知って欲しくは無かったし、そんなデイヴは老婆にはお見通しだったのだ。


 幸いなことに、老婆が亡くなる前に、リデルが熱を出すのは治まり、デイヴは馬車を走らせなくても、娘の寝顔を何度も見に行かなくても、良くなった。


 その時期が、娘と若様の距離が近付いていた頃だと、今になって気付いた。



  ◇◇◇


 
 リデルの帰りが遅い。


 リデルの友人シェリー・オドネルの披露宴は、結婚式を挙げた教会の横に併設された公共ホールで行われると聞いていた。

 
 皆の手で美しく変身した娘を歩かせるなど、もっての外だとデイヴは当然荷馬車を出すつもりだったが、女性陣から
「どうかしている」とまで罵られ、却下され、往復で馬車を予約していると言われた。
 それなら先に教えてくれていても、と思いもしたが、ありがたいのは本当で。
 エラが予約してくれていた馬車が、リデルを教会まで送っていった。


 出掛ける際には、帰りの時間を約束しているふたりの会話に安心もしていた。
 リデルから聞いていた披露宴の終了予定時間よりかなり早い時間に、約束をしていたからだ。

 その横では、エルザとレイカが『いい女は、綺麗な女は』と戯言をリデルに語っていて。
 素直に頷くリデルが、心配になるほどだった。


 それでも、それが今回の帰宅時間を早めてくれるなら、父親としては歓迎するべき事だ。
 とにかく、出席すると聞いたあの男、クラーク・ライナーに付け入る隙を与えるのだけは避けたい。
 リデルが会場を早めに出てくれたら、その場の雰囲気で流されて間違いが起こることもない。

 ライナー商会とは奴の父親も含めて、自分もリデルも距離を取りたかったデイヴにとって、ふたりの交際が終了したことは、喜ばしい限りだった。



 そんな風に、デイヴの休暇は平穏に終わるはずで。
 午前中の慌ただしさや、午後からの結婚式で、絶対に疲れているであろうリデルを休ませたくて、ただ肉を焼くだけだが、今夜は夕食を作る事にした。

 じゃがいもの皮をむき、ゆでて。
 リデルがテーブルに着いてから、肉を焼く。
 後は、朝リデルが焼いたパンを、食べる直前にストーブに乗せて温め直すだけ。
 そんな簡単な夕食だが、今日の様子を聞くのが楽しみで、それが何よりの食事のスパイスになる。


 準備を終えて、リデルが戻るまでと本を読んでいたら、エラと約束をしていた時間になったが。
 そこから30分が過ぎ、1時間が過ぎてもリデルは戻らない。

 もしかしたら、律儀なリデルは帰りにケール家に寄り、エラとエルザに今日の御礼と挨拶でもしているのだろうか。
 それはありうる話だ。


 ところが2時間近く経っても、リデルはまだ帰らない。
 最後にもう1度、ポケットから時計を取り出し、現在時間を確認する。

 まずエラの家を訪ね、リデルを連れ帰るつもりだ。
 ……ケール家でないのなら、貸馬車屋へ行く。
 リデルを乗せた馭者と馬車が戻っているかの確認をして、それでも見つからなければ、そのまま騎士団長の家に駆け込むしかない。


 最初に捜索するのは、やはりライナー商会で……と次々に頭の中の想像は不穏さを帯びていき。
 家の扉を怒りと不安に任せて音高く閉めた時、家の前に1台の馬車が停まった。


 時刻は、夕闇が辺りを覆い始めた頃。
 全てはぼやけていく昼と夜の狭間。

 
 馬車から降りてくる彼の娘と、その手を取るフード付きのマントを羽織る馭者と。
 ふたりの姿をデイヴの青い瞳がとらえる。


 デイヴは治療士だ。

 人の身体を診るのが専門だ。

 よって本邸関係者なら、その体つきを見れば誰なのか、大体分かる。



 娘の手を取り、下ろすと。
 そのまま走り去った馬車を御していた、あの男が誰なのか。
 家に入ろうともせず、娘がいつまでも見送っているのは誰なのか。


 デイヴには、分かってしまった。




  *****


 ジェレマイアの出生の事情を、デイヴは知りません。
 家令のリーブスは知っています。
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