【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi

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44 ジェレマイア

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「俺には荒事は向かないし、やりたくないからね」 

 テリオスは、よくそう言っていた。
 その言葉通り、学院の時間割りに組み込まれている剣術の授業を、彼は手を抜いて受けていた。


「マイアはどうして、そんなに真剣に受けているんだ?
 イングラムには有名な騎士団があるだろ?
 お前は、現場で指揮する人間が机上で陣形や作戦を組み立ててくれたのを、黙って頷いて、命じるだけでいいじゃないか」 


 テリオスは役割はお互いに心得ていた方が楽だ、とも言っていた。

 お前達は、あくまでも同じ学年の取り巻きであって、決して側近ではない。
 卒業後も、王子に侍って王城に勤められると思わないように。
 側近と言うのは、自分の代わりに仕事をさせるもので、能力が高くないといけない。
 依って、自分と同じ年齢のお前達ではなく、自分よりも鋭く豊かな見識と知識、場数を踏んだ年上の人間を側近に選んで働いて貰い、楽をする。


 自分は御輿に担がれていればいい、それが俺の役割だ、と語っていた。

 ……勿論ジェレマイアの前だけで。



  ◇◇◇



「今回の王女の件には、王妃と叔父貴は関わっていない。
 ユーシスとクリスティアナが調子に乗って勝手にした事だ。
 あいつらが用意した男も単なる男娼で、ミネルヴァのような特別な力など持っていなかった。
 現状は、ユーシスとクリスティアナのところで話は止まっているが、このまま尋問が続けば、あいつらのどちらかは、必ず王妃と叔父貴の名前を出す。
 その前に、とあのふたり、こちらも不倫の関係の王妃と叔父貴は国内の味方になりそうなものに、接触を始めたらしい」

 
 テリオスはリデルの名を書いた紙を、ジェレマイアに寄越しながら、説明を続けた。
 渡された紙を持つ己の両手が、怒りと後悔で震えているのを、ジェレマイアは自覚していない。


 側近にはしないと言っていたのに、こいつは俺を逃がさないように、次々と聞いてはいけない情報を会話の中に入れてくる。
 王妃と公爵は不倫の関係……そんなのは聞きたくなかった。
 国内の奴等に接触、それはすなわち……



「俺は荒事が苦手だし、嫌いだ。
 争いは頭脳戦、出来れば情報戦にしたいところだが、そんな悠長にしていられなくなった。
 とにかく北の連中には、このお家騒動に出張って貰いたく無いんだ、分かるだろ?
 北の奴等は魔力を用いて戦う。
 風を吹かせ、雨を降らせる。
 火を飛ばし、雷を落とす。
 他にもどんな攻撃があるのか、把握しきれない。
 だが、叔父貴が北大陸で頼れるのは、グーレンバイツの商人。
 商人と言うのは利の無い方には傾かないんだよ」

「……俺を北に……グーレンバイツに向かわせるのは、こちらに、テリオス殿下に味方に付くように説得させるためですか?」


 俺の役割はそこで、テリオスはいずれはそうなると予想して。
 だから、言語の出来る俺を呼びたかった?
 ここまで来させて、王族達の聞きたくもない秘密を話す。
 それだけでも逃げられなくしているのに、リデルの名前を出し、更に雁字搦めにしようとする。
 側近に働かせて、自分は担がせた御輿の上で楽をする、そううそぶいたテリオスを、俺はどうして信じたのか……


 テリオスからの連絡を待たずに、自分の都合でシェイマスヘ来た事は、彼から利用されると思い込んだジェレマイアの頭から抜けていた。

 
「いや、味方になってくれと説得はしなくていい。
 ただ向こうに付いても、旨味は無いと話してくれればいいんだ」

「……もう長々と説明や解説は要らない。
 俺はこれから出ます。
 貴方の命じた通り、グーレンバイツの商会へ行き、第1王子側に付いても旨味は無いと説明しましょう。
 その代わり、彼女を人質にするのだけは許さない」

「……」


 声は抑えても。
 信じて裏切られた怒りは隠せない。
 テリオスは、そのジェレマイアの声の中に、一抹の悲しみも感じ取った。
 ……彼は他人の機微に敏感な男だったから。


「待てマイア、お前は誤解してる。
 俺の話の進め方が悪かったのだろうが、お前の弱みを握りたくて、彼女の名前を出したんじゃない。
 元々はお前から借りた本に挟まっていたメモに、練習していた彼女の名前が書いてあった。
 何語か調べたら、グーレンバイツ帝国語で女性の名前だったから、その時は面白いと」

「……」

「女に興味の無いお前をからかうネタになれば、と調べさせて彼女の存在を知った。
 領地に居た頃、お前が心を許していたのは、たった3人。
 家令と御抱え治療士と、その娘。
 ……お前にとって特別なひとなのは、分かっている。
 だから利用しようとしたんじゃない。
 お前が北に行けば、彼女がその気になれば。
 戻れる、と伝えたかった」

「……」

 返事もせずに立ち上がりかけたジェレマイアの服を掴んで、慌てて一気に話すテリオスは、これまで余裕のある姿からは、想像もしていないものだ。
 それでも、まだジェレマイアは彼が信用出来ないので、座るテリオスを見下ろしたまま。


「俺が北に行けば? リデルがその気になれば? 戻れる? 
 お前、何を言って……」

「取りあえず、座ってくれ、落ち着かない。
 これからちゃんと話す」

 そう言われて仕方なく、もう一度座るが。 
 ジェレマイアの青い瞳は、相変わらずテリオスを睨んでいた。

 
 いつも、どこか冷めていて。
 内心では色々考えてはいても、何に対しても、それほどの反応を表に出さない。
 そんなジェレマイアだったのに、リデル・カーターの名前が出た途端に、こんなに激しさを見せるとは。
 王子の自分に対して無意識にお前と言った、こんなに余裕の無いジェレマイアの姿は、テリオスには想定外のものだった。


「こんな感じのを、彼女のまわりで見なかったか?」

 テリオスは、もう1枚紙を出して、またもや何かを書いて見せた。
 それに思い当たる節があるジェレマイアは、ここは素直に頷いた。

「リデルが持っている、金属製の護符に刻まれている」

「やっぱりか……これはグーレンバイツのベージルーシュ侯爵家の家紋を簡素化したもので、家族に贈り物をする時に彫ったり、又は描いたりするらしい。
 金属製の護符は、あの国では無事に1歳の誕生日を迎えた御祝いで贈られるものだ。
 13年前、侯爵と第2夫人との間に生まれた娘、つまり我が国では庶子と呼ばれる立場の、当時4歳の娘の行方が分からなくなった。
 その娘の名がリデル、黒髪に茶色の瞳をしたリデル・フォルロイ・ベージルーシュだ」

「帝国侯爵家の……リデル……フォルロイ・ベージルーシュ……」

「娘はある日、子守りと侯爵邸から姿を消した。
 以降、帝国中、北大陸中を探しても見つからなかった。
 母親は鬱になり、やがて亡くなり……
 彼女本人は『癒し手』の力を持っていたのに、他人には使えても自分を治す事は出来なかったんだ」

「癒し手……」

「俺が調べたのは、ここまで。
 ここからどうするのかは、お前が彼女と決めればいい。
 リデル・カーターを『癒しの聖女』と呼ぶ人間もいるらしいな。
 だが、彼女本人にはその力は使えない。
 お前が支えてやらないと……」



 第2王子に取り巻きにされて、6年以上が過ぎた。

 ジェレマイアは初めて彼に
「大丈夫です」と言わなかった。


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