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最終話 ジェイ
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自分の両親の話を聞き、決めるのは君、と言われたリデルはジェレマイアに、少し考えてみる、と答えた。
そのまま、ふたりは無言で歩き。
リデルの家に到着した。
本屋を出て直ぐに、今夜はデイヴが夜勤と聞いた時は、我慢強いジェレマイアもあれこれ考えてしまったが。
リーブスの最期を聞き、リデルに重過ぎる愛情をぶつけて、グーレンバイツの両親の話を聞かせた今では、そんな邪な気持ちも消え失せ、このまま帰ると決めていた。
家まで歩いた1時間足らずで、リデルが聞かされた衝撃はきっと大き過ぎて。
話した自分が側に居た方がいいのか、不味いのか、判断がつかなかったのだ。
気の回らない俺なんかより、例えばケールに来て貰いたいんじゃないか、とか考えていると。
「一緒に夕食を食べてくれる?」
「……いいの?」
「嫌だったら、誘わないもの」
リデルから誘ってくれたので、ジェレマイアはお言葉に甘えた。
意外な事に、彼女は食卓の話題にグーレンバイツの話を聞きたがり、夕食が終わる頃には
「決めた、グーレンバイツに行く」と言い出した。
ジェレマイアは思い出した。
そうだった、昔からリデルは決断力があって、決めたら直ぐ実行派だった。
「あちらに行くことを、父さんへの不義理になるのかな、ってそれだけを考えてた。
だけどね、デイヴ・カーターは絶対にそんな風に思わない」
「そうだな、デイヴは絶対に思わない」
「それにね、本当の……お父さんの今の様子も気になるの。
どんな人とか全然覚えていないけど、わたしを必死で探してくれた、って教えてくれたでしょう?
だからせめて、無事でした、と顔を見せたいし。
それにジェレミーが言ってくれた、わたしの力が神様がくれたギフトなら。
今も悲しみから抜け出せないお父さんの手を握って……
楽になって貰いたい」
そう言い切るリデルが愛しくて、誇りに思って、
「帰る」と自分から言い出せないジェレマイアは。
翌日の朝、夜勤明けのデイヴに叩き起こされるまで、長椅子でリデルを抱き締めて眠った。
ジェレマイアと共に、グーレンバイツに入国したリデルはベージルーシュ侯領本邸の門番に、首から外した護符を預けて、侯爵閣下へのお目通りを願い出た。
門番が戻って来るまでの間、閉められた門外でしばらく待てば、姿を現したのは、返事を携えた門番ではなかった。
それは声にならない叫びをあげて、必死で前に手を伸ばし、足をもつれさせながら、こちらに向かってくる男性だった。
リデルの実父、ランベール・フォルロイ・ベージルーシュだった。
多分普段は落ち着いた人物なのだろうが、今は気が触れた男のように見えた。
尋常ではない様子の侯爵閣下が門の内側から、目の前に立つリデルに片手を伸ばし、もう一方の手で間に立ちはだかる頑丈な門扉を掴んでガタガタ揺らすのを、残っていた方の門番は呆気に取られたように見ていたが、一瞬で我に返り直ぐに門を開いた。
リデルに手が届くと、父は愛した女性とそっくりに育った娘を抱き寄せ
「リデル、リデル、リデル……」とただ、それだけを何度も繰り返した。
◇◇◇
王妃と公爵が企んだ国王陛下の譲位は、思うように味方が集まらず、大きな政変も起こらずに静かに幕を閉じた。
この国の貴族で、サンペルグ聖教会に敵対したい者など居ない。
国内の彼等に背を向けられ、国外からでも助けが欲しい公爵は北の帝国グーレンバイツのパリロゥ商会に『力を持つ者』を何人か貸して欲しいと送ったが、それは無視された。
王妃は離縁されて実家に戻された。
王弟として王城で大きな顔をしていた公爵は病を得て亡くなって。
何故か後継者が跡を継ぐ事はなく、そのまま筆頭公爵家は取り潰された。
他国の王女を娶るはずだった第1王子の婚約は解消されて、莫大な賠償金が支払われた。
その後、彼は幼馴染みの侯爵令嬢と結婚したらしいが、婚姻式も無く、離宮にでも移り住んだのか、新婚のふたりの姿を王城で見た人は居ない。
代わりに、大主教に預けられて、神の導きで心を入れ換えた元第2王子が復権して立太子式は執り行われた。
「俺の回りは聖下の息のかかった奴等で固められたが、治世を始める面倒なあれこれを、全部任せていいんだから、こんなに楽な事はないよな。
神の下僕が俺の御輿を担いでくれるのなら、何処へだって運ばれてやる」
ジェレマイアがリデルを迎えに行くために、テリオスより一足先にシェイマスを発つ時。
別れ際に声を潜めたテリオスは、あの本心を隠した微笑みを浮かべる王子の顔を取り戻していた。
勝者ユーシスの杯に美酒を注いだのは、王城に残していた彼の子飼いだった可能性が高いが、勿論ジェレマイアは余計な詮索はしない。
そして、グーレンバイツから帰国して3ヶ月後。
ジェレマイアとリデルの結婚の日取りが決まった。
彼はイングラムからウィンクラー山を挟んだベレスフォード伯領に家を構え、リデルを迎えるのだが、その前に片付けなくてはならない事があった。
婚姻に向けて、新しい戸籍が必要になったのだ。
ジェレマイア・コートをイングラム伯爵コート家から勘当する旨の届け出が、父親だった当代伯爵から王家に提出されたので、彼は平民になり、その名をジェイ・リーブスに改めた。
名をジェレマイアからジェイに変えたのは、平民でこんなに長い綴りの名前が無いからだし、姓にリーブスを選んだのは、亡くなったリーブスは他には身寄りが無く、死亡後彼の戸籍が抹消されたからだ。
それ故、ジョージ・リーブスの養子となったわけではないが、それでも彼の家名は残る。
冷たい両親から無視をされて傷付いた幼いジェレマイアを気遣ってくれた彼の家族になれたようで……ジェレマイアは新しい戸籍の申請書に、迷わずその姓を書いた。
空が澄み渡る秋晴れの日に、小さな石造りのリーブス家の庭で行われた結婚式は。
ふたりを祝福してくれる、多くは無いが心優しい人々が集ったいい結婚式だった、と後々まで言って貰えるような、そんな式だった。
テリオスが髪を染めてケインを伴い、式に現れたのには、流石のジェイも驚いた。
彼にはリデルと結婚する事は伝えていたが、日時までは知らせなかった。
彼はあの穏やかな笑顔を見せて
「王都で親しくさせていただいていた友人です」と皆に、適当な偽名で挨拶をした。
第2王子の顔など知らない善良な人々はそれを信じた。
彼の側にずっと付いていたケインが席を外したのを見計らい、人目を盗んで物陰に連れ込んで、事の次第を質せば。
「お前を側近にはしないと言ったろ。
卒業したら、取り巻きじゃなくて、ただの友人だ」と言うのが彼の言い分で、珍しくジェイは感動したのだが。
その口から同時に
「お前がグーレンバイツのパリロゥの婆さんに気に入られて、この国に本格的に参入する窓口に決まったのは、知っているから」とも言われて、お互いに立場は変わったのに、腹黒なのは相変わらずだった。
グーレンバイツからはリデルの父ランベールと弟アンリが来てくれた。
ランベールはデイヴに何度も御礼を言って、固く抱き合い、酒を汲み交わして、一緒に釣りに行く約束をしていた。
リデルが拐われる前に生まれた赤子だったアンリとは、かの国では互いに記憶に無いせいか、微妙に距離があったのだが、今回は素直に姉を抱き締めて、結婚を祝った。
リデルのウェディングドレスは、ベージルーシュの母が着たドレスで、大切にしまわれていた思い出のドレスを、グーレンバイツを去る日に父が渡してくれた物だ。
それを密かにエルザが本邸に持ち込み、メイド達がリデルのサイズに仕立て直しをしてくれたのだった。
彼女達を代表して、エラと共にベレスフォードまで来てくれたのは、お馴染みのエルザとレイカで、今回もふたりはリデルに、美しい魔法を掛けてくれた。
エラが御祝いと別に、ふたりに差し出したのは、根付きのビオラの苗だった。
ご領主様が本邸以外に、白いビオラを育てることを解禁し、新しい特産品として生産量を増やしていく、と領内の花農家に推奨された、と言う。
意外にも真面目に領地経営に向き合うようになった父親は、どうしても目障りだった息子が出ていき、亡くなる最後まで甘えた家令も居なくなり、ようやく大人になって、自分に向き合えるようになったのだ、とジェイは思った。
これなら、伯爵があの伯爵夫人と離縁するのも、そう遠くない未来に思えた。
◇◇◇
ジェイとリデルの家からは、ウィンクラー山が見える。
かつて、彼は3日掛けて、あの山を越えた。
だが、平地を馬車で駆け、普通に領境の検問所を通るルートなら、1日足らずでイングラムからベレスフォードに来る事が出来た。
そのお陰で、この家にはイングラムからのお客が多い。
今日もそんなお客が来る予定で、リデルはクリームシチューを作っている。
「父さん、エラおばさんが来たよ」
庭に出ていたジェイを呼びに来たのは、娘のソフィだ。
この名前は、妻の母から貰って、ジェイが名付けた。
ジェイは飛び付いてきたソフィを抱き上げ、彼女の髪に手にしていた花を挿した。
「ソフィの黒い髪に、この白い花は良く似合う」
彼の小さな恋人にそう囁くと、娘は嬉しそうに笑う。
その笑顔は、愛するひとに重なって。
ジェイは彼女の髪にも贈ろうと、庭中に咲き誇る白いビオラを、また手折った。
中々家に入ってこない夫と娘にしびれを切らして、妻が庭に出て来て、彼の名前を呼んだ。
その声に応えながら、ジェイはソフィと手を繋いで、リデルの元へ急ぐ。
ソフィは容姿だけでなく、その力も祖母と母から受け継いだようで、娘と手を繋ぐとジェイの疲れは消える。
いつかソフィが、自分の力に気付いたら、ジェイは教えるつもりだ。
「それは神様からのギフトだ」と。
リデルの力は、彼女への神様からのギフトだ。
そして、ジェイにとっての神様からのギフトは。
彼女を見つけた20年前から変わらない。
彼の、ただひとり。
「ジェレミー」とジェイを呼ぶ、ただひとりのひと。
おわり
そのまま、ふたりは無言で歩き。
リデルの家に到着した。
本屋を出て直ぐに、今夜はデイヴが夜勤と聞いた時は、我慢強いジェレマイアもあれこれ考えてしまったが。
リーブスの最期を聞き、リデルに重過ぎる愛情をぶつけて、グーレンバイツの両親の話を聞かせた今では、そんな邪な気持ちも消え失せ、このまま帰ると決めていた。
家まで歩いた1時間足らずで、リデルが聞かされた衝撃はきっと大き過ぎて。
話した自分が側に居た方がいいのか、不味いのか、判断がつかなかったのだ。
気の回らない俺なんかより、例えばケールに来て貰いたいんじゃないか、とか考えていると。
「一緒に夕食を食べてくれる?」
「……いいの?」
「嫌だったら、誘わないもの」
リデルから誘ってくれたので、ジェレマイアはお言葉に甘えた。
意外な事に、彼女は食卓の話題にグーレンバイツの話を聞きたがり、夕食が終わる頃には
「決めた、グーレンバイツに行く」と言い出した。
ジェレマイアは思い出した。
そうだった、昔からリデルは決断力があって、決めたら直ぐ実行派だった。
「あちらに行くことを、父さんへの不義理になるのかな、ってそれだけを考えてた。
だけどね、デイヴ・カーターは絶対にそんな風に思わない」
「そうだな、デイヴは絶対に思わない」
「それにね、本当の……お父さんの今の様子も気になるの。
どんな人とか全然覚えていないけど、わたしを必死で探してくれた、って教えてくれたでしょう?
だからせめて、無事でした、と顔を見せたいし。
それにジェレミーが言ってくれた、わたしの力が神様がくれたギフトなら。
今も悲しみから抜け出せないお父さんの手を握って……
楽になって貰いたい」
そう言い切るリデルが愛しくて、誇りに思って、
「帰る」と自分から言い出せないジェレマイアは。
翌日の朝、夜勤明けのデイヴに叩き起こされるまで、長椅子でリデルを抱き締めて眠った。
ジェレマイアと共に、グーレンバイツに入国したリデルはベージルーシュ侯領本邸の門番に、首から外した護符を預けて、侯爵閣下へのお目通りを願い出た。
門番が戻って来るまでの間、閉められた門外でしばらく待てば、姿を現したのは、返事を携えた門番ではなかった。
それは声にならない叫びをあげて、必死で前に手を伸ばし、足をもつれさせながら、こちらに向かってくる男性だった。
リデルの実父、ランベール・フォルロイ・ベージルーシュだった。
多分普段は落ち着いた人物なのだろうが、今は気が触れた男のように見えた。
尋常ではない様子の侯爵閣下が門の内側から、目の前に立つリデルに片手を伸ばし、もう一方の手で間に立ちはだかる頑丈な門扉を掴んでガタガタ揺らすのを、残っていた方の門番は呆気に取られたように見ていたが、一瞬で我に返り直ぐに門を開いた。
リデルに手が届くと、父は愛した女性とそっくりに育った娘を抱き寄せ
「リデル、リデル、リデル……」とただ、それだけを何度も繰り返した。
◇◇◇
王妃と公爵が企んだ国王陛下の譲位は、思うように味方が集まらず、大きな政変も起こらずに静かに幕を閉じた。
この国の貴族で、サンペルグ聖教会に敵対したい者など居ない。
国内の彼等に背を向けられ、国外からでも助けが欲しい公爵は北の帝国グーレンバイツのパリロゥ商会に『力を持つ者』を何人か貸して欲しいと送ったが、それは無視された。
王妃は離縁されて実家に戻された。
王弟として王城で大きな顔をしていた公爵は病を得て亡くなって。
何故か後継者が跡を継ぐ事はなく、そのまま筆頭公爵家は取り潰された。
他国の王女を娶るはずだった第1王子の婚約は解消されて、莫大な賠償金が支払われた。
その後、彼は幼馴染みの侯爵令嬢と結婚したらしいが、婚姻式も無く、離宮にでも移り住んだのか、新婚のふたりの姿を王城で見た人は居ない。
代わりに、大主教に預けられて、神の導きで心を入れ換えた元第2王子が復権して立太子式は執り行われた。
「俺の回りは聖下の息のかかった奴等で固められたが、治世を始める面倒なあれこれを、全部任せていいんだから、こんなに楽な事はないよな。
神の下僕が俺の御輿を担いでくれるのなら、何処へだって運ばれてやる」
ジェレマイアがリデルを迎えに行くために、テリオスより一足先にシェイマスを発つ時。
別れ際に声を潜めたテリオスは、あの本心を隠した微笑みを浮かべる王子の顔を取り戻していた。
勝者ユーシスの杯に美酒を注いだのは、王城に残していた彼の子飼いだった可能性が高いが、勿論ジェレマイアは余計な詮索はしない。
そして、グーレンバイツから帰国して3ヶ月後。
ジェレマイアとリデルの結婚の日取りが決まった。
彼はイングラムからウィンクラー山を挟んだベレスフォード伯領に家を構え、リデルを迎えるのだが、その前に片付けなくてはならない事があった。
婚姻に向けて、新しい戸籍が必要になったのだ。
ジェレマイア・コートをイングラム伯爵コート家から勘当する旨の届け出が、父親だった当代伯爵から王家に提出されたので、彼は平民になり、その名をジェイ・リーブスに改めた。
名をジェレマイアからジェイに変えたのは、平民でこんなに長い綴りの名前が無いからだし、姓にリーブスを選んだのは、亡くなったリーブスは他には身寄りが無く、死亡後彼の戸籍が抹消されたからだ。
それ故、ジョージ・リーブスの養子となったわけではないが、それでも彼の家名は残る。
冷たい両親から無視をされて傷付いた幼いジェレマイアを気遣ってくれた彼の家族になれたようで……ジェレマイアは新しい戸籍の申請書に、迷わずその姓を書いた。
空が澄み渡る秋晴れの日に、小さな石造りのリーブス家の庭で行われた結婚式は。
ふたりを祝福してくれる、多くは無いが心優しい人々が集ったいい結婚式だった、と後々まで言って貰えるような、そんな式だった。
テリオスが髪を染めてケインを伴い、式に現れたのには、流石のジェイも驚いた。
彼にはリデルと結婚する事は伝えていたが、日時までは知らせなかった。
彼はあの穏やかな笑顔を見せて
「王都で親しくさせていただいていた友人です」と皆に、適当な偽名で挨拶をした。
第2王子の顔など知らない善良な人々はそれを信じた。
彼の側にずっと付いていたケインが席を外したのを見計らい、人目を盗んで物陰に連れ込んで、事の次第を質せば。
「お前を側近にはしないと言ったろ。
卒業したら、取り巻きじゃなくて、ただの友人だ」と言うのが彼の言い分で、珍しくジェイは感動したのだが。
その口から同時に
「お前がグーレンバイツのパリロゥの婆さんに気に入られて、この国に本格的に参入する窓口に決まったのは、知っているから」とも言われて、お互いに立場は変わったのに、腹黒なのは相変わらずだった。
グーレンバイツからはリデルの父ランベールと弟アンリが来てくれた。
ランベールはデイヴに何度も御礼を言って、固く抱き合い、酒を汲み交わして、一緒に釣りに行く約束をしていた。
リデルが拐われる前に生まれた赤子だったアンリとは、かの国では互いに記憶に無いせいか、微妙に距離があったのだが、今回は素直に姉を抱き締めて、結婚を祝った。
リデルのウェディングドレスは、ベージルーシュの母が着たドレスで、大切にしまわれていた思い出のドレスを、グーレンバイツを去る日に父が渡してくれた物だ。
それを密かにエルザが本邸に持ち込み、メイド達がリデルのサイズに仕立て直しをしてくれたのだった。
彼女達を代表して、エラと共にベレスフォードまで来てくれたのは、お馴染みのエルザとレイカで、今回もふたりはリデルに、美しい魔法を掛けてくれた。
エラが御祝いと別に、ふたりに差し出したのは、根付きのビオラの苗だった。
ご領主様が本邸以外に、白いビオラを育てることを解禁し、新しい特産品として生産量を増やしていく、と領内の花農家に推奨された、と言う。
意外にも真面目に領地経営に向き合うようになった父親は、どうしても目障りだった息子が出ていき、亡くなる最後まで甘えた家令も居なくなり、ようやく大人になって、自分に向き合えるようになったのだ、とジェイは思った。
これなら、伯爵があの伯爵夫人と離縁するのも、そう遠くない未来に思えた。
◇◇◇
ジェイとリデルの家からは、ウィンクラー山が見える。
かつて、彼は3日掛けて、あの山を越えた。
だが、平地を馬車で駆け、普通に領境の検問所を通るルートなら、1日足らずでイングラムからベレスフォードに来る事が出来た。
そのお陰で、この家にはイングラムからのお客が多い。
今日もそんなお客が来る予定で、リデルはクリームシチューを作っている。
「父さん、エラおばさんが来たよ」
庭に出ていたジェイを呼びに来たのは、娘のソフィだ。
この名前は、妻の母から貰って、ジェイが名付けた。
ジェイは飛び付いてきたソフィを抱き上げ、彼女の髪に手にしていた花を挿した。
「ソフィの黒い髪に、この白い花は良く似合う」
彼の小さな恋人にそう囁くと、娘は嬉しそうに笑う。
その笑顔は、愛するひとに重なって。
ジェイは彼女の髪にも贈ろうと、庭中に咲き誇る白いビオラを、また手折った。
中々家に入ってこない夫と娘にしびれを切らして、妻が庭に出て来て、彼の名前を呼んだ。
その声に応えながら、ジェイはソフィと手を繋いで、リデルの元へ急ぐ。
ソフィは容姿だけでなく、その力も祖母と母から受け継いだようで、娘と手を繋ぐとジェイの疲れは消える。
いつかソフィが、自分の力に気付いたら、ジェイは教えるつもりだ。
「それは神様からのギフトだ」と。
リデルの力は、彼女への神様からのギフトだ。
そして、ジェイにとっての神様からのギフトは。
彼女を見つけた20年前から変わらない。
彼の、ただひとり。
「ジェレミー」とジェイを呼ぶ、ただひとりのひと。
おわり
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いつも完結の文章を決めてから、の書き手です。
読んでくださる方が居てこそ、そこまでたどり着けました。
本当にありがとうございました🙇♀️🌟
最新話読んで、シーナが消えるフラグにしか思えなかった……😅
りんりん様
ご感想ありがとうございます!
消える……そうですね、どう消えるのか、次話の更新をお待ちくださいませ。
ざまぁ界隈が得意ではない書き手です。
ご納得いただけないかも、ですが🙇♀️💦
この先も、どうぞよろしくお願い致します🍀
既にどうでもいい男・・・思わず吹き出しちゃいました。言い当て妙ですね。続き楽しみにしております。
deko 様
ご感想ありがとうございます!
既にどうでもいい男回は、読者様によっては蛇足回なんですが😅
もてる設定のクラークが、どうしてリデルと復縁したいのか、綺麗になった彼女を見てどう思うのか。
今のところ、まだ書いている途中なのですが、2話続けてクラーク回の予定です。
楽しみにしているとのご感想は、書き続ける力になり、励みになります🌟
最終話までお付き合いくださいますよう、お願いいたします🙇♀️