俺の彼氏には特別に大切なヒトがいる

ゆなな

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俺の彼氏には特別に大切なヒトがいる〜B面〜

B面1

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 彼と出会ってすぐに恋に落ちた。
 恋なんて俺には無縁だと思っていた。
 でも彼を見て感じる、胸の一番奥のとても柔らかいところを締め付けられる感情が恋なのだとすぐにわかった。

 親の離婚が原因で引っ越すことになり、転校した高校で出会った。
 クラスの中でも目立っていた彼は、俺が入部を希望したテニス部にも所属していた。キラキラしていてレモンみたいな髪の色。手足が長くて、テニスが上手くて、笑顔が眩しい人気者。
 俺みたいな何もかも普通の人間には眩しすぎる彼。
 だけど、転校生の俺を気にかけてくれる優しい彼は、いつも笑顔で駆け寄ってきてくれる。
 たまたま部活もクラスも同じで家がちょっとだけ近かった。それだけで彼に仲良くしてもらえるラッキーな俺。
 
「なっちゃーん! 今日帰りひまー? 折角部活休みなのに、まこちゃん勉強するんだってさ。遊んで帰らない?」
 放課後クラスメイトに押し付けられた学級日誌を書いていると、コータが俺の席の前に座って俺の方を向く。爽やかなシトラスの香りに俺がクラクラしていることも、知らないで。
「うん。いいよぉ。どうせ暇だし」
 眩しくて目が眩みそうだから、日誌に目を落としたまま俺は応える。
「やったー! んじゃ秋服ちょっと見てさ、マックいこ。ロングカーデ欲しいんだよね。なっちゃん一緒に選んでよ」
「この前真琴が着てたみたいなやつ? それだったら真琴に選んでもらった方が良くない?」
 まこちゃん、こと真琴はコータの幼馴染。家が隣同士の彼ら。レモン色で明るいコータに、黒髪が綺麗な真琴。二人は正反対に見えるのに、隣に並ぶとまるでペアで作られた人形みたいにお似合いの二人だった。
「いーの。いーの。こっそりカッコいいの買ってさ、まこちゃんにいいの着てるじゃんって思わせたくてさ」
 にひひ、って笑うイタズラっぽい表情を間近で見てしまった。
 これはまずい。心臓にクル。
 どくん、どくん。
「日誌書けた? んじゃ、早くいこ?」 
 大きな手がぐいっと俺の腕を掴んで引っ張る。
 あぁ、どこもかしこも綺麗な彼は、今日も俺の心臓をめちゃくちゃにする。

*****

「ねぇ、なっちゃん。黒と茶色どっちいいかなー?」
「カーデは黒がいいんじゃない。Tシャツ白じゃなくてさ、淡いブラウンのインナー持ってたじゃん? あれに合わせれば秋っぽい」
「お。いいねぇ。バケハもほしくなっちゃうなー。あれ? このカーデさ、モスグリーンもあんじゃん。なっちゃんに似合うんじゃない?」
 コータのお気に入りのショップで、秋服を見ながらアレコレ言っていると、コータは自分が買おうとしているカーデと色違いのものを俺に勧めてきた。
「うん、俺もいいなーって思ってたけど……俺なんかとイロチでいいの?」
 お揃いで着たいのは俺ではなく、別の誰かなんじゃないのと思って聞いてみたけれども。
「えー、なっちゃんそんなこと言って、もしかして俺とイロチで着るのやだ?」
「まさか!」
 少し拗ねたようなコータに俺が秒で言い返すとコータはにっこり笑った。
「んじゃ、お揃で着よ? これめっちゃ安いし、今日この店で2点買うと20%オフだし」
「……コータ。お前、20%オフが目当てか」
「バレたかー、だめ? なっちゃんもお得でしょ?」
 こてん、とクビを傾けたコータ。そんなんズルい。
「まー……そうだな。俺も秋服ほしかったし、安いし……買ってもいっかな」
 20%オフだし、コータとお揃いだなんて正直嬉しい。迷ってみせたけど、迷う理由なんてなかった。
「やったー! 修学旅行のときオソロで着よ」
 彼が喜んでいるのはお得に買えるからってだけなのに、馬鹿みたいに嬉しい俺。
 真琴とはお揃いじゃなくていいの?
 聞いてしまったらこの嬉しい気持ちが弾けて消えちゃいそうだったから、ごくり、と飲み込んだ。
 
 買物終わって、二人でファストフード店に行った。
 人付き合いが上手なコータは、俺みたいな奴とだって会話が途切れない。
 ずーっと隣でお喋りしてたい。
 話すのが得意でない俺が、そんな気分にさせられる。
 でも夢のような時間がずっと続くなんてことはない。
 彼のスマホが軽く震えた。
 彼はおしゃべりの隙間にちらりと画面に視線を遣った。
 ずき、と心臓が痛む。
 そんな素振りを見せないように、会話を続けたけれど。
「そろそろ帰ろっか」
 スマホを見た彼が言った。
 その言葉は楽しい時間はおしまいで、コータを彼に返す時間がやってきたことを知らせる。
「うん。そうだね」
 俺は静かに頷いた。
 二人並んで店の外に出る。
「コータ! 夏樹!」
 俺達の名前を呼ぶ声。
 振り返らなくてもわかるその声。
「まこちゃん、おつかれ」
 コータの顔がそれはそれは柔らかく溶けたのが見えた。
 それから、俺の大好きな大きな手が真琴の綺麗な髪を撫でた。
 あぁ、もう馬鹿だな。俺は。二人の間に入ったのは俺なんだから、間違っているのは俺のこんな気持ち。
「じゃ、俺帰るね。バイバイ、コータ、真琴」
 このままそこにいられないような気持ちになって、俺は二人に手を振ってその場を離れた。
「なっちゃん?!」
「夏樹?!」
 コータと真琴の声が綺麗にハモった。
 くるりと背を向けて早足で歩き出すと、暫くしてがしっと腕を掴まれた。
「……っ夏樹も帰り一緒じゃん……っ三人で帰ろ?」
 追いかけてきてくれたのは真琴だった。
 すらりと細くて、黒い髪が艶々と綺麗。
 真琴とコータは本当にお似合いだ。
「え……でも……」
「俺の方こそコータと夏樹が遊んでたのに後からごめん」
 日が暮れて、暗くなっても艷やかなのが分かる彼の髪が揺れた。
 真琴が嫌な奴ならよかったのに。
 彼は俺なんかよりずっとずっとイイ奴だった。
 転校してきた俺にコータと同じくらい良くしてくれた。
 皆に馴染めるようにさり気無く気を使ってくれる優しい人だ。
「なっちゃん、急にさっさと行っちゃうからびっくりした」
 コータもやってきて、そう言うと笑って俺の背を叩いた。
 俺を真ん中にして歩き出す。
 二人と全然お似合いじゃない地味な俺。
 二人がお似合いなのがわかるのに、間に入ってお邪魔虫な俺。

 バス停が一緒の俺ら。
 俺が一年前に引っ越してきたんじゃなくて、ずっとここに住んでいたのなら、3人で幼馴染になれたのかな。
 3人で同じバス停に降り立つと、いつもそんなことを思ってしまう。
「あー、腹減った。琴美さん夕飯何にするか言ってた?」
「お前さっきマック行ったんじゃねぇの? コロッケっつてたかな」
「成長期だもん。全然食えるね。琴美さんの飯うまいし」
 二人の家は隣り合っていて、コータは両親が仕事で忙しいから、毎日真琴の家でごはん食べてるんだって。
 産まれたときから一緒なんだって。産まれた病院も、幼稚園も小学校も中学校も。そして自分で選べる高校でさえも一緒の彼ら。
 運命だけじゃなく自力で二人一緒にいることを選んできた彼らに、例えば俺がずっと前からこの町にいたとしても割り込めるわけなんてない。ずっとここに住んでたらな、なんて妄想さえもバカバカしい。
「あ。ねぇ、今日こそ夏樹も一緒にうちでご飯食べていかない?」
 もうすぐ二人と別れるところに差し掛かったところで、真琴が言った。
 あぁ、もう優しいなぁ。真琴は。二人の間に隙あらば割って入りたいと思ってる俺なんかに優しくしなくてもいいのに。
「ううん。ごめん。母さんにご飯いるって言っちゃった」
「そっかー。今度もっと早く誘うから、一緒にうちで食お?」
 優しい真琴の声。
「そうそう。まこちゃんのお母さんのメシめっちゃ旨いからなっちゃんも今度一緒に食お?」
 そう言ったコータの笑顔に俺は胸が破れそうだった。
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