俺の彼氏には特別に大切なヒトがいる

ゆなな

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俺の彼氏には特別に大切なヒトがいる〜B面〜

B面10

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 廊下に落とした鍵を拾って俺の家に二人で入った。
 狭い玄関上がってすぐのところにある俺の部屋。
 俺の許可がないと触らない、という言葉を実行するように一人分間を空けてベッドに並んで座った。
「……なっちゃん、好きな人……本当にできたの?」
 目元を赤く染めたまま、真っ直ぐに俺を見てコータが問う。
「あっ……え……と……」
 俺と別れたあとでもすぐに二人が付き合いやすいように咄嗟に吐いた嘘。
 そこにコータが突っ込んでくるとは思わなかったことと、コータの射抜くような真剣な視線に俺はうまく嘘が吐けなくて口籠ってしまった。
「違うの?」
「あの……え……と……」
「違うなら……好きな人がいるわけじゃなくて、俺に嫌なところがあって別れたいと思ってるなら、直すから!もう一度チャンスを下さいっ」
 コータが深々と頭を下げた。
「でも……真琴のことは? コータが好きなのは真琴じゃないの?」
 コータの目が丸くなった。それから、ゆっくり細めたあと話し出した。
「まこちゃんは俺にとって確かに友達以上の存在で特別だよ。すごく気が合うっていうのもあるけど、俺の親が全然家にいないからそういう寂しさ受け止めてくれたのがまこちゃんとまこちゃんの家族だっていうのもある。だから特別だしすごく感謝してるし、大好きだよ」
 そこまで言って、コータは一度深く呼吸した。そして、俺のことを真っ直ぐに見つめて続けた。
「でもそれは友達以上で家族っていうか、兄弟っていうか……そういう感覚に近いもので、まこちゃんも同じような気持ちだと思う。可愛くて、愛しくてたまらなくて、ドキドキしたりぐちゃぐちゃになっちゃう『好き』はなっちゃんだけなんだよ」
 真琴との一言で言い表せない関係はやっぱり羨ましい。
 だけど、コータの口から出てきた俺への言葉は自分には与えられるとは思ってもみなかったもので、妄想に過ぎないと絶望したものだった。それが彼から俺に与えられたことが俄には信じられなかった。
「真琴が来れないと、コータいつも寂しそうだったし、二人は特別に仲がいいから……恋愛として好きなんだろうなって思ってた」
 そう言った俺の表情を見て、コータの手が俺の方に一瞬伸びた。だけど思い留まったように空中でぎゅっと握りしめられて、その指先は俺に触れることはなく、また元の位置に戻った。
「危ない……また触っちゃいそうになった……」
 ごめんね、と言ってから彼は続けた。
「まこちゃんが来ないって俺が寂しそうに言うとなっちゃん、自分がどんな顔してるか知ってる?」
「へ? 俺の顔?」
 突然予想外のことを聞かれた。そんなときの自分の表情なんてわかんないよ。
「あのね、今とおんなじ顔。付け込んだら、甘えさせてくれそうな顔」
「なっ……なんだよ、それっ……どんな顔っ」
「そういう顔してたの。だから付け込んだんだよ。それで、優しいなっちゃんに慰めてって言って触って、うんと優しくしていっぱい気持ちよくさせたら流されてくれるんじゃないかとか、恋愛と勘違いしてくれるんじゃないかとか、そこからあわよくば俺のこと好きになってくれるんじゃないかとかずるいこといっぱい考えた……」
 コータの目は真っ赤だったけど、紅茶色の瞳はやっぱり綺麗で、いっぱい走ったあとの彼の匂いと絡むシトラス。
「俺っ好きでもない人とあんなことしないっ……流されてしたわけじゃない……あんなこと……あんなこと……好きじゃなきゃできないよ……っ好きだからしてもいいと思ったんだ……っ」
 俺が思わず叫ぶように、嗚咽するように言うと、コータの綺麗な顔がくしゃっと歪んだ。
「ごめん……っなっちゃんが好きじゃない人セックスするような人だって思ってたわけじゃない……なっちゃんはセックスどころか……初恋もしたことあるのかなってくらい、真っ白に見える……っていうか真っ白じゃんか……」
 真っ白? そんなわけないじゃん。
「俺だって人を好きになったことくらいあるよっ……」 
「そっか……そうだよね。誰かのこと、好きになったことくらいあるよね」 
 そう言ったコータに俺は続けた。
「コータに出会って……コータのこと好きになった……だから初恋もちゃんとしてるし、その……触りたいとかも思うから、真っ白なんかじゃ全然ない」
 コータが思ってくれてるような真っ白な存在じゃないよ。
 口になんて出せないけれど、いっぱい触ってもらうだけじゃなくて、めちゃくちゃにされてみたい、なんて思ってるヤツが真っ白なわけ無いじゃん。 
 真っ白じゃないって言ったのに、コータは綺麗なキラキラの頭を激しく掻きむしった。
「うわぁぁ……やっぱりめっちゃ真っ白じゃん。純白じゃん……まこちゃんに絶対殴られる……殺されるかもしんない……うぅ………でも、でも……」
 頭を抱えて、何事かぶつぶつ呟く不思議なコータ。
「なっちゃん……お願い……抱きしめさせて……」 
 お願い、いいよって言って……
 コータの綺麗な紅茶色の瞳が熱っぽく潤んでる。
 断れるわけない。
 俺がこくり、と頷くと、コータはあっという間に一人分空けた空間を飛び越えて、俺をぎゅうっときつく抱きしめた。
 コータの腕の中だ。
 また、ここに戻れたなんて信じられない。
 俺は深く息を吸った。体の中が彼のシトラスでいっばいになる。
「なっちゃん、好き……大好き……別れるの、無しにしてくれる? 別れたくない……もうなっちゃんに悲しい思いさせないから……っ」
 俺は彼のシトラスを吸いながら頷いた。
 それから、そっと顎を摑まれて、柔らかく唇が重なった。
 押し付けるだけの、それ。
 柔らかさと彼の匂いで、頭の芯からほろりと蕩けた。


「なっちゃん、お母さん何時頃帰ってくる?」
 何度か押し当てられたキスのあと、腕の中でぼんやりしていると、コータは静かに訊ねた。
 スマホを確認すると、もうすぐ帰ってきそうな時刻。
「そろそろ、かな……」
「明日さ、日曜日だしウチに泊まりに来ない? ウチなら親も帰ってこないし……下心は……その……ないって言ったら嘘になるけど」
「……コータのうち、行く……」
 キスでぼんやりしたままだったけど、ちゃんと言わなきゃと思って返事をした。
「ほんと?!」
「俺だって……下心くらい、あるよぉ」 
 頭がぼーっとしたまま言うと、コータは変なうめき声を漏らしていた。
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