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10話
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「お昼は何処で食べる?」
持参のお弁当か、体調によってはお昼を抜いてしまう陽也に綾人が言った。
「お昼は綾人、生徒会のみんなと食堂に行かなくていいの?」
「今日は購買で買うから、ハルと一緒に食べたい」
優しく腕を引かれて購買でパンを買ってから、二人がひっそりと過ごしていることの多い礼拝堂へ。途中、突き刺さるような視線が痛いほどであったが、礼拝堂へ向かう螺旋階段を昇り、臙脂のカーペットの上を歩く頃には二人きりの空間になっていった。
重厚な木製のドアを開けると、ステンドグラスから零れ落ちる光が色とりどりの鮮やかさを見せ、高い天井の上まで届くパイプを持つオルガンのある荘厳な礼拝堂。使用されるのは週に一度の全校礼拝や特別な礼拝のときだけで、それ以外は人があまり居ない。
許可なく此処に入ることは咎められるのだが、綾人が時折礼拝のときにパイプオルガンで讃美歌の伴奏を演奏することがあるため、その練習だと言えば問題はなかった。
「ハルは今日はお弁当?」
座面に天鵞絨のクッションが張られていて座り心地のよい木製のベンチに座って、綾人は陽也の前髪に隠れている瞳を覗き込む。
「うん……朝あまり時間がなかったから寂しい中身だけれど……」
陽也が恥ずかしそうに言うと
「昨日無理させたから、今朝起きられなかったんだろう?ごめんね」
うっとりするほどに美しい貌で申し訳なさそうに言われると陽也はあまりの美しさに見蕩れてしまった。
「食べようか?」
そう言って二人で手を合わせる。陽也がお弁当箱を開けると、寂しい中身なんて言っていたくせに卵焼きに唐揚げ、金平牛蒡とほうれん草の胡麻和え、ご飯の上には綺麗な鮭そぼろが乗っていた。
「美味しそう……ハルが作ったの?」
「そうだけど……纏めて作って冷凍しておいたものや残り物を温め直しただけだよ?」
あんまりじぃっと綾人が見るものだから
「食べる?」
陽也が問うと
「いいの?」
嬉しそうに綾人が笑う。
「どれがいい?」
「じゃあ、卵焼き」
陽也に答えて、あーん、と綾人は口を開ける。
(え……と、これは……)
陽也が躊躇っていると
「ね、ハル早く……」
促されて陽也が卵焼きを箸で摘み、綾人の口に運ぶ。
綺麗な形の綾人の口に卵焼きが入って……
数度咀嚼すると、軽く瞳が見開かれて……それはそれは嬉しそうに笑った。
「僕が好きな味だ……」
そう言って甘い声でねだるものだから陽也は唐揚げや金平牛蒡も口に運んでやることになった。
「ハル、凄く料理上手なんだね」
感嘆の溜め息を漏らして綾人が言う。
「……綾人の家にはプロの料理人がいるじゃないか」
「うん。でもびっくりするくらいハルの作ったの、僕の口に合うよ」
そう言って
「ハルがお腹空いちゃうね」
綾人はこんなのでごめんね、と購買のスモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチを手ずから陽也に食べさせた。まるで今度は陽也が雛鳥になったかのように綾人に食べさせてもらう。自分で食べれるよって言おうと思ったが、綾人があんまり嬉しそうに食べさせるものだから、陽也はそんなことが言えなくなってしまった。
昼食を食べ終わると綾人は指先を、購買でサンドイッチを買ったときに貰ったウエットティッシュで丹念に拭いた。
長くて、すらりとしていて、しなやかで美しい指先に陽也がぼんやりと見蕩れていると、綾人はチューブに入った軟膏をポケットから取り出した。見覚えのあるそのチューブに陽也がちいさく固まると、綾人はくくっと喉の奥で低く嗤った。礼拝堂の雰囲気にぴったりの美しい天使のような綾人から、ベッドの上のひどく獣じみた彩が僅かに覗き、陽也は息を飲んだ。大好きな綾人と二人きりで可愛らしく高鳴らせていた陽也の鼓動のテンポが更に高まり早鐘のように激しくなってゆく。
「綾人……?」
声を出していることで、怯えた気持ちが露になってしまった。
「怖がらないで、薬付けるだけだから」
艶を帯びた低い声はベッドの上での支配者のそれで。
長くて綺麗な指が、陽也の制服のズボンのベルトに掛かる。
「あ……っ綾人っ……あのっ……トイレで自分で塗るからっ」
陽也が思わず綾人の指先を抑えると
「だぁめ。自分じゃよく見えないだろう?ちゃんと塗れないかもしれない。それに傷が酷いことになってたらどうするの?僕にちゃんと見せて?」
綾人はそう言うと小さな動物を抑える肉食獣のように、難無く陽也の抵抗を封じて、ズボンを下着ごと脱がしてしまう。細い足首を纏めて片手で持たれて、彼の手の大きさを身をもって、知らされる。あまり広くはないベンチの座面にひっくり返され、
「抵抗されると燃えちゃって、薬塗られるだけじゃ済まなくなっちゃうよ?」
意地悪く囁かれると、陽也の抵抗が弱まった。その隙に綾人はチューブを絞って軟膏を指に取って、露になった秘処にそっと塗る。
「ひ……っ………ぁ」
薬を人差指をくるくると回して敏感な部分に塗り込められて、思わず声を漏らすと、綾人の喉がごくり、と動いた。少しだけ指が潜って内側にも塗り込められて、陽也の腰が震える。
「大分腫れも赤味も引いてるね……可愛いピンク色だ……」
欲情が混じる声。だが、薬を塗り終わると綾人は陽也の下着とズボンを直してくれた。それから、そっと膝の上に向かい合うような形で乗せられて。
「ごめんね、泣かすつもりじゃなかったんだ」
いつもの優しい声で囁いて、陽也の長い前髪をそっとよけて、目尻に溜まった涙を拭う。
それから、唇にとても優しいキスが落とされた。ちゅ……と小鳥が啄み合うようなキスを綺麗な綺麗な綾人にされて、陽也の頭の中はぼぅっとしてしまう。
蜜が混じったような吐息がどちらのものかわからなくなるほど融け合った頃。
「すっかり良くなったら……」
また、挿れても、いい?
天使のように綺麗で大好きな大好きな綾人に優しく問われて、否など言えるはずもなく。
美しい天使に魅入られた陽也はこくり、と頷いた。
持参のお弁当か、体調によってはお昼を抜いてしまう陽也に綾人が言った。
「お昼は綾人、生徒会のみんなと食堂に行かなくていいの?」
「今日は購買で買うから、ハルと一緒に食べたい」
優しく腕を引かれて購買でパンを買ってから、二人がひっそりと過ごしていることの多い礼拝堂へ。途中、突き刺さるような視線が痛いほどであったが、礼拝堂へ向かう螺旋階段を昇り、臙脂のカーペットの上を歩く頃には二人きりの空間になっていった。
重厚な木製のドアを開けると、ステンドグラスから零れ落ちる光が色とりどりの鮮やかさを見せ、高い天井の上まで届くパイプを持つオルガンのある荘厳な礼拝堂。使用されるのは週に一度の全校礼拝や特別な礼拝のときだけで、それ以外は人があまり居ない。
許可なく此処に入ることは咎められるのだが、綾人が時折礼拝のときにパイプオルガンで讃美歌の伴奏を演奏することがあるため、その練習だと言えば問題はなかった。
「ハルは今日はお弁当?」
座面に天鵞絨のクッションが張られていて座り心地のよい木製のベンチに座って、綾人は陽也の前髪に隠れている瞳を覗き込む。
「うん……朝あまり時間がなかったから寂しい中身だけれど……」
陽也が恥ずかしそうに言うと
「昨日無理させたから、今朝起きられなかったんだろう?ごめんね」
うっとりするほどに美しい貌で申し訳なさそうに言われると陽也はあまりの美しさに見蕩れてしまった。
「食べようか?」
そう言って二人で手を合わせる。陽也がお弁当箱を開けると、寂しい中身なんて言っていたくせに卵焼きに唐揚げ、金平牛蒡とほうれん草の胡麻和え、ご飯の上には綺麗な鮭そぼろが乗っていた。
「美味しそう……ハルが作ったの?」
「そうだけど……纏めて作って冷凍しておいたものや残り物を温め直しただけだよ?」
あんまりじぃっと綾人が見るものだから
「食べる?」
陽也が問うと
「いいの?」
嬉しそうに綾人が笑う。
「どれがいい?」
「じゃあ、卵焼き」
陽也に答えて、あーん、と綾人は口を開ける。
(え……と、これは……)
陽也が躊躇っていると
「ね、ハル早く……」
促されて陽也が卵焼きを箸で摘み、綾人の口に運ぶ。
綺麗な形の綾人の口に卵焼きが入って……
数度咀嚼すると、軽く瞳が見開かれて……それはそれは嬉しそうに笑った。
「僕が好きな味だ……」
そう言って甘い声でねだるものだから陽也は唐揚げや金平牛蒡も口に運んでやることになった。
「ハル、凄く料理上手なんだね」
感嘆の溜め息を漏らして綾人が言う。
「……綾人の家にはプロの料理人がいるじゃないか」
「うん。でもびっくりするくらいハルの作ったの、僕の口に合うよ」
そう言って
「ハルがお腹空いちゃうね」
綾人はこんなのでごめんね、と購買のスモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチを手ずから陽也に食べさせた。まるで今度は陽也が雛鳥になったかのように綾人に食べさせてもらう。自分で食べれるよって言おうと思ったが、綾人があんまり嬉しそうに食べさせるものだから、陽也はそんなことが言えなくなってしまった。
昼食を食べ終わると綾人は指先を、購買でサンドイッチを買ったときに貰ったウエットティッシュで丹念に拭いた。
長くて、すらりとしていて、しなやかで美しい指先に陽也がぼんやりと見蕩れていると、綾人はチューブに入った軟膏をポケットから取り出した。見覚えのあるそのチューブに陽也がちいさく固まると、綾人はくくっと喉の奥で低く嗤った。礼拝堂の雰囲気にぴったりの美しい天使のような綾人から、ベッドの上のひどく獣じみた彩が僅かに覗き、陽也は息を飲んだ。大好きな綾人と二人きりで可愛らしく高鳴らせていた陽也の鼓動のテンポが更に高まり早鐘のように激しくなってゆく。
「綾人……?」
声を出していることで、怯えた気持ちが露になってしまった。
「怖がらないで、薬付けるだけだから」
艶を帯びた低い声はベッドの上での支配者のそれで。
長くて綺麗な指が、陽也の制服のズボンのベルトに掛かる。
「あ……っ綾人っ……あのっ……トイレで自分で塗るからっ」
陽也が思わず綾人の指先を抑えると
「だぁめ。自分じゃよく見えないだろう?ちゃんと塗れないかもしれない。それに傷が酷いことになってたらどうするの?僕にちゃんと見せて?」
綾人はそう言うと小さな動物を抑える肉食獣のように、難無く陽也の抵抗を封じて、ズボンを下着ごと脱がしてしまう。細い足首を纏めて片手で持たれて、彼の手の大きさを身をもって、知らされる。あまり広くはないベンチの座面にひっくり返され、
「抵抗されると燃えちゃって、薬塗られるだけじゃ済まなくなっちゃうよ?」
意地悪く囁かれると、陽也の抵抗が弱まった。その隙に綾人はチューブを絞って軟膏を指に取って、露になった秘処にそっと塗る。
「ひ……っ………ぁ」
薬を人差指をくるくると回して敏感な部分に塗り込められて、思わず声を漏らすと、綾人の喉がごくり、と動いた。少しだけ指が潜って内側にも塗り込められて、陽也の腰が震える。
「大分腫れも赤味も引いてるね……可愛いピンク色だ……」
欲情が混じる声。だが、薬を塗り終わると綾人は陽也の下着とズボンを直してくれた。それから、そっと膝の上に向かい合うような形で乗せられて。
「ごめんね、泣かすつもりじゃなかったんだ」
いつもの優しい声で囁いて、陽也の長い前髪をそっとよけて、目尻に溜まった涙を拭う。
それから、唇にとても優しいキスが落とされた。ちゅ……と小鳥が啄み合うようなキスを綺麗な綺麗な綾人にされて、陽也の頭の中はぼぅっとしてしまう。
蜜が混じったような吐息がどちらのものかわからなくなるほど融け合った頃。
「すっかり良くなったら……」
また、挿れても、いい?
天使のように綺麗で大好きな大好きな綾人に優しく問われて、否など言えるはずもなく。
美しい天使に魅入られた陽也はこくり、と頷いた。
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